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チーフ・エディターのブログ

音楽配信の仕事上年間クラシック中心に毎年1,200枚ハイレゾの新譜を聴く中で気になったものを1日1枚。

Eldbjorg Hemsing(Vn),      Arctic Philharmonic (Sony Classical)  96Khz/24bit 

ノルウェー出身人気ヴァイオリニスト、Eldbjorg Hemsing。この名前を日本語表記するのはとても難しい。数年に一度はノルウェーに行く仕事があるが彼らの言葉は曖昧母音が多くてかなり聴き取りにくい言葉だ。敢えて書くならエルドビョルグ・ヘイムシングかなあ。でも、ノルウェー人には伝わらないと思う。紹介では新星ヴァイオリニストという書き方をされているが既にデビューしてから10年以上も経ち中国を含むアジア諸国のコンサートにも度々招待されているのでキャリアも充分でしょう。

 

これまでBISレーベルのキーアーティストとして3枚のアルバムを出してきたが、今回は引き抜いたソニークラシカルからの最初のリリース。随分とレーベルがお金をかけたプロジェクトでこういうプロデュースはBISには無理だろうという内容。

 

表題は『北極』。アルバムの中心を成すのはハリウッド作曲家のジェイコブ・シェーの『北極組曲』。シェーは『フローズン・プラネット』『ブルー・プラネット』を手がけ、サンダンス・インスティチュート・フィルム・ミュージック・PJの一員でもある。サンダンスはロバートレッドフォードがリーダーとして創設した俳優養成・自立を中心とする非営利団体だったが今ではその規模も相当大きくさまざまな映画関係イベントにも関わっている。また、ソニーと映画音楽の大御所ハンス・ジンマーは共同のスタジオを持っているが、そこがこの組曲制作に協力している。そう言ったわけでプラネットシリーズを思わせるような情景描写豊かな音楽に仕上がっている。

 

この組曲以外はノルウェーの作曲家の作品で固めてある。『アナと雪の女王』のオープニングを作ったフローデ・フィエルハイム、アメリカでとても人気のあるクロスオーバー系のオーラ・イエイロなどの名前も見える。伝統的なクラシックとしてはノルウェーの伝説的作曲家オレ・ブル。また外せないところでグリーク。もちろん、この北極愛溢れる音楽による旅を通しては、気候変動に対するメッセージが込められている。

2023-85

 

 

 

 

 

 

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BBC Philharmonic , Ramon Gamba (Chandos) 96Khz/24bit

イギリス近代を代表する作曲家マルコム・アーノルド(1921-2006)。と言っても日本ではそれ誰?といった言った感じだろう。でも彼の代表作は有名。

 

もともとはトランペットの名手で20歳ぐらいでフィルハーモニのトランペッターとして採用されたが翌年にはもう首席トランペッターになっている。その後作曲活動の方に力を入れて数多くの映画音楽を作曲した。その代表作が『戦場にかける橋』のテーマ音楽でアカデミー音楽賞までとった『クワイ河マーチ』。これは彼が原曲『ボギー大佐』を映画用に編曲したもの。小学校の頃「サル、ゴリラ、チンパンジー」と歌った覚えがある。誰でも知っているあの曲。

 

マルコム・アーノルドは映画音楽以外にもクラシックも多く作曲しているのも知られていないと思う。交響曲もしっかり9番まである。むしろこっちが本業だろう。このアルバムでは、クラリネット協奏曲、ディベルトメントなど珍しい曲あたりを取り上げているが映画音楽を思わせるようなメロディアスなところが随所にあって聴きやすい。アルバム・ジャケットのこの船は一体なんだろうかと思っていたのだが最後の曲は『パストウの救命ボート』という曲で、これはイギリスのパストウという海辺の町の救命ボートの進水式のために作曲した曲でこの写真はその救命ボート。動画を見るとこのボートは通常は陸地の格納庫に待機しており、事が起こるとそこから滑り台を降りるようにして出動するのだが、サンダーバード2号の中に格納されている4号が出動する時のような今となってはかなりレトロ的なカッコ良さを感じるものだった。

 

 

 

 

 

2023-110

 

 

 

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Josh Cohen (Chandos) 96Khz/24bit

