器質性妄想とトピナ | kyupinの日記 気が向けば更新

器質性妄想とトピナ

彼女は、セカンドオピニオン目的で初診している。だから紹介状などない。主訴は「不安が強く人前に出られない」「人前に出るのが怖い」など。うちに来た理由だが、誰かが勧めてくれたらしい。(詳細は聴いていない)

彼女は学生時代の些細な失敗を契機に、人目を気にするようになった。その後、人の話し声が聴こえると、自分の悪口を言われているような感覚に陥るようになったらしい。もう10年以上続いているという(参考)。

そのためにどのような職場でも長続きしない。2年前くらいにある精神科の病院に受診したところ、ルボックス150mgソラナックスを処方された。その後、自分で薬を減らそうとしたが、ルボックスを50mgまで減らすと悪化するという。100mgだとまあまあだったらしい。

元々の性格は、引っ込み思案で友人も少ない。自分の言いたいことが全然言えないという。初診時は今までの処方を尊重し、新規にルーラン1mgだけ追加した。ルーランはこのような人に、なにかしら好影響を与える不思議な薬である。(量が少なくても変化が目視できる。)

デプロメール 75mg
ルーラン   1mg
ソラナックス 1.2mg


最初の本人の服用感だが、少し良いかもしれないと言ったところ。

ルーランはテンションが少し上がった様な感じで、以前より買い物に出かけるようになった。またダメ元で仕事をしようかと思うようになったという。

これに加えレスキューレメディーを併用し、デプロメールを150mgまで増量してみた。当時は「社会不安障害の人にはデプロメール」と思っていたこともある。

ただ、今はこのような人にデプロメールはあまり使わなくなっている。もちろんパキシルも使わない。

その理由は概ね碌な結果にならないため。広汎性発達障害模様の社会不安障害の人にデプロメールは根本的な解決にならないことが多い。つまり治療の最高到達点が低い。(参考

初診2ヶ月目にはもう仕事を始めており、1日も休まずに行っていた。レスキューレメディーは時々使っているらしい。表情が明るくなり、ハキハキしている。いつまで服薬しないといけないかと聴く(彼女はすぐに薬を止めてきた歴史がある)。

このような急速な良くなり方は、やがてエネルギー切れになることが多い。最初の改善のパターンは入院治療の初期の改善にも似ている。(この人は外来だったが・・)

また、広汎性発達障害の人へのSSRIの振る舞いの典型的なパターンである。このまますんなりいくとは思えなかった。

デプロメール 150mg
ルーラン   1mg
ソラナックス 1.2mg
レスキューレメディー


バッチフラワーはホワイトチェストナットでも良いと思ったが、いずれ止めるつもりだったし、本人がレスキューレメディーを気にいっているのでそのままとした。

次第に通院が不規則になり、ほとんど来院しなくなった。後に再診した時の話ではやがて仕事も辞めてしまったらしい。ここで半年以上のブランクが生じた。

彼女には思春期から特殊な妄想があり、器質性とは言え荒唐無稽といって良い妄想である。それは若い頃、人前で恥をかいたことに由来しており、誰かがそれを言いふらしており、東京、北海道でも誰でもそれを知っていると言う。全てのテレビのアナウンサーも知っていると言うのである。

統合失調症ではなく、こういうタイプの妄想を持つ人々は「妄想性障害」と言われる。「統合失調症ではない」のが最大のポイントである。(統合失調症との決定的な相違は対人接触性)

このような疾患は最近から出現したわけではなく、かなり昔から、たぶん有史以前から存在したと思われる。このような自我漏洩タイプの妄想を訴えた場合、経験の乏しい精神科医は統合失調症と診断してしまう。

実は自我漏洩タイプの異常体験は疾患特異性があるとまでは言えない。

確かに統合失調症的ではあるが、最初に統合失調症でない人は断層の手前におり、しかも決して向こう側に渡ることはない。(妄想性障害のまま統合失調症にはならないと言う意味)

これはたぶん器質由来のうつ状態ないし強迫に由来する複雑な二次妄想であろう。このタイプの妄想にはセレネースやリスパダールを投与しても効果的でないことが多い。それどころか、「副作用が出るだけ」というのもしばしば経験する。(参考

抗精神病薬を使うなら、エビリファイ、ルーラン、ロナセンなどのピンポイントタイプの抗精神病薬が良い。しかし、使うにしても抗精神病薬はサポートの薬として意識すべきである。

当時、社会不安障害があるのはあるので、デプロメールを残し、エビリファイなども投与したがうまくいかなかった。デプロメールは次第に病状に悪影響を及ぼしていると思うようになった。

なぜなら、「ずっと家にいると、死んだような気分になります」「生きていても無意味な感じがする」「生きる目的がない」いった訴えがみられるようになったからである。(参考

希死念慮や厭世観にはSSRIを使わない方針の方が結果的に良いことが多い。プラスマイナスで相殺されるから、何のために投薬しているのかわからなくなる。デプロメールでは最後の一線を越えられないことが多いのである。

