「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」 -今日の愛ルケ(大晦日特別編)-
いよいよ発表!!
「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」
ということで、みなさまに投票をお願いいたしました「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」、大晦日の今日、いよいよ発表です。
投票総数811票の中には、あんなフレーズ、こんなフレーズ、思い出して笑うもの、呆れるもの、怒りが新たになるもの、さまざまなものがありました。
ここではそのベスト10を中心に発表したいと思います。
適宜過去記事へのリンクをその記事回号に貼ってありますので、お暇な方はクリックして飛んで振り返ってみるとより一層楽しめるかもしれません。
ではさっそく参りましょう。
第10位!
・・・ですが、なんと、9位が同数で3つありましたため、該当なしです。
いやあ、大接戦です。
ということで参りましょう。
第9位は17票を獲得した、
「あのいくでしょう」
「国家への反抗」
「つらぬかれてるう」
の3つです。
まず、「あのいくでしょう」の登場は「梅雨十九(#253)」、冬香が死にたい、殺してと訴えるほどのエクスタシーを菊治に解説するシーンでした。
再現しますと、
「すごいの・・・」
「・・・」
「あのいくでしょう。そのとき、頭から指先まで、全身の血が音をたてて流れて、走りだして・・・」
おそらくは「あの、いくでしょう」の読点の打ち漏れかと思われますが、読点を打ってもやっぱりいまいち不思議な言葉です。
一方、「国家への反抗」の登場は「夜長六(#359)」、拘置所の毛布の中で「どくどくと若者のような勢いで」ゆき果てた後、気持が安らいだ勢いで単なるオ●ニーを勇ましく正当化したときの言葉です。
そのときの様子を本紙の記事から拾ってみましょう。
夜、布団をかぶれば自分の世界だ。
愛だけは国家権力も介入できない。いいかえると、自慰こそ、身柄を拘束された男の、唯一の反抗の手段でもある。
すごいですね。
いま該当記事を読み返してみると、ひとつのフレーズとして「国家への反抗」とは言っていなかったようなのですが、この際かまわないでしょう。
なにより菊治の恋愛観が、「愛=セックス」から「愛=自慰」に変化を遂げた、歴史的瞬間でありました。
そして「つらぬかれてるう」は「春雪十一(#141)」、電波ゆんゆん漂う、あのボディランゲージの回でした。
実はこの回はほかにも名フレーズが多く、
「そろそろ、入ってもいいかな」
「もちろん、わたしも待ってたの」
「ほうら、こんなになってる」
「すごおい、可愛い」
「駄目だ、もう待てない」
「わたしも、ください」
「ほらあ・・・」
「入ってくる」
なんて突拍子もない「ボディランゲージ=菊治の脳内カンバセーション」が交わされていたりもしました。※注:上記の会話はすべてボディランゲージです。
このように冬香が菊治の部屋にやってきて一言も言葉を発しないまま、
奥深く入ってはじめて冬香が「あっ・・・」と声を出し、そしてつぶやく。
「つらぬかれてるう・・・」
ありえないですね。
安っぽいAVを見て研究したか、プロの方にお相手をしていただいていた、というのがもっぱらの評判です。
さて、先へ進みましょう。
第8位は・・・
「愛の暴力団」 24票
これは初期の名言ですね。
登場したのは「密会二(#25)」、最初の逢瀬で接吻だけ(ベロだけのやつ)で別れて収まりがつかず、きっちりかたをつけるべきだと勝手なことをいい始めた自分に突っ込んだのがこの言葉です。
きちんとかたをつけるべきである。「かた」などという言葉を使うと暴力団のようだが、これ以上冬香に近づくことは愛の暴力団のような気がしないでもない。
ま、ヤクザより身勝手な思考をしてはいますけどね。
はい、ではどんどん参りましょう。
第7位は・・・
「ごわっ」 35票
ここで早くも出てしまいましたか。
もう少し上位に食い込むことも考えられましたが、ヒロインの死んでしまうときにたてた、文学史上初めてかもしれない斬新な擬音語「ごわっ」を上回る名フレーズが6つもあるということも、「愛ルケ」の奥の深さを物語る事実のひとつなのかもしれません。