バルブが付いている現代のトランペットが現れるまで、1500年ぐらいから1800年ごろまでの結構長い間使われていた所謂バロック・トランペット。比べてみると明らかに長い。長いのでその分多くの音を出せるけれどもバルブ機能がないので出せる音には限界がある。代わりにと言ってはなんだが穴はあいている。もしその出せる音以外を出すにはかなりのリップテクニックが必要になるだろう。作曲家は当然このトランペットが出せる音を知っているので基本的にはそれだけを使って作曲しているのだが、当時のことなのでたまにいる凄腕の、いや凄唇のトランペッターに合わせて作曲をしていた。当時はまだ吹きこなせる人がいたのだろうが、今となってはそもそもバロック、ナチュラルトランペットを吹く演奏者自体が少ない。

 

アメリカ・ワシントン出身のJoshCohenはそのバロック・トランペットのヴィルトゥオーゾとしてその名を広く知られている。英国の大手レーベルChandos Recordからのデビュー作品はHigh Baroque Trumpet Worksということなので、時期としては1680年からバロック終了の目安とされる1650年までのライヒ、グラウプナー、テレマンなどの作品集。

 

この不便と思われるバロック・トランペット、現代のモダントランペットと比べると音が正面に向かって来ない構造なので、音質が柔らかく聴こえる。他の弦楽器、木管と一緒に室内楽を奏でても主張し過ぎないのがいいところ。このアルバムでも調和の取れたアンサンブルとして作品の魅力を表現しており、ひいてはバロック・トランペットのあまり知られていない魅力をしっかりと伝えている。

                         2023-83

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Pascal Rophe / Pays De La Loire National Orchestra. (BIS) 96Khz/24bit

これはとても面白いアルバムだった。モーリス・ラヴェルが『ローマ大賞』に応募した作品ばかりを収録したラヴェル好きすらほぼ聴いた事がないであろうカンタータ作品集。

 

クラシックをよく聴く人なら名前は聞いた事があるはずの『ローマ大賞』。ドビュッシー、ベルリオーズ、グノー達も受賞している。このフランス政府による芸術学生に対する留学制度はルイ14世によって始められたが、対象に音楽が加わったのは1803年ということで随分後のことなんですね。選考方法はまず予選を通過するために課題のフーガと合唱作品を提出する。通過すると本選として弦楽+カンタータ作品で審査されるのだが、試験課題に対して1ヶ月以内にほぼ隔離状態で仕上げる必要がある。ラヴェルは1900から1905年の間に5度も参加したが本選に進めたのは1901年だけという残念な結果なのだが、それに対しては選考委員の恣意的政治的な内幕が明るみに出て音楽院長が辞任に追い込まれるというということになりそれは『ラヴェル事件』として知られている。因みにその5年の大賞受賞者を見てみたが現在まで名前を知られている作曲家はいなかった。

 

このアルバムの作品群で広く知られているものはない。これを聴いてラヴェルだと察しがつく人はいないくらいラヴェルらしくない。もともと作曲数の多くないラヴェルの作品のしかもカンタータということでそれを五作品も揃えているのはとても貴重な録音と言える。その頃は既に『水の戯れ』、『亡き王女のためのパヴェーヌ』、『ソナチネ』などを発表しており、新進気鋭の作曲家として名前は売れていたので敢えて『ローマ大賞』に応募を続けた動機はハッキリしていない。このカンタータを聴くと学生として若いラヴェルが大賞を取るため保守的な審査員が受け入れ易いように作曲した苦心というものが偲

ばれる。

 

2023-50

 

 

 

 

 

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塚越慎子 (Octavia Record)  DSD256

2022年デビュー15周年となった日本を代表するマリンバ奏者塚越慎子氏のアニバーサリーアルバム。いくつもの国際コンクールで優勝してデビューした後、2011年にリリースした最初のアルバム『ディア・マリンバ』は印象が強く今でも覚えているくらい。その時に取り上げられていた曲は知っている曲がひとつもない、言ってみればマリンバ・マニアックな構成で力の入ったデビュ盤だったが、今回は皆んな知っている有名曲ばかり。聴きどころは管楽器や弦楽器で聴き慣れた曲をマリンバでどう表現するのだろうかというところか。マリンバは打楽器で持続音が出せないのが特徴なので、そこをトレモロを屈指しながら表現をどうするのだろう。音板の叩く部分を変えたり、マレットを持ち替えたりしながらと、マリンバ用に作られた曲よりむしろこっちの方が難易度高いのではなかろうか、でも高度で技巧的な部分は勿論あるに決まっているけど、何よりセンスがいいんだよなと思いながら聴いていた。録音はDSD録音で再生も最高のDSD256音源を使うと倍音成分もバッチリとカバーされたマリンバの芳醇な音色・響きがスピーカーを通して部屋中に充満するのが素晴らしく心地よい。なるほど「カンタービレ ―歌うように」とはこういうことなんだ。

