"学者への道"

"学者への道"

ドイツ研究生活を舞台にした生物学者の奮闘記。"学者への道" in Arizona、"学者への道" in California Berkeleyの続編ブログです。


2009年、生物学者になることを志し、アリゾナ州ツーソンに単身渡米


2011年、The University of ArizonaでMaster取得


2013年は、PhD3年目にUniversity of California Berkeley校のIntegrative Biologyに編入。ナショジオ研究奨学金の獲得、二本の論文投稿、共同研究が決まり、プライベートも現地の日本人の友達もでき、日本一時帰国も果たした。

2014年は、自分の研究がメディア教科書を飾る喜びと、PhD適性試験勉強に捧げる日々の苦しみを経験し、なんとか適性試験に合格しPhD candidateにレベルアップ。夏休みはボリビアのネズミ調査で大冒険。年末年始は、台湾と日本を満喫

2015年は、アメリカ政府から大きな研究費も獲得し、Hatch Stationに記事まで書いてもらって、論文作成に悪戦苦闘。夏休みは日本の大学で、秋学期は台湾の大学で研究発表。

2016年は、好きなことを再確認し、実験に没頭。教師(TA)として実績が大学に評価され表彰もされました。夏休みは日本文化について考えさせられ、秋学期は卒業や進路に悩み、気づけば30歳

2017年は、新しい授業に挑戦し、単著論文投稿、ドイツでのポスドクオファーを獲得。初めて教えた脊椎動物の自然史という授業で素晴らしい生徒たちに恵まれた。

2018年は、PhDの学位取得とポスドクのプロジェクトに全力で立ち向かい、生物学の博士としてドイツのマックスプランク研究所で6月1日から31歳新社会人デビュー!


2019年- 現在、"学者への道" in Germanyにタイトルを変え、ブログ再開。2023年からアリゾナ州立大学で助教授として働くことになりました!


このブログは"学者への道" in Arizona、"学者への道" in California Berkeleyの続編ブログです。大学院留学をサポートするカガクシャ・ネット、在日アメリカ大使館のブログ「留学中の先輩の声」、UC Berkeleyの情報マガジンHatch Studioでも記事を書いていました。



このブログはこんな内容を含みます。

・大学院生のアメリカでの日常、研究者のドイツでの日常

・学ぶ喜びと研究者の苦悩

・学者になるための心意気

「学」びたいと思う「者」すべてに、このブログが何らかのかたちで役立ってくれればと思います。



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皆さま、お久しぶりです。

 

高校3年時に「学者への道」を志し、

 

22歳で海を渡ったその13年後、

 

嬉しいご報告があります。

 

 

 

このブログが誕生した地、

 

アリゾナ州にある、Arizona State Universityで、

 

来年の1月からAssistant Professor (助教授)として、

 

自分の研究グループをもつという夢が叶います。 

 

 

 

過酷な就活が終わった解放感、

 

実力以上に評価してもらった期待に、応えられるのかという重圧感、

 

いろいろな気持ちが入り混じりながら、相変わらずドタバタ元気に生きています。

 

 

 

というドイツ生活4年目の近況報告と共に、

 

あまり知られていない学者の就活とはどんなものなのか

 

紹介したいと思います。

 

昔からずっと応援してくださった読者さんたちへの感謝の気持ちも込めて、

 

久々に時代錯誤の長文ブログを更新しようと思います。

 

 

 

今回は、

 

1. 学者の海外就活体験談

 
2. 夢が叶った先の不安と興奮

 

についてまとめてみたので、ご笑覧ください。

 

 

 

 

 

1. 学者の海外就活体験談

 

大学助教授になるためには、

 

博士号が必須な場合がほとんどで、

 

多くの理系分野ではさらにポスドクという数年の修行期間を経て、

 

主に業績コネの三要素で採用が決まります。

 

 

 

アメリカのR1大学と呼ばれる博士課程をもつ研究大学の場合、

 

毎年秋頃に求人広告が出され、

 

書類審査、一次面接、数日間に及ぶ最終面接が行われ、

 

数名の候補者が順位づけされ、

 

上から順に給料や研究費の条件交渉を経て、

 

春頃に契約書にサインするという流れです。

 

 

 

 

