今日の愛ルケ(#303)
この記事は渡辺淳一先生の連載小説「愛の流刑地」を記者が個人的な視点で読み解く記事で、性的な描写もかなり出てまいります。そのような記述を好まない方、ネタバレを嫌う方、並びに15歳未満の方はご遠慮ください。
なお、記者がまとめたあらすじ中の灰色文字部分は、作品のテイストをできるだけ伝えるために原文をそのまま引用した部分です。
風死す 十二
冬香は歓びの頂点で死んだことに満足している。この死を望んでいたに違いないと思うことで、菊治はずいぶん楽になった。起き上がって窓から外を見ると、サラリーマンが駅へ向かう。すでに七時半過ぎ、新しい一日の始まりだ。
だが振り返るとベッドには冬香が変わらず休んでいる。外の活気をよそに仰向けに横たわる殺された女性、その違和感に菊治は突然、叫びたくなる。
「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、殺したのは、この俺だよ」
窓を開けて叫ぶか、管理人に連絡すれば、警官が駆けつけて現場を検証し、自分はパトカーで連行されるのか。その覚悟はあるが、いつ、どのようにするかまではまだ決めかねる。
その前に冬香の身の回りのものを整えなければならない。部屋の端のバッグから手帖をとりだし、しばらく眺める。いつも逢瀬の予定を書き留めていたその手帖ももう無駄だ。バッグに戻して携帯を手にするが、何度この携帯にメールを送って愛をたしかめ合ったことか。そう思い出しつつ開き、待ち受け画面を見る。小学生らしい子供が三人寄り添い、男の子が笑顔でVサインを出しているところを見ると、冬香の子供たちなのか。
#
「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、
殺したのは、この俺だよー」
そんなヤバイ告白じゃなくても、もし菊治がいま窓を開けて人目をひくように何か叫んだら即刻パトカー連行確定です。
だって、まだフ○チンですから・・・。
目が覚めて30分以上、死体を横にしてボイレコを聞きながらも、パンツを穿いた形跡はなしです。
それにしても、ケータイの待ち受けに子供の写真を使っているという冬香が、そして家を出るなら子供をつれて出て行くといった冬香が、仮に死にたいと思うにしても、子供たちにとって最悪のこんな形で死ぬことを選ぶとはやっぱり理解に苦しみますね。
死んでも相変わらず冬香のことはよく理解できませんが、しかし菊治のことは少しわかりました。
死体に語りかけたりボイレコを聞いたりしてましたが、けっきょく自分が楽になりたかった、そういうことのようです。
ただ、単に自分が殺しちゃったっていう罪の意識を軽くして楽になりたいというだけでもないような気がするのですが・・・。
そこで記者が現場の部屋に出向いて、思うところを尋問してみましょう。
・・・なあ、菊治さんよ。ほんとのこと吐いちまって、楽になれよ。
「だから冬香が死を望んでいて、これは愛の合作なわけで・・・」
たしかに冬香は死を望んでいたかも知れねえ。だけどちがうだろう。それは結果的にそうなっただけだ。お前さんはあのとき、首を絞めるとき、違うことを思ってたんじゃねえのか?
「違うこと・・・?俺は、俺は冬香が殺してくれというから・・・それが愛だと思って・・・だから・・・」
そうだ、冬香が殺してくれとせがむから首を絞めた、それは違えねえだろう。だがそのときお前さん、本当にそれが『愛』だと思って首を絞めたのかい?
「そうだ・・・それが冬香に対して唯一俺ができること、愛の証だと思ったんだ」
冬香を絞め殺してやることがかい?
「違う!殺す気なんてなかった・・・死ぬとは思わなかった・・・」
おやぁ?おかしいじゃねえか。お前さん、殺すことが愛だと思った、さっきそういわなかったかい?
「それは・・・」
どっちなんだい?
「・・・」
最初は死ぬとは思ってなかった。冬香が気持ちよくなるプレイのひとつだと思っていた、そうだろう?
「・・・」
だがお前さん、毎度毎度『首を絞めて』『殺して』という冬香がだんだん鬱陶しくなっていた、そうじゃねえか?
「そんなことはない。俺はそんな冬香を愛していた」
ふーん。しかしお前さん、『風死す一(#292)』で冬香が動かなくなったとき、なんて思ってた?まだ死んだと気付いていないとき、求めてきたらまた絞めてやらなければならない、そのことに軽い鬱陶しさを感じる、そういってなかったか?
「違う、鬱陶しさだけじゃなく、愛しさも感じていた・・・」
ああ、たしかに愛しさも感じるといっていたな。だが愛しいのに鬱陶しい、こりゃあやっかいだ。そうだろう?