                         2023-51

 

 

 

 

 

 

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Elena Papandreou , guitar 

1995年に最高峰のギターコンテストであるGFAギターファンデーションアメリカで優勝して、今ではベテランのギリシャ人女性ギタリストエレーナ・パパンドレウの新作は同国ギリシャで多くのポピュラー音楽をヒットさせた国民的作曲家マノス・ハジダキス(1925-1994)の作品集。

ハジダキスは日本ではまず馴染みがないが彼が作曲して第33回アカデミー歌曲賞を受賞した映画『日曜はダメよ』Never on Sundayの主題歌は耳にした事があると思う。1960年代の映画なのでちょっと古い。

 

 

このアルバムではその口ずさめるようなカジュアルなポップソングのエッセンスを保ちながらも、技巧的な要素たっぷりに聴かせるギターアレンジメントがとても良くできていて、それはあおいエーゲ海を思わせるようなスカッとした音楽ではなくて、どことなく哀愁を感じさせるメロディー。それをギリシャ的と呼んでいいのかギリシャ・ポップに造詣が深くないので自信を持って言えないが、アルバム自体はギリシャ的?情緒豊かに落ち着いた雰囲気で統一されており夜に聴くイージーリスニングとしてもなかなかよろしい。

                         2023-30

 

 

 

 

 

 

 

Ensemble Pres De Votre Oreille (Paraty) 96Khz/24bit 

何の変哲もないアルバムジャケットで何の合奏団かよくわからないけれども中身は良かった。若手ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者ロビン・ファロ率いる古楽団体アンサンブル・プレ・ド・ヴォートル・オレイユによるイギリス・ルネサンス音楽。ダウランド、ロバート・ジョーンズ、トビアス・ヒュームのちょうど1600年頃に作曲された作品集から抜粋してある。ダウランドはリュート歌曲、トビアス・ヒュームはヴィオール歌曲とそれぞれが得意としていた楽器を伴奏にしたエア。当時の欧州最大のヒット曲と言われたダウランドの『ラクリメ』に代表される何となく物悲しい曲調が当時の流行りだったのかもしれない。全体的にメランコリックなトーンで包まれている。トビアス・ヒュームはむしろトビアス大佐として名が通っているように傭兵隊長でありながらヴィオールの名手であり『兵士の〜』と名付けられた歌がいくつもある。必ずしも悲しみのメロディーというわけではなく兵士だって平時は飲んだり歌ったり踊ったりしているのだろう。タバコも大好き。そんな情景が浮かんでくるようような歌を素朴に書き出しているところに魅力を感じる。しかし、ヴィオールを担ぎながら欧州大陸の戦に赴いていたのだろうか。この人については詳しい事がほとんどわかっていないのがまた好奇心をくすぐる中世の作曲家だ。

2023-28

 

 

 

 

 

 

 

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Andreas Staier (harmonia mundi) 96Khz/24bit

最初はアルバムジャケットも見ないで流して聴いていたが、途中でなんか凄い演奏だなと思い、これは一体誰が弾いているのだろうと演奏者を見てみるとアンドレアス・シュタイアーだった。何が凄いのかというとチェンバロでありながら色彩感が実に豊かで多彩な音色。チェンバロはピアノと比べその構造上強弱ニュアンスが付けにくいので単調な演奏になりがちで平均律クラビーアなどはは途中で飽きてしまうことがある。だがシュタイアーは違う。

 

チェンバロは年代、地域、楽器によって構造が違っていたりするので個体の音色の差を味わうのが一つの楽しみだと思うが、このアルバムではまるでギターを思わせる柔らかな音色までも織り交ぜているのはちょっと驚きだった。もっともチェンバロもギターも同じ弦をはじく撥弦楽器というカテゴリーではあるのだが。

 

