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空港周辺住民の航空機騒音等に基づく被害のうち全員に共通する最少限度の被害について、各自につき、その限度で慰藉料という形でその賠償を請求すること及びそのような判断の方法が許されるとされた事例

 

最高裁判所第1小法廷判決/平成4年(オ)第1179号、平成4年(オ)第1181号

平成6年1月20日

福岡空港夜間飛行禁止等請求上告事件

【判示事項】     空港周辺住民の航空機騒音等に基づく被害のうち全員に共通する最少限度の被害について、各自につき、その限度で慰藉料という形でその賠償を請求すること及びそのような判断の方法が許されるとされた事例

【参照条文】    国家賠償法2-1

          日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基く施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律2

【掲載誌】     訟務月報41巻4号532頁

【評釈論文】    訟務月報41巻4号532頁

          訟務月報41巻4号10頁

 

国家賠償法

第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

 

       主   文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人加藤和夫、同中野哲弘、同鈴木健太、同加藤昭、同小巻泰、同黒川裕正、同野崎彌純、同富田善範、同齋藤博志、同辻三雄、同長澤純一、同杉江昭治、同奥田哲也、同鶴見正信、同日原勝也、同長濱克史、同石濱正彦、同横田和男、同吉本秀樹、同落合進の上告理由第1点について

 原審は、【判示事項】本件において被上告人らが請求するところは、被上告人らはそれぞれさまざまな被害を受けているけれども、本件においては各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるのではなく、それらの被害のうち被上告人ら全員に共通する最小限度の被害、すなわち、一定限度までの精神的被害、睡眠妨害、静穏な日常生活の営みに対する妨害及び身体に対する侵害等の被害について各自につきその限度で慰謝料という形でその賠償を求めるものであるとした上、右の趣旨に沿って被害の発生とその内容について検討を加えたものである。右のような請求及び判断の方法が許されることは、当裁判所の判例(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁)の趣旨に照らして明らかであり、右の点及びその他の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。論旨は採用することができない。

 同第2点について

 原審の認定した航空機騒音による会話、電話の聴取及びテレビ・ラジオの視聴等に対する妨害、思考、読書、家庭における学習等知的作業に対する妨害及び睡眠妨害並びに精神的苦痛が法的に保護された利益の侵害になることはいうまでもなく、本件空港の供用行為が第三者に対する関係において違法な法益侵害となるかどうかについては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情も考慮し、これらを総合的に考察して判断すべきものであるところ(前記大法廷判決参照)、原審の適法に確定した事実関係の下においては、右のような総合的な考察をした上で、上告人の本件空港の供用行為が被上告人らに対する関係で違法となるとした原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

 同第3点について

 原判決は、昭和52年1月1日以降に本件空港周辺地域に転入した者についていわゆる危険への接近の法理を適用して慰謝料基準額から2割の減額をしたものと解されるところ、所論は、右法理を適用する場合には全額の免責が認められるべき旨、また、昭和27年4月以降の転入者についても右法理を適用すべき旨を主張するが、この点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らして是認し得ないものではない。論旨は採用することができない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。