では、「花火三十二(#291)」からそのシーンを振り返ってみましょう。
死なないことはわかっているので、かまわず、「死ね」とばかりに圧しつけると、「いくう…」とつぶやき、「殺してぇ…」と叫ぶ。ならば殺してやる。それがいまの菊治にできる、冬香への唯一の愛の証しである。
渾身の力で締めつけると、「ごわっ」という音とともに声が途切れて、冬香の顎がかたんと沈む。
その翌日にはネットの検索キーワードランキングで「愛の流刑地」がトップになったことが一般紙でも話題になり、本紙への訪問者数が一日に1万人を超えた唯一の日ともなっております。
社会的な影響力という意味では、この「ごわっ」がナンバーワンであったのかもしれません。
さあ、引き続きランキングの発表を進めましょう。
第6位がなくて、第5位が同数の36票で二つです。
「ごわっ」とはなんと1票差の大激戦というそれらは・・・
「性のエリート」
と
「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、殺したのは、この俺だよ」
です。
まずは「性のエリート」。
初出は「梅雨二十一(#255)」だったでしょうか。
記者の記憶にはなかったのですが、コメント欄によるとこの言い回しは「失楽園」でも使われていたということで、どうやら渡辺作品の基本フレーズとなっているのかもしれません。
なお、本紙では対義語として「性の劣等生」「性の落ちこぼれ」「性の窓際族」などを用いております。
そしてもう一方の「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、殺したのは、この俺だよ」。
これはかなり反響の大きいセリフでしたが、まあ、ひとことでいえば「アホか」というように呆れたものが多かったように思います。
なぜそんなことをアピールしたいのか、なぜ「美しい」女性なのかということにくわえ、読点の多用もアホさ加減をアップさせているのでしょう。
そしてなによりフ○チンだったと思われることが止めを刺していたのかもしれません。
いちおう、そのシーン、「風死す十二(#303)」を振り返ってみましょうか。
起き上がって窓から外を見ると、サラリーマンが駅へ向かう。すでに七時半過ぎ、新しい一日の始まりだ。
だが振り返るとベッドには冬香が変わらず休んでいる。外の活気をよそに仰向けに横たわる殺された女性、その違和感に菊治は突然、叫びたくなる。
「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、殺したのは、この俺だよ」
窓を開けて叫ぶか、管理人に連絡すれば、警官が駆けつけて現場を検証し、自分はパトカーで連行されるのか。
まあ、拘置所内での菊治のいかれっぷりからすれば、これくらいは可愛いもんだったのかもしれませんね。
はい、どんどん参りますよ。
第4位は・・・
「なのか」 46票
なるほど、そうきましたか。
菊治調で作品をつくりたければ、読点を多めに散りばめながら、接続詞は同じものを積極的に利用、描写は基本的に現在形で進め、自身の判断を加える場合は「・・・である」「・・・ようである」そして「・・・なのか」を織り交ぜれば簡単に出来上がります。
ただ、ここで注意すべきは、「である」「ようである」「なのか」は、断定から推量そして疑問形へと確度が下がっているように見えますが、実際にはほとんど同じ意味であるということです。
では、後に「なのか祭り」ともいわれた伝説のくだりを、「春昼十八(#169)」から見てみましょう。
中瀬の・・・(中略)・・・話を打ち切り、カウンターの魚を見る。
黒くて大きいのは黒鯛で、その横は眼張なのか。さらに甘鯛があり、ホウボウがいて、青みを帯びて輝いているのは鯖で、手前のやや小振りなのは鯵なのか。
「その赤いのは、喉黒かな」
いくら日本海のうまい魚を食わせる店とはいえ、頼みもしない魚をこれだけ羅列して描いたのも文学史上類を見ない快挙でしょう。
なにより、マイナーな魚の喉黒を語りながら、「鯵なのか」と超メジャーな魚に疑問形をつける、このあたりの筆運びも渡辺先生以外に真似のできるものではありませんね。
はい、それではいよいよトップスリーですよ。
参ります。
第3位は・・・
「ひひん」 53票
きました!
