薬剤性肝障害
僕が研修医1年目、オーベン(指導医)が患者さんを診察しているのをベッドサイドで見ていた時のこと。患者さんが薬のことについて質問していた。どんな内容だったかもう憶えていない。
オーベンは「それは薬の副作用だから」いとも簡単に答えた。この時、なんだかすごい衝撃があったのを記憶している。その患者さんは統合失調症で病識がない。薬に関しても疑心暗鬼のまま服用しているような状態。そんな風に言ったら今後、服薬させるのがますます難しくなるのではないだろうか?などと思った。
今、僕はだいたいこの時のオーベンと同じようなスタンスになっている。聞かれたことに関して嘘は言わない。ただ聞かれないことに関しては、積極的に言わない方が良いと思うことはわざわざ言わない。副作用に関して、精神科は、内科、外科とは感覚が異なるのである。例えば、薬で肝障害が出た場合、内科はたぶん中止か変更を第一に考慮するのではないかと思う。精神科の場合、必ずしもそうではない。まぁ理想的には中止するのが良いのだろうが。
まだ鮮明に憶えているのだが、テトラミドで治療している患者さんについての症例検討会。助教授の患者さんで、助教授が自ら講義をしていた。その患者さんは、テトラミドのために、GOT、GPTが80くらいに上昇していた。助教授は「GOT、GPTは上がっていたのですが、本人に説明して、なんとか続けて、とても良くなって退院になりました」だいたいこんな風な内容だった。助教授も、ニコニコしてすごく喜んで話していた記憶がある。肝障害が出たから、薬剤変更を考慮したなんて話が議論にさえならなかったのである。
やはり精神症状が優先されるというか、精神疾患に比べれば、薬による軽度の副作用なんて誤差範囲という感覚なのであろう。精神疾患が重くなれば一生を棒に振る危険性があるが、治療薬の多少の肝障害ではそういうことはないという感じかもしれない。抗うつ剤はたくさんあるとはいえ、その薬をやめたとして、当時、代替の抗うつ剤は限られていたし、今、効果が出ている薬を変更したために悪化し、万一、自殺でもされたならその方が精神科医には悲しい。一般に3環系、4環系抗うつ剤はわりあい肝障害が出やすい。少なくともベンゾジアゼピン系抗不安薬よりははるかに多い。現在ではSSRIが増えてきたので、うつ病圏の患者を治療して肝障害が出現する確率が下がってきたように思う。
もちろん、黄疸が出現するほどの肝障害なら中止する。程度の問題なのだ。黄疸が出るほどの肝障害は今まで数回経験しているが、なぜかそのうち2回はセレネースだった。セレネースは比較的肝障害の副作用は少なく、肝障害の患者さんにも治療薬として選択しやすい薬物とされているのである。
患者さんから見て、精神科の薬物療法を受けていて、少し肝障害が出ていても薬剤変更がなかったら、主治医は上のような感覚だったと思われる。軽度の肝臓の場合、本人にそのことを説明して、どうするか本人の希望を聞く。「まあ薬も合っているし、上昇もわずかなので肝臓の薬も併用せずに様子を見ましょう」とか。だいたい向精神薬の軽度の肝障害の場合、放置していてもそれ以上に上がっていかないことの方が多い。この考えには異論があるかもしれないが、GPTが例えば、50くらいに上昇しているのを放置していたとしても、肝硬変に至るまで200年以上はかかると思うのである。もちろん、本人の希望を聞き軽度でも肝臓の薬を併用する場合もある。こういう副作用にいちいち面倒を見ていくと、やたら錠数が増えていくことも大きい。精神科は特に。朝にいきなり8錠という感じで服用している人たちは、向精神薬よりむしろ副作用止め系の薬の方が多かったりする。
抗精神病薬の場合、その患者さんに劇的に効いていたとしたら、軽度の肝障害くらいで簡単に止められるだろうか? 特に非定型抗精神病薬は、それぞれに個性があり、あまり似ていない。非定型抗精神病薬は、時にその人を死地から救うことがあるので、精神症状を優先するのは仕方がないと思えるのである。