「・・・」
お前さんは冬香の躰を開発した、いわば性のデベロッパーだ。しかし自分で開発したにもかかわらず、冬香はどんどん自分の手の届かない世界に行ってしまう。
「・・・」
お前さんはまた絞めなきゃならないのが鬱陶しいといったがそうじゃねえ。そんなふうに自分を追い越し、遠ざかっていく冬香が鬱陶しくて、憎かったんだ。
「そんなことは・・・」
・・・だからあのとき、とっさに殺したくなった。
「違う」
だから渾身の力をこめて、死ねとばかりに首を絞めた。
「違う!」
お前は冬香に嫉妬して、殺す気で首を絞めたんだ!
「ちがーうっ!!」
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・」
・・・・・・・・・たばこ、吸うか?
「・・・」
茶、飲むか?
「・・・」
しっこ行くか?
「・・・・・・・。。。」
・・・ま、なんだな・・・
「・・・」
・・・お前さん、冬香と愛を重ねるうち、越えられない「性の壁」を感じたんだろう。
「・・・」
冬香の感じている圧倒的な快楽に、お前さんは嫉妬と敗北感を覚えたんだ。
「・・・?」
このままでは自分は冬香に食べつくされて、虚無の荒野に旅立たなきゃなんねえ・・・。
「え・・・?」
読ませてもらったよ、「キョムネツ」。
「あ、あれは・・・」
よく書けてるじゃねえか。
「え・・・いや・・・」
知ってるよ、没になったんだってな。でも俺はいいと思ったよ。
「え・・・あ・・・ど、どうも・・・」
ありゃあ設定こそ違うが、結局お前さんの冬香に対する漠然とした不安を描いていたんじゃねえのかい?
「・・・・」
ひたすら広がりゆく冬香の性に、お前さんは嫉妬と不安、焦りや敗北を感じた、そうだろう。
「・・・・・」
どうだ?全部吐いて楽にならねえか?
「・・・・・・」
お前さんが冬香を愛していたのは間違いねえ。冬香もわかってくれるよ。
「・・・・・・・」
な?
「・・・・・・・・・・う・・・・う・・・・・・・ぅうわぁああああっ!俺は、俺は冬香が怖かったんだ!・・・俺が極みまで導いた冬香が、俺が愛すれば愛するほど俺の手に負えなくなっていくのがわかったんだ・・・そうだ・・・俺は不安だった・・・あの瞬間、俺は・・・俺は冬香が憎らしくて・・・・だからこの手で・・・・・・」
・・・ああ。
「・・・ごめん冬香・・・俺は・・・あのとき思わず・・・・でも、ああするしか・・・・」
そうか・・・。
「・・・ぅ・・・う・・・うわあぁぁぁ・・・」
わかったよ・・・
「うわわわあぁぁ・・・」
わかったから・・・・・
ぼちぼちパンツ穿いて連絡方法を考えろ!
※「キョムネツ」のストーリーは各自で復習しましょう。
なお、記者がまとめたあらすじ中の灰色文字部分は、作品のテイストをできるだけ伝えるために原文をそのまま引用した部分です。
風死す 十二
冬香は歓びの頂点で死んだことに満足している。この死を望んでいたに違いないと思うことで、菊治はずいぶん楽になった。起き上がって窓から外を見ると、サラリーマンが駅へ向かう。すでに七時半過ぎ、新しい一日の始まりだ。
だが振り返るとベッドには冬香が変わらず休んでいる。外の活気をよそに仰向けに横たわる殺された女性、その違和感に菊治は突然、叫びたくなる。
「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、殺したのは、この俺だよ」
窓を開けて叫ぶか、管理人に連絡すれば、警官が駆けつけて現場を検証し、自分はパトカーで連行されるのか。その覚悟はあるが、いつ、どのようにするかまではまだ決めかねる。
その前に冬香の身の回りのものを整えなければならない。部屋の端のバッグから手帖をとりだし、しばらく眺める。いつも逢瀬の予定を書き留めていたその手帖ももう無駄だ。バッグに戻して携帯を手にするが、何度この携帯にメールを送って愛をたしかめ合ったことか。そう思い出しつつ開き、待ち受け画面を見る。小学生らしい子供が三人寄り添い、男の子が笑顔でVサインを出しているところを見ると、冬香の子供たちなのか。
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「おーい、ここに美しい女性が死んでいて、
殺したのは、この俺だよー」
そんなヤバイ告白じゃなくても、もし菊治がいま窓を開けて人目をひくように何か叫んだら即刻パトカー連行確定です。
だって、まだフ○チンですから・・・。
目が覚めて30分以上、死体を横にしてボイレコを聞きながらも、パンツを穿いた形跡はなしです。
それにしても、ケータイの待ち受けに子供の写真を使っているという冬香が、そして家を出るなら子供をつれて出て行くといった冬香が、仮に死にたいと思うにしても、子供たちにとって最悪のこんな形で死ぬことを選ぶとはやっぱり理解に苦しみますね。
死んでも相変わらず冬香のことはよく理解できませんが、しかし菊治のことは少しわかりました。
死体に語りかけたりボイレコを聞いたりしてましたが、けっきょく自分が楽になりたかった、そういうことのようです。
ただ、単に自分が殺しちゃったっていう罪の意識を軽くして楽になりたいというだけでもないような気がするのですが・・・。
そこで記者が現場の部屋に出向いて、思うところを尋問してみましょう。
・・・なあ、菊治さんよ。ほんとのこと吐いちまって、楽になれよ。
「だから冬香が死を望んでいて、これは愛の合作なわけで・・・」
たしかに冬香は死を望んでいたかも知れねえ。だけどちがうだろう。それは結果的にそうなっただけだ。お前さんはあのとき、首を絞めるとき、違うことを思ってたんじゃねえのか?
