BACH: The Well-Tempered Clavier Book 1 | チーフ・エディターのブログ

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音楽配信の仕事上年間クラシック中心に毎年1,200枚ハイレゾの新譜を聴く中で気になったものを1日1枚。

Andreas Staier (harmonia mundi) 96Khz/24bit

最初はアルバムジャケットも見ないで流して聴いていたが、途中でなんか凄い演奏だなと思い、これは一体誰が弾いているのだろうと演奏者を見てみるとアンドレアス・シュタイアーだった。何が凄いのかというとチェンバロでありながら色彩感が実に豊かで多彩な音色。チェンバロはピアノと比べその構造上強弱ニュアンスが付けにくいので単調な演奏になりがちで平均律クラビーアなどはは途中で飽きてしまうことがある。だがシュタイアーは違う。

 

チェンバロは年代、地域、楽器によって構造が違っていたりするので個体の音色の差を味わうのが一つの楽しみだと思うが、このアルバムではまるでギターを思わせる柔らかな音色までも織り交ぜているのはちょっと驚きだった。もっともチェンバロもギターも同じ弦をはじく撥弦楽器というカテゴリーではあるのだが。

 

どうしてこのような音色がチェンバロで出せるのだろうかと不思議に思い調べてみると、使用楽器はハンブルグの名工ヒエロニュムス・アルブレヒト・ハスの1734年製を、パリに工房を構えるアンソニー・シデイが複製した2004年製のもの。

この楽器、8フィート弦、14フィート弦に加えてオクターブ低い16フィートのバスまである。またくぐもった音にさせるリュート・ストップも付いている。当然チェンバロに備わる音色調節機能であるレジスター、また鉤爪の細かい調整を屈指して多彩な音色を出していることは想像できる。

 

名手シュタイアーはこの楽器の機能的な可能性を追求するだけでなく、演奏面では超絶的な技巧の中に、装飾を施し、一種の遊び心すら感じさせる即興を加え創意工夫の満載された他とは明らかに一味違う平均律クラビーアを演出している。

                        2023-005