法律大好きのブログ(弁護士村田英幸) -22ページ目

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

政府またはその機関が、国家公務員法27条7項に基づいて外国人教師との間で締結した契約は、民法上の雇用契約であると解されるとされた例

 

東京地方裁判所判決/平成10年(行ウ)第59号

平成11年5月25日

地位確認等請求事件

【判示事項】    1 政府またはその機関が、国家公務員法27条7項に基づいて外国人教師との間で締結した契約は、民法上の雇用契約であると解されるとされた例

2 国家公務員法2条7項に基づいて、政府またはその機関と契約を締結した外国人教師には、労基法が適用されるとされた例

3 国立大学長が外国人教師との間で締結した招へい期間を2年とする合意は、会計法上の制約から1年ごとに締結を繰り返しているものと解され、右合意は労基法14条には反しないとされた例

4 国立大学または国立短期大学の学長が、外国人教師との間で機関を定めない契約を締結することが全く予定されていないことが、労基法3条で禁止された国籍に基づく労働条件の差別に該当するということはできないとされた例

5 国立大学または国立短期大学の学長が、外国人教師との間で締結した雇用契約が1年である限りは、解雇権の濫用法理を類推できないが、招へい期間を2年とする合意をした場合には、招へい期間が経過する前に雇用契約に定められた契約期間満了により新たな雇用契約の締結を拒否しようとしても、終了したはずの雇用契約がなお存続しているといい得る余地があるとされた例

6 筑波大学長が、原告との間で締結した本件4回目の契約で、定められた契約期間満了後の新たな雇用契約の締結を拒否したとしても、解雇権の濫用法理を類推適用することはできず、また雇用契約がなお存続している余地はないとして、雇用契約は失効しているとされた例

【掲載誌】     労働判例776号69頁

 

国家公務員法

(一般職及び特別職)

第二条 国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ。

② 一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。

③ 特別職は、次に掲げる職員の職とする。

一 内閣総理大臣

二 国務大臣

三 人事官及び検査官

四 内閣法制局長官

五 内閣官房副長官

五の二 内閣危機管理監

五の三 国家安全保障局長

五の四 内閣官房副長官補、内閣広報官及び内閣情報官

六 内閣総理大臣補佐官

七 副大臣

七の二 大臣政務官

七の三 大臣補佐官

七の四 デジタル監

八 内閣総理大臣秘書官及び国務大臣秘書官並びに特別職たる機関の長の秘書官のうち人事院規則で指定するもの

九 就任について選挙によることを必要とし、あるいは国会の両院又は一院の議決又は同意によることを必要とする職員

十 宮内庁長官、侍従長、東宮大夫、式部官長及び侍従次長並びに法律又は人事院規則で指定する宮内庁のその他の職員

十一 特命全権大使、特命全権公使、特派大使、政府代表、全権委員、政府代表又は全権委員の代理並びに特派大使、政府代表又は全権委員の顧問及び随員

十一の二 日本ユネスコ国内委員会の委員

十二 日本学士院会員

十二の二 日本学術会議会員

十三 裁判官及びその他の裁判所職員

十四 国会職員

十五 国会議員の秘書

十六 防衛省の職員(防衛省に置かれる合議制の機関で防衛省設置法(昭和二十九年法律第百六十四号)第四十一条の政令で定めるものの委員及び同法第四条第一項第二十四号又は第二十五号に掲げる事務に従事する職員で同法第四十一条の政令で定めるもののうち、人事院規則で指定するものを除く。)

十七 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人(以下「行政執行法人」という。)の役員

④ この法律の規定は、一般職に属するすべての職(以下その職を官職といい、その職を占める者を職員という。)に、これを適用する。人事院は、ある職が、国家公務員の職に属するかどうか及び本条に規定する一般職に属するか特別職に属するかを決定する権限を有する。

⑤ この法律の規定は、この法律の改正法律により、別段の定がなされない限り、特別職に属する職には、これを適用しない。

⑥ 政府は、一般職又は特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給、給料その他の給与を支払つてはならない。

⑦ 前項の規定は、政府又はその機関と外国人の間に、個人的基礎においてなされる勤務の契約には適用されない。

 

労働基準法

(契約期間等)

第十四条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。

一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約

二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)

② 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。

③ 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

 

周辺住民による一般廃棄物最終処分場建設差止請求につき,受忍限度を超える被害発生の蓋然性が高いとは認められないとして,請求が棄却された事例

 

