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とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
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●ポップに振り切れた良作

邦楽ロックの人気を牽引するバンプオブチキン(BUMP OF CHICKEN)の約5年ぶりとなる通算10枚目のフルアルバム『Iris』(読み:アイリス)のレビュー。

《収録内容》
[CD]
01. Sleep Walking Orchestra
02. なないろ
03. Gravity
04. SOUVENIR
05. Small world
06. クロノスタシス
07. Flare
08. 邂逅
09. 青の朔日
10. strawberry
11. 窓の中から
12. 木漏れ日と一緒に
13. アカシア

前作『aurora arc』(19')のレビューで僕はエラそうにも次のように書いた。

「これからのバンプが僕にとって良いバンドになってくれるには、二つの未来の世界線がある。一つは、『orbital period』以前のバンプに戻ること。これは今のバンプの進路上無理だろう。もう一つは、「新世界」「Butterfly」「ray」のようなポップのベタに寄ったキャッチーな曲を作ること。『Butterflies』では「Butterfly」の一曲だけ良かったし、『RAY』では「ray」の一曲のみ良かった。このようなポップでキャッチーな曲をアルバム一枚通して聴いてみたい。」

そう、『orbital period』(07')までのバンプの作品は、粗さや勢いの中にも熱さがあり、生き方のひとつを教えてくれる、僕にとって本当に特別な音楽なのだ。

とくに 『orbital period』については、過去に下記のとおり書いた。

「経験値を得た演奏と失われていない熱さが両立したアルバム。本作よりも後のアルバムは曲単位では良い曲があるが、一枚としては僕は評価していない。10年代以降の彼らは満たされてしまった。昔のように生を渇望するような歌を聴きたい。」

(余談だが、僕は『COSMONAUT』(10')は過渡期のアルバムだと思っている。インディーズ時代も含めてそれまでのアルバムは8〜9割の収録曲が神曲だと思っているが、『COSMONAUT』は3割打者くらいになった。その後の窮状<あくまで筆者視点>は上記のとおりである。)

バンプの作品は昔から今まで、陰がありつつも、優しく力強い歌声は一貫している。また、夜や星、宇宙のロマンティシズムと抱擁のぬくもりは、現在に至るまでのバンプの十八番(おはこ)のテーマだ。

しかし、変わってしまったものもある。天から降ってきたような良質のメロディはいくぶん弱くなったし、歌詞のパンチラインが以前よりも減った。そして、スケール感が半径5mからもっと大きなものになった。

ホール、アリーナ、スタジアムなど、規模の大きい会場には、スケール感のある曲の方が映える。ファンの規模が大きくなるにつれ、多くの人にライブを聴いてもらうためには、スケール感を大きくしていくのは自然な流れなのかもしれない。

だけど、百万人のために歌われる歌(©️ポルノグラフィティ)よりも、目の前のひとりひとりのリスナーを宛名として歌われる歌の方が好きな僕にとって、このスケール感の伸長にはバンプが僕のもとから離れていったような感触を受けた。(藤原基央さんは今も、ひとりひとりに向けて歌っているつもりかもしれないけど。)それは、ミスチルが大作路線になったときの寂しさを思い出させる。中期までのバンプの音楽に「貧しさ」を感じる方がいるとすれば、よそ行きではない素顔で平服なバンプをその貧しさから感じ取れて、僕の半径5mを灯す勇気のランプになっていたのである。

曲の音楽性が変化したことによって、昔からのファンは少なからずバンプを離れただろう。逆に、最近ファンになった方もいるだろう。僕は執念深いファンなので、あまり好きではない音楽性になったとしても、ファンでいることはやめないつもりだ。


では、本作はどうだろう? 聴いてみると、ポップな歌ものとしての精度はかなり上がってきた印象を受ける。

一曲目「Sleep Walking Orchestra」からしてポップに振り切れている。ケルティックな味付けもバンプの十八番!



そして、#4「SOUVENIR」なんて、ポップの極み乙女。ポップの鳴らし方が分かっているバンドだとあらためて感心する。



冒頭で僕が書いたバンプの二つの世界線のうち、後者である「ポップのベタに寄ったキャッチーな曲」ばかりのアルバムになっている。ポップな歌ものロックとしては、本作におけるバンプは8割打者のスラッガーだ。

特に、#6「クロノスタシス」に感動する。シングルで配信したときから名曲だと思っていたけど、アルバムの流れで聴いてみるとその名曲ぶりが際立っている。(ちなみに、バンプのファンであることを公にしている佐藤千亜妃さんを中心とするバンド"きのこ帝国"<現在は活動休止>にも同名の名曲があるのでぜひ聴いてほしい。)



