2020年 読んだ本 | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

毎年恒例、今年読んだ本の中からとくに面白かった本をピックアップし、覚書と感想などをまとめる記事を今年も書いておきます。

今年買って読んだ本は計83冊、例年よりかなり多いですが、これはコロナで外出が減ったことが大きいです。とくに3~5月の巣ごもりの時期にたくさん読んだのと、あと諸々の事情でここ1ヶ月ほど時間にかなり余裕ができたので、読書量が増えています。

今年は例年より多めに、計20タイトル(上下巻ありなので計22冊)を選びました。
ジャンルとしては、日本の地方の歴史・社会に関わる本、神社・神道に関わる本、音楽に関わる本など、割と系統立ててあれこれ読んだのが今年の特徴かもしれません。あとは例年通りの日本近代史の本や、世界史の本などが登場します。
以下、ご興味のある方はお読みください。


まずは日本の地方の歴史・社会に関わる本を5冊。

・村の日本近代史/荒木田岳 (ちくま新書 2020年)

近世以降の日本の自然村から行政村への変化が詳しく紹介されている本。
行政村化の起源は織豊時代にまでさかのぼり、明治に一夜にして行政村化が完成したわけではないというのが本書のポイント。行政村化は世界史の大きな流れの中での出来事であることが分かると同時に、飛地など複雑な事情は日本近世・初期近代の緩やかな統治によることが分かります。
本書については以下で記事化しています。
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12637891358.html


・日本の地方議会/辻陽 (中公新書 2019年)

現代日本の地方自治は首長の権限が強く、地方議会の権限は弱いとはいうものの、その果たす役割はゼロではないことが分かる本。
地方議会議員の多忙性、都市と農村での議員定数・報酬・選挙区の大きさの差などが印象的。地方議会の会派も重要で、全国的にやはり自民党は強く、都市部では公明党・共産党が意外と強い、逆に旧民主党・現立憲民主党の会派が弱いということは国政を考える上でも重要です。


・大阪と堺/三浦周行 (岩波文庫 1984年 ※元となる論考は大正~昭和初期)

近畿圏在住者なので地域別の地方史は大阪と京都から一冊ずつ選定します。
この本は明治末から昭和初期にかけて活躍した歴史学者の戦前の古い論考をまとめて1984年に出版された本。
大阪と堺の基本文献ともいえる本で、大阪の歴史本は現代でもたくさん出版されていますが、中世にそれなりに分量が割かれている(中世の大阪は戦場で住吉を中心に南朝方の影響が強い等)ことと、堺が独立してまとめられている(堺は大阪とは離れておりかなり歴史が異なる)のが本書のポイントと考えます。


・物語 京都の歴史/脇田修,脇田晴子 (中公新書 2008年)

京都という都市の古代から近代までのコンパクトな歴史書ですが、歴史の舞台となった場所と地図を重視しているのが本書の面白い点で、巻頭の8枚の地図がかなり重要。現在の地図を元に頭の中で各時代の歴史がマッピングできます。
洛中だけでなく洛外の変化も詳しくまとめられており、個人的にはとくに神社仏閣の解説が面白く、京都を訪れる際の参考になる本です。


・滝山コミューン一九七四/原武史 (講談社文庫 2010年 ※単行本は2007年)

一般に60年代から70年代にかけては社会運動の凋落と個人主義の台頭の時代として位置付けられますが、本書では1970年代前半の首都圏郊外(西武沿線)の団地周辺の小学校にて、非常に左派的な管理教育が徹底して実践されていたことがまとめられており、団地=家族主義・個人主義ではないことが指摘されています。
近現代の地方史を考える上で団地・住宅地の形成は非常に重要、自分の経験から考えてもある時期までの集合住宅と左派コミューン的教育は親和性があるように思います。
本書については以下で記事化しています。
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12595761329.html



続いては神社・神道・天皇に関わる本を4冊。

・神道とは何か/伊藤聡 (中公新書 2012年)

古代から近世までの神道の歴史をまとめた本。
日本においては古代より基本は神仏習合で、古くは蘇我氏vs物部氏の対立も政治的なものであり教義的な対立ではない。平安以降とくに神仏習合・本地垂迹が加速し、神も苦からの解放のため菩薩と化す、合わせて御霊信仰と菅原道真・崇徳上皇などに代表される人間の神化が進む。
一方で神道の純化も進み、密教的な唯一神道から儒教的な垂加神道を経て国粋的な復古神道に至り、これが明治を準備することが分かります。


・国家神道と日本人/島薗進 (岩波新書 2010年)

上の「神道とは何か」の続きのように読める本で、こちらは近代以降の神道の本。
近世までの神社神道、近世末以降の国体論、明治に完成した皇室祭祀、これらを含めて国家神道であり、各要素を複合的かつ個別に考える必要があるというのが本書のポイント。
国家神道は1890年頃から形成され(1890年「教育勅語」)、1910年頃以降にとくに浸透、1931年頃以降はファシズム化する(1937年「国体の本義」)。
戦後の神道指令は皇室祭祀を禁止せず、神社本庁を含め国家神道的なものは現在も残存しているという指摘も重要です。