福岡高等裁判所/平成13年(ネ)第650号

平成15年10月27日

建設工事差止請求控訴事件

【判示事項】    周辺住民による一般廃棄物最終処分場建設差止請求につき,受忍限度を超える被害発生の蓋然性が高いとは認められないとして,請求が棄却された事例

【参照条文】    民法709

【掲載誌】     判例タイムズ1168号215頁

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

【解説】

 1 本件は,久留米市(Y)が建設中の一般廃棄物最終処分場(以下「本件処分場」という。)について,建設予定地周辺の住民であるXらが,Yに対しその建設の差し止めを請求した事案である。原審は,Xらの請求を棄却したので,Xらが控訴し,本件はその控訴審判決である。

 2(1)Yは,従前使用していた焼却灰やごみの埋立地の使用期限が経過し,埋立容量も限界に近づいたため,昭和60年ころから新規埋立地の建設を計画した。その後,市長が交代したことから,市民団体などが参加した協議会の提言も採り入れて,ごみ減量,リサイクル施策を進めるとともに,当初の計画を大幅に縮小して,平成11年に本件処分場の設置計画を発表し,現在建設中である。本件処分場は山間の谷間の地形を利用した一般廃棄物最終処分場(埋立地)であり,埋立予定廃棄物は不燃物及び焼却灰である。

 (2)Xらは,本件処分場に搬入される一般廃棄物には,ダイオキシン類などの有害物質が含まれており,これらの有害物質はほんの微量でも人体に悪影響をもたらすものであるところ,本件処分場内から浸出水が漏出すると,これらの有害物質が地下水に混入してXらが利用する井戸水や上水道取水口付近に流れ込み,Xらの生命・身体・健康に被害が生じ,Xらの人格権が侵害されると主張した。また,Xらは,Yにおいて,「本件処分場からは,未処理の浸出水を1滴も漏らさないこと」につき,主張・立証責任を負うと主張した。

 

河川を航行中に船舶が地方公共団体の管理する可動橋に接触し損傷を与えたことによって生じた損害に基づく債権について、船舶責任制限手続の開始が認められた事例

 

高松高等裁判所決定/昭和54年(ラ)第4号

昭和54年11月30日

船舶責任制限手続開始決定に対する即時抗告事件

【判示事項】    河川を航行中に船舶が地方公共団体の管理する可動橋に接触し損傷を与えたことによって生じた損害に基づく債権について、船舶責任制限手続の開始が認められた事例

【参照条文】    船舶の所有者等の責任の制限に関する法律

【掲載誌】     下級裁判所民事裁判例集30巻9~12号665頁

          判例タイムズ407号135頁

          判例時報954号51頁

 

船舶の所有者等の責任の制限に関する法律

(船舶の所有者等の責任の制限)

第三条 船舶所有者等又はその被用者等は、次に掲げる債権について、この法律で定めるところにより、その責任を制限することができる。

一 船舶上で又は船舶の運航に直接関連して生ずる人の生命若しくは身体が害されることによる損害又は当該船舶以外の物の滅失若しくは損傷による損害に基づく債権

二 運送品、旅客又は手荷物の運送の遅延による損害に基づく債権

三 前二号に掲げる債権のほか、船舶の運航に直接関連して生ずる権利侵害による損害に基づく債権(当該船舶の滅失又は損傷による損害に基づく債権及び契約による債務の不履行による損害に基づく債権を除く。)

四 前条第二項第三号に掲げる措置により生ずる損害に基づく債権(当該船舶所有者等及びその被用者等が有する債権を除く。)

五 前条第二項第三号に掲げる措置に関する債権(当該船舶所有者等及びその被用者等が有する債権並びにこれらの者との契約に基づく報酬及び費用に関する債権を除く。)

2 救助者又はその被用者等は、次に掲げる債権について、この法律で定めるところにより、その責任を制限することができる。

一 救助活動に直接関連して生ずる人の生命若しくは身体が害されることによる損害又は当該救助者に係る救助船舶以外の物の滅失若しくは損傷による損害に基づく債権

二 前号に掲げる債権のほか、救助活動に直接関連して生ずる権利侵害による損害に基づく債権(当該救助者に係る救助船舶の滅失又は損傷による損害に基づく債権及び契約による債務の不履行による損害に基づく債権を除く。)

三 前条第二項第三号に掲げる措置により生ずる損害に基づく債権(当該救助者及びその被用者等が有する債権を除く。)

四 前条第二項第三号に掲げる措置に関する債権(当該救助者及びその被用者等が有する債権並びにこれらの者との契約に基づく報酬及び費用に関する債権を除く。)

3 船舶所有者等若しくは救助者又は被用者等は、前二項の債権が、自己の故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によつて生じた損害に関するものであるときは、前二項の規定にかかわらず、その責任を制限することができない。

4 船舶所有者等又はその被用者等は、旅客の損害に関する債権については、第一項の規定にかかわらず、その責任を制限することができない。

 

株式会社の債権者の会社に対する計算書類の閲覧請求権および騰抄本交付請求権

 

