映画「グローリー 明日への行進」 平成27年6月19日公開 ★★☆☆☆

 

1965年3月7日、マーティン・ルーサー・キング・Jrの呼び掛けにより集まった、
黒人の有権者登録妨害に抗議するおよそ600名がアラバマ州セルマを出発。
だが、デモ行進がいくらも進まないうちに、白人知事は警官隊を動員して彼らを暴力で制圧する。
その映像が「血の日曜日」としてアメリカ中に流れたことにより抗議デモはさらに激しさを増し、
やがて世界を動かすことになる。                     (シネマ・トゥデイ)

この作品、何気にアカデミー賞作品賞にノミネートしていたのでした。
その時点では原題の「Selma」としか発表されていなかったのでちょっと結びつかなかったのですが
正直、なんでこれがノミネートされたのか疑問。
真摯な題材ではあるけれどとりたてて新鮮味もないし、エンタメ度も低い。
要するにオスカーの「黒人枠」?って勘ぐってしまいました。
前回は「それでも夜は明ける」がオスカーを制し、その前は「リンカーン」に「ジャンゴ」
その前の年も「ヘルプ 心がつなぐストーリー」と、差別と闘うアフリカ系アメリカ人の姿が必ずありました。
これって「お約束」なんでしょうかね??

60年代を舞台にしたアメリカ映画では「キング牧師の暗殺」が背景にあることが多く
この前の「ジェームス・ブラウン・・・」でも大きく取り上げられていましたが、
本作では39歳の若さで暗殺されたその場面は本編では登場せず。
彼の生い立ちや若い日のエピソードなどもなく、1965年のアラバマ州セルマでの選挙権運動がメインになります。

冒頭シーンは、1964年12月のノーベル平和賞受賞前日。
授賞式に備えて妻のコレッタとネクタイを選ぶシーンからです。
「こんな気取った姿は国のみんなには見せられない」と躊躇する夫を妻のコレッタが励まします。
彼はすでにこの時期には、公民権運動の指導者として、すでにその実績が世界的に認められていたわけです。

なので、当時のジョンソン大統領も彼に一目置きながらも・・・でも厄介な煙たい存在だったようですね。
ジョンソンといえば、公民権運動に理解のある大統領と思っていたので、意外でした。
「公民権は最重要課題だ。私に何ができる?」なんていいながらも
「貧困問題が先決」だとのらりくらいかわし、それよりビックリしたのは
「夫婦のきずなを弱めて彼を無力化させよう」と、FBIのフーバー長官と組んで
キング牧師が浮気をしているかのような電話を妻にかけて揺さぶりをかける・・
こんな卑怯なやり口は悪党だってやらないですよね!

奴隷制度が廃止されて100年たっているのに、南部では差別主義者が知事をつとめ
黒人差別は当然のように残っていて、それに刃向おうものなら陰湿な嫌がらせが待っていました。

黒人側でも一枚岩と言うわけはなく、無抵抗主義を貫くキング牧師にたいしてマルコムXは攻撃的でしたし、
セルマでデモをしようとしたときも、その地域はSNCC(学生非暴力調整委員会)が取り仕切っていて
なにやらいちゃもんをつけてくるんですね。縄張りとか?
同じ非暴力をうたった公民権運動家なら、キング牧師にもっと敬意を払っていいのにね。
ノーベル賞受賞後のキング牧師なんてもう神様的存在だと私は思っていたのですが・・・

1965年2月18日。
1回目のデモはキング牧師不在だったのでマスコミも現れず、粛々と行進する黒人たちに
知事の命令で州兵が投入され、無抵抗の彼らをボコボコに痛めつけます。
一人の黒人青年が射殺されますが、あとはけが人のみ。
つづく3月7日は、セルマから州都のモンゴメリーまでの行進が計画され
この時はマスコミがたくさん集まって、州兵や警察の暴力が全米に放映され「血の日曜日事件」といわれます。
ネーミングの凄い割に数百人中17人が病院送りで、死者はでてないんですけどね。
(北アイルランドの「血の日曜日事件」はもっとたくさんの死者が出ていたと思います)
無抵抗の人に暴力をふるうのはあってはならないことですが、映像で見る限り
警官隊は完全に殺しにいっていますから、これちょっと過剰な演出の気もしますが・・・

ニュースとして大きく取り上げられたおかげで、次の行進の時は
全米から白人もたくさん参加したおかげで、警官隊も手出しできません。
ところが、なぜかキング牧師は行進を途中で辞め、引き帰させます。
そしてその後、行進に参加した白人のボストンから来た聖職者が
「白いニガーめ!」と白人の差別主義者たちのリンチを受けて死亡する事件が発生!
これが引き金となって各地でデモが多発し、新しい投票権法が成立するのです。

一応これでハッピーエンド、と言う感じなんですが、
当時北部には既にリベラルな白人がたくさんいたわけだから
最初から彼らに協力してもらって、南部の実情を見てもらい、
差別主義者たちを説得なり啓蒙なりしてもらったほうが早いような気もしますが。

キング牧師は思ったほど周りにリスペクトされていなかった。
妻のコレッタに精神的に支えられていた。
妻に(FBIが)電話で聴かせたのは、キング牧師がほかの女性と密会してるときのエロい盗聴テープ。
これがなんか本物っぽい感じ・・・

どこまでