夢への大きな一歩 | "学者への道"

"学者への道"

ドイツ研究生活を舞台にした生物学者の奮闘記。"学者への道" in Arizona、"学者への道" in California Berkeleyの続編ブログです。

3日前、夢への大きな一歩を踏み出せた。

研究室のみんなとちょうど昼食にでかける時、

自分の携帯に電話がかかり、

「おめでとう。いい知らせだ。君の研究はすごくおもしろい。」

と、知らないおばちゃんから連絡があった。

アメリカ政府(NSF)からDoctoral Dissertation Improvement Grants (DDIG)という研究費獲得を知らせる連絡だ。

それを聞いた研究室メンバーが自分以上に飛び跳ねながら大喜びしてくれてようやく実感が湧いた。

DDIGは生物学を学ぶアメリカの大学院生が申請できる最大規模の研究費で、

金額にして20,000ドル(約200万円)、学者への道の登竜門的研究助成金。

お金はもちろんだが、一流の科学者たちに自分のアイディア、研究を認めてもらえたことが一番うれしい!

夢へまた一歩、近づけたと思える瞬間だった。





最近、夢を語り合った仲間もそれぞれの夢への大きな一歩を踏み出しているのでご紹介。



Yちゃん。

つい先日、おそらく日本人初であろう、カリフォル二大学Davis校獣医学科(Vet School)から合格通知が届いた。日本の高校では部活onlyで、勉強できないくせに留学するのは逃げだとまで言われながらも、コミカレを経て、UCバークレーに入学。人より勉強しだすのも準備するのも遅く、英語のハンデがあり、出願書類の点数は平均以下。そんな彼女が世界トップレベルの獣医学科に入学できたのは、おそらく面接試験。履歴書でどんなにすごい経験が羅列されていてもそれが本人の人間性に生かされていないなら話せばバレるもの。目の前のことに後先考えず体当たりでぶつかった本物の経験と努力が、気づかないうちに実力となり、認められた。ありえない夢を叶えた瞬間のYちゃんの泣きじゃくる顔は、

ものすごい勇気を与えてくれる。



Mちゃん。

バークレーで美術史と哲学を学び、法律の知識なんてちっともなく、日本語だってろくに話せないくせに、慶応大学大学院法学科に合格した。出会った日に、法律を学んで美術を守る仕事がしたい、ダメなら大学教授!と年上の自分にタメ語でこれまたどでかすぎる夢を真面目に話してくれたのが忘れられない。バークレー卒業後、一年勉強するのを覚悟で受けた大学院の試験に見事合格。今は司法試験を勉強するために塾に通っているらしい。夢への大きな一歩を踏み出し、信じられない夢に現実味が帯びてきた。常識にとらわれないまっすぐな性格は、

自分を信じる大切さを教えてくれる。



Rくん。

NHKの「さわやか自然百景」で彼が製作に携わった「北海道 美瑛の森」が去年の12月に放送された。日本の学部時代、同じ研究室で彼はクモの研究をし、夜の研究室や学校の屋上で夢に恋愛に朝まで語りあった人間。卒業後はフリーのカメラマンになるべく、焼き鳥屋のバイトやティッシュ配りをしながら生計を経て、新聞のコラム連載や子供用の絵本や図鑑、テレビで特集されるまでのし上がり、見事に夢を叶えた。苦難の時も経て一度はフリーでやっていくことをあきらめたが、NHKに引き抜かれ、年上で愚痴を吐くおじさんアシスタントを引き連れて撮影を任され、出来上がった作品がこれ。一時帰国時にわざわざダビングしたDVDを渡してくれた。不器用だけどまっすぐな男の中の男。自分とは対照的に背中でモノを語るその姿は、

かっこよさとは何か示してくれる。



Tくん。

日本で高校の地理の先生として教鞭をとり、テニス部を指導する傍ら、研究までこなすスーパー先生。高校で同じテニス部で一緒に汗を流し、生徒からいじめにあっている先生をクラスを敵にまわしてでもかばうことができるまっすぐな人間。東京学芸大、またその大学院を卒業し、高校地理教員として働きながら、「研究をしない教員はだめだ」と学会などにも積極的に参加。しかし、目の前の生徒と向き合う大切さと研究の大切さの間で葛藤する。人間一人ひとりと真剣に向き合うその姿勢と哲学は昔と変わらない。どんな人間の意見も素直に聞き入れ、自分の意見をはっきり言える、理想の先生。誰よりも頼れる相談相手は、

いつも正しさへ導いてくれる。



これは全部、夢への大きな一歩を踏み出せたストーリーだけど、

もちろん、どんなに頑張っても人に認めてもらえなかったり、

たとえ一歩を踏み出せても、思うように進まない、

なかなか結果がでないことはよくあること。



でもだからといってあきらめることはない。

踏み出せなかったならまた踏み出せばいい

と言わんばかりのCさん。

昨日まで、うちの学科の大学院の面接期間で、受験者をうちに泊めたり、食事に連れて行った。Cさんは生物学者になる夢があり学部を卒業したが、母親の病気を助けるため、お金を稼ぐ目的で法学のプロフェッショナルスクールに入る。しかし、母親の死を境にドロップアウト。カザフスタンで3年、中国で3年、生物学や数学を教え、学部卒業後10年経ってから、もともとの夢であった生物学者になるため再挑戦し、今バークレーの面接を受けに来ている。

しかし、再挑戦の道は険しい。面接にくる受験者にはCさんより若く、専門知識も研究経験も勝る人ばかり。例えば、まだ学部4年生のAちゃん。地学・生物学ダブル専攻で、成績も研究経験もトップクラス。しかも500人の高校生からなる研究プログラムを指揮するリーダーで、その発表会があるからと、三日ある面接期間の二日目の途中で帰った受験生。そんな化けものばっかり。

そんな化けもの集団の中でバークレーの大学院に入学できるのは数人。

その椅子をかけ、夢への大きな一歩へ再挑戦するCさん。

遠回りしたからこそ生まれる説得力のある情熱とやる気はたしかに光ってた。

夢への大きな一歩を踏み出せそうな学生の特徴は、

やっぱりゆるがない何かをもっている人間なんだろうな、と改めて思わされた。



あきらめずに頑張れば夢は叶うのかもしれないと思えるのは、

ほとんど実らない努力の中に稀に訪れる、努力が報われたんだという自信。

今回の研究費獲得も、仲間のエピソードも、このまま続けていく自信になる。



その自信がどんなにさくてもきくても、夢への一歩になる。

その自信がのものでも自分のものでも、夢への一歩になる。



これがわかっただけでもまた頑張れそう。

目標にしている今学期論文3本、絶対投稿してやる。