最高裁判所第1小法廷判決/昭和45年(オ)第935号

昭和46年6月3日

商業帳簿閲覧等請求事件

【判示事項】    株式会社の債権者の会社に対する計算書類の閲覧請求権および騰抄本交付請求権

【判決要旨】    株式会社の債権者は、特段の事情のないかぎり、株主総会終了後も、商法282条2項の規定の類推適用により、会社に対し、同条1項所定の書類の閲覧またはその謄本もしくは抄本の交付を請求することができる。

【参照条文】    商法282

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集25巻4号469頁

 

会社法

(計算書類等の備置き及び閲覧等)

第四百四十二条 株式会社は、次の各号に掲げるもの(以下この条において「計算書類等」という。)を、当該各号に定める期間、その本店に備え置かなければならない。

一 各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第四百三十六条第一項又は第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 定時株主総会の日の一週間(取締役会設置会社にあっては、二週間)前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)から五年間

二 臨時計算書類(前条第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 臨時計算書類を作成した日から五年間

2 株式会社は、次の各号に掲げる計算書類等の写しを、当該各号に定める期間、その支店に備え置かなければならない。ただし、計算書類等が電磁的記録で作成されている場合であって、支店における次項第三号及び第四号に掲げる請求に応じることを可能とするための措置として法務省令で定めるものをとっているときは、この限りでない。

一 前項第一号に掲げる計算書類等 定時株主総会の日の一週間(取締役会設置会社にあっては、二週間)前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)から三年間

二 前項第二号に掲げる計算書類等 同号の臨時計算書類を作成した日から三年間

3 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

一 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求

二 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求

三 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

4 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の計算書類等について前項各号に掲げる請求をすることができる。ただし、同項第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

 

第2章 立法の背景

人口減少時代における土地政策の推進~所有者不明土地等対策

 我が国では、登記簿などの公簿情報を参照しても所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地、いわゆる「所有者不明土地」や、適正な利用・管理がなされないことで草木の繁茂や害虫の発生など周辺に悪影響を与える管理不全の土地が、人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下や地方から都市等への人口移動を背景とした土地の所有意識の希薄化等を背景に、全国的に増加しています。これらの土地については、生活環境の悪化の原因やインフラ整備、防災上の重大な支障となるなど、対応が喫緊の課題となっています。

 所有者不明土地は、東日本大震災の復興でも、大きな問題となりました。

 このような課題に対して、平成30年6月6日には、所有者不明土地の公共的目的での円滑な利用を実現するための「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が成立し、同法は令和元年6月1日に全面施行されました。

 また、残された課題である所有者不明土地の発生抑制・解消に向けて、国土交通省では、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」や「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」(令和元年6月14日所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議決定)、国土審議会における調査審議等を踏まえた検討を行いました。そして、第201回国会に、土地政策の基本理念等を見直し、適正な土地の利用及び管理を確保する施策の総合的かつ効率的な推進を図るとともに、その前提となる地籍調査を円滑化・迅速化するための措置等を一体的に講ずるため、土地基本法、国土調査法等を改正する「土地基本法等の一部を改正する法律案」を提出しました。同法案は令和2年3月27日に成立し、このうち、改正土地基本法については、同年3月31日に公布・施行されました。

 また、同年5月26日には、土地基本法に基づく「土地基本方針」が閣議決定されました。今後は、今般の策定と、社会経済情勢の変化や、施策の進捗等を踏まえた適時の見直しを通じて、所有者不明土地対策・管理不全土地対策等の個別施策を着実に展開することとしています。

 

不動産所有者の与えた物上保証人となることの承諾が仮登記担保権設定の承諾を含むと解することの当否(消極)

 

東京高判昭和54年1月31日 東京高等裁判所判決時報民事30巻1号15頁

土地建物抵当権設定登記等抹消登記手続請求控訴

【判示事項】 不動産所有者の与えた物上保証人となることの承諾が仮登記担保権設定の承諾を含むと解することの当否(消極)

【参照条文】 民法369

       仮登記担保契約に関する法律1(趣旨)

 

民法

(抵当権の内容)

第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

 

仮登記担保契約に関する法律

(趣旨)

第一条 この法律は、金銭債務を担保するため、その不履行があるときは債権者に債務者又は第三者に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約その他の契約で、その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるもの(以下「仮登記担保契約」という。)の効力等に関し、特別の定めをするものとする。

 

