宝塚版のオーシャンズ11の洋服が、さりげなく原作の映画のエッセンスを取り入れてるのが心憎いな、と思う。
(やはり有村淳先生)
特にダニーのジョージクルーニーのファッション
・タキシードに、外したボウタイのドレスダウンスタイル (オープニング・エンディング)
・ブラックオンブラックの着こなし (黒セーターにブラックスーツ)
・仲間を勧誘しに行くときのグレージャケットに白いシャツ
・茶系のジャケットのコーディネート
(出展:newyorkpost) (出展: georgebrad.stagekiss.net) (出展: BAMF Style)
映画のダニーは、その筋のような格好はほとんどしておらず、オーソドックスでかなりクラシックないでたちをしてる。
宝塚バージョンでは、危険な男の色気を強調した水っぽいいでたちが基本スタイルで、ルーベンへの金策や仲間を勧誘したりするときにだけ比較的きちんとした格好をさせてる印象。
その違いはあるけれど、随所の雰囲気はかなり残ってる。
決め所では、黒を効かせたスーツ。 (ちえさんと真風はほぼ同じドレスダウンのタキシードスタイルをしてる)
仲間を勧誘しに行くときにグレー系のスーツを着るのも踏襲。
■Eat-me-fashion
面白いなと思ったのが茶系のスーツの使い方。
茶系のスーツは、色彩心理学的には安心と包容力を感じさせる色らしい。
一説によると、チョコレートやカカオなどのドルチェを連想させて女性の食欲&その先を誘う、eat-me-fashionと呼ばれているそうな。
おっさんくさい茶色も、ジョージクルーニーが着ると、確かにあたたかな人柄や雅量が滲み出してくる気がする。
で、ちゃんと宝塚でも、このダニーの茶系スーツが使われる。
どの場面かって、ちえさんの場合は、ライナスと一緒にjumpを飛ぶとき。
カカオ色のスーツに、臙脂系のストライプシャツ、タイという、かっこいいけど暖かさのあるいでたちで、ライナスに向ける目がとても優しい。
真風ダニーがライナスと出会うときは、濃い深緑のスーツ。ストールだけベージュになってる。
少年感がつよく心を閉ざしているそらライナスに対して、大人の男のかっこよさと存在感で有無を言わさずひきつけていくダニーの強さが見えて、このシーンを引き立てるファッションだと思う。
真風ダニーが茶系スーツを着るのは、仲間達といよいよパラディソに乗り込むとき。
ゆったりとしたシルエットのスーツは、仲間に対する信頼感や、仕事への自信をかもし出している様に見える。
そして、この茶系のスーツで「愛した日々に偽りはない」を歌うのは、真風の朴訥な歌声と合わせてダニーの愛の確かさがしみじみと伝わってくる。
衣装が心理状態をうまく引き立てているようにすら思える。
■三人のダニー
三組のダニーのファッションが実は全然違っているのもすごく面白い。
今回の真風ダニーはクラシカルな形に少しだけちょい悪おやじ風味の入ったスーツ姿。
ちえさん蘭寿さんに比べるとギャンブラー風味が薄くなって、より正統派のスタイル、より原作のジョージクルーニーのスタイルに近づいてる。
ダニーのキャラクターが主演スターの個性によって全く異なっていて、それをひきたてるように衣装が選ばれているのに唸らされる。
・柚希礼音(星組 2011)
ちえさんのダニーは、堅気じゃなさが全開。
スーツのシルエットは、基本コンパクトでシャープ。
シャツを限界まで開襟するのと、背広の折り返し部分がピークラペルという遊びのある大きな切込みのタイプで、そこだけベルベットになってたりして、ゴージャスな帝王感を出してる。
ちえさんのダニーは、ストライプシャツを何回か使っているのも面白い。
ダブルのたっぷりしたジャケットのインナーに、白地に黒の縞のストライブシャツ、しかもやはり開襟、なんて上級系着こなしも。
大きな縞のストライプシャツは 「目立ちたがりが着る服」 だそうでダニーの自己顕示欲にもぴったりだけど、ちえさんが着るとアメリカンカジュアル的なさわやかさがあって、色悪の着こなしに「少年が大人になったまんま」のかわいらしさが加わってなんとも心憎い。
