花組オーシャンズを始めて見たとき、花男のあまりのかっこよさに震えるほど感動し、友人に勧めまくってDVDを貸した。
すると翌日、彼女からすぐに電話がかかってきた。
「着払いでいいから、今すぐDISC2を送って----!」
DVDはdisc1と2があるのだが、私はdisc2のところに、「殺し屋イチ」という宝塚と縁もゆかりもないDVDをはめ込んでいたらしい。
ちなみにDisc1、つまり第一幕は、オーシャンズ11の一人ずつが順番に登場してナンバーを歌い、メンバー紹介が終わり、さあ、11人そろった、これからぶちかますぜ! という所で終わる。
期待に胸を膨らませてdisc2を見たときの友人のフラストレーションたるや、「一晩悶絶して床を転げまくった」 というもので、今思い返しても、私が人にした悪行の中でも上位三位に入る仕打ちだったと深く反省している。
宙組海11は 「挑戦とチームワーク」だと思った。
一言で言うと、意外なことに、とても爽やか。
快盗感がやや薄まって、自分が何者であるかを証明する物語が強く見えた。
ダニーvsベネディクト、善v悪の対決という比重もやや低めに見え、ダニーとライナスの相棒感や11のチームワークのよさ、ベネディクトチームにすら連帯意識が見えて、宙組らしい温かみのある自由さを感じた。
■Fate city
はっきりいって、この最初のFate city一曲だけで8800円払えます。
ホーンセクションのむせび泣きからジャジーに始まる絢爛たるオープニング。
作品を貫くテーマ、小粋でスリリングな色っぽさが凝縮されたスーツ姿の男役群舞。
振りがとても鋭角的で、男性的。
握りこぶしをがんがん突き上げる、
地に拳をうちつけて、膝を折る。
ポケットに手を突っ込みながらの腰クイ。
の中で、の一分の隙もないスーツ姿でピルエットで回転するのが、宝塚の男役にしかありえねぇ!!って昂ぶる。
生き生きとして無茶苦茶楽しそうなあきりくのシンメ、胸熱。
両目がそれぞれ上手と下手に限界まで引張られるので、その瞬間だけ客は魚類化する。
そして、星組でしーらんと美弥ちゃん、花組で月央さんとキキちゃんがやってたダニーの肩置きを、そらともえこがやるのもぐっとくる。
ダニーとラスティーの二人のところだったかな、2階席から見ると、床にばらまかれたカラフルなチップの照明が錯綜して、賭場の雰囲気たっぶり。(ちよっと土曜サスペンス劇場風味ではある)
またオケが、ホーンから札束が吹き上がりそうなノリで熱く咆えるのもたまらない。
■火の国のジョージクルーニー
真風ダニーの渋さと男の余裕に、全オレ、メルトダウン。
星がゴージャス、花がスマートとすると、宙はダンディー。
ちえさんは闇社会の大物感たっぷりで、勝負師の色気がむんむん
蘭寿さんは洒脱な遊び人で、抜け感のある大人の色気。
真風はといえば、タフでクレバー、ハードボイルドヒーローの孤独な色気。
寡黙で、余計なことは言わない。
物事を観察していて、ここぞという時だけ口を開く。
テスが歌ってるのを見ている時も、ベネディクトがテスの婚約者だと聞いているときも余裕のよっちゃん。
エル・チョクロにベネディクトの部下が乱入した時も、顔色1つ変えず、しばらく眺めている。
クレバーに状況を読んでいるのと,状況がどうなってもなんとかしてみせるさ、という余裕がたまらん。
登場シーンの真風のスリーピースのブルーグレーのスーツ姿、ロイヤルストレートフラッシュだろ・・
スーツはイタリアタイプのゆったりとしたシルエット。
Vゾーンは限界まで深めで、ブルーグレーのサテンシャツに、首周りを滑らかなシルクのスカーフで飾ってて、堅気でない洒落者感ありあり。
だけどちゃんとアメリカ人の規範であるスリーピースで決めてて、証券詐欺をやっていたのもうなづける知的な押し出しもある。
真風のスーツスタイルは、肩だよなあ、と惚れ惚れする。
肩幅が広くて、上半身に厚みがあるから、ボックスシルエットが綺麗に決まる。
低めのウエスト位置に太目のパンツという、太めの胴回りもぜんぜんもたつかないで、むしろ、大人の男のエレガントさがある。
生地も上等なしなやかさとソフト感があって、働くためではなく、人生を楽しむためのスーツという風袋。
真風ダニー映像に、「スーツは男の皮膚」 とかテロップ流してやりたい。
私が一番好きなスタイルは、ベネディクトと対決してJACKPODへと流れ込むときの、黒のスリーピースのタキシード姿。
光沢のある黒のタキシードに黒のベスト、開襟の白シャツに、黒サテンのボウタイをほどいて首に無造作にかけてるスタイル。