「 債務者または担保提供者がその所有する不動産につき抵当権を設定する際に、債権者との間の特約により抵当債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結し、これに基づき所有権移転仮登記をすることは往々見受けられるところであり、右の特約は代物弁済予約形式のいわゆる仮登記担保権を設定する趣旨のものと考えられる。しかしながら、担保提供者が単に物上保証人となることを承諾したにとどまる場合には、通常の場合抵当権を設定することのみを承諾したものと解すべきであり、特段の事情のない限り当然には抵当権の目的たる不動産につき右の仮登記担保権を設定することを承諾したものと推認することはできない。けだし、債権者による仮登記担保権の実行は、その効果において抵当権の実行の場合と類似する1面があるとはいえ、その手続および効果が後者と全く同一であるというわけではなく、不動産に仮登記担保権を設定した場合には、抵当権のみを設定した場合と比較して後順位抵当権の設定、当該不動産の譲渡・賃貸等につき所有者が1層不利益な立場に置かれることもあり得るのであって、他に特段の事情もないのに、物上保証人となることを承諾した者は当然に仮登記担保権を設定する意思をも有していたものと推測するのは、合理的な意思解釈ということができないからである。」

 

第1章 はじめに

社会経済情勢の変化に伴い所有者不明土地が増加していることに鑑み、所有者不明土地の利用の円滑化及び土地の所有者の効果的な探索を図ることを目的とした「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(所有者不明土地法)」が平成30年6月13日公布され、令和元年6月1日に全面施行されました。

 

空港周辺住民の航空機騒音等に基づく被害のうち全員に共通する最少限度の被害について、各自につき、その限度で慰藉料という形でその賠償を請求すること及びそのような判断の方法が許されるとされた事例

 

最高裁判所第1小法廷判決/平成4年(オ)第1179号、平成4年(オ)第1181号

平成6年1月20日

福岡空港夜間飛行禁止等請求上告事件

【判示事項】     空港周辺住民の航空機騒音等に基づく被害のうち全員に共通する最少限度の被害について、各自につき、その限度で慰藉料という形でその賠償を請求すること及びそのような判断の方法が許されるとされた事例

【参照条文】    国家賠償法2-1

          日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基く施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律2

【掲載誌】     訟務月報41巻4号532頁

【評釈論文】    訟務月報41巻4号532頁

          訟務月報41巻4号10頁

 

国家賠償法

第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

 

       主   文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人加藤和夫、同中野哲弘、同鈴木健太、同加藤昭、同小巻泰、同黒川裕正、同野崎彌純、同富田善範、同齋藤博志、同辻三雄、同長澤純一、同杉江昭治、同奥田哲也、同鶴見正信、同日原勝也、同長濱克史、同石濱正彦、同横田和男、同吉本秀樹、同落合進の上告理由第1点について

 原審は、【判示事項】本件において被上告人らが請求するところは、被上告人らはそれぞれさまざまな被害を受けているけれども、本件においては各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるのではなく、それらの被害のうち被上告人ら全員に共通する最小限度の被害、すなわち、一定限度までの精神的被害、睡眠妨害、静穏な日常生活の営みに対する妨害及び身体に対する侵害等の被害について各自につきその限度で慰謝料という形でその賠償を求めるものであるとした上、右の趣旨に沿って被害の発生とその内容について検討を加えたものである。右のような請求及び判断の方法が許されることは、当裁判所の判例(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁)の趣旨に照らして明らかであり、右の点及びその他の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。論旨は採用することができない。

 同第2点について

 原審の認定した航空機騒音による会話、電話の聴取及びテレビ・ラジオの視聴等に対する妨害、思考、読書、家庭における学習等知的作業に対する妨害及び睡眠妨害並びに精神的苦痛が法的に保護された利益の侵害になることはいうまでもなく、本件空港の供用行為が第三者に対する関係において違法な法益侵害となるかどうかについては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情も考慮し、これらを総合的に考察して判断すべきものであるところ(前記大法廷判決参照)、原審の適法に確定した事実関係の下においては、右のような総合的な考察をした上で、上告人の本件空港の供用行為が被上告人らに対する関係で違法となるとした原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

 同第3点について

 原判決は、昭和52年1月1日以降に本件空港周辺地域に転入した者についていわゆる危険への接近の法理を適用して慰謝料基準額から2割の減額をしたものと解されるところ、所論は、右法理を適用する場合には全額の免責が認められるべき旨、また、昭和27年4月以降の転入者についても右法理を適用すべき旨を主張するが、この点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らして是認し得ないものではない。論旨は採用することができない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 

医師法上医行為にあたる事例

 

最高裁判所第3小法廷判決/昭和28年(あ)第3373号

昭和30年5月24日

医師法違反詐欺同未遂被告事件

【判示事項】    医師法上医行為にあたる事例

【判決要旨】    患者に対し聴診、触診、指圧等を行い、その方法がマツサージ按摩の類に似てこれと異なり、交感神経等を刺激してその興奮状態を調整するもので医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは生理上危険ある程度に達しているときは、医行為と認めるのが相当である。