予想どおり、上位に食い込んできました。
先ほどのボディランゲージの回と並んで記者が本気で笑った回であります。
最近読み始めた方の中には、この伝説のフレーズをご存じない方もいらっしゃるかもしれません。
といっても説明しろといわれても難しいですよね。
「蓬莱二十(#94)」なのですが、ええい、もう、面倒なんであらすじ全部載せちゃいますよ。
###
蓬莱 二十
一度、駆け抜けた道は、二度目になるとさらに容易になる。
頂きに向かって走り出した冬香の腰の動きに菊治もつられて走り出すが、このまま果てるのは惜しく、徐々に動きをとめる。手綱を引き絞り、制御するように躰で訴える。
「少し、待って・・・」
だが冬香はとまらない。いまや冬香のほうが淫らに、貪欲になっている。
そんな積極性は好きだし、愛しいが、しかし男の性にはかぎりがある。無限で末広がり女の性に、有限で先すぼみの性は太刀打ちできない。菊治はゆっくりとブレーキを踏むように、小休止する。
「ああん・・・」と不満そうな声を漏らす冬香。たしかに8合目まで来てとめられては駆け抜けてきた意味がない。
「ごめん・・・」
声には出さず、そっと接吻する。これで我慢して欲しいとばかり、唇から肩口へ、そして耳許へ。
しかしそこが弱いことは知っていたはずだ。滅多なことでは触れてはいけない、その禁忌(タブー)を犯せば、もうとどまっていられない。
鞭を打たれた馬のように走りだす冬香に、菊治は慌てるが、一度、「ひひん」と嘶(いなな)き、駆け出した牝馬を抑えることなどできない。牝の走りに雄が煽られ、煽られた雄に牝がひたと吸いつき、そのまま二人は地響きをたてながら、快楽の先の死の谷めがけて突きすすむ。
###
いや、よかったですね。
あの日の記事の突っ込みは、いろいろ書いていてもひたすら笑っているだけみたいなもんでしたしね・・・。
さあ、残すところあと二つです。
予想どおりでしょうか。
参りますよ。
第2位は・・・
「いく、いくわよう・・・」 85票
うーん、2位でしたか!
そんな声も聞こえてきますね。
あちこちでとんちんかんなセリフを吐いた冬香ですが、インパクトそして「ありえない度数」からいえばやはりこれが断トツでしょう。
冬香の誕生日旅行の箱根の夜、はじめて「殺してぇ」の声が冬香から漏れ、それに応じて菊治が果物ナイフで突き刺すでも灰皿で殴るでもなく首を絞め、気持ちよくなってしまった記念すべき回です。
「青嵐十三(#220)」、ここはぜひリンクで飛んでいただいて、その臨場感をぜひ味わって欲しいところですね。
いちおう、そのシーンを抜粋して載せておきますと、
菊治が冬香の喉元に手を伸ばしてそっと締めると、冬香は苦しげに首を左右に振って、噎(むせ)びながら叫ぶ。
「いく、いくわよう・・・」
うーん、通報騒ぎが懐かしいところです。
ということで、ずらり見てまいりました「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」も、いよいよ残すは第1位のみとなりました。
はい、もうあれしかないですね。
初出がいつだかすらわからないのですが、いまやむしろスタンダードな言葉となりつつある、あれです。
その第1位、すなわち「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」は、もちろん・・・
「すごおい」 87票
2位の「いくわよう」と2票差のすごおい大接戦を制しての大賞、いやほんとにすごおいです。
なにがすごおいって、別にそもそも日常生活でふつうに使ってる言葉なんですよ、「すごおい」って。
ただ、発音からする表記のイメージとしては「すごーい」なんですけど、でもこの「すごーい」を、高校生なんかじゃないいい大人が言った言葉として書くと、ちょっとおかしいですよね。
そこで「すごーい」ではなく「すごおい」と書いたところ、よりいっそうおかしくなってしまったんじゃないかと、記者は解釈しております。
とすると使われた先生ご本人は、なんでこんな言葉が1位になるのかわからんと思われるかもしれませんね。
ちなみに記者も最近は日常生活で、「すごい」を強調したいときには使っております、「す・ご・お・い」と分かりやすいように一文字ずつはっきり発音して・・・。
ということで、大賞は「すごおい」で落ち着きましたが、いかがだったでしょうか。
もちろん、ベストテン圏外や、1票しか入らなかったような少数意見の中にも面白いものもありました。
そのなかから、記者がもっとも共感したものをひとつだけ、審査員特別賞として選んで、この記事を締めくくりたいと思います。
前半において、菊治の入れ込み具合とこの小説の馬鹿馬鹿しさをもっともよく表していて、しかも「ありえない度数」もきわめて高いそのフレーズとは・・・
「このままでは、氷ででも冷やさなければ、おさまらない」 (1票)
ではみなさんの平成十八年戌年が勝ち犬の勝ち犬になりますように祈りつつ・・・。
みなさん、ほんとうによいお年を!