これは映画版オーシャンズ11でジョージクルーニーがしてるオープニング・ルックとほぼ同じスタイルなんだけど、全っ然負けてない。
黒がとてつもなく華やかに見えて、フォーマルを無造作に着崩す余裕と、それでも全然崩れない精悍なますらおっぶり。
もはや男役が発酵してる。
カフスを直すしぐさとか、襟を直すしぐさとか、もちろん確信犯でやってるんでしょうけれど、狙い通りに打ちぬかれて撃沈しましたとも。
特にズボンのポケットに手をつっこむしぐさ。
漢と書いてオスと読む。
「スーツの似合う男の条件はね・・スーツを脱がせたいと思わせることよ」
と言っていたのは銀座のママさんか叶姉妹だったか忘れたが、舞台袖でジュエルさんたちと一人ずつ絡んで踊ってたときのダニーの表情ときたら、はっきりいってフェロモンの暴力でした。
スーツ着てたけど、あれもうほぼ脱いでましたよ。
精神的裸体でしたよ。観念的にスケルトンでしたよ。もはや何言ってんだかわかんないけど、脱帽というかこっちもなんか全部脱がされた感。
(あの顔、テスにはしないね)
■自分が何者であるか
カジノというスリリングな大人の遊び場の華やかさを魅せながらも、オーシャンズ11は自分が何者であるかを証明する王道の物語でもある。
ダニーにとっては、テスをとった男に対して意地をみせると同時に、テスの信頼を回復する物語。
11メンバーにとっても、金庫破りを通して、自分とは何かを証明するお話。
11メンバーは、アウトロー集団のなかでもうだつがあがらない連中。
へまをやってディーラー資格をはく奪されたり、家賃滞納で警察に捕まったり、父親と比べられて萎縮していたり。
今回の11メンバーはアウトロー感がやや薄くて、「悪い人じゃないのよ。ただ生き方が下手なだけ」 (by牧野つくし) な感じが強い。
だから、恐怖を克服すること、挑戦すること、自分で生きていくことのリスクを引き受けること、というテーマがストレートに伝わってくる気がする。
カジノが舞台になっているだけあって、運命と勇気というキーワードが頻回に出てくる。
自分では変えられないと思いがちな「運」「運命」も、自分を信じる勇気をもってnever giveupなことで、自分に引き寄せることができる。
勝負について語っているようで、実は普遍的な前向きのメッセージがちりばめられているのが実に巧妙。
Never give upも、jumpも、宝塚らしい人生礼賛の楽曲で何度でも聞き返したくなる。
特にjumpは、ゴスペルのようなリズミカルなコーラスや、尻上がりの抜けのいいメロディとみんなの掛け合いが文句なく楽しい。
あの場面だけ、いきなり青空が広がるのは反則。
でこぼこで、えっちらおっちらの11メンバーのラインダンスも、不器用な連中なりの生きる楽しさが見えるようで泣けてくる。
ダニーは、仕事だけでなく、テスを通しても、自分とは何かを証明する。
恋愛によって真剣に相手とかかわることができる、運命の女を愛しきることのできる才能のある男だと証明してみせる。
女や愛に対する態度を通して,男の生き方を描くタカラヅカのお約束がとても効いている。
■ラスティー
ちゃらい。歴代イチのちゃらさだ。
絶対堅気では着ないパステルカラー、シャイニーなサテンスーツ・サテンシャツに開襟というテロテロのテロ。
原作でもラスティはほぼてらてらの服しか着てなくて、古今東西、極道者にはヒカリモノ。
ダニーが寡黙で重厚だったので、軽薄浮薄で、人に警戒心を抱かせないようなオープンなラスティーとのコンビ感はよかった。二人のオーシャンズ10も、剛と柔が噛み合ってた。
ダニー不在で指示を出すときはもう少し凄みがある方が好みだけど、とにかく軽妙なラスティーだった。
タバコの吸い方はもう一声欲しかったです。
■ライナス
デニムにくるまれて生まれてきた男・和希そら
似合う。ジージャンが似合いすぎる。
ジーンズはいてる役をやってるわけでもなく(wssでは女役だったし)、オフでも着てる印象は少ないのに、2017ライジングスターガイドの白Tジーンズ姿の印象が強いせいか、私の中の宝塚歌劇団ベストジーニストは和希そら一択。
スタイルのいい方も足の長い方も沢山いるけど、アメリカンなラフ感は追従を許さない。
今回のダニーとライナスのとり合わせは,大人の男と少年の対比が強くて、ダニーの大人の男の魅力がより見える。
そらライナスはギザギザハートな、自分の自尊心とか不満をどう扱っていいのかわからない尾崎豊的ライナス。
それに対してダニーも、厳しさで向き合う。