【参照条文】    医師法17

【掲載誌】     最高裁判所刑事判例集9巻7号1093頁

          最高裁判所裁判集刑事105号851頁

【評釈論文】    警察研究30巻11号92頁

          別冊ジュリスト50号140頁

 

医師法

第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。

 

第八章 罰則

第三十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 第十七条の規定に違反した者

二 虚偽又は不正の事実に基づいて医師免許を受けた者

2 前項第一号の罪を犯した者が、医師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、三年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 

       主   文

 本件上告を棄却する。

       理   由

 弁護人野村英夫の上告趣意について。

 所論は、原審が被告人の行為を医行為と判断した点を非難し、大審院判例に違反すると主張する。所論の引用する大審院の各判例に通ずる「医業」または「医行為」の観念は、原判決の控訴趣意第1点及び第2点の(1)に対する判断の前段に説示するところをもって相当するが、所論はこの点について被告人の施術方法は、単に患部につき指にて押えまたは押すのみで一切投薬注射等を行わず、聴診器も例外とし使用するに止まるのであるから、原判決の判断は、所論引用の判例に違反するというのである。しかし原審は破棄自判をしたのであるが、その「罪となるべき事実」の判示第1及びその(1)ないし(4)の事実と、前記控訴趣意に対する判断の中段以下にきわめて詳細に説示するところを合せ考えてみると、被告人の行為は、前示主張のような程度に止まらず、聴診、触診、指圧等の方法によるもので、医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは生理上危険がある程度に達していることがうかがわれ、このような場合にはこれを医行為と認めるのを相当としなければならない。原審が被告人の行為をもって、外科手術の範囲に属する医行為であるとした説明の当否及び引用した大審院判例の適否は別として、その判断は結論において誤りはない。所論引用の各判例はいずれも本件被告人の行為とその態様または程度を異にする事案であるから本件に適切でない。

 その他記録を調べても刑訴411条を適用すべき事由は認められない。

 よって同408条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

  昭和30年5月24日

     最高裁判所第3小法廷

 

原審である大阪高等裁判所

【事件番号】    大阪高等裁判所判決

【判決日付】    昭和28年5月21日

【掲載誌】     最高裁判所刑事判例集9巻7号1098頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 被告人を懲役一年に処する。

 押収にかかる聴診器一個(証第一号)はこれを没収する。

 原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

 

       理   由

 

本件控訴の理由は、弁護人野村英夫名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

第一点及び第二点の(一)について。

医師法(昭和二三年法律第二〇一号)第一七条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない」。と規定しているのであつて、右にいわゆる医業をなすとは、反覆継続の意思を以つて医行為に従事することをいうものと解すべきであるから、被告人の診察治療行為がたとえ数回に過ぎない場合であつても、いやしくも反覆継続の意思の下になされたものと認められる限り、医業をなしたものというべきであるところ、挙示の証拠により認めた原判決の事実によると、被告人の判示所為は反覆継続の意思の下になされたものであることが明らかであるし、なお右にいわゆる医行為とは人の疾病の治療を目的とし医学の専門知識を基礎とする経験と技能とを用いて、診断、薬剤の処方又は外科的手術を行うことを内容とするものを指称し、等しく人の疾病の治療を目的とするものであつて、たとえば按摩、鍼、灸等の如き療術は医業類似行為の範疇に属し、あん摩、はり、きゆう、柔道製復等営業法(昭和二二年法律第二一七号)による取締の対象となるが前示医行為とはならないものと解するを相当とする。しかして有罪判決の罪となるべき事実は、刑罰法令に規定せられた犯罪構成要件に該当する事実をなるべく具体的に判示することを要するのであるから原判決のように被告人は医学博士A又はA医院副院長の名前を僣称し、不法に診察治療したものであると摘示しただけでは、診察治療の方法が具体的に説明せらていないので、果して被告人の所為が医師法第一七条の医業をなしたものに該当するのか、或いはあん摩、はり、きゆう、柔道整複等営業法第一二条の医業類似行為を業としたものに該当するのか、判文上からは明確を欠く憾あるを免れない。(なお僣称というのは、今日すでに廃止せられている昭和八年法律第四五号による改正後の明治三九年法律第四七号医師法第一一条第一項や昭和一七年法律第七〇号国民医療法第七四条第二項の規定の用語であつて、原判決がこの廃語を特に使用した所以を了解し難い。)しかし、本件記録を査閲するのに、Bの検事に対する供述調書には同人は被告人から心臓が宿替しているといわれて鳩尾を激しく押されたため、乳の下がどきどきして、心臓が元の位置に戻つたかと思つた旨の供述記載があり、Cの司法巡査及び検事に対する各一回供述調書には、同人の娘Dは被告人の指圧治療を受けた際死んでもよいからやめてくれと苦痛を愬えた旨の供述記載があり、又Eの司法警察員に対する第二回供述調書と同人名義の昭和二七年二月七日附被害届書添付の診断書とによると、同人は被告人から眼球を指圧せられて異様な疾痛を覚え、又被告人の治療を受けた後身体が却つて悪くなつたように思われたので、最寄の医師の診断を受けると、左眼球結膜出血、左前胸部皮下出血、右背部筋肉圧傷等の傷害を受けていたことが認められ、更に原審第三回公判調書には証人Aの供述として、被告人の考案した方法はマツサージ按摩の類に似て非なる独特な方法で、交感神経を刺激してその興奮状態を調整するものであり、同証人は被告人と共同研究の形式で医学会においてその学理を発表したことがある旨の記載があり、且つ被告人も心臓弁膜症や貧血症の患者はこの療法に堪えない旨を自供しているのであつて、これらの事実を綜合すれば、被告人の治療方法は医師国家試験に合格し、厚生大臣の免許を受けた医師でない、医学上の知識と技能とを有しない者がみだりにこれを行うときは生理上の危険があり、所論掌薫療法(昭和六年一一月三〇日大審院第一刑事部判決、判例集第一〇巻六六六頁以下参照)や紅療法(昭和八年七月八日大審院第三刑事部判決、判例集一二巻一一九〇頁以下参照)の如きものとはその趣を異にするものであつて、むしろ蛭療法(昭和九年四月五日大審院第一刑事部判決、判例集一三巻三七七頁以下参照)同様外科手術の範囲に属する医行為であると認めるのが相当である。従つて原判決には所論のような事実の誤認も擬律の錯誤も存しないものといわなければならない。