それに対しパキシルは違う。パキシルは強力なのとコーティング能力に優れるので、稀に完結することがある。(厭世観や希死念慮の乏しい人の場合)

ある時、自分のことが全て知れ渡っているといった訴えが酷くなり、混乱した状態に至った。激しい幻聴も伴い不穏状態を呈したのである。放置すると発作的に自殺しかねないため、本人に入院を強く勧めた。入院直後はおどおどしてベッドにすらゆっくり横になれず、両耳を塞ぎ、どこかに隠れようとしている。(緊張病症候群)

そうして、アナフラニールの点滴を実施したのである。(参考

アナフラニールの点滴はたった3日間で、上記の精神症状を全て消失させた。

これは徐々に良くなったわけではなく、「3日目の朝、起きてみたら全ての症状が消失していた」といった不連続な改善であった。うちの女医さんがこの治療に非常に驚き(アナフラニール点滴のみで幻覚妄想を遮断したこと)、こんな風に言った。

今まで先生を人間と思っていたのですが、実は思い違いだった。先生は「100歳のネコ」だったんですね。(笑)

それを言うなら・・「100万回生きたネコ」ではないんでしょうか?と答えた。100歳のネコとは実年齢30歳くらいのネコなんでしょうか?

その後、アナフラニールとルーラン、ラミクタールで治療する方針とした。アナフラニールは75mg、ルーランは8mg、ラミクタールは12.5mg隔日から開始している(ほか眠剤、レキソタンなど)。眠剤はベゲタミンBとロヒプノール2mgという強力なものを選んだ。

器質性の幻覚、妄想にはラミクタールに限らずトピナも有効であるが、最初に使うならラミクタールの方が遥かに使いやすい。

ラミクタールは中毒疹のリスク以外は精神症状を悪化させる確率が低いからである。(たまに逆の作用、例えばうつ状態に振れる場合もある)

またラミクタールを服用すると、胸のもやもやが消えるとか、鬱陶しい不愉快な気分がなくなるなど、本人の実感をかなり改善するので、薬への信頼感とか治療モチベーションを維持しやすいことも見逃せない。トピナはそこが弱い。

結局、アナフラニールを点滴しなくても良く、平均して幻聴や妄想を消失、安定させる方針にした。その方が今後の対応がしやすい。(こちらもいろいろ心配しなくて済む)。

ところが・・

ラミクタールは25mg錠を半錠、隔日から開始し、抗うつ効果も十分で器質性妄想も抑えていたが、25日目くらいに連日25mg半錠にしたところ、突然、中毒疹が出た。中毒疹の程度はたいしたことはないが、ラミクタールを止めなくてはならなくなった本人の落胆は大きい。実感が良かったからである。

ラミクタールは最初に落ち込まない人は服用感の良さを訴える人が多い。

本人もガックリだと思うが、こちらも同じくらいガックリである。あのくらいなら、隔日投与を3ヶ月くらい続けておけば良かった。全く後の祭りである。

ラミクタールは25mg半錠隔日から連日に変更する程度の僅かな増量を契機に中毒疹が出る人がたまにいる。僕の患者さんだけで3人以上もいるのである。

(このエントリは3つくらいに分けてアップしようとしたが、あまりに長くなりそうなのと面倒になったので、急遽まとめを書き終わりにしたいと思う。)

彼女にはその後トピナを使うことにした。なぜトピナなのかというと、あのような奇妙な妄想は抗精神病薬よりトピナの方が効く確率が高いからである。

実は、アメブロのメール相談でトピナを勧め、彼女のような器質性妄想に非常に効いたという言う人が5名前後いる(正確には数えていないが・・)。1~2名の少数ではない。

器質性のあたかも統合失調症を思わせる荒唐無稽の妄想にトピナは劇的に効くことがあるのである(たぶん、合わない人もかなりいると思うが・・)。

彼女のトピナの量は100~150mgで体重がなだらかに減少してきている。約6kg程度であるが。副作用は全くと言ってよいほどない。併用薬は少量のアナフラニール、ルーランやリボトリールである。(なお、トピナ、ラミクタールは抗てんかん薬の併用が必要であるが、リリカは必要ない。この差は大きい。)

彼女はリストカットや幻聴、妄想などが消失している。なんと言っても表情が良くなった。快活になったのである。

今は派遣でよいから数ヶ月働くことを勧めている。(彼女はかなりハードな職場でも、数ヶ月継続して働くことは可能)

そのポイントだが、今は同じ場所で長期間働かないこと。(参考

おそらく・・
同じ職場でずっと働こうと思うのも精神症状の1つである。

参考
周りで笑い声がすると・・
統合失調症っぽくない妄想
ルーラン1mgの世界
経過中の大悪化について
広汎性発達障害はなぜSSRIではうまくいかないのか?
統合失調症の発病の謎
105kgから62kgまで減量した人
複雑な強迫症状は妄想に見える
希死念慮の謎
内因性幻聴と器質性幻聴
初対面の人には話せるんです
アナフラニールのテーマ