・<出雲>という思想/原武史 (講談社学術文庫 2001年 ※単行本は1996年)

その近代初期の国家神道の形成期を、伊勢(天照)と出雲(大国主)の対立と捉え、伊勢派≒岩倉使節団系と出雲派≒留守政府系との対立が、国権/民権の対立と重ねて読めるのが本書の面白いところ。
埼玉県に分布する氷川神社は出雲との関わりが深く、大宮はかつての武蔵の中心地でしたが、明治以降に出雲-大宮的な価値が見直され県庁所在地が浦和に設定されるなど、本書は埼玉の地域史としての面白さもあります。


・歴代天皇総覧/笠原英彦 (中公新書 2001年)

歴代全天皇の一生、即位・執政・退位の様子がコンパクトにまとまっており、天皇の不執政の伝統(石井良助「天皇」講談社学術文庫 等)に沿って読める本。
院政(≒天皇自身の不執政)が12世紀以降かなり長期に続いていたことや、室町・戦国の分国化の時代に天皇が継続したのは統一的な暦(元号)の設定権があった(反皇室的な家康もこれを簒奪しなかった)ことの重要性など、個人的に面白かったです。
(陵墓については宮内庁の比定がそのまま記載されているので、ここは読む際に注意が必要と思います。)



次に音楽を通して社会・文化を考える本を4冊。

・音楽の危機/岡田暁生 (中公新書 2020年)

4月~6月のコロナ自粛下において、クラシック音楽を中心に近代音楽の在り様について考察した本。
ライブ音楽と録音音楽の違いや、近代社会の「誰にでも開かれている」構造と「誰かを排除している」構造(自由性と排他性)とクラシック音楽の関わり、西洋近代の時間意識の変遷など、面白い視点がたくさん。
崇高・排他的な生演奏から凡庸・大衆的な録音音楽への移行を是とするか否とするかは近代を考える上で重要。
本書については以下で記事化しています。
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12627571453.html


・ショパン・コンクール/青柳いづみこ (中公新書 2016年)

2015年のショパンコンクールについてのルポルタージュですが、原典を重視するか解釈を重視するかという、クラシック音楽を代表とする再現芸術における根本的な問題についての言及が面白く、審査員の評価(対立)も多くはここに由来するという指摘は重要です。(ショパンの場合は、「楽譜に忠実」vs「ロマンティックな解釈」の対立となる。)
個人的にはダン・タイ・ソンによるアジア系ピアニスト評がとくに興味深く、コンセプトを重視する欧米人と感覚を重視するアジア人という対立は、加藤周一の文学論や辻惟雄の美術論などにも通じる面白さがあるように思います。


・古関裕而の昭和史/辻田真佐憲 (文春新書 2020年)

今年の朝ドラ「エール」で脚光を浴びた古関裕而の評伝ですが、単純に一人物の評伝を越えて、戦前の流行歌や戦時の軍歌、戦後の映画音楽や社歌・校歌・団体歌など、古関裕而を通して近代日本の大衆音楽史を俯瞰できる内容になっているのが本書の面白い点。
個人的には社会や経済により作家の傾向性が規定されていく点が興味深く、昭和歌謡を越えて一般的な作家性を考える上でも面白い本だと思います。
本書については以下で記事化しています。
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12585356245.html


・音楽が聴けなくなる日/永田夏来・かがりはるき・宮台真司

   (集英社新書 2020年)

不祥事に伴う電気グルーヴ等の音楽の販売禁止に対し、これで良いのかという3人の著者の考察をまとめた本。
ミヤダイファンとしてはやはり宮台真司さんの論考が面白く、音楽の販売禁止の如きは社会と人間の劣化に由来すると位置付けられており、近代を突き詰めると神経症的な販売禁止のようなものに堕する、故に身体性と感情を取り戻すことが肝要で音楽を含むアートはその手段との指摘は重要。
巻末の音楽自粛年表も面白いです。



日本近代を考える5タイトル(6冊)。
今年は文芸作品を比較的多く読みましたので、日本の近代小説を3作品含めています。

・元老/伊藤之雄 (中公新書 2016年)

近代日本において元老と呼ばれた人たち(伊藤博文,井上馨,山県有朋,西園寺公望など)が果たした役割と機能をまとめた著作で、天皇の下で各機関が分裂している明治憲法下での超憲法的な存在としての元老の重要性が分かる本。
政治機能面での元老の位置づけが重要ですが、人物評としても興味深く、調整能力に長ける伊藤、陸軍の近代化と内務に功績のある山県、理想論とは一線を画す西園寺のバランス感覚など、実証研究を越えて著者の各人物への思い入れが感じられる点も面白いです。


・近代日本と軍部/小林道彦 (講談社現代新書 2020年)