ちえさんダニーは、ねねちゃんテスへの愛情がストレートに見えた。目の表情が豊かで、ねねちゃんを見るときにちょっと甘えたような瞳で訴えかける。
スリルを楽しみリスクに賭けるアウトローの、真面目な唯一の愛が伝わってくるダニーだった。
敵役ベネディクトの自信や強さがダニーに似ていて、テスは同じような男を選んだんだな、とすら思った。
ダニー・テス・ベネディクトの三角関係がしっかり効いていて、主軸の恋愛がしっかり見えた海11だった。
・蘭寿とむ(花組 2013)
オープニングルックは黒のスリーピースに開襟白シャツ、顔周りはワインレッドのストールがいかにも蘭寿さんぽく華やかで艶っぽい。
グレースーツも、シャイニーでソフトな生地に、シルクの柄ストールを巻いていて、エレガントな印象。
男と戦うためのスーツというより、女にアピールするスーツと言った感じで、フランス風味も感じる。
ルーベンに資金提供を申し出に行くリクルートスーツは、かちっとしたストライプのスリーピースに、レジメンタルのタイというほとんどウォール街のビジネスマンのような出でたち。
これが、jumpになると、スーツは同じなのに、白シャツの首もとが緩められて、ネクタイがシルクの鮮やかなターコイズブルーに変わってる。
それだけなのに、印象ががらりと変わって、ダニーの只者でないスマートさ、一発逆転を狙う勝負強さを思わせるようでとても面白い。
蘭寿さんダニーはなんでもさらりと器用にこなす遊び人、という印象。
本音を言わず、ユーモアでさらりとかわしていく。すらりとした長身に、アメリカっぽい機転の効いた会話がとても似合う。
ベネディクトは言葉や表情で過剰に表現するダニーと真逆の個性だったので、ダニーがより洗練されて見えた。
・真風涼帆(宙組 2019)
前記事でかなり書いてしまったのですが (スーツは男の皮膚- オーシャンズ11観劇感想) 、三人の中でもっともオーソドックスなスタイル。
モードなデザイナーブランドではなく、イタリアの伝統的職人芸の粋を極めた古きよき紳士服、クラシコ・イタリアの香りすらうっすらする気がする。
それまでの二人がしていたネクタイを一回もしていないのも面白い。
シルエットが、ソフトライン。
クラシックな型をベースにしながらも格式ばった感じがなく、いかにも着心地がよさそうなナチュラルな風合いがある。
ゆったりとした上質の軽さは、ラテンの快楽主義を連想させる。
中年男の魅力、というと怒られるかもしれないけれど、ダンディーなかっこよさ。
真風の体格を最大限に生かしたお衣装は見ごたえがあった。
若く初々しいテスとの対比は新鮮で、陽で軟派な相棒のラスティーとの相性も抜群。
真風の落ち着きをうまく生かしたダニーだった。
■ラスティ
ラスティについては、衣装のパターンが少ない。
テロテロスーツか、jakpodの正装、刑事に化けるときのトレンチコートぐらい。
トレンチコートに関しては、ブラッドピットがすごい。
彼が着ると、ほとんどミリタリーコート。
トラッドだなんだを完全に通り越して、男の甲胄のように誰をも寄せ付けない強さがある。
これはほぼ筋肉で着てるから、宝塚の男役さんが似たように着るのはかなり至難の業と思います。
宝塚版ではニセ刑事に化けるときにトレンチコートが使われていて、オーバーサイズ気味でコミカルに着られている。
その分ハット芸で男感を添える。
素晴らしいアレンジだと思います。
■ワーストドレッサー賞
衣装の中の、ワーストドレスは、なんといっても最後の大脱出劇、怪盗ダニー仮面でしょう。
あれだけはどうにも擁護しようがない。
お三方、どなたが着ても、ひどいもんはひどい。
イリュージョンの芸人の設定だから仕方ないんだけど、せっかくここまで映画版にひけをとらぬほどの男役のかっこよさを堪能させてるのに、クライマックスの衣装だけが目も当てられないのが、実に宝塚的な翻案で笑える。
せめてファントムみたいな仮面にキラキラのマントにしてくれればよかったのに・・。