オーベンは「それは薬の副作用だから」いとも簡単に答えた。この時、なんだかすごい衝撃があったのを記憶している。その患者さんは統合失調症で病識がない。薬に関しても疑心暗鬼のまま服用しているような状態。そんな風に言ったら今後、服薬させるのがますます難しくなるのではないだろうか?などと思った。
今、僕はだいたいこの時のオーベンと同じようなスタンスになっている。聞かれたことに関して嘘は言わない。ただ聞かれないことに関しては、積極的に言わない方が良いと思うことはわざわざ言わない。副作用に関して、精神科は、内科、外科とは感覚が異なるのである。例えば、薬で肝障害が出た場合、内科はたぶん中止か変更を第一に考慮するのではないかと思う。精神科の場合、必ずしもそうではない。まぁ理想的には中止するのが良いのだろうが。
まだ鮮明に憶えているのだが、テトラミドで治療している患者さんについての症例検討会。助教授の患者さんで、助教授が自ら講義をしていた。その患者さんは、テトラミドのために、GOT、GPTが80くらいに上昇していた。助教授は「GOT、GPTは上がっていたのですが、本人に説明して、なんとか続けて、とても良くなって退院になりました」だいたいこんな風な内容だった。助教授も、ニコニコしてすごく喜んで話していた記憶がある。肝障害が出たから、薬剤変更を考慮したなんて話が議論にさえならなかったのである。
やはり精神症状が優先されるというか、精神疾患に比べれば、薬による軽度の副作用なんて誤差範囲という感覚なのであろう。精神疾患が重くなれば一生を棒に振る危険性があるが、治療薬の多少の肝障害ではそういうことはないという感じかもしれない。抗うつ剤はたくさんあるとはいえ、その薬をやめたとして、当時、代替の抗うつ剤は限られていたし、今、効果が出ている薬を変更したために悪化し、万一、自殺でもされたならその方が精神科医には悲しい。一般に3環系、4環系抗うつ剤はわりあい肝障害が出やすい。少なくともベンゾジアゼピン系抗不安薬よりははるかに多い。現在ではSSRIが増えてきたので、うつ病圏の患者を治療して肝障害が出現する確率が下がってきたように思う。
もちろん、黄疸が出現するほどの肝障害なら中止する。程度の問題なのだ。黄疸が出るほどの肝障害は今まで数回経験しているが、なぜかそのうち2回はセレネースだった。セレネースは比較的肝障害の副作用は少なく、肝障害の患者さんにも治療薬として選択しやすい薬物とされているのである。
患者さんから見て、精神科の薬物療法を受けていて、少し肝障害が出ていても薬剤変更がなかったら、主治医は上のような感覚だったと思われる。軽度の肝臓の場合、本人にそのことを説明して、どうするか本人の希望を聞く。「まあ薬も合っているし、上昇もわずかなので肝臓の薬も併用せずに様子を見ましょう」とか。だいたい向精神薬の軽度の肝障害の場合、放置していてもそれ以上に上がっていかないことの方が多い。この考えには異論があるかもしれないが、GPTが例えば、50くらいに上昇しているのを放置していたとしても、肝硬変に至るまで200年以上はかかると思うのである。もちろん、本人の希望を聞き軽度でも肝臓の薬を併用する場合もある。こういう副作用にいちいち面倒を見ていくと、やたら錠数が増えていくことも大きい。精神科は特に。朝にいきなり8錠という感じで服用している人たちは、向精神薬よりむしろ副作用止め系の薬の方が多かったりする。
抗精神病薬の場合、その患者さんに劇的に効いていたとしたら、軽度の肝障害くらいで簡単に止められるだろうか? 特に非定型抗精神病薬は、それぞれに個性があり、あまり似ていない。非定型抗精神病薬は、時にその人を死地から救うことがあるので、精神症状を優先するのは仕方がないと思えるのである。