明治から戦前昭和までの陸軍を中心とした日本の軍部と、政党を中心とする国内政治との関わりを、一冊で俯瞰できる本。
戊辰戦争の戦後処理と士族の復員問題と近代軍との関わりに始まり、山県有朋の防衛線/利益線論となし崩し的な日清日露の開戦、大隈内閣のポピュリズムによる第一次大戦参戦と対華二十一箇条、戦後の軍縮ムードから一転政友会のポピュリズムによる対中出兵や、自由経済重視の対中政策から来る中国の排日運動を経て満州事変に至る等、各エポックの詳細が分かる内容になっています。


・或る女/有島武郎 (新潮文庫 1995年 ※連載は1911~13年)

有島武郎による明治末期~大正初期の小説。
舞台は明治後期、嫉妬深く計算高い主人公の女性がある男性の魅力に憑かれ、やがて狂気に陥っていく心理小説で、とくに第1部の船上での主人公のこころの動きの描写が面白く、また第2部後半の猜疑心と嫉妬心に溢れる内面の描写が恐ろしい、圧倒的な強度の文章が続く小説です。
時代背景からすると当時はこの主人公のような女性は反面教師的に読まれたかもしれず、現在からみるとジェンダー論的にも重要な作品ですが、男女関係なく近代の自立的人間のある種の類型としても面白く読める作品になっているように思います。


・旅愁/横光利一 (講談社文芸文庫 1998年 上下巻 ※連載は1937~46年)

こちらも戦前・戦中の小説で、30年代日本の国粋化の時期の作品。
1936~37年のフランスと日本が舞台、前半は日本の留学生たちのフランスでの交流、後半は彼らが日本に戻って来てからの生活と交流が描かれ、日本的なものに過剰に価値を置く(今風に言えばネトウヨ的とも言える)若者の留学と恋愛の描写が中心。
西欧的価値と日本的価値の葛藤、信仰と世俗の葛藤が描かれますが、日本固有なものに執拗に固執することの問題が読み取れ、30年代日本の精神史を考える上では極めて重要な作品であると感じます。
本書については以下で記事化しています。
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12614824008.html


・俘虜記/大岡昇平 (新潮文庫 1967年 ※連載は1948~51年)

日本近代を考える上で戦争は避けては通れない体験。本書は大岡昇平が自らの戦争体験を元に綴った文芸作品で、フィリピン戦線で米軍の捕虜になった主人公の体験と、周囲の日本人捕虜に対する観察が描かれた作品です。
冒頭の戦闘描写が終わると、その後米軍キャンプでの捕虜生活の様子と日本人捕虜たちの描写が延々と続きます。閉鎖空間での人間描写は面白く、当時の日本人の在り様・人間の在り様や、近代の戦争と人間を考える上で本書は重要です。
本書については以下で記事化しています。
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12614824008.html



世界史の本を1タイトル(2冊)。

・銃・病原菌・鉄/ジャレド・ダイアモンド

   (草思社文庫 2012年 上下巻 ※単行本は2000年)

長らく読もうと思っていた世界史本で、感染症がはびこる中で読むことになりました。
本書は大航海時代になぜヨーロッパがアメリカ大陸を征服できたのかという問いに丹念に答える本で、その究極の要因は大陸の形にある(東西に広いユーラシアは同緯度での相互移動が容易で文化・病原菌の交雑が早くから進む、南北に長い南北アメリカは緯度が異なるため相互移動が困難で文化・病原菌の交雑が進まずユーラシアに後れを取る)という結論が面白く納得的。
政治や文化を規定するのは人種ではなく環境(地理的要因)という結論は極めて妥当であると感じます。



最後にもう1冊、つい先日発売された興味深い本を1冊。

・ゲンロン戦記/東浩紀 (中公新書ラクレ 2020年)

現代日本の最先端の哲学者・批評家である著者による企業経営の経験をまとめた本ですが、これが企業人にとってはあるあるネタの連続。
共同経営者が金を持ち逃げする、予算計画を間違える、部下が経理事務をサボタージュする、部下が勝手に裁量で人事を行う等の失敗の数々。似たようなことは中小企業のみならず大企業の一セクションでも起こりうることで、企業の管理業務などに携わっている人ならきっとかなり面白く、かつ泣ける本です(本当です 笑)。
成功談ではなく失敗談であることが本書のポイント。予算と人事の決裁権の重要性(これは必ずトップが決裁すべき)や、日常の事務の重要性(後で混乱しないよう月次管理・文書管理は必達)等、本当に重要な経験が書かれています。
テプラの重要性だとか、まさか哲学者から「テプラ」という言葉が出るとは思いもよらなかった(笑)ので、この辺も面白い。
批評・哲学と経済活動の両方に携わる・関心がある人なら、読んであれこれ考えられる、元気になれる本です。



以上、計20タイトル(22冊)について簡単にまとめてみました。


毎年恒例の記念撮影 笑。