ダイスケ先生テンプレートをタイに置き換えると、こんなにも新鮮になるんだな、と。
テンポよく華やかで、王道な宝塚楽曲群にアジアンテイストのアレンジが入ってとても面白い。
タイ×宝塚の合いそうで合わないような、フルーツヨーグルト×グラノーラ (絶妙にまずいらしい) とか、レトルトカレー×パスタ とか(相当まずいらしい)、炒めそうめん (美味しい。要はソーメンチャンプルー)、みたいなきわどい食べあわせがもはやスリリングで病みつき。
はい、大好きでした、今回のショー。
■微笑みの国 プアットナーマ 歓迎の儀式
娘役さんのチョンパ、美しいコーラスで幕を明け、銅鑼の音と共にばばーんとエメラルド大仏の珠様がご降臨。
オープニングでばばーんとトップさんを目立たせる宝塚のお約束が、音楽が銅鑼に変わっただけでどうしてこんなにおもろくなってしまうのか。
(出オチ感というか、松本仁志の一人ごっつを思い出しましたよ。)
クルンテープ=天使の都のはずなのに、早速 「嘱望熱望欲望みだらに」から始まる安定のダイスケショー。
そこで韻踏むんだ?! と突っ込む暇もなく、頭に仏塔を搭載した娘役陣がくるくる舞い踊り、同じく頭に金色の仏塔と宝玉をまぶした男役陣が怒涛の銀橋渡り。
珠様と美弥様は、黄金の仏塔+黒髪ストレートロングの鬘といういでたちで、初見だと美しい女性にしか見えず一瞬たじろいだが、だんだん眼と脳が順応し、両性具有の美しい神様に見えてきた。
ほら、ヒンドゥーのシヴァ神とか両性具有だしね?
特にサファイアを冠にいだいたみやちゃんはアジアンオスカル並みの麗人ぶり。
この王冠、ダイスケ先生がタイから自前で購入してきたそうな・・。
よく頭の大きさがあったな?
主題歌、中毒性がある。
エキサイターの「バチッバチッバチ」並みに、「チカッチカッチカッ」とか 「クルン、クルン」とか日本語ではいまさら作れないだろうリフが効いてます。
珠様の声が、短調で扇情的でぬくもりのある曲風にあってる。
タイ舞踊といえば指先の芸術と言われているそう。
今回みなさん、ちゃんとハンドサイン使った振りになっていて、いつもの手の振りとは違った柔らかさがあって大変美しい。
手指をしなやかにそらしたり、指で輪をつくったりしながら舞い踊ってるのですが、私が試しにやってみたら「金くれ」のジェスチャーか、OKサインにしかならなかった。
指先ひとつにも色気あり、さすがジェンヌさん。
特に美弥ちゃんは、ほぼずっと指の形作ってた。
■結婚式
トップ娘役披露にぴったりの銀橋での結婚式の場面。
本舞台で体をよせあって笑っている娘役さんたちのコーラスが、のどかでゆったりとしていて祝祭ムードを高めてくれる。
黒髪ロングを高めに結って、日焼けした肌に目元くっきりの月娘、とてもなじんでてかわいい。
いいねえ、よかったねえ、さくらちゃん。就任おめでとうございます。
(うちのトップコンビは、この間やっと結婚式をあげましてね・・)
■ムエタイシーン ルンム 若さ
タイの笛・ピーチャワーの、弾けるように好戦的な調べでムエタイの試合開始。
互いに恋人を連れていて、「勝ったら結婚だぜ!」ってよく昭和のボクシング漫画にあった気が。
ムエタイ選手達のスーパーマリオみたいなコミカルな動きが眼に楽しい。振り付けが若央先生と知ってすごい納得。
これタイトル防衛戦だよね?っていう、やる前から勝利者がわかっちゃうありちゃんと、れいこちゃんのヘタレ感満載が最高だった。
代役のるねちゃんは、薬飲んで劇的に変わるビフォーアフターに説得力があって、とてもキュート。
まあ結論としては、セコンドについてる夏月都さんとさち花さんが誰より強い。
■ブーア蓮
西洋音階の垂直に積み重なっていく旋律と違って、アジアの音楽は、水平に広がっていく感じ。
それこそ川の流れみたいに、たおやかに。
スローテンポに変わり、木琴のような音が、槐が船をたたく音みたいに転がりながら、きらきらと流れていく中、小船が舞台をゆるやかに渡っていく。
おだちん(風間 柚乃)の凛々しさとのびやかな声、夏風季々ちゃんの古風な美しさがとてもはまっている。
このままタイ航空のポスターにしようそうしよう。
■愛の巡礼 ファムラック