本当にウェルメイド&ポップな良いアルバムなのだが、ウェルメイド&ポップであれば良いかというと、そういうわけでもない。たとえば、コブクロのアルバムが同日発売しているが、自ら進んで聴くことはないだろう。それは何故かと考えたとき、本作のバンプの音楽は売れ線であるだけではなく、ロックのフィーリングがあるということに尽きるだろう。

この体だけの鼓動を この胸だけの感情を
音符のひとつ 言葉のひとつに変えて 繋げて見つける はじめの唄

#11「窓の中から」

上記の歌詞の言葉のとおり、バンプは音楽を作り続ける。バンプの体だけに脈打つ鼓動を、藤原さんの胸だけに浮かぶ感情を、音符と言葉に変えて外へ形にして作り続ける。 



アルバムタイトルの『Iris』はアイリスと読み、虹彩(眼球の色がついている部分)という意味だが、その語源である同綴りの「Iris」はイリスと読み、ギリシャ神話上の「伝える神様」を指す。この由来通り、本作からはリスナーの虹彩に向かってまっすぐに曲を伝えようとするバンプの想いが感じ取れる。でも、これは本作に限らず、『orbital period』以前から変わらないことだ。


本作『Iris』は清々しい生き生きとしたバイブスにあふれたみずみずしいアルバムです。今のバンプを形容するときに「ベテランバンド」という言葉が似つかわしくないくらい、フレッシュでカラフルな作品。#2「なないろ」の曲名のように、彼らが繰り出す虹色の光があなたの目の虹彩に届くとき、開ける(拓ける)視界と世界があるでしょう。ぜひ、読者の皆さまも一聴を!

Score 9.0/10.0

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●浮力(巫力)と熱量(才量)の音楽

今年の3月にメンバーからドラムが抜け、ギターボーカルの"たかはしほのか"とベースの"海"の2人体制になったリーガルリリー。本作は彼女らによる渾身の3rd フルアルバム。

<収録曲>
1.天きりん
2.キラキラの灰
3.17
4.ハイキ
5.春が嫌い
6.夏のエディ
7.me mori
8.ムーンライトリバース
9.海月星
10.60W
11.地球でつかまえて
12.ますように
Bonus Track:sayouna ra asa!


👆アルバムトレーラー

その痛切な歌の射程は、まっすぐに僕の心臓の核心をとらえる。リーガルリリーにとってオリジナリティの心棒である、たゆたうクラゲ&蝶にように舞うフェアリー的(≒浮遊&魔法的)である不思議な感触は残しつつも、以前よりも王道の邦楽ロックに近づき(それでもオルタナティブだけど)、良い"歌"が増えたという印象を本作から受けた。毎回、こんな感想を言っている気がする…。



アルバムタイトルであり、ジャケットも飾り、一曲目に「天きりん」という名前の曲もあるキリン推しの本作。麒麟(キリン)は中国神話に現れる伝説上の動物のことだが、それを由来として実在する動物のことも中国と日本ではkirin(キリン)と呼ぶ。

そう、kirinという言葉が、神話の麒麟と実在する動物のキリンの両者を指すように、リーガルリリーの音楽もファンタジーとリアルを切々と往来する。僕が敬愛する「うみのて」はSFロックバンドを標榜しているが、うみのてもリーガルリリーも僕のすごく好きな世界観に立つ音楽なのだ。虚実皮膜という言葉のとおり、本当とウソの交わる境界線にアートは生まれる。

だが、リーガルリリーもうみのてもドリームポップの音楽性からは離れている。地(獄)に足をつけたオルタナティブなギターロックの上で、たかはしほのかさんのボーカルは運命の浮力(巫力)を帯び、笹口騒音さんのボーカルはシン世界への揚力("Lift"©️Radiohead)を帯びる。そうして、天上のキリンのように開けた視界を見渡しながら、グッと密度高くいくつものパンチラインを繰り出すのだ。

リーガルリリーは、うみのてと渋谷WWWでツーマンライブしたことがあるが、うみのてのように歌であること、アートであること、表現であることの三方よしの音楽になっている。

リーガルリリーのソングライターであるたかはしほのかさんも、うみのてのソングライターである笹口騒音さんも、「アーティスト」という言葉の本義である、「アートを作り担う人」と言って差し支えない。

両者の生き方の姿勢からもアートを感じる。俗世間を一気に飛び越えちゃうアーティストがリーガルリリーやたかはしさんだとすると、俗世間を風刺して表現の頂点&最深を目指すアーティストがうみのてや笹口さんだと思う。


さて、本作から何曲か見ていこう。

#1「天きりん」のイントロでアコギをつまびいたあとに聴こえてくるギターの清らかな轟音! この轟音は場末のライブハウスはもちろん、ホールやアリーナでも映えそう。ああ、この轟音の深海に自我を打ち消されて浸っていたい。次の曲以降もギターが火を吹くような轟音を出す場面があり、良いフックになっている。