「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」
ということで、みなさまに投票をお願いいたしました「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」、大晦日の今日、いよいよ発表です。
投票総数811票の中には、あんなフレーズ、こんなフレーズ、思い出して笑うもの、呆れるもの、怒りが新たになるもの、さまざまなものがありました。
ここではそのベスト10を中心に発表したいと思います。
適宜過去記事へのリンクをその記事回号に貼ってありますので、お暇な方はクリックして飛んで振り返ってみるとより一層楽しめるかもしれません。
ではさっそく参りましょう。
第10位!
・・・ですが、なんと、9位が同数で3つありましたため、該当なしです。
いやあ、大接戦です。
ということで参りましょう。
第9位は17票を獲得した、
「あのいくでしょう」
「国家への反抗」
「つらぬかれてるう」
の3つです。
まず、「あのいくでしょう」の登場は「梅雨十九(#253)」、冬香が死にたい、殺してと訴えるほどのエクスタシーを菊治に解説するシーンでした。
再現しますと、
「すごいの・・・」
「・・・」
「あのいくでしょう。そのとき、頭から指先まで、全身の血が音をたてて流れて、走りだして・・・」
おそらくは「あの、いくでしょう」の読点の打ち漏れかと思われますが、読点を打ってもやっぱりいまいち不思議な言葉です。
一方、「国家への反抗」の登場は「夜長六(#359)」、拘置所の毛布の中で「どくどくと若者のような勢いで」ゆき果てた後、気持が安らいだ勢いで単なるオ●ニーを勇ましく正当化したときの言葉です。
そのときの様子を本紙の記事から拾ってみましょう。
夜、布団をかぶれば自分の世界だ。
愛だけは国家権力も介入できない。いいかえると、自慰こそ、身柄を拘束された男の、唯一の反抗の手段でもある。
すごいですね。
いま該当記事を読み返してみると、ひとつのフレーズとして「国家への反抗」とは言っていなかったようなのですが、この際かまわないでしょう。
なにより菊治の恋愛観が、「愛=セックス」から「愛=自慰」に変化を遂げた、歴史的瞬間でありました。
そして「つらぬかれてるう」は「春雪十一(#141)」、電波ゆんゆん漂う、あのボディランゲージの回でした。
実はこの回はほかにも名フレーズが多く、
「そろそろ、入ってもいいかな」
「もちろん、わたしも待ってたの」
「ほうら、こんなになってる」
「すごおい、可愛い」
「駄目だ、もう待てない」
「わたしも、ください」
「ほらあ・・・」
「入ってくる」
なんて突拍子もない「ボディランゲージ=菊治の脳内カンバセーション」が交わされていたりもしました。※注:上記の会話はすべてボディランゲージです。
このように冬香が菊治の部屋にやってきて一言も言葉を発しないまま、
奥深く入ってはじめて冬香が「あっ・・・」と声を出し、そしてつぶやく。
「つらぬかれてるう・・・」
ありえないですね。
安っぽいAVを見て研究したか、プロの方にお相手をしていただいていた、というのがもっぱらの評判です。
さて、先へ進みましょう。
第8位は・・・
「愛の暴力団」 24票
これは初期の名言ですね。
登場したのは「密会二(#25)」、最初の逢瀬で接吻だけ(ベロだけのやつ)で別れて収まりがつかず、きっちりかたをつけるべきだと勝手なことをいい始めた自分に突っ込んだのがこの言葉です。
きちんとかたをつけるべきである。「かた」などという言葉を使うと暴力団のようだが、これ以上冬香に近づくことは愛の暴力団のような気がしないでもない。
ま、ヤクザより身勝手な思考をしてはいますけどね。
はい、ではどんどん参りましょう。
第7位は・・・
「ごわっ」 35票
ここで早くも出てしまいましたか。
もう少し上位に食い込むことも考えられましたが、ヒロインの死んでしまうときにたてた、文学史上初めてかもしれない斬新な擬音語「ごわっ」を上回る名フレーズが6つもあるということも、「愛ルケ」の奥の深さを物語る事実のひとつなのかもしれません。
では、「花火三十二(#291)」からそのシーンを振り返ってみましょう。