しかしながら、原判決は医師法違反の点は同法第一七条第一八条第三一条第三三条に該当すると判示しているけれども、原判示第一乃至第四及び第六の事実は、医師でない被告人が医師又はこれに類似した名称を用いて医業をなしたことを認定した趣旨であると解せられ、この場合被告人の所為は同法第三一条第二項に該当するものと認むべきであつて、同条第一項第一号及び第三三条の二罪に触れるものではないのである。それ故にこの点において原判決は法令の適用を誤つたものであり、この誤は刑の量定従つて判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

第二点の(二)について。

しかし原判決挙示の証拠のうち、Fの検事に対する第一回供述調書によると、同人は被告人に対し原判示第一の三万円を交付するに際し、被告人が(以下略)のA医院の副院長格の医師であると誤信していたことを首肯するに足り、原判決は所論援用にかかるFの原審公判廷における証言を措信し難いとして排斥したものと認められるのみならず、記録を精査してもこの点に関する原判決の事実認定に誤があること疑うべき証跡を発見しないので、論旨は理由がない。

第三点について。

所論は科刑不当を主張するものであるが、前段説示の如く、原判決には法令の適用の誤があつてこれを破棄し、更に当裁判所において自判することになるので、その際に刑の量定についても判断することとし、ここにはこれを省略する。

よつて刑事訴訟法第三九七条第三八〇条に則り原判決を破棄しなお同法第四〇〇条但書を適用し、直ちに当裁判所において次のように判決する。

一、罪となるべき事実

被告人は、

第一 医師でないのに、大阪市東区(以下略)において医院を開業している医学博士A又はA医院副院長という医師又はこれに類似した名称を用いて、聴診器(証第一号)による患部の診断並びに自己の指頭を患部に融れ交感神経等を刺激してその興奮状態を調整する方法による治療を行い、患者が名医であると誤信せるに乗じ治療費名義又は借金名義の下に金銭を騙取しようと企て、

(一) 昭和二六年四月一二日頃奈良市(以下略)F方で前記A医院副院長なるが如く申詐り、右Fの四男Gに対し前記方法による診断治療を行つた上、治療費として不当に高価な金額の要求を為し、右FをしてA医院の副院長たる医師が治療をしてくれたものであると誤信せしめ、よつてその治療費名義の下に金三〇、〇〇〇円を交付させてこれを騙取し、

(ニ) 同年一二月初旬頃大阪市北区(以下略)H方で同人の妻Bに対し、右A博士であると申詐つて前記方法による診断治療を行つた上、これが料金として金一六、〇〇〇円を要求し、右Bをして真実A博士が診断治療をしてくれたものであると誤信せしめ、治療費名義の下に金一六、〇〇〇円を交付させてこれを騙取し、

(三) 同年一一月中旬頃大阪府豊能郡(以下略)I方で同人に対しA博士であると申詐つて前記方法による診断治療を行い、右(二)同様誤信せしめて、治療費名義の下に金一二、〇〇〇円を向付させてこれを騙取し、