ポップスやロックミュージックにとって、良いイントロは生命線である。このワクワクさせるイントロのおかげで曲全体も生き生きしてくる。

アルバムの一曲目に何を持ってくるのかも大事。この曲は一曲目としての役割を果たしている。リスナーへの問いかけや投げかけとしての一曲目である。



生き急ぐ17才の青春のように性急な弾むビートで駆け抜ける#3「17」

グニョグニョ動くベースが音楽的にドライビングな心地で気持ち良い#5「春が嫌い」

#7「me mori」。ゆったりとした名曲という点では、チャットモンチー「染まるよ」に負けない名曲だ。また、薄暗い中サウンドの中の絶唱のような歌唱は、ふくろうず「ごめんね」のシャウトの熱量の光に匹敵する。

#8「ムーンライトリバース」は、エモでヘヴィな一曲。傷口がうずくような内省のボーカルと楽器がシャウトするかのような演奏のダイナミクスを楽しめる。



スマートでアーティスティックなギターがクラゲのようにたゆたいながら、星のように輝く#9「海月星」(海月はクラゲと読む)。

ギターの轟音の魅力にひざまずかざるを得ない#10「60W」。世界を支配しようとするこの歪んだ音像と音圧の破壊力こそ、オルタナティブロック!

よーよー的にオススメである最後の曲#12「ますように」はストリングも入るし、四つ打ちがずっと続く新機軸の曲。この路線でもいけるんじゃないかと思わせる新鮮な吸引力があった。本アルバムで一曲だけ推すとしたら、この曲にかなう曲はない。読者のあなたはどうかな?

しかし、キャリアを通してみると、リーガルリリーはやはり最初に出した音源『The Post』に収録された「リッケンバッカー」「蛍狩り(ボーナストラック)」にかなう曲はないと思ったりもする。この感想も以前に書いた気がする。

だけど、それでも素敵。音楽シーンにはクリエイティブな打ち込みサウンドも数多あるだろうが、無機質な打ち込み志向よりも生々しいテクスチャー志向のリーガルリリーやうみのてのような、生命の手触りが確かにあるロックを応援していきたい。この2組の音楽がもっとたくさんの人に聴かれ"ますように"と願っている。これからも彼女たちのことを応援したいし、追っていきたい。

Score 8.9/10.0

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●失われた「がらくた」を探して

待ってました。米津玄師、4年ぶり6枚目のニューアルバム『LOST CORNER』! とても充実した作品になっています。

<収録内容>
01. RED OUT(Spotify ブランドCMソング)
02. KICK BACK (TVアニメ「チェンソーマン」オープニング・テーマ)
03. マルゲリータ + アイナ・ジ・エンド
04. POP SONG (PlayStation® CMソング)
05. 死神
06. 毎日 (日本コカ・コーラ「ジョージア」CMソング)
07. LADY (日本コカ・コーラ「ジョージア」CMソング)
08. ゆめうつつ (日本テレビ系「news zero」テーマ曲)
09. さよーならまたいつか! (NHK連続テレビ小説「虎に翼」主題歌)
10. とまれみよ
11. LENS FLARE
12. 月を見ていた (「FINAL FANTASY XVI 」テーマソング)
13. M八七 (映画「シン・ウルトラマン」主題歌)
14. Pale Blue (TBS系 金曜ドラマ「リコカツ」主題歌)
15. がらくた (映画「ラストマイル」主題歌)
16. YELLOW GHOST
17. POST HUMAN
18. 地球儀 (スタジオジブリ「君たちはどう生きるか」主題歌)
19. LOST CORNER
20. おはよう


👆アルバムのクロスフェード

ペラペラしたボカロサウンド経由でモダンかつロックな音に至った彼のサウンドは、ロック大国であるイギリスからもアメリカからも生まれない類のサウンドだ。体幹でノるブラック、足でノるホワイトとするならば、手でノるイエローな音楽をディテール細かく体現しているのが米津さんだ。彼の音楽におけるソリッドな音の綾は、両手で自在に扱うバタフライナイフのように自由で鋭い。

メロディもリズムも歌詞も慎み深く、知性を感じる。他のシンガーが米津さんの歌を歌っても、米津さんの歌だと分かる記名性がある(実際、本アルバムでも#3「マルゲリータ」でアイナ・ジ・エンドをゲストボーカルに迎えているが、米津さんが作った歌だとすぐに分かる)。

近年は良くも悪くも共感社会なので、以前にも増して誠実な人間性が人々から求められる時代であり、米津さんはすっぽりそれにハマる。音楽を聴いて身を引き締め、背筋を伸ばしたくなる思いに向かう徳性は、中村一義に匹敵すると思う。しかし、楽観的な眼差しの中村一義の音楽と比べ、米津さんの音楽のベースには喪失感やそれに似た感覚を憶える。本作のタイトルにも含まれる「LOST」の感覚だ。