死なないことはわかっているので、かまわず、「死ね」とばかりに圧しつけると、「いくう…」とつぶやき、「殺してぇ…」と叫ぶ。ならば殺してやる。それがいまの菊治にできる、冬香への唯一の愛の証しである。
渾身の力で締めつけると、「ごわっ」という音とともに声が途切れて、冬香の顎がかたんと沈む。
その翌日にはネットの検索キーワードランキングで「愛の流刑地」がトップになったことが一般紙でも話題になり、本紙への訪問者数が一日に1万人を超えた唯一の日ともなっております。
社会的な影響力という意味では、この「ごわっ」がナンバーワンであったのかもしれません。
さあ、引き続きランキングの発表を進めましょう。
第6位がなくて、第5位が同数の36票で二つです。
「ごわっ」とはなんと1票差の大激戦というそれらは・・・
「性のエリート」
と
「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、殺したのは、この俺だよ」
です。
まずは「性のエリート」。
初出は「梅雨二十一(#255)」だったでしょうか。
記者の記憶にはなかったのですが、コメント欄によるとこの言い回しは「失楽園」でも使われていたということで、どうやら渡辺作品の基本フレーズとなっているのかもしれません。
なお、本紙では対義語として「性の劣等生」「性の落ちこぼれ」「性の窓際族」などを用いております。
そしてもう一方の「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、殺したのは、この俺だよ」。
これはかなり反響の大きいセリフでしたが、まあ、ひとことでいえば「アホか」というように呆れたものが多かったように思います。
なぜそんなことをアピールしたいのか、なぜ「美しい」女性なのかということにくわえ、読点の多用もアホさ加減をアップさせているのでしょう。
そしてなによりフ○チンだったと思われることが止めを刺していたのかもしれません。
いちおう、そのシーン、「風死す十二(#303)」を振り返ってみましょうか。
起き上がって窓から外を見ると、サラリーマンが駅へ向かう。すでに七時半過ぎ、新しい一日の始まりだ。
だが振り返るとベッドには冬香が変わらず休んでいる。外の活気をよそに仰向けに横たわる殺された女性、その違和感に菊治は突然、叫びたくなる。
「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、殺したのは、この俺だよ」
窓を開けて叫ぶか、管理人に連絡すれば、警官が駆けつけて現場を検証し、自分はパトカーで連行されるのか。
まあ、拘置所内での菊治のいかれっぷりからすれば、これくらいは可愛いもんだったのかもしれませんね。
はい、どんどん参りますよ。
第4位は・・・
「なのか」 46票
なるほど、そうきましたか。
菊治調で作品をつくりたければ、読点を多めに散りばめながら、接続詞は同じものを積極的に利用、描写は基本的に現在形で進め、自身の判断を加える場合は「・・・である」「・・・ようである」そして「・・・なのか」を織り交ぜれば簡単に出来上がります。
ただ、ここで注意すべきは、「である」「ようである」「なのか」は、断定から推量そして疑問形へと確度が下がっているように見えますが、実際にはほとんど同じ意味であるということです。
では、後に「なのか祭り」ともいわれた伝説のくだりを、「春昼十八(#169)」から見てみましょう。
中瀬の・・・(中略)・・・話を打ち切り、カウンターの魚を見る。
黒くて大きいのは黒鯛で、その横は眼張なのか。さらに甘鯛があり、ホウボウがいて、青みを帯びて輝いているのは鯖で、手前のやや小振りなのは鯵なのか。
「その赤いのは、喉黒かな」
いくら日本海のうまい魚を食わせる店とはいえ、頼みもしない魚をこれだけ羅列して描いたのも文学史上類を見ない快挙でしょう。
なにより、マイナーな魚の喉黒を語りながら、「鯵なのか」と超メジャーな魚に疑問形をつける、このあたりの筆運びも渡辺先生以外に真似のできるものではありませんね。
はい、それではいよいよトップスリーですよ。
参ります。
第3位は・・・
「ひひん」 53票
きました!