自分の場合は14校に応募して、5校から一次面接に呼ばれ、2校から二日間の最終面接に呼ばれました。

 

たまたま自分の専門分野が進化学と腸内微生物学というまだ珍しい組み合わせだったのと、業界のトレンドのおかげで、運よく面接やオファーを得ることができましたが、

 

好きなことだけをやっていたいというアカデミアの研究者は、自分を含め極めてわがままな社会不適合者が多いので(偏見です)、

 

自分をひたすら売り込むという就活は、研究の時間が削がれ、慣れていない営業にストレスを感じることも多く、精神的にも体力的にも過酷でした。

 

 

 

ステップ1: 書類審査

 

なぜかレストランに例えて、一般的なR1大学の書類審査内容を先輩などからもらったアドバイスを交えてご紹介:

  • CV (履歴書): 食品表示ラベルのようなもの食品の裏に内容物が細かく書いてあるように、学歴、論文出版歴、研究費獲得歴、学会発表歴、教育活動歴など、ただただ箇条書きが続く文字の羅列。なので、できるだけ細かく長くてオッケー。

  • Cover Letter (カバーレター): テーブルに座ってまず渡されるメニューのようなもの。このレストランは何がオススメなのか、どんな食材が他の店にはないのか、メニューで強調するように、自分の強みをアピールするもの。ヘッダーや手書きのサインを加えて雰囲気作りをしたり、申請先の教授の名前を出して志望動機を具体化したり、全ての提出書類をメニューのように短い文章で1~1.5枚に綺麗にまとめる。

  • Research statement (研究に関する書類) : 肉汁溢れるメインディッシュのようなもの。メニューが魅力的で入店したお客さんが一番期待する料理のように、研究者としてのポテンシャルが問われる大事な書類。主軸となる自分の研究テーマに沿って、過去の研究業績と将来の研究ビジョンを3~4ページにまとめる。胸焼けさせないために途中にカラフルな図を入れてみたり、まだ業績としてカウントされていない現在の研究を説明したり、自分の研究テーマの学術的・社会的意義を語る。

  • Diversity statement (多様性に関する書類) : この数年で台頭してきたヘルシーでビーガンなメインディッシュのようなもの。肉を提供する店もせめてベジタリアン料理も提供できないと今どきダサいという考え方があるように、生まれつき恵まれた白人のおっさんばかりがいる職場は今どきダサいという欧米高学歴層の教養や倫理観を問われる書類。欧州・アジアでよく叫ばれる男女機会均等や性の多様性だけでなく、民族多様性やマイノリティーへの機会均等に少なくとも表向きには本気で力を入れている米国大学。ビーガン料理がない店には行かないという極端な人がいるように、大学によってはこの書類をまず読んでからしか残りの書類を読まないと明記している求人広告もあるほど。自分の場合、女性、マイノリティー、英語が第二言語の学生を指導してきた具体的な数、こんなブログまで教育普及活動に含めながら、自分の経験を交えた理想論を1−2枚で語る。勘違いされがちだが、自分がマイノリティーである必要はなく、多様性について考えを持ち、行動してきたことを示すことが大事。

  • Teaching Statement (教育に関する書類): お店によってはメインにしているが、別に頼まない人もいるデザートのようなもの。大学経営が研究の質でなく授業の質で成り立っているR2大学や短大などの場合、教育経験はすごく大事。研究費を稼ぐことが主な仕事になるR1大学の場合は一番重要ではない書類。米国大学院の留学生は、Teaching Assistantの経験が無駄に豊富な場合も多いので問題ないはず。授業をした経験がない場合も、教育哲学や将来の授業プランなどを語るだけでもよし。母校でゲストレクチャーをさせてもらうなど無理矢理経験を作ったり、学生の研究指導の経験を書くのもよし。

  • Recommendation Letter (推薦状) : 食べログのレビュー、信頼できる口コミのようなもの。有名な料理評論家に絶賛されるレストランのように、分野を代表する有名な教授が絶賛してくれる推薦状が理想。コネと運の要素が一番強い書類。同じ実力の二人がいたら、採用側も人間なので、知人が絶賛している応募者を選ぶ可能性が高い。コネクションの重要さは万国共通だが、アメリカに比べてヨーロッパとアジアの方がコネの要素が強い印象。推薦状を頼む相手を選べるなら、まだ知られていない若い優秀な先生より、肩書きと業績で先生を選ぶべし。