どうしてこのような音色がチェンバロで出せるのだろうかと不思議に思い調べてみると、使用楽器はハンブルグの名工ヒエロニュムス・アルブレヒト・ハスの1734年製を、パリに工房を構えるアンソニー・シデイが複製した2004年製のもの。

この楽器、8フィート弦、14フィート弦に加えてオクターブ低い16フィートのバスまである。またくぐもった音にさせるリュート・ストップも付いている。当然チェンバロに備わる音色調節機能であるレジスター、また鉤爪の細かい調整を屈指して多彩な音色を出していることは想像できる。

 

名手シュタイアーはこの楽器の機能的な可能性を追求するだけでなく、演奏面では超絶的な技巧の中に、装飾を施し、一種の遊び心すら感じさせる即興を加え創意工夫の満載された他とは明らかに一味違う平均律クラビーアを演出している。

                        2023-005

 

 

 

Moscow Radio Symphony Orchestra, Gennady Rozhdestvensky etc (Praga Digitals)  96Khz/24bit

アレクサンドル・ボロディン。『イーゴリー公』の『ダッタン人の踊り』、『中央アジアの草原にて』があまりにも有名で誰もが知っている割に、その他の楽曲はほとんど知られていないのは多くを作曲しなかったからかもしれない。

 

医学生時代は非常に優秀で主席卒業後は化学者となりその優れた功績は『ボロディン反応』として化学史の中にも刻まれている。ピアノの才能は小さい頃から示していたが、作曲は正式に音楽学校に行ったわけでなく29歳にしてバラキエフに出会ってから学んだという。そう言えばチャイコフスキーも法律専門で法務局に勤めていた公務員で作曲を学び始めたのは21歳からだった。本業は化学者で多忙、音楽は全くの副業であったのでそれぞれの曲を何年もかけて作曲しており、未完に終わるものも少なくない。それにも関わらずロシア5人組の一人なので作品の質は仲間も認めていたという事だろう。

 

そんなボロディンの三作の交響曲をまとめたアルバムは珍しい。第三番は未完に終わっているため2楽章しかない。交響曲第二番は『イーゴリ公』のメロディーが随分と流用されており東洋風の勇壮な楽風のこの曲は一番よりも収録数が多い。ボロディンの作風が『ダッタン人の踊り』に代表されるようなオリエンタルを感じさせるのは、彼の父がグルジア人でコーカサスの血を引いているのも理由の一つなのだろう。あまり聴く機会のないこれら交響曲だがボロディンらしいサブドミナントをアクセントとした美しい和声進行は健在でとても聴きやすい。チャイコフスキーも影響を受けたロシア国民学派の一人、その個性豊かな交響曲、一度は聴いてみてもいいかもしれない。

                                                                                                                             2023-1

 

 

 

 

 

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Nicholas Daniel (harmonia mundi) 96Khz / 24 bit 

このアルバムを配信した際にジャケットに強く惹かれて聴いてみた。その時は知らなかったのだが曲目等を調べていく中でタイトルにもなっている『Night Window』という曲はアメリカの著名な画家(私は全く知らなかった)であるエドワード・ホッパーの同名の絵画から採られたものでこのアルバム・ジャケットはその絵だという。なるほどホッパーの他の絵も見てみるとこのようなタッチが特徴で、やはり名を残す一流画家というものは独特の魅力を持っているのものなのだなと感心した。

 

作曲家のシア・マスグレイブはエジンバラ生まれのアメリカ人1928年生まれなので今年94歳になる現役の女性作曲家。パリでナディア・ブーランジェに学び、室内楽だけでなく、ドラマ、バレー、オペラの作品が多く故郷のスコットランド及びアメリカ中心に上演されているようだ。また、自らの作品の指揮も行っている。

 

イギリスのオーボエ名手ニコラス・ダニエルによるこのアルバムはマスグレイブがニコラスの為に書き下ろした過去の作品群が中心になっている。オペラ作品が多いのでよく『劇的』と形容されるシアの音楽だがこの室内楽はそんなことはなく、オーボエの高い音域と5度低いコーラングレの低音を織り交ぜながら耽美的な落ち着いた雰囲気をだしている。ロマン派の音楽のような甘すぎるところはなく、無機質な現代音楽というわけでもないいい感じのリラックスできる音楽だと思う。

                                                       2022-1378

 

 

 

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