性別・柚香光。 ~ 宝塚花組 花より男子 観劇感想 | 百花繚乱

百花繚乱

駆け出し東宝組。宙から花のように降る雪多めに鑑賞。

 

■性別・柚香光

完璧でした。

 

立てば道明寺、歩けば道明寺、キスする姿は柚香光

 

何の本歌取りにもなってない土方歳三並のミゼラブルな句をひりださずにはいられないほど

 

どうなってんねん! どうせいっちゅうねん!!

というかっこよさでした。

 

 

どっからどうみても、男装感がない。

蹴っても、倒れても、痙攣してても道明寺

 

もはやその完成度、轟さんのポスター並

 

性別・柚香光。

 

以上!!

 

 

れいちゃんの凄みのある美貌と俊敏な身のこなしが、道明寺の暴力性や、それが一転つくしへの恋に向けられたときの動物的な行動力、真剣さとなって、説得力があった。

そして、道明寺の馬鹿の魅力を、見事に体現したのも素晴らしい。

れいちゃんのコメディエンヌ的才能のおかげで、道明寺の 「ながれいしの(流石)の俺様も」 「うんどろ(雲泥)の差」 などの絶句もののいい間違いや、恋に舞い上がる男子の可愛さが、抜群に魅力的に見える。

 

花より男子の、「王子が馬鹿」 という設定がいい。

セレブ男子の自意識の臭みを消し、近づきがたいほどのイケメンに隙をもたせ、「かわいい・・」と女の庇護欲をかきたてる。

 

例えば、TOKIOの長瀬君のお馬鹿力を見てみよう。

笑点で宝塚ファンを公言してくださり、ヅカヲタ株がうなぎのぼりの林家木久蔵(はやしやきくぞう) 師匠を、あろうことか 「もくぞう」 読みし、

縁の下の力持ちを 「みどりの下の力持ち」 と読み (雪組下級生か)

「1メートルは60cm」  と即答する。

あのご面相でのあのアホ力は、正直で計算のない人柄を思わせてもはやただの魅力でしかない。

つくったのではない男の可愛げを、道明寺はちゃんと持ってるし、それをばっちり見せてくれたれいちゃんに拍手。

 

れいちゃんのダンスを堪能できたのもうれしかった。

あのマイケルジャクソン、ほんまにかっこええ。

 

 

■少女漫画と宝塚 :女の好きな男

道明寺は、少女漫画の理想の王子だとつくづく思う。

 

・イケメン&金持ち

・女の中身に惚れる 

・告白はキッパリはっきり自分から 

言葉だけでなく、がんがん行動も起こす

・惚れたら一途

・周りからなんと言われようが、相手を全肯定   

・すぐやりたがらない

 

「はいからさんが通る」といい「花より男子」といい、れいちゃんは、宝塚が少女漫画を上演することの意義を改めて見せてくれたな、と思った。

女が好む理想の男を魅力的に演じるという、宝塚の男役の本領を発揮していると思う。

 

 

漫画原作を演じる男役さんは少なくないけれど、れいちゃんの少女漫画のはまり具合は図抜けてる。

ちぎさんも少女漫画をやっているけれどはまり役は少年漫画だったし、真風は劇画をやったほうがいい。

 

れいちゃんは独白のシーンより、相手の顔を見て会話をする演技がうまい。

繊細な翳りのある表情をするし、現実離れした突き抜けた虚構性があるから、ヒロインと細やかに感情をやりとりする少女漫画の主人公役がとてもはまるのかもしれない。

 

 

花より男子の宝塚化について話していたとき人から 「なんで普通に男が演じるんじゃダメなの?どうして宝塚なの?」 とものすごく素朴な質問をされた。

私は、「宝塚には、女の感性があるから」 と答えた。 

女の目で世界を見たことのある人が男を演じることで、宝塚ファンは、男の形を借りた、女の夢を見ているのだと思う。

 

 

昭和のある種の少女漫画には、女の子達に活き活きと生きて欲しいという願いが詰まっているように感じる。※

人としての正しさと優しさを忘れず、心の通い合う恋をして、成長する。

少女漫画に描かれる男性像は、御伽噺と笑われようが、自分を宝物のように扱ってくれる相手と出会い、自分の価値を信じてほしいという願いがこめられているように思う。

 

その願いは、とても素敵な夢物語だと思う。 

そして、この世にはない美しい理想を描こうとする宝塚との親和性が非常に高い。

他の劇団でなく、宝塚で少女漫画が上演されるということは、虚構の世界の奥にこめられた夢や願いまでもが一緒に再現される気がしてとても嬉しい。

 

 (※その対照のように、生きづらさや大人になることの厳しさを描いた作品群も燦然と存在することは言うまでもなし。)