 

ちなみに書類の申請は全てオンラインで、世界のどこからでも気軽に応募できます。

 

(というのも、日本の大学に応募する場合の多くは論文や申請書類を印刷して大量の紙を郵送する方法しか受け付けない、という21世紀の衝撃。欧州・米国・中国・中東・アフリカからの同僚に驚かれ、韓国の同僚だけが仲間だって言ってくれて爆笑しました。郵送による時間やお金のコスト、人材獲得の減少、環境負荷を考えると、日本人としてこれは正直笑えないですよね。)

 

 

 

ステップ2: 一次面接

 

数百通の書類審査を突破すると、10~20人ほどが一次面接に呼ばれ、

 

大学側5名ほど(主に教授陣、学生代表が参加することも)と30分~1時間のオンライン面接をします(コロナ前のフォーマットは不明)。

 

事前に面接に参加する人たちの名前や質問内容が知らされる場合と知らされない場合があります。

 

でも対策は共通していて、一緒に働くかもしれない同僚を調べること。

 

教員一人一人の研究を調べて、学科の強みと弱みを把握し、自分がこの学科に何を提供できるのかを考えます。

 

ほぼ必ず聞かれる質問内容は、

  • なぜこのポジションに応募したのか?(学術的、個人的な理由を交えてなぜ自分でないといけないのか語る)

  • 研究ビジョンは?(エレベーターピッチと言われる簡素に自分の研究の面白さ強みを語る)

  • 大学教育における多様性についての考えは?(誰でも言えることより多様性促進のためにやってきた自分の経験を語る)

  • 教育哲学は?(お気づきのように書類審査の内容を簡素に語れればオッケー)

  • 我々に質問はありますか?(質問を切らさないように用意しておく)

他には、一番最初に応募する研究費の内容は?学生指導における哲学は?などなど。

 

 

ステップ3: 最終面接

 

一次面接の後は、3−5人の最終候補者に絞られ、いよいよ二日間の最終面接。

 

コロナ中だったこともあり、東海岸の大学は二日間完全リモート面接、アリゾナ州立大学は現地まで招待してもらえました (米国大学の場合、面接に伴う旅費・ホテル代・食事代全て出してくれます)。

 

内容は、公開セミナー(研究発表)、チョークトーク(将来の研究プラン)、教授やお偉いさんと一対一の面接をほぼ休みなく次から次とこなし、学生との朝食昼食、教授たちとの夕食、食事中も気が抜けない2日間が続くという、精神力と体力の限界が試されます。

 

アメリカの助教授のリクルートは比較的透明性が高く、一般的には一週間に1~2人最終候補者を呼び、学科全体でセミナーに参加し、学生にも投票権がある場合も多く、学科全体での意見を集め、会議により候補者の順位が決まり、上から順番に内定・条件交渉の連絡がきます。

 

準備としては、同僚から意見をもらいまくり洗練されたプレゼンをひっさげて、面接スケジュールに載っている人をオンラインでストーキングするほど調べること(代表論文を読んだり、共通する学術的興味を探すなど)。自分のように時差がある場合、リモート面接が夜中まで続くので、怒涛のスケジュールをこなせる基礎体力づくりは冗談抜きで大事です。

 

 

内定の連絡がきた後も、喜ぶ暇なく、将来の研究室に必要な機材や人的資源の交渉が求められ、お互い合意した時点で晴れて契約となります。

 

 

 

2. 夢を叶えた先の不安と興奮

 

過酷な就活を終えて、

 

長年の大きな夢が叶い、

 

偉そうなブログを書き、

 

さぞかし映画のようなエンドロールが流れ、

 

全ての不安や悩みが消え去ってハッピーエンドな気持ちになるのかな、

 

って自分でもちょっと期待したんですけど、

 

叶えてびっくり、楽しみより不安のビッグウェーブ(笑)

 

 

 

5年以内に業績を出さないとクビという不安 (テニュア/終身雇用審査)、

 

経営やマネージメントの知識と経験ゼロなのに初めて人やお金を管理する責任と重圧、

 

面接で少しでもよく見せようと自らハードルを上げに上げた自分に、本当になれるのか?