前のシーンの川から立ち上る水煙を思わせる靄の中で、鮮やかな明るい紫シーセットをまとった美弥ちゃんと、暗めの紫・シームートをまとった珠様がぼんやり浮かび上がる。
タイの胡弓の哀愁ある響きが鳴り渡って、エギゾティックな旋律とともに二人の舞が始まる。
藤井先生のおなじみの男役1,2の双生児ダンス場面の中でも、今回のたまるりは、馴染み感、シンクロ感がここ数年の中ではピカ1だと思った。はじめてこの手のシーンをいいと思った。
体格的にも全く違うのに、体の弧の描き方が全く同じ。
みやちゃんの耽美的な雰囲気に、珠様がしっとりと寄せていて見事。
男役さん二人に、合体神のような妖しさがある。
三人のニンフ、晴音アキちやん、麗泉里ちゃんの歌声も神秘的な美しさ。
きよら羽龍ちゃんは目をひくしなやかな体ね。ちゃぴと蒼井優ちゃんのドッキングって感じの驚異のスタイルと現代的なかわいさ。
■アイドルダンス ケングエング 元気に
最近のアイドルシーンの中で、これ一番好きかもしれん。 (これをアイドルダンスの範疇にいれていいか迷うが)
両サイドでお団子を作ったかわいいヘアアレンジ、近未来的な橙のミニスカートで長い手足を自在に使ってぱきぱき踊るアジアン・スーパーアイドルさくらちゃん。
ビビアンスーとか、テンテンとかランラン(パンダ)とか髣髴させるかわいさ。
ちよっとアンドロイドチックな、人工的なかわいさで、スタイルのよさもあいまって、電脳アイドルみたい。
理系男子がむちゃくちゃ好きそうだな、という雑な偏見←
曲はセ・マニフィーク、一緒に踊る男役達は安定の黒シャツ開襟で、踊っててとにかくのびのび楽しそう。
「ハッ!」「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」って掛け声も気持ちよく、そこにあわさるガムランのような木琴?が盛り上がる。
今度から、カラオケで掛け声いれようっと。
そして、坊さんから転生した顔面年齢18歳、精神年齢70歳(推定)、宝塚年齢14年の千海華蘭様、参りました。
■ナイトクラブ チューチャート 派手に
タイの巨大な仏塔のごとき、まゆぽん(輝月 ゆうま)の大迫力の女装は、色物とかじゃなくて、ドラアグクイーンのようなひとつのジャンル化してきた。
「男役の女装」をパロディ化している気すらする。
ディスコリズムの、高音のサビの昂揚感が最高に気持ちいい。
■中詰め シャルウィーダンス
おなじみのグッピー衣装、食虫花ドレスにに雉羽の中詰めですが、本舞台に巨大な二匹の象の電飾があるだけで、あーら不思議、なんだかオリエンタルなムードが?? (いや、いつもの中詰め仕様でした。)
でも、ラテンのシャルウィーダンスに客席降り、お祭り感あって盛り上がる。
■ラーチャブルック タイの国花
赤スーツの男役さんが、主題歌のジャズアレンジを。
今回るねちゃんとれんこんが代役でショーで大活躍だったけど、お二人ともしゅっとしてて、歌うまくて、ダンスも綺麗でいいねえ。
最後、珠様が、帽子をとると、アーラ不思議、女でした! ・・・・・・・というかニューハーフでした、っていうオチは 、完全に単なる趣味やろダイスケせんせー。
■ライキンドクーン 傷
響きのいい単語。
リカちゃん人形みたいなキュートなさくらちゃんの白いミニドレスのお衣装、妃海風ちゃんのディナーショーで聖子ちゃん歌ったときの白ドレスに似てる。(帯をピンクにしたのかな?) めちゃくちゃかわいいです。
ディスコへ行く? れいことさくらちゃん、「真っ赤な太陽」のようなGS(グループサウンズ) 風のビート、エレキギターのレトロなサウンドが、れいこちゃんのどっしりした歌によくあってた。
おだちん/さくらちゃんカップルverもわけのわからん安定感を醸し出す。
高校のプロムのようなタキシード、カマーバンド、スカーフの正装で、男役達と娘役達が舞台上で交差して走ってくのはちょっとWSSのダンスシーンを思わせるテンポ感があって美しい。
ゲイクラブでゲイボーイ・ありちゃんとらぶらぶの球様が、乱入してきたさくらちゃんに一目ぼれ。
・・って、それはないやろ。
ゲイボーイと付き合う人は、あんなキュートな女子にいまさら惚れたりしないあるよ。
逆ならある。
かわいい普通の女子とつきあってた男の人が、ゲイボーイに落ちてしまう、というパターンならわかるよ?