 

■みれいちゃん

つくしはピンクじゃなく、オレンジの似合うヒロイン

活発でまっすぐなつくしを、みれいちゃんが生き生きと演じていて素晴らしかった。

 

戦線布告して飛び蹴りをかますとき、TOJ(女子高生コンテスト)で側転、縄跳びで二重とびをしたとき、客席から自然に拍手がわき起こってた。

みれいちゃんの身体能力がすごいからだけじゃない。

つくしの胸のすくような行動を、全身で楽しげに演じ切るみれいちゃんに快哉を叫んだ、というのに近い。

 

女の子が縦横無尽に舞台を跳ね回り、モップを振りかざして戦い、男役と渡り合って舞台の中心を貼る姿、その躍動感や自由さが舞台に活気をもたらしていて、主役の道明寺の男っぷりも必然的に上がってた。

娘役が張り合う強さを見せることで、自分と相手役の魅力を高める作品が新鮮だったし、それでいて自分だけが出過ぎないみれいちゃんの技量に感服した。

(※野口先生が言っていたように、スカーレットもその手の役だとは思うけど、男役が演じることで逆に対等感をそいでいる気が私はします。)

 

本気でしかめ面をしても可愛く、どんなに罵っても品がある。

コミカルな動きから恋に揺れる繊細な表情の演技、歌での表現も見事で、ご本人がこの役のために娘役をやってきたと語るのも頷づけるほどの抜群の総合力だった。

 

tojが終わったあと、道明寺とつくしが握り拳をゴツンと当てて祝うのにぐっときた。

原作では、道明寺はつくしを「運命共同体」と呼ぶ。

好き-好かれるだけの関係じゃなくて、親友に近い信頼感が道明寺とつくしの間に育っていくのがとてもいい。

 

 

◼️花沢類(聖乃あすか)

れいちゃんの完璧な男ぶりとくらべると、幾分女性的だったが、その違いがよかった。

特に三ツ星レストランでディナーを取るときの貴公子ぶり、見事に堂に入ってました。

普段のアンニュイさと、酔っ払って本音を言うときの演技とか静の前でだけ晴れやかな笑顔になる時の差もとてもうまかった。

 

 

■F4

四人のコンビネーションがよくて、幼馴染感がよく出てた。

特に、美作と西門のシンクロしたつっこみはお見事。

野生の獣の道明寺と無口花沢類に対して、西門美作はいじったり語ったりしながらさりげなく話を進めてく役割。

優波君が間合いもうまくてとても上手だった。

製作発表の時は度肝を抜かれたが、立ち姿もとても綺麗で、あの堅気じゃない格好を着こなして大人びた存在感を出してた。

 

さらに希波らいと君。

劇団ってたまに、伊達に100年ジェンヌ見てきてないなーっていう玄人的選別眼を発揮するよね。

スタイルいいわ、演技は自然だわ、色っぽいわ・・・素晴らしい美作でした。

あのちょっと暗めの凄惨な目元がいい。

静の誕生日パーティーでつくしと道明寺が喧嘩てるとき、西門美作で踊ってるとこがあるんだけど、すごい馴染み感と色っぽさで一瞬どきっとしてしまった。

 

四人の殴り合いのシーン、全員男子な青い春でしたね。お見事だった。

 

 

■静様

りりか(華雅りりか)、ありがとうございます。

女の子の先輩の姿として、聡明で自分の意思があり、優しさと美しさを兼ね備えた大人の女性をあんなに素敵に演じてくれてありがとうございます・・・。

終演後「静かっこいい」という声があちこちから聞こえた。

そうよね、あんな素敵な人生の先輩に励まされたら嬉しいよね。

 

日本の狭い世界での苛めだけじゃなくて、フランスだとかニューヨークが出てくることで、英徳というムラ社会の息苦しさが若干和らいだような気がした。 (ま、金有る人じゃなきゃ脱出できないけどね)

静と類の物語は、それこそフランスの恋愛小説になりそうなほろ苦さがあって、やかましいことこの上ないつくし-司の恋愛珍道中に落ち着いた色合いを与えてくれてた。

 

 

■音くり寿ちゃん(三条桜子

配役発表のとき、一人だけ【謎の転校生】 って書かれててネタバレ100%感に爆笑してしまいましたが、完璧にくり寿ちゃんの桜子になっていて感動した。

化けの皮を剥がした後、「(道明寺に)どうして私を見てくれないの」 と歌うところ、あまりにも上手すぎて怖すぎて、そこだけ別の作品になってたもん。

 

