2019年 読んだ本 | れぽれろのブログ

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今年ももうすぐおしまいです。
毎年恒例、今年1年で読んだ本についてまとめるコーナー。
つい先日2010年代の本についてまとめたところですが、今年のまとめについても記録を残しておきたいと思います。

今年の1月から本日時点までで、購入して読んだ本は62冊になります。
以下、今年の読書傾向についてまとめるとともに、この62冊の中からとくに印象深い本を何冊かピックアップし、コメントなどを残しておきます。


今年1年の読書の中で、自分の中で最も重要な書き手は、何といっても原武史さんです。今年1月から現在までで、自分は原武史さんの著作を10冊読んでいます。62冊中の10冊なので、結構な比率です。
自分が原武史さんの本を集中的に読むことになったのは、ちょうど1年前のゲンロンカフェのイベントで、原さんによる天皇制に関するトークを鑑賞したのがきっかけ。これがあまりに面白かったので、天皇制及び代替わりに関連する著作、
「大正天皇」「昭和天皇」「皇后考」「平成の終焉 退位と天皇・皇后」「天皇は宗教とどう向き合ってきたか」を次々と読みました。
同時に原武史さんが登場するラジオやインターネット番組を継続的にチェックし、東浩紀さんや宮台真司さんや辻田真佐憲さんとの対談は自分はほぼ網羅的に鑑賞しています。
上の中で1冊あげるなら「皇后考」(講談社学術文庫)ということになります。この本についての所感は3週前の記事の中で書いた通り(→10年代 読んだ本ベスト10冊)、原さんの天皇制についてのトークの概要については、こちらの記事(→原武史・神保哲生・宮台真司 象徴天皇制について)でもまとめていますので、詳細に関心がある方は参照ください。

原武史さんの天皇制以外のもう1つの重要なテーマは、鉄道です。「民都大阪 対 帝都東京」「鉄道ひとつばなし1」「鉄道ひとつばなし2」「鉄道ひとつばなし3」「レッドアローとスターハウス」の5冊を自分はこの1年間で読みました。
鉄道についても、7月にゲンロンカフェで鉄道に関するトークを鑑賞したことが大きいです。日本近代の歴史や文化を考える上で、都道府県や市町村などの行政区画を単位として論じるだけでは一面的であり、行政区画を跨ぐ交通手段である鉄道沿線の歴史・文化を考慮しないと、正確な歴史や文化の在り様が見えてこない、というのが原さんの鉄道に関する著作の自分なりの理解です。このことは近畿圏に住んでいると分かりやすく、例えば同じ神戸市・芦屋市・西宮市であっても、阪急沿線か阪神沿線かによって、文化は大きく異なる傾向にあります。
自分は大阪在住ですので、読んだ本の中ではやはり「民都大阪 対 帝都東京」(講談社選書メチエ)が最も印象的で、阪急の創業者である小林一三の先進性と、近畿圏の私鉄の特異性(国家の指針を半ば無視して鉄道を敷設し、国鉄を遥かにしのぐ利便性を実現する)や、同じ近畿圏の私鉄であっても阪急と近鉄の違い(誰もいないところに鉄道を敷設しモダンなレジャー文化を創出した阪急と、名阪間を南側から接続し橿原・伊勢・熱田を中心とした社寺の観光圏を創出した近鉄)など、興味深い論点がたくさんで面白かったです。

原武史さんの影響もあって、今年は天皇・平成関連の著作を9冊、鉄道関係の著作を11冊読んでいます。
天皇・平成関係の著作は主に今年の前半に読み、鉄道関係の著作は主に今年の後半に読みました。なかなかの分量、今年は自分にとって天皇・平成、及び鉄道について考える1年になりました。
その中でそれぞれ1冊ずつ上げるなら「平成史講義」(吉見俊哉・編、ちくま新書)と、「全国鉄道旅行絵図」(今尾恵介、けやき出版)ということになります。
「平成史講義」は10人の書き手が平成の30年間の社会システムの変化を簡潔にまとめ、失敗した部分について考察した著作で、詳細はこちらの記事(→平成史講義/吉見俊哉 編)に書いた通り。
「全国鉄道旅行絵図」は戦間期の鉄道沿線図を見やすい形で転載し、著者がそれについてコメントした著作で、このうち近畿圏の沿線図についての詳細はこちらの記事(→戦間期 関西の鉄道)に書いた通りです。

天皇・平成・鉄道関連以外の著作の中でとくに興味深かった本、今年のマイベスト3は、「新記号論」(石田英敬・東浩紀、ゲンロン)、「日本社会のしくみ」(小熊英二、講談社現代新書)、「ホモ・デウス」(上下巻、ユヴァル・ノア・ハラリ、河出書房新社)の3タイトルです。
「新記号論」と「日本社会のしくみ」の詳細は以下の過去記事に書いた通り(→新記号論/石田英敬,東浩紀)(→日本社会のしくみ/小熊英二)、「日本社会のしくみ」は10年代のマイベスト10冊の記事でも取り上げました。