(四) 昭和二五年一一月末頃から、同年一二月末頃までの間数回に亘り大阪市阿倍野区(以下略)J方で前記A医院副院長であると申詐つて同人の長女Dに対し前記方法による診断治療を行つた上、右Jの妻Cに対し治療費を要求し、同人をして真実A医院の副院長である医師が治療してくれるものと誤信せしめ、治療費名義の下に接続して同年一一月末頃金二〇、〇〇〇円、同年一二月初旬頃から同月中旬頃までの間一回三、〇〇〇円乃至四、〇〇〇円宛数回に合計二〇、〇〇〇円(総計金四〇、〇〇〇円)を交付させてこれを騙取し、

(五) 昭和二七年一月二一日頃から同月二三日頃まで三日間に亘り同市北区(以下略)K方でA博士であると申詐つて同人に対し前記方法により治療を行つた上、同月二三日頃返済の意思も能力もないのに土地購入資金として金一二〇、〇〇〇円を貸与して欲しいと申入れたが、右Kにおいて被告人がA博士でないことを看破したため、金員騙取の目的を遂げず、

第二 昭和二六年五月一〇日頃前記F方で、同人が被告人を信頼せるに乗じ、返済の意思も能力もないのに、同人に対し医療器具購入費を貸与せられたいと申詐り同人をしてその旨誤信せしめた上額面金一二〇、〇〇〇円の小切手一通を交付させてこれを騙取し、

たものである。

二、証拠の標目(省略)

三、法令の適用

医師法第三一条第二項(第一事実)刑法第二四六条第一項(第一の(一)乃至(四)第二事実)同法第二五〇条第二四六条第一項(第一の(五)の事実)同法第四五条前段第四七条本文第一〇条第一九条第一項第二号第二項刑事訴訟法第一八一条第一項

なお刑の量定に際し所論第三点摘記の情状について考慮したのであるが、記録に現われた諸般の犯情に照らすときは、原判決が被告人を懲役一年に処したのを目して重過ぎるとは認められないので、当裁判所も最も重いと認める判示第二の詐欺罪の刑に併合罪の加重をなした刑期範囲内で被告人を懲役一年に処する。

よつて主文のとおり判決する。(昭和二八年五月二一日大阪高等裁判所第六刑事部)

 

 

イトマン事件

 

業務上横領,商法違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/平成14年(あ)第1431号

【判決日付】      平成17年10月7日

【判示事項】      商社の代表取締役社長が行った巨額の融資につき特別背任罪における加害目的が認められた事例

【判決要旨】      商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。

【参照条文】      商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486-1

             刑法247

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集59巻8号779頁

             判例タイムズ1195号121頁

             判例時報1914号151頁

 

刑法

(共同正犯)

第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

 

(身分犯の共犯)

第六十五条 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。

2 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。

 

(背任)

第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

会社法

(取締役等の特別背任罪)

第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 発起人

二 設立時取締役又は設立時監査役

三 取締役、会計参与、監査役又は執行役

四 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者

五 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、会計参与、監査役、代表取締役、委員(指名委員会、監査委員会又は報酬委員会の委員をいう。)、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者

六 支配人

七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人

八 検査役

2 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は清算株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該清算株式会社に財産上の損害を加えたときも、前項と同様とする。

一 清算株式会社の清算人

二 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された清算株式会社の清算人の職務を代行する者

三 第四百七十九条第四項において準用する第三百四十六条第二項又は第四百八十三条第六項において準用する第三百五十一条第二項の規定により選任された一時清算人又は代表清算人の職務を行うべき者

四 清算人代理

五 監督委員

六 調査委員

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人竹之内明ほかの上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 以下,所論にかんがみ,第1審判決判示第二の融資に係る特別背任罪(平成2年法律第64号による改正前の商法486条1項)における被告人のいわゆる図利加害目的につき,職権をもって検討する。

 1 本件融資は,中堅総合商社であった伊藤萬株式会社(平成3年1月1日に「イトマン株式会社」と商号変更。以下「イトマン」という。)が,平成2年4月2日,不動産業等を目的とする株式会社協和綜合開発研究所(以下「協和」という。)の子会社である株式会社瑞浪ウイングゴルフクラブに対して,230億円余を貸し付けたというものであるところ,原判決及び原判決が是認する第1審判決の認定によれば,本件に関する事実関係は,次のとおりである。