あの華奢な体でバカスカ道明寺に蹴りを入れる迫力、道明寺の蹴りに全然負けてなくておののいた。

優等生タイプのつくしに対して、欠点と非難されがちな女の二面性を持つ桜子を、生き抜くためのたくましさ、したたかさとして不気味にキュートに憎めないキャラクターとして演じたくり寿ちゃんにも、また別のベクトルの娘役力の高さをみました。

 

フィナーレの影ソロも、素晴らしかった。

くり寿ちゃんの声は、背景のふりかかる雪なみに浄化作用がありました。

あのつくしと道明寺のデュエダンを、くり寿ちゃんの歌で聞けて本当によかった。

 

 

■ほかキャスト

・牧野進、男子

青騎司君。ほんっとびっくりした。どうして一人だけ男の子が混じってるのかと思った。何度オペラしても、絶対男子だった。

 

・意地悪女子三人組

鞠花ゆめさんがソプラノ、若草萌香ちゃんがアルト、鈴美梛なつ紀ちゃんがメゾソプラノ、という三重唱でけれんみたっぷりにいじめまくるのがつぼにはまってしまった。

 

・朝葉ことの (松岡優紀)

劇団ってたまに、伊達に100年ジェンヌ見てきてないなーっていう玄人的選別眼を発揮するよね part2

ヒロインの友達感半端ない。登場シーンすごい少ないのに、親友設定完全に納得。

 

・美里玲菜 あーちゃん妹、死ぬほどかわいいな!!

 

 

 

■好きなとこ羅列

・主題歌&楽曲

最初花びらをひらいてごらんよ、といわれたときにゃ、果蜜したたる熱き腐肉のうごめきの (by 団鬼六)(嘘です) 的なものかとびくびくしてしまったが、劇中で「恋の花」がモチーフになっていて納得。明るい曲調がテレビ版花男を思いださせる。

個人的には、エーヤンF4ソングの、「F4!! F4!! F4!!」 って掛け声に混じりたかった。

いじめソングの「どんな手をーー使ってもーー」の曲、なんか1789とかの民衆の歌を思わせるパッションに満ち溢れた歌で、革命かい!とひそかに突っ込んだ。

 

・牧野家のビンボー感

宝塚の舞台さんってほんとすごい。

普段のゴージャスな宮殿とはうってかわったうらぶれた社宅の再現性に笑ってしまった。

「宝塚会社」だかなんだかの名前の入ったカレンダー、招き猫、貧乏くさいうちわ、絶対ダイヤル回線だろう電話機、黄色のビール箱、玄関のドアのうらぶれた色のはげ具合・・・。

で、「どーしたの、空き巣に入られたの?」って言うシーンでも、結局とってくものないから、全部残っててひっくりかえったりしてるだけという・・

 

・パーティーでのつくしの私服が感動的にダサい。

 ダサい服選手権のタグつけたらバズるね。

 

・フィナーレ

れいちゃんが階段の上下に散らばる男役達のところを順番に回って、全員にスポットライトが当たっていくのがとてもいい。

 

・食堂の歌。 

びっくの歌が無駄にうまくて、しかもトレイをびらびら振りかざして円陣作るというトンチキなふりつけが大好きでした。

 

 

■あえて言うなら

・道明寺がお山の大将でいじめをする理由が入ってたらよかったな、と思った。(両親が仕事命でほぼ放置)

れいちゃんのたたずまいで察しはつくのだが、気分のいいシーンではないいじめの場面を見る側の心持が軽くなるように、少しでもすさんだ道明寺の背景に触れてほしかった。

 

・最後、どうしてつくしは「好き」といわないんだろう? (原作でそうだったったけ?)

やっぱり最後のキメの言葉は 「ありがとう!!」  じゃなくて、  「私も大好き!!」 じゃなかろうか。

結局つくしは一回も好きといってないんだよね。

 

 

 

急展開で話が進み、あちこちで笑いが入るのだけれど、作品の肝になる心理描写のところはしっかりと見せる。

笑笑笑泣、笑笑笑泣、の起伏が素晴らしかったので、ジェットコースター的展開でも、切ないシーンの余韻がしっかりと残った。

原作の名言・名シーンをことごとくぶちこんでくれたことには、感謝しかない。

 

本舞台は橋で上下に分かれていて、両脇には階段。

ただそれだけのセットが空港になり、英徳の階段になり、牧野家になり、遊園地になり・・・舞台転換が恐ろしくスムーズで、怒涛のような流れが断ち切られることなく進んでストレスがなかった。

映像も作品のコミカルなテイストとよくあっていたし、最後のニューヨークの場面は本当にロマンチックだった。

クリスマスになったら、この作品の上映会をしようクリスマスツリーと思ったほど。←

 

宝塚と名作少女漫画の、幸せな合作でした。

 

花組、最高!(ポーズ)