「ホモ・デウス」は過去記事に書いていませんので、少し詳述。
「ホモ・デウス」は、数年前にヒットした「サピエンス全史」の著者によるその続編ともいえる著作。サピエンス(人類)は長い歴史を経て飢餓・疫病・戦争をほぼ克服、自由主義から人間至上主義に至り、その帰結として現在の資本主義と民主主義のシステムを実現しました。しかしその後の情報革命により、人間至上主義がデータ主義に取って代わられようとしているのが現在の世界。
本書では、データを掌握した一部のアッパークラスの人間が人間以上の存在(ホモ・サピエンス→ホモ・デウス)になり、その他の大多数の人間はホモ・デウスにとってどうでもよい存在になりダウングレード化・動物化が進む、人間至上主義と民主主義が衰退する未来が予見されています。
本書はユダヤ-キリスト教-西欧的価値を前提に議論されており、動物と人間の差異についての詳細な解説や、人間至上主義の虚構性についての詳細な解説の部分は、多くの日本人読者については「so what?」なのではないかと思います。我々が生きる日本社会はそもそも人間至上主義の社会にはなっておらず、アニミズム的心性が残る社会から一気にデータ主義社会にジャンプしたような社会です。
本書では処方箋としてギリシャ哲学や仏教思想を重視しているように読め、この点は重要だと思いますが、日本社会についてはおそらく全く違う処方箋が必要になることだと思います。
今後の日本社会を考える上で、最先端の西欧・欧米社会がどのように世界を認識しているかを理解するという意味で、本書は重要な著作であると感じます。

文芸作品について。
昨年末にヴァージニア・ウルフの「灯台へ」を読んで驚き、やはり名のある世界文学を読むべきであるとの認識に至り、今年の年初に長年積読だったスウィフトの「ガリヴァー旅行記」(岩波文庫)を読んでみましたが、これまたとんでもない作品で、めちゃくちゃ面白く読みました。本書は全4部構成で、1部から4部にかけてそれぞれテイストが異なり、尻上がりにどんどん面白くなっていきます。
第1部の超有名な小人国への訪問記は、はっきり言って第2部以降の単なる前フリであって、別に読まなくてもいいレベルです(笑)。第2部ではイギリスの残虐性が相対化され、第3部ではほとんどSF的想像力とでも言うような愉快な文明の在り様が列挙され、第4部は西欧社会と人類に対する痛烈な風刺になっています。
やはり海外文学、ということでその後ナボコフやピンチョンなども読みましたが、ウルフやスウィフトほどの感激はなく、現在また文芸作品とは疎遠になっています(笑)。世界文学といっても、やはり「世界文学ベスト100」等のチョイスにあげられるような、超有名作品を中心読むべきなのかもしれません(今さらですが)。


ということで、以下の8タイトルを今年のお気に入りとしたいと思います。

・皇后考/原武史 (講談社学術文庫)
・民都大阪 対 帝都東京/原武史 (講談社選書メチエ)
・平成史講義/吉見俊哉・編 (ちくま新書)
・全国鉄道旅行絵図/今尾恵介 (けやき出版)
・新記号論/石田英敬・東浩紀 (ゲンロン)
・日本社会のしくみ/小熊英二 (講談社現代新書)
・ホモ・デウス(上・下)/ユヴァル・ノア・ハラリ (河出書房新社)
・ガリヴァー旅行記/スウィフト (岩波文庫)



これ以外の著作について、以下に次点として8タイトルほどあげておきます。

上にも書いた原武史さんによる「鉄道ひとつばなし」全3巻(講談社現代新書)、及び、老川慶喜さんによる「日本鉄道史」全3巻(中公新書)は、日本の鉄道の歴史と現状を理解できる、非常に有益な著作でした。
これらの本を読んで、とくに畿内の鉄道の歴史と今後については自分は諸々関心があるので、そのうち何らかの形で記事を書きたいなと思っています。

その他の各ジャンルの歴史の本を3つほど。
古川安さんの「科学の社会史」(ちくま学芸文庫)はルネサンスから現在までの科学史を扱った著作ですが、単に科学の進歩をまとめるだけでなく社会との関わりのなかで論じられているところが重要。18世紀以降の社会の変化に合わせて、科学の「覇権」がイギリス→フランス→ドイツ→アメリカと移り変わっていく様子が特に印象的。
大澤真幸さんの「社会学史」(講談社現代新書)はこの著者流の歴史著述で、社会の偶有性(社会が秩序だっていることのありそうもなさ)にポイントが置かれている点がよかった著作。
山本浩貴さんの「現代美術史」(中公新書)は、現代美術の起点がアーツクラフツ運動とダダイズムにあると定義し、日本の現代美術の起源を柳宗悦とマヴォにみるという、美術と社会を考える上で非常に重要な視点が提供されており、美術ファン必読の書になっています。

その他の本。
山田昌弘さんの「結婚不要社会」は、現代社会の中での結婚についてのイメージと、歴史的な結婚の実態との乖離について非常に分かりやすく記述されており、個人の自由と社会の安定の非並立性、現代社会が抱えるジレンマがよく分かる本。
辻田真佐憲さんの「たのしいプロパガンダ」(イーストQ新書)は、娯楽の顔をしてやってくる政治的動員の歴史を紹介した本で、マーケティング手法を駆使する現代日本の政治に対し、しなやかに抗うために有益な本。
島田裕巳さんの「二十二社」(幻冬舎新書)は、近畿圏の古くからの有力神社である二十二社について網羅的にまとめた著作で、平安京とそれ以前・以後の神社の在り様について、単に京奈地域の神社にお参りしているだけでは気付かない、興味深い視点を提供してくれる本になっています。


ということで、記念撮影です 笑。