予想どおり、上位に食い込んできました。
先ほどのボディランゲージの回と並んで記者が本気で笑った回であります。
最近読み始めた方の中には、この伝説のフレーズをご存じない方もいらっしゃるかもしれません。
といっても説明しろといわれても難しいですよね。
「蓬莱二十(#94)」なのですが、ええい、もう、面倒なんであらすじ全部載せちゃいますよ。
###
蓬莱 二十
一度、駆け抜けた道は、二度目になるとさらに容易になる。
頂きに向かって走り出した冬香の腰の動きに菊治もつられて走り出すが、このまま果てるのは惜しく、徐々に動きをとめる。手綱を引き絞り、制御するように躰で訴える。
「少し、待って・・・」
だが冬香はとまらない。いまや冬香のほうが淫らに、貪欲になっている。
そんな積極性は好きだし、愛しいが、しかし男の性にはかぎりがある。無限で末広がり女の性に、有限で先すぼみの性は太刀打ちできない。菊治はゆっくりとブレーキを踏むように、小休止する。
「ああん・・・」と不満そうな声を漏らす冬香。たしかに8合目まで来てとめられては駆け抜けてきた意味がない。
「ごめん・・・」
声には出さず、そっと接吻する。これで我慢して欲しいとばかり、唇から肩口へ、そして耳許へ。
しかしそこが弱いことは知っていたはずだ。滅多なことでは触れてはいけない、その禁忌(タブー)を犯せば、もうとどまっていられない。
鞭を打たれた馬のように走りだす冬香に、菊治は慌てるが、一度、「ひひん」と嘶(いなな)き、駆け出した牝馬を抑えることなどできない。牝の走りに雄が煽られ、煽られた雄に牝がひたと吸いつき、そのまま二人は地響きをたてながら、快楽の先の死の谷めがけて突きすすむ。
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いや、よかったですね。
あの日の記事の突っ込みは、いろいろ書いていてもひたすら笑っているだけみたいなもんでしたしね・・・。
さあ、残すところあと二つです。
予想どおりでしょうか。
参りますよ。
第2位は・・・
「いく、いくわよう・・・」 85票
うーん、2位でしたか!
そんな声も聞こえてきますね。
あちこちでとんちんかんなセリフを吐いた冬香ですが、インパクトそして「ありえない度数」からいえばやはりこれが断トツでしょう。
冬香の誕生日旅行の箱根の夜、はじめて「殺してぇ」の声が冬香から漏れ、それに応じて菊治が果物ナイフで突き刺すでも灰皿で殴るでもなく首を絞め、気持ちよくなってしまった記念すべき回です。
「青嵐十三(#220)」、ここはぜひリンクで飛んでいただいて、その臨場感をぜひ味わって欲しいところですね。
いちおう、そのシーンを抜粋して載せておきますと、
菊治が冬香の喉元に手を伸ばしてそっと締めると、冬香は苦しげに首を左右に振って、噎(むせ)びながら叫ぶ。
「いく、いくわよう・・・」
うーん、通報騒ぎが懐かしいところです。
ということで、ずらり見てまいりました「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」も、いよいよ残すは第1位のみとなりました。
はい、もうあれしかないですね。
初出がいつだかすらわからないのですが、いまやむしろスタンダードな言葉となりつつある、あれです。
その第1位、すなわち「2005 愛ルケ 新語・流行語大賞」は、もちろん・・・
「すごおい」 87票
2位の「いくわよう」と2票差のすごおい大接戦を制しての大賞、いやほんとにすごおいです。
なにがすごおいって、別にそもそも日常生活でふつうに使ってる言葉なんですよ、「すごおい」って。
ただ、発音からする表記のイメージとしては「すごーい」なんですけど、でもこの「すごーい」を、高校生なんかじゃないいい大人が言った言葉として書くと、ちょっとおかしいですよね。
そこで「すごーい」ではなく「すごおい」と書いたところ、よりいっそうおかしくなってしまったんじゃないかと、記者は解釈しております。
とすると使われた先生ご本人は、なんでこんな言葉が1位になるのかわからんと思われるかもしれませんね。
ちなみに記者も最近は日常生活で、「すごい」を強調したいときには使っております、「す・ご・お・い」と分かりやすいように一文字ずつはっきり発音して・・・。
ということで、大賞は「すごおい」で落ち着きましたが、いかがだったでしょうか。
もちろん、ベストテン圏外や、1票しか入らなかったような少数意見の中にも面白いものもありました。
そのなかから、記者がもっとも共感したものをひとつだけ、審査員特別賞として選んで、この記事を締めくくりたいと思います。
前半において、菊治の入れ込み具合とこの小説の馬鹿馬鹿しさをもっともよく表していて、しかも「ありえない度数」もきわめて高いそのフレーズとは・・・
「このままでは、氷ででも冷やさなければ、おさまらない」 (1票)
ではみなさんの平成十八年戌年が勝ち犬の勝ち犬になりますように祈りつつ・・・。
みなさん、ほんとうによいお年を!