 

せっかく一つの挑戦を終えても、また新たな挑戦が待っているという、

 

何度も繰り返してきたわりに慣れないループ。

 

今度こそ手が届かないんじゃないか、

 

って、挑戦前はいつもビビっています。

 

 

 

 

でもようやくビビってる気持ちと共存して、

 

最近はやれるだけやってみようというワクワク感も湧いてきました。

 

このポスドク4年間集大成の研究チームミーティングで、社会の役にも立たない、答えのない問題をみんなで熱く討論。気づくと3時間以上経ってしまっていたのにまだ話し足りないと感じてる自分に気づいたり。

(世界中1000人以上のゲノムとウンチを集めて、ヒトの腸内細菌はどこから来たのか?という研究イメージ)

 

日中にプロ野球中継(ヤクルトファン)を聞きながら最低限の仕事を器用にこなせるようになった自分より、たまーに朝から晩まで狂ったように働き、土曜日返上で先生とオフィスにこもり、マンツーマンで論文を仕上げるのも嫌いじゃない。

 

(この写真はさすがに仕事中でなく趣味に明け暮れる週末の一風景です)

 

硫黄臭のすごい温泉が混じった一年中暖かい水が流れている珍しい川で、身勝手に放流され、大量繁殖しているアフリカ・南米の熱帯魚(グッピー、モーリー、シクリッドなど)と戯れて心の底からの大興奮したり。

(ペットショップで売られている赤、青、黄色のNeocaridinaという日本やアジア原産の美しい小エビがドイツの川に。)

 

そんな珍しい川に適応進化した動植物を研究するのも面白いんじゃないか、こんな実験はどうか、って、往復6時間の車の中で延々と一緒に盛り上がれるオタクたちや朝まで科学を語れちゃう日本人研究者に囲まれているのもやっぱり大好きで。

 

(アクアリストで自分のネズミ飼育を手伝ってくれるスタッフの同僚Mさん)

 

ドイツのカフェで優雅にこのブログを書いていると、ケーキにフォークが刺さって出てきた上(ドイツあるある)に、Cafe Americanoを頼んだら、普通のコーヒーの横にお湯がついてきたという、自分の知らない世界、文化、常識に驚かされたり、笑わされることはやっぱり最高のエンタメ(ちなみにアメリカ文化はこんなもんじゃないほどクレージー)。

(欧州ではエスプレッソが主流なので、エスプレッソにお湯を足すという説明を店員は理解してくれず。。。)

 

 

 

 

自分の好きなことを、好きな時に、好きな人たちと、好きなだけ研究して、

 

大好きなことを若い世代に伝えていく仕事は、

 

究極のわがままで、やっぱりワクワクする。

 

 

 

きっと研究費が得られなかったり、一からの授業作りに苦戦したり、会議・雑務・学生指導に時間をとられたり、これから想像もできない多くの壁が迫ってくるんだろうけど、

 

初めて一人で海外に飛び出し、からっぽの脳みそと根性だけで、明日を生き抜くだけを考えて生活していた過去のアリゾナ時代の自分の挑戦に比べれば、

 

今ビビっている未来のアリゾナ時代の自分の挑戦は大したことではないのかもしれない。

 

 

 

「凶暴なスマイルまだスタンバイしてる

 

削られた牙を研ぎ直して

 

憶えてる限りで一番の光を探す」

 

“Come on ghost” The Pillows  

 

 

 

 

進化学、微生物学、医学。

 

このヘンテコな組み合わせで、おもしろい研究グループを作ります。

 

それぞれの分野の専門家からは邪道だと言われても、

 

自分がそこに面白さと可能性を感じるなら、

 

もう一度本気で挑戦してみたい。

 

 

 

とここで宣言してしまえば、もうやるしかないので、

 

人間は追い込まれれば追い込まれるほど力を発揮できる、

 

という生き物の特性を信じて、

 

助教授デビューまでの半年間、

 

残りのドイツ生活を楽しみ尽くします。

 

 

最後になりましたが、「学者への道」を支えてくれた全ての人に感謝です。

 

今後立場上、この幼稚で暑苦しいブログを続けていくべきか決めかねていますが、

 

また不定期に更新できればと思っているので、

 

今後とも「学者への道」を暖かい目で見守っていただければと思います。