ダニーの「帰れよ」 という言葉に滲む真剣さと挑戦することの意義を、しずかに淡々と語るダニーに凄味があった。
ライナスも徐々にダニーを尊敬して、憧れの対象になっていく変化がしっかり見える。
beforeジャンプ前は、フランクや,イェン、リビングストーンが話しかけてくれるのに、それを全部邪険にしてる。
なのにjumpした後は、すっかり11メンバーになじんで、作戦会議立てる時とか柴犬わんこの笑顔で無防備に笑ってるのに殺られました。
あと、ずっとガム噛んでるのもナイス
ダニーとライナス、ライナスとソールのやりとりを通して、成長を見守り、受け継いでいく仲間意識がいい。
■テス
真風ダニーとまどかちゃんテスは、トム・クルーズとケイティホームズのような,酸いも甘いもかみ分けた男が、純粋無垢な子に落ちちゃいました風味。
まかまどは,雰囲気が違いながらも、その違いを芸として生かせるぐらいコンビネーションがなじんできた感がありますね。
ちえねねのダニーとテスは似た者同士、大人の男女の破局と修復に見えたのとは全く違って面白かった。
まどかちゃんの若さのせいか、寓話的な、林檎を食べたからこそ、蛇にあったからこそ真実の愛を知ったという歌詞は自然に響いた。
ただ、テスの前後の変化とか、ダニーを受容する気持ちは少し弱かったかなと思いました。
印象的だったのは、夢の部分のまどかちゃんのダンス。
清純な色気やテスの惑いや不安が、しなやかなダンスで存分に表現されてて魅入った。
■ベネディクト
ずんちゃんベネは、ベガスの帝王まであと一歩の新進気鋭の大物実業家に見える。
カジノ、というより、「ゲーミング産業」で頭角を現している有望実業家、という風袋。
付き従うベネディクト7たちも、優良企業の社員そのもの。
「IR整備法の策定に基づいて、統合型リゾートにおいては複数のパートナー企業とアライアンスを組むことによって、戦略的観光地として医療ツーリズムやMICEを誘致します。」
とかなんとか、鼻持ちならんことをがんがんプレゼンしそうな感じ。
ずんちゃんベネディクトは、ダニーと比べると若造感は否めないけど、その分むき出しの対抗心や青臭さが出ていたし、後半ダニーにどんどんやりこめられてパニックになっていくくだりは切実感があって、非常に人間味のあるベネディクトだった。
切れ者の迫力はあったけれど、巨悪のイメージは薄いので、悪ベネディクトに挑戦するイレブン、という図式がちよっと苦しい気がした。
だけど、敵味方というコントラストが薄まった分、チャレンジ、という明るいテーマが強調された気がしてこれはこれで面白かった。
最後、ダニーにしてやられた後に、おもむろに立ち上がって、こぶしを振り上げ、「ネバーギブアップ!!」と吼えるのは、ずんちゃんベネディクトの素敵なシーンだと思う。
イレブンだけでなく、ベネディクトセブンだって夢があって、立ち上がっていく。
勧善懲悪の結論じゃなくて、明日への希望として描いた演出に見えて、素敵だった。
■ダイアナ
ベネディクトとの関係は、もはや男女関係とかじゃなくて,珍獣と飼い主のような毒女ぶり。
追加予算せびるところはほぼ恐喝。
アムネリスの衣装着て黒柳徹子か京劇かというド迫力のせーこねーさん、ゾフィーより怖かったです。
ダイアナが完全にイロモノにシフトしてたので、女の争いって面はそれほど生々しくなくなってた。
(ダイアナからテスに乗り換えるベネディクトってほんとうに鬼畜だし)
最後、『ブロードウェイに行くわ!!』 の台詞には、場内拍手喝采。
そして、大階段から降りてくる時は、いつもの最高に美しいせーこ様の笑顔でした。
■フランクカットン/澄輝さやと
たたずまいがソフトで、洗練されたカットンでした。
ディーラーというより、バーテンダーにいてほしい。
バーカウンターに座ったらなぜかすみれ色のカクテルが出てきて、
「どうして?」って聞くと、カウンターの向こうでグラスを拭いているカットンがそっと笑って
「お客様がさびしそうだったので・・・」
というアレをやってほしい。
11メンバーの中でもなんだか暖かくて、こじらせてるライナスに一番に肩をたたきに行ってくれるし、ライナスに差し出すトランプのカード、スペードのエースには「お前はエースだ」 という意味がこめられているらしいです。
そのときのフランクの笑い顔が、あっきーらしくて優しくて泣けた。
ちなみに、ポーカーテーブルを囲んでのオケラダンスも大好き。
■バシャー/ 蒼羽りく
ネタ晴らしビデオに出たって、それってもしかしてEテレとかの?