「違うこと・・・?俺は、俺は冬香が殺してくれというから・・・それが愛だと思って・・・だから・・・」
そうだ、冬香が殺してくれとせがむから首を絞めた、それは違えねえだろう。だがそのときお前さん、本当にそれが『愛』だと思って首を絞めたのかい?
「そうだ・・・それが冬香に対して唯一俺ができること、愛の証だと思ったんだ」
冬香を絞め殺してやることがかい?
「違う!殺す気なんてなかった・・・死ぬとは思わなかった・・・」
おやぁ?おかしいじゃねえか。お前さん、殺すことが愛だと思った、さっきそういわなかったかい?
「それは・・・」
どっちなんだい?
「・・・」
最初は死ぬとは思ってなかった。冬香が気持ちよくなるプレイのひとつだと思っていた、そうだろう?
「・・・」
だがお前さん、毎度毎度『首を絞めて』『殺して』という冬香がだんだん鬱陶しくなっていた、そうじゃねえか?
「そんなことはない。俺はそんな冬香を愛していた」
ふーん。しかしお前さん、『風死す一(#292)』で冬香が動かなくなったとき、なんて思ってた?まだ死んだと気付いていないとき、求めてきたらまた絞めてやらなければならない、そのことに軽い鬱陶しさを感じる、そういってなかったか?
「違う、鬱陶しさだけじゃなく、愛しさも感じていた・・・」
ああ、たしかに愛しさも感じるといっていたな。だが愛しいのに鬱陶しい、こりゃあやっかいだ。そうだろう?
「・・・」
お前さんは冬香の躰を開発した、いわば性のデベロッパーだ。しかし自分で開発したにもかかわらず、冬香はどんどん自分の手の届かない世界に行ってしまう。
「・・・」
お前さんはまた絞めなきゃならないのが鬱陶しいといったがそうじゃねえ。そんなふうに自分を追い越し、遠ざかっていく冬香が鬱陶しくて、憎かったんだ。
「そんなことは・・・」
・・・だからあのとき、とっさに殺したくなった。
「違う」
だから渾身の力をこめて、死ねとばかりに首を絞めた。
「違う!」
お前は冬香に嫉妬して、殺す気で首を絞めたんだ!
「ちがーうっ!!」
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・」
・・・・・・・・・たばこ、吸うか?
「・・・」
茶、飲むか?
「・・・」
しっこ行くか?
「・・・・・・・。。。」
・・・ま、なんだな・・・
「・・・」
・・・お前さん、冬香と愛を重ねるうち、越えられない「性の壁」を感じたんだろう。
「・・・」
冬香の感じている圧倒的な快楽に、お前さんは嫉妬と敗北感を覚えたんだ。
「・・・?」
このままでは自分は冬香に食べつくされて、虚無の荒野に旅立たなきゃなんねえ・・・。
「え・・・?」
読ませてもらったよ、「キョムネツ」。
「あ、あれは・・・」
よく書けてるじゃねえか。
「え・・・いや・・・」
知ってるよ、没になったんだってな。でも俺はいいと思ったよ。
「え・・・あ・・・ど、どうも・・・」
ありゃあ設定こそ違うが、結局お前さんの冬香に対する漠然とした不安を描いていたんじゃねえのかい?
「・・・・」
ひたすら広がりゆく冬香の性に、お前さんは嫉妬と不安、焦りや敗北を感じた、そうだろう。
「・・・・・」
どうだ?全部吐いて楽にならねえか?
「・・・・・・」
お前さんが冬香を愛していたのは間違いねえ。冬香もわかってくれるよ。
「・・・・・・・」
な?
「・・・・・・・・・・う・・・・う・・・・・・・ぅうわぁああああっ!俺は、俺は冬香が怖かったんだ!・・・俺が極みまで導いた冬香が、俺が愛すれば愛するほど俺の手に負えなくなっていくのがわかったんだ・・・そうだ・・・俺は不安だった・・・あの瞬間、俺は・・・俺は冬香が憎らしくて・・・・だからこの手で・・・・・・」
・・・ああ。
「・・・ごめん冬香・・・俺は・・・あのとき思わず・・・・でも、ああするしか・・・・」
そうか・・・。
「・・・ぅ・・・う・・・うわあぁぁぁ・・・」
わかったよ・・・
「うわわわあぁぁ・・・」
わかったから・・・・・
ぼちぼちパンツ穿いて連絡方法を考えろ!
※「キョムネツ」のストーリーは各自で復習しましょう。