経過中の大悪化について | kyupinの日記 気が向けば更新

経過中の大悪化について

このブログに出てくる「患者さんの経過中の大悪化」について。

これはどの病院でも同じことが起こるわけではなく、たぶん自分が治療するためにそうなるんだと思う。

入院直後、しばらく病状が改善することが多い。これはある種の病院への陽性転移であろう。この期間が普通1~2週間、時に2~3ヶ月続く。

辛かった時期に入院すると誰でもホッとするものだ。しかし、洞察できないような人も同じ経過になることがあるので、説明のつかない精神病院の魔力のようなものもあるような気がする。

全く薬を変えなくても副作用が軽減したり、長年の幻聴が消失する。しかしそれは真の寛解ではない。

やがて序盤の穏やかな時期は終焉する。

実はそのまま寛解し喜んで退院していく人もいないわけではない。ECTをすると、この流れがスキップする(短縮形になる)ことがあるのは謎である。

早く退院した場合、再び悪化し2回目の入院になる人がいる。

これは、退院が早すぎたから悪化したと思いがちだが、ずっと入院していてもやはり悪化していた可能性が高い。つまり直接に退院が悪かったわけではない。過去ログを注意して読むと、たまにこのパターンの患者さんを発見する。

この2回目の病状悪化こそ、重要な意味を持つ。(退院した人は2回目の入院)

過去ログでは「突入と脱出」などと記載している。

しばらく良かったのに、その後よくわからない経過で悪化するため、家族によれば、ひょっとしたら医師が変な薬を使ったためではないかと思われるところがある。

しかし、実際リスキーな薬を使っていることも稀にあるが、むしろ何も大きな変更をしておらず、自然の経過とみなされることが多い。

また、始末が悪いのはこの経過を明快に説明できないことである。

家族がカンカンに怒っている場合、他の病院に転院させたいと希望されることがある。しかし残念ながら、これは何なんだ!と思うほど精神症状が極端に悪い場合、転院すら困難である。

精神病院の間には礼儀というか、暗黙のルールのようなものが存在しており、自分の病院で悪化した人を他の病院に押し付けるのは避けたいということがある。

またこのような患者さんだけではなく、いわゆる処遇困難(極めて暴力的な人など)の患者さんについても紹介できない。医療費の支払いが滞る人も同様である。

しかし、それでも転院になることもある。

過去ログで何十年も続いたけいれん発作が止まり、その直後著しい精神症状の悪化に至った話が出てくる。実はこういう人が数人いるのだが、ある老齢の女性はなんと非定型病像が1年も持続し、全く先が見えない状況であった。この時は、さすがにご主人からさんざん文句を言われた。動くことすらままならなかったからである。(いわゆるドロドロの夢幻様状態)。

この患者さんは年齢的なものと合併症を考慮し、ECTが実施できなかった。しかし、看護スタッフにはECTがたぶんベストの治療法でしょうが・・と話していた。

治療者が上のような流れに沿っていると家族に説明したとしても、たぶん「誤魔化している」としか思えないであろう。

この人は1年目で突如、霧が晴れたようになり、発病以来これ以上ないほど高度な寛解状態に至った。このケースは、単にてんかん発作が消失しただけでなく、てんかん性精神病も跡形もなく消失したからである。

非定型精神病は普通、てんかん発作はないが、これと非常に似た経過になる人が一部にいる。極端に悪くなり、その後、生まれ変わったように寛解する人々である。過去ログでは、神がかり的に治癒または寛解しているエントリがいくつかあるが、このパターンが多い。(てんかんの人に比べ、非定型精神病の人は2回目のエピソードの期間がずっと短い。せいぜい2ヶ月以内である。)

非定型病像でも、もう少し穏やかで曖昧な経過の場合は、平凡に様子を診ていることが多い。しかし、このパターンはかえって時間がかかるのである。精神病状態のエネルギーようなものが散漫になっているので、まとまるのに時間がかかるのではないかと思う。

その点で病状的には入院しなくても良いほどだが、グズグズした状態で時間がかかって仕方がない時は入院を勧める。

今回のエントリで本題ではないが、極めて重要なことがある。

その患者さんを長く診ているほど、家族とも信頼関係があるのでプレッシャーがかからないこと。

悪いときに、「何もしない」というのも1つの選択肢なのである。信頼関係がないと、その選択肢が理解されない。

あの医師は、「あんなに悪いのに何もしない」くらい思われるのである。打つ手がないのは確かだが、ちょっと動けば深い谷に落下する局面もあり、それなりに考えて見守っているのである。

だから仮定の話だが、このブログの読者の方が家族を僕に治療させたら、経過次第では、この人はブログではあんなことを書いているが、ひょっとしたら相当に下手なのではないか?と思う人もいるはずだと思う。(笑)

とにかく、いきなり悪くなるのがよろしくない。

最初の話に戻るが、著しく悪化した時に転院を希望されると非常にやりにくいのは確かである。まだ途中なのに・・このブログの主なのを知っているなら、たぶん、そんなバカなことはしないと思うが・・

たまにだが、

僕が治療してうまくいかないなら、どのような結果になろうとも悔いがない。

と言われることがある。それも若い人である。このように言われていると、自分が思っている通りに治療できる分、良い経過になることが多い。とにかく妙なことをしている精神科医だけに・・

実は、今日の記事の内容は統合失調症の治療に応用できる。

つまり統合失調症の精神症状は単調だから、慢性に進行していく傾向があるのである。

統合失調症の人の病状に双極性障害のようなリズムを生み、非定型病像を生じさせることで、ワープが生じる。

過去ログに紹介されている信じがたい寛解にはこのメカニズムが散見される(参考1参考2)。

参考
てんかんの寛解、治癒の謎
精神症状身体化の謎
out of controlですよ