「音の記憶者」
すべてに呼吸がある、それを聞くには耳を傾ける、もしくは耳をそばだてる、
どんな言い方でも間違いはないけれど、かと言って正確なわけでもない、それでは不足がある。
いつだって。あらゆる感覚を言葉にするとき、伝達には共通する感覚がない限り不足が生まれる。
私たちは記録者ではなく記憶者として在る。レコーダーではなくプレイヤーとして在る。
音そのものを記憶しようとするとき、もっとも身近なのは風の音色を掴み取ることだと思う。
そこには音色がありリズムがあり旋律がある。雨が混じる、雪が混じる、あるいはなにもかもが悲鳴をあげている。
音楽は何処からでも鳴る。記録者ではなく記憶者として在るべき者々は雪が溶け、そこから流れて凍りついて流氷としてゆく命に、山脈をたどり海にまで注がれる波々に、音楽はただ宿り鳴り続ける。
いま、この瞬間も、そうだ。呼吸とは即ち、音楽である。
【 了 】
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