バシャー、絶対子供すきでしょ・・・。
全然裏稼業の匂いのしない、健全な、りくらしいマジシャン。
しーらんバシャーなんかはもう胡散臭すぎて、イリュージョン道具の中に密輸の宝石とかヤクとか隠して売りさばいてんでしょ?って感じだったけど、
りくバシャーは、子供のおもちゃ借りて、布かけてハイ、って消してみせたら、うわーーんって泣かれて、あわてて薔薇出したりするけど、「ちがーーう」 ってますます泣かれて、「鳩出して!!」「ウサギ出して!」 って要求されても仕込んできてないから出せなくて、「インチキ!泥棒!! 」って散々ののしられて、半べそかきながら結局踊ってごまかす様が見えるようです。
きっと、楽しくて、ワクワクすることが大好きなんだろうな、という陽性のバシャー。
そして、Jackpodで着替えたときの、赤銅色のギラギラスーツ、本当にかっこよかった。
りくのダンスと笑顔が堪能できて、幸せでした。
■もろもろ
・リビングストーン
背の高いオタクって新鮮。(そこ?)
カラフルな衣装でひ弱な自我を守ってたもやしっ子が、jackpodではヒョウ柄のスーツに着替えてびしばし踊るのがかっこいい。
おそらくコミュ障であるリビングストーンも、自分の得意分野を通して誰かと関われたことで、変化していったんだろう。
11人てんでばらばらだけど、それぞれが成長していく様がすごくいい。
・モロイ兄弟
やっぱりとても健全で、好奇心旺盛なアメリカの若者、って感じがする。
星組みっきーれんた兄弟はB級ホラーかエロビデオ、花組れいまい兄弟はアニメかゲーム作品つくってるだろうと思うけど、キヨこってぃ兄弟はこってぃがマニアックなスペースサイバーものを作ろうとしてるのに、キヨが 「サボテン・ブラザース」とか「えび・ボクサー」(※両方とも実在の作品です) とかのトンチキ映画を撮ろうとして喧嘩するという図が見える。
・イェン ソロが削られちゃったのは残念だけど、ヨーヨー芸の安定感もさることながら、コメディ部分を軽やかに担当してました。
生きてるうちに金ジャンジャン使えソング、イェンしか歌えない。
・ブルーザーの単細胞感、最高。確かに子だくさん感ある。そしてドンキにいる。
・テーラー/さお 世渡りのうまさ、そつのなさ、俗っぽさが最高ですね。
・りおさんのメガネが鉄板で好きです。
・愛白もあちゃん
印象的なのはやはりエリザの世界の美女たちの日本の女、陽子(・・だっけ??)とスターレイ でしょうか。
綺麗なお姉さん役で、舞台にいつも艶っぽい華を咲かせてました。
漢詩で美女を表す 「花顔柳態」 という表現があるんだけど、もあちゃんを見るといつもその言葉を思い出す。
客席降りで至近距離に見たときの輝く白い菩薩ぶり、今でも忘れられません。
・贅沢な人海戦術&舞台
本当に回って使えるスロットマシーンとか、きらびやかに着飾ってる男女が意味なくカジノにたむろしてるのとか、カジノでの様子が本当にモニターROOMに写ってるのとか、贅沢極まりない。
大好きなのは、確かエルチョクロの銀橋から、ベネディクトのオフィスに場面が変わるとき。
ここはパラディソ(カジノ)ですよ、ということを示すためだけに、わざわざ一瞬だけスロットマシーンwithカジノの女達の華やかなセットが出てきてから、盆が回っておもむろにベネディクトのオフィスが出てくるの!! 憎い・・心憎すぎる。
これが8800円・・・いや最低で3500円で見れるって、JACKPODクラスの幸運。
宝塚の女神のウインクが見えました。