なんたって、ここのありちゃんがすごいセクシー。
ベビーフェイスの女の子のかわいさと、男役のダイナマイトバデイの合わせ技で、そら惚れるわ、という風情。
れいこ(おだちん)、さくらちゃん取られちゃったからじゃあありちゃんに・・・と寄ってくと、見事蹴りを入れられる、というオチまでつく。
珠様も、ありちゃんに打たれて無事死亡。
教訓: タイで浮気はするな (ちがう)
■18場:タドーバイ (永久)
シンギングボウルだろうか、暗闇の中に響きわたる神秘的な低音の鐘の音が、厳かな雰囲気へと誘う。
美弥ちゃんの甘美なタイ語の祈りと退団者の方たちのダンスから、世界は金色に変わり、たま様エメラルド大仏、祈りによって復活。
何度も言ってるけど、宝塚の金色の引き出し半端ない。
これ以上はないやろ!! と毎回思うけど、結局今回も王家を凌ぐキンキラキンっぷり。
視野が全部金色で埋め尽くされとる。まさしく、ビカッ! ビカッ!ビカッ!とまばゆいばかりの金色。
あまりのまぶしさに一瞬眼をつぶったら、残像まで金色・・・
涅槃らしいけど、あたしこんな落ち着かない天国嫌だ。
■別れの歌手 マカプジャ 万仏祭 ~ 男役大階段
ピアノの調べに乗せて、燕尾姿の美弥ちゃんの銀橋わたり。
正統派の男役姿の端正な美しさに、改めて息を呑む。
美弥ちゃんはうんと濃く作った役は言うまでもなく、すべてをそぎ落としたときに余計にむきだしの清冽な色気が出てくるからたじろいでしまう。
ポート写真とか、役ではないけれど、パソブではるこさんをゲストに、書生と女学生の恋、伯爵夫人となったかつての恋人への惜別の思いを撮ったシーンはあまりに切実な美しさが溢れてて、今見ても苦しくなるほど。
歌詞の、「ひとつの小さな星が眼ざめ」、「温かく包む月の光」、「語り合った日の夢」と、優しい詩がせつなく、美しい。
ひとつひとつ丁寧に、客席を見渡しながら歌いかける美弥ちゃんの指先、燕尾の先まで行き届いた男役の美、見届けました。
■デュエットダンス。
曲がロマンティックな「王様と私」の「I have dreamed」 (なんていい選曲)
階段に腰掛けて、がっと足を開き 、「おいで」の珠様& ピンクのお衣装でてこてこと階段に走っていくさくらちゃんがかわいい。
ここも、タイ舞踏のサインが出てきていて、両手を胸の前に合わせるのは愛してる、さくらちゃんが片手に頬をあてて、顔をそらして体をよじるのは恥じらいのポーズ。
がっしりした珠様の腕の中で、華奢なさくらちゃんが回るダンス、機敏で柔らかくて美しい。
珠様のダイナミックなリフトも健在で目にうれしい。
さくらちゃんは、現世から片足が浮いているような不思議な美しさがあるなあと思う。
頬骨のくぼみがちょっと退廃的で好き。
総じて被り物のキッチュさといい、ロケットまで羽背負いながら仏塔かぶってるシュールさがもう逆におかしくて、悪趣味の楽しさと言ってしまうとあれだけど、宝塚らしいカオスのエネルギーを感じて楽しめたショーでした。
場面と場面を継ぐときに、タイの楽器がとても効果的に使われてて、異国情緒をうまく演出してたのもよかった。
しかし、場面と場面をつないでたお坊さん役の光月るうさん、芝居でもお坊さん、ショーでもお坊さん、ってこの公演で徳積みまくりですね。
涅槃へのファーストパス、おめでとうございます。
■月のこども、美弥るりか
私の中の美弥ちゃんのイメージは、本当に「旅人」
カルーセル輪舞曲の時の、シルクロードの場面の砂の旅人役の、漂流のまれびと感が刻まれてる。
一番印象的だった役はもちろん、グランドホテルのオットー。彼も旅人でした。
美弥ちゃんが銀橋で歌った原曲のタイの「愛を知るために」の日本語訳・タイ語を聞いてみると、
「遠くで一番星が光る
命が二つ眠りあうまで
星は幾たび輝くのか
愛を知るため旅を続ける
君に会うために」
まさしく「愛の巡礼者」の旅立ちにふさわしい曲だった。
七海ひろきさんは愛の伝道師だし、みやちゃんは巡礼者だし、もうじき愛の申し子、明日海りおもそちらへ行ってしまうし、どうなの、ちょっと巷に愛と美が放出されすぎなんじゃないの? (涙)
魔術師は月の子供と呼ばれる。
変化自在に形を変える月の霊気を操る人。
お茶目な子どものようなユーモアと、高貴な妖しさを同時に持ちあわせた奇跡の宝塚オタク。
メジャー志向でお日様の方を向くことが多い宝塚の中に、デカダンスでゴシックな世界の薫りを濃厚に持ち込んでくれたジェンヌさん。
17年間もの間、紫の夢を見させ続けてくれてありがとうございました。
トラブルの多い公演で、座長を務めた珠様と月組生も心からお疲れ様でした。
今回の退団者の皆様は、とても知的な、ご自分の言葉で話されたご挨拶が印象的でした。
たまるりの絆といい、とても心に残る、佳き千秋楽でした。
れいこちゃんの復帰と海ちゃんの全快、そして再び月組で素晴らしい公演が見れることを祈っています。