ニュースにでました!メディアと研究者 | "学者への道"

"学者への道"

ドイツ研究生活を舞台にした生物学者の奮闘記。"学者への道" in Arizona、"学者への道" in California Berkeleyの続編ブログです。

なんと渡米後第一号となる自分の論文が、

いろんな国(アメリカ、イギリス、オーストラリア、ハワイ、インド、アラブ、ボスニア・ヘルツェゴビナ!!など)の、

いろんなメディア(UC Berkeley, Yahoo, Fox news, Daily Mail, ABC, io9, Livescienceなど)で、

ニュース記事として取り上げられました。


(io9.com より)


家族、親戚、友達からおめでとうメッセージをもらえたり、

読者や専門家から論文のコピーをくれというメールや、

リポーターからの電話やメールが毎日きて有名人気分を味わえます。



もちろんただの大学院生の小プロジェクトが、

世界中の多くの人に読んでもらえて、

自分の研究に興味をもってもらえることはうれしんですが、

腹立たしいことや恐れてることもあるので、

メディアと研究者の関係をまとめてみました。



1. 目的の違い

メディアは多くの人に読んでもらうことで評価され、

研究者は科学を前進させることで評価されます。

極論を言えば、

メディアはどんなやり方でも多くの人に読んでもらえる記事を書けばOK。

研究者は世界人口70億人のうち同じ分野の3人の研究者にしか読まれなくてもOK。


メディアが記事を書く理由と、

研究者が論文を書く理由は根本的に違うんです。


2. メディアにより利益を得る研究者

よくテレビにでてくる「私が研究者の代表です」的な研究者に限って、

アカデミア(科学の世界)では、大した仕事をしておらず、

評価されていないということが多くあります。


もちろん世間からもアカデミアからも評価されている研究者も多くいます。

科学をわかりやすく社会に説明したり、教育普及という点ではとても重要なのですが、

大学教授という職業をとる競争においては、論文の質や数と比較して、メディアでの活躍は直接のプラスにはなりません。


しかし、メディアに宣伝してもらうことで、 論文の引用件数を伸ばすことにつながることもあり、間接的なメリットにはなりえます。



3. メディアにより不利益を被る研究者

自分は「肥満の人やネズミに特徴的な腸内細菌組成が寒い地方の人に多く見られる」、

ということを見つけたのですが、

メディアによっては、寒い地方に引っ越すと太るとか、痩せたければ暑い地方に引っ越せとか、イギリス人が一番デブいとか、サンタクロースはデブいとか、

自分の研究結果を無視した記事を書かれて、腹立たしい。(人の体重のデータすら載せてないのに勝手に数字をどっかからもってこられたり)

幸い個人宛にクレームなどは来てませんが、ニュースのコメント欄なんか読んでいると誤解されて悔しい。


自分のルームメートであり、オフィスメートのLちゃんは、

鳥体内の重金属蓄積に関する研究を発表した際、

重金属を垂れ流している企業からのバッシングに悩まされ、

取材一切拒否せざる終えなかったとか。

でもNature Newsに取り上げられるなどアカデミアからはしっかり評価されている。


メディアに誤って報道されると、研究者として、個人として、害を被ることもありえるということ。



4. メディアが全部悪いのか?

STAP細胞を開発した小保方晴子博士。

一連の報道で研究や私生活に支障がでているというニュースを見ました。

最初、日本語でニュースを読んでいると、AO入試だ、早稲田だ、美人だ、ブスだって記事ばっかりで、

いったい何がすごい発見なのか読みとることができなかった。

日本人の活躍をわざわざ英語ニュースを読まないと理解できないという悲しさ。

酸性のお風呂につけるだけで細胞を初期化させ、より効率的に万能細胞をつくることができるという原理を発見したことがすごいんであって、

発見者が女性だからとか、容姿やプライベート、どんな風に大学に入って、どこ大学に行っていたからとか、発見内容に比べればどうでもいいこと 。

(若い年齢で理研のプロジェクトリーダーというだけで、どれだけ研究者として優秀かは察しますが)


じゃどうでもいい報道をする日本のメディアがすべて悪いのか?

と言われれば、それがすべてとは言えないと思うんです。

だって、どうでもいい記事に需要があるんだから。

例えばYahooの記事アクセスランキングを見ると、

だれかとだれかの熱愛、浮気、破局というしょうもない芸能記事か、

いかに中国と韓国が敵で日本が優れているかという過激な単一な論調の記事ばっかり。

日本のいいところはいっぱいあるんだけど、

メディアの問題の根本は社会にあるのかもしれないと思ったり。



日本のネットニュースしか読めない自分には今回のSTAP細胞報道で、

日本社会の科学に対する理解や意識の低さ、

プロフェッショナルな女性へ対する認識の低さ、


っていうネガティブな印象が強かったけど、

それは科学も男ばっかりが独占してきた分野の一つであること、

まだまだ日本は外国と比べて科学分野で女性の研究者って少ないこと、

を考慮すれば今はしょうがないのかもしれません。



日本でも大学によっては女性教授枠を設けたり、

女性研究者を応援する助成金とかあるし、

これからどんどん優秀な若い女性が増えれば、

女性研究者への報道内容も変わるはずだし、



研究内容のおもしろさを伝える難しさは、

このブログを続けてきてわかっているつもりだけど、

日本でもサイエンスライター専門の授業や学校が充実すれば、

科学に対する報道内容も変わるはず。



取材を受けてわかりましたが、

メディアの中にも真実を伝えようと、

何度も記事のタイトルを議論しようとする熱心なライターに出会いました。

これからニュースを読む時、書き手や記事の質を意識してみようと思わされます。



長くなりました、進級試験勉強にもどります(笑)