「Nのために」第4話~被害者Nと出会った日・・・すれ違う2人 | 日々のダダ漏れ

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「Nのために」



 
第4話
被害者Nと出会った日・・・すれ違う2人

 
西崎) じゃあ、読んだところまででいい。むしろ
    数回にわたって、じっくりと感想を聞こう。
安藤) 感想つったって、何なの、この小説?
希美) ホラー小説でしょ?
安藤) SFだって。
希美) えっ?
西崎) どこをどう読んだらそのジャンルになるんだ?
安藤) 何が言いたいのかさっぱり分かんなかった。
    飼ってる鳥に、餌をやらない女の話?
希美) 違うよ。鳥が主人公でしょ。鳥が自分で焼き
    鳥になるって話だよ。
飼い主が、熱くしたオー
    ブンの中に餌を入れるんだよね。
そんで、お
    腹すかせた鳥がその中に飛び込むっていう。
安藤) 余計意味が分からない。
西崎) 最後まで読まないからだ。
希美) じゃ、西崎さんが解説して。
西崎) これは、愛についての話だ。
    愛といっても、究極の愛だ。
安藤) 生産性なさすぎだろ。
    留年してまで書く話かな。
希美) ねえ、それさ、文学賞に送った?
西崎) 送った。とっくだ。
希美) ホント?
安藤) どうだった?
西崎) 選考委員は、
    愛を理解できないやつだったらしい。
安藤) 選考に残んなかったんだ。


**********

希美) 理解できないんじゃなくて。
西崎) 
うん?
希美) 
西崎さんが考える愛と、
    選考委員の人が考える
愛が違ってたんだよ。
    みんな同じこと考えるとは限らないからね。
西崎) 杉下にとっての愛って何?
    愛といっても、究極の愛。
希美) 罪の共有…。
西崎) 共有?
希美) うん…。共犯じゃなくて、共有。
    誰にも知られずに、相手の罪を…
    自分が半分、引き受けること。
    誰にもっていうのはもちろん、相手にも。
    罪を引き受け、黙って身を引く。
西崎) それが杉下にとっての…

**********

西崎) 灼熱の炎の中にのみ、生がある。食事は
    オーブンの中。生きるため、餌を求めて。


私を愛してる?
愛してる。


西崎) 自らの意志で、熱したオーブンの中に飛び
    込む鳥ほど、愚かな生き物がいるだろうか?
    ジリジリと焼かれるくらいなら、いっそオーブン
    の中で、一瞬のうちに、丸焼きにされるほうが、
    幸せに違いない。火あぶりにされるか、殺され
    るか。
僕は心を殺し、感情を持たない、鳥にな
    ることを選んだ。

**********

安藤) 杉下はさ、何になりたいの?
希美) 何に…なれるか分かんないけど、けど、
    今いるとこよりもっと高いとこに行きたい。
    約束したから…。
安藤) 誰と?
希美) ……。


**********

安藤) だけどさ、何で西崎さんがそこまでするの?
西崎) 君と違って、俺には帰る家がないからな。
安藤) そうなんだ。
西崎) 杉下もだ。高校の頃、父親が愛人を連れ
    込んで、母親と一緒に家を追い出された。
安藤) えっ?
西崎) 杉下が帰るべき温かい家は、
    もうこの世にはない。
安藤) だからあんなに一人で頑張ってんのか…。
西崎) 誰にも頼らずにね。


**********
 
希美) あれに乗ってみたかった。でも女の子には
    無理なんだって。あそこまで行けば周りに何
    もないし、高い所にいるって
実感できるでしょ。
安藤) 高いとこ好きなんだな。
希美) うん…。島を出たら何か変わるって思ってた
    けど、
今のままじゃ全然足りない。もっと高い
    所に行きたい。
高い所から、遠くが見てみた
    いの。

**********

西崎) 安藤君、杉下のこと気に入ってるだろ。
安藤) えっ? 俺? 何で?
西崎) 君と杉下はよく似てる。
安藤) そう?
西崎) 二人とも、現実世界に夢を持って生きてる。
安藤) また皮肉?
西崎) いや、俺は君と杉下を見てるのが好きだよ。
    現実世界もそう悪くないんじゃないかなと思え
    るからな。

 
**********

チャンスがあるなら、
高い所にいる誰かと知り合いたいと思ってた。
自分が今いる場所から、もっと、遠くへ行くために。
すべてを手に入れた、誰かの背中に近づいて、
その肩に手をかけてみたかった。

それをバネに、今より、もっと高い所に行くために。


**********

西崎の小説「灼熱バード」がどうやら鍵となりそうな。
暴力をふるう者、暴力をふるわれる者、その暴力を
互いに愛と名付けて信じようとする、信じるしかない
者たちの物語…なのかなぁと。恐らくは、西崎とその
母親の物語。生きていくために、愛の証を見せるた
めに、自らの命を差し出さざるを得なかった子供の。

最初に希実がざっくり語った「鳥が自分で焼き鳥にな
るって話」というまとめに笑ったけれど、そこから
思い
出したのは…インドの仏教説話集、日本では今昔物
語、手塚治虫のマンガにも出てくる、ウサギのお話。
空腹のお坊さんを助けるべく、捧げるものが何もなく
て、困ったウサギが、自ら炎に飛び込んで、その身を
捧げたというお話。西崎の語る物語とは、質が違うけ
れど、自ら食べ物となったウサギを思い出していた。
これも「究極の愛」と言えない事もないなあと思って。

杉下の思う究極の愛は、「誰にも知られずに、相手の
罪を…自分が半分、引き受けること。誰にもっていう
のはもちろん、相手にも。
罪を引き受け、黙って身を
引く」こと。島での出来事を思い出し、ああ、なるほど
ね~とここで思わされる。Nのために…。関わった人
それぞれが考える究極の愛があるんだよね、きっと。


 
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●「Nのために」HP


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