烈火のシャウト、人間性の見えるファルセット、魂の叫びに似た彼の音楽は、心臓を強くひっぱる切実さもありつつ、美形の歌メロも含めてスルッと消化良くリスナーの僕の腹におさまる優しい(易しい)聴きやすさもある。僕の言っていることとか、音楽性とかよく分からない方でも、彼の真に迫った歌声を聴けば、僕の言っていることが分かるはず。

たとえば、#9「さよーならまたいつか!」。ソリッドな音の輪郭にリアリズムを感じてシビれる。「口の中はたと血が滲んで 空に唾を吐く」という歌詞の言葉に、ソリッドな刃で切り刻まれるようなシビアな現状認識が垣間見える。だが、サビで「さよーならまたいつか!」とファルセットに裏返るところで、後悔や不安が気持ちよく昇華されるのが爽快で切実だ。



ボカロP時代の「ハチ」名義から変わり、本名名義の「米津玄師」で作品を発表した初期から、エッジーで想像力に富んだサウンドであり、その頃からアイデンティティとオリジナリティーがあった。音の一閃一閃の鋭さが脳に突き刺さる感覚に魂が小刻みに震える。

米津さんならではのピュアネスの感覚は、ブレイクのきっかけとなった「Flowerwall」「アンビリービーズ」('15)のころから変わらない。イノセントな楽曲群はジブリ作品のようにまっすぐで不思議な霊性を感じる。あるいは、RADWIMPSと通じる超越性と日常性のバランスを想う。

その一方で最近の米津さんは、誠実なのにワルっぽい音や声も出すから、そのギャップのセクシーさに女子も男子もヤられちゃうのだ。
(本アルバム収録曲では、タイトなバスドラの打ち込みが魅力的な#1「RED OUT」や乾いたベースがカッコいい#2「KICK BACK」など。「KICK BACK」の切迫した攻撃性はKing Gnuと近い要素を感じる。それもそのはず、「KICK BACK」には、常田大希【King Gnu/millennium parade】が米津さんと共同でアレンジに参加している。)





前作『STRAY SHEEP』('20)から、米津さんはスケール感の大小も陰陽の明度も自由に支配できるようになったような感じがする。それにともなって、音楽の表現としての深みや面白みがより楽しめるようになったと思う。まるで、ミュシャの精緻な筆致で、ドラクロワのドラマチックな絵画を志すかのような奥深い表現になっている。

今作では今までよりもさらに多彩(多才)なソングライティングと歌声/演奏を聴かせてくれる。
例を挙げていこう。
まず、本作におけるチル曲代表#8「ゆめうつつ」。でも、チルだけど熱い!
一瞬の青春を駆ける刹那な歌唱がハートトゥハートで心をとらえる#14「Pale Blue」
間奏などで聴けるオルタナティブなギターサウンド(→歌詞の「マイノリティ」と「オルタナティブ」は呼応しあう)の轟音が魅惑的な#15「がらくた」
以上の3曲のようなミドルテンポの曲には歌の旨みを感じる。
次に、アレグロのテンポで日々を駆け抜けていく#6「毎日」のような曲には心地よい(or心地わるい)徒労感を憶える。
そして、ストリングやホーンが華を添える曲には明るい美しさを感じる。
なんて多様な曲が集まったアルバムなんだ!!

重要なテーマをはらみつつ、Suchmosみたいにさらっと颯爽に駆け抜ける#19「LOST CORNER」でサッパリした気持ちになって、すべての終着駅である最後のインスト曲#20「おはよう」でおごそかな小品の慎ましさに心が開かれて、またザクザク突き刺されたくて一曲目から再び聴きたくなる。この音楽の引力には逆らいがたい。

既発表曲も多く、オリジナルアルバムとしての一貫性(アルバム性と呼ぶことにする)がないと主張する方も、この終盤を聴き終えた後に一曲目に向かう引力にはアルバム性があると言わざるをえないだろう。

音楽のカラフルさと表現の深みで評価するのなら、本作は米津さんの最高傑作といってよいと思う。作品としての芸術性とJpopとしての通俗性の黄金比を達成している。戦地におもむくウルトラマンのように、#13「M八七」をはじめとした曲に込められた悲壮な決意(僕は音数の少なさと音圧の強さに特にそれを感じる)を聴いてほしい。



Score 9.3/10.0

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👇米津さんも登場するベストトラック集!🌾
🥇2020年代前半ベストトラック(ほぼ邦楽)10位→1位
🥈2020年代前半ベストトラック(ほぼ邦楽)20位→11位
🥉2020年代前半ベストトラック(ほぼ邦楽)30位→21位

🐼オマケ🐼
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