 (1) 被告人は,株式会社住友銀行取締役から転じて,昭和50年12月から平成3年1月25日まで,イトマン代表取締役社長の地位にあり,その業務全般を掌理していたものである。被告人は,経営危機にひんしていたイトマンの再建に取り組み,昭和53年には復配にこぎつけたが,その後は経営多角化による新規事業への進出の失敗等により経営状況が悪化したため,メインバンクの住友銀行から後任社長を送り込まれ,社長の地位を追われる事態となることを痛く危ぐし,同銀行の意向をはねのけて自己の地位を保持するためには,何としてでも自己の最大の実績である毎期連続の増収増益を維持しなければならないと思い定め,不動産融資案件関連での企画料等の名目で見せかけの利益を計上してでも公表予想経常利益を達成しようと,当面の決算対策用の利益計上の材料探しに躍起となっていた。

 (2) 被告人は,平成元年8月3日ころ,東京都中央区銀座の400坪余りの土地(以下「銀座物件」という。)の地上げを遂げるとともに,岐阜県内において瑞浪ゴルフ場等2か所のゴルフ場開発を計画するなどしていた協和の代表取締役社長Aを紹介されたが,折から高金利時代を迎え,不動産業者への単なるファイナンス業務では利益が薄いのに対して,ゴルフ場等の開発プロジェクトであれば,当初は融資を行い,最終的にプロジェクトごと買い取ってイトマンで事業展開をすれば,融資時点で多額の企画料が取れる上,リスクはあるものの将来大きな利益が出る可能性もあるとの思惑を抱き,Aに対し,同人が有するプロジェクト(以下「協和プロジェクト」という。)をイトマンの資金提供の下に共同事業として遂行していくことを提案した。そして,被告人は,当時資金繰りに窮していたAから,銀座物件の状況や同物件関連の協和等の借入金額について説明を受けるや,イトマンが将来事業として取り組む場合の採算性等について全く調査,検討することなく,銀座物件関連での協和等の債務全額を肩代わりすることを決め,ノンバンク2社からの借入金436億円余は,同年11月中にイトマンから資金を貸し付けて肩代わりし,残る1社からの借入金230億円は,将来瑞浪ゴルフ場への融資名目で,金利分を含めて出金して返済に充て,同ゴルフ場の関係でも企画料を取ることなどを部下に指示した。そして,被告人は,同月6日,イトマン東京本社に副社長らを集め,協和プロジェクトにイトマンの事業として共同して取り組んでいく旨の方針を表明し,同月20日には,イトマンから子会社を介して協和に対し,前記436億円余に金利を上乗せした465億円の融資が実行された。

 (3) 平成2年1月下旬ころ,被告人は,既に130億円と公表していた同年3月期の予想経常利益について,財務経理担当副社長から,約100億円が不足する旨の報告を受けたため,同人に対し,Aと相談して,協和プロジェクトを利用した決算対策用の利益出しを行うよう指示する一方,Aにも,100億円を企画料などとしてイトマンに入金し,3月末の利益出しに協力するよう要請した。Aは,同年2月1日付けでイトマン理事を委嘱されて社長室直轄の企画監理本部長となっていたが,上記要請を受けて決算対策用の利益出しのためのプロジェクト選定作業を進める一方,被告人に対し,かねて約束の借入金230億円の肩代わり融資を実行するよう求めた。被告人は,既にその肩代わりを了承していたとはいえ,その実行の時期等については確定していなかったところ,当面の最優先課題である公表予想経常利益達成のための約100億円の利益出しにはAの協力が不可欠であると考え,瑞浪ゴルフ場への融資の関係でもイトマンに企画料を入れてもらおうと意図して,その要求に応ずることとした。

 (4) かくして,被告人は,イトマン代表取締役社長として有していた任務に背いて,協和が弁済すべき前記230億円の返済資金をねん出するため,債権保全のための適切な担保徴求等の措置を講ずることなく,瑞浪ゴルフ場の開発工事資金名目で,本件融資を実行した。被告人は,本件融資に際して,銀座物件のビル建築等による開発計画は採算の取れる見通しがなく,その資産価値や利用価値にも疑問があることを認識しており,さらに,瑞浪ゴルフ場の開発利益や,協和プロジェクトの一つとして挙げられていた関ゴルフ場の会員権独占販売権による取得利益などを含めても,これらが実質無担保で実行される本件融資を補うに足りるような性質のものではないことについて認識していた。なお,本件融資に関連したA側からの企画料の取得は,それに見合う役務の提供がないばかりでなく,イトマンからの融資金の流用を黙認するなどしてA側の資金の便宜を図った上で,期末に集中して企画料を入金させ,実質的にイトマンの資金を還流させたにすぎないという性格のものであった。

 2 【要旨】以上によれば,被告人が本件融資を実行した動機は,イトマンの利益よりも自己やAの利益を図ることにあったと認められ,また,イトマンに損害を加えることの認識,認容も認められるのであるから,被告人には特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。したがって,被告人につき図利加害目的を認めた原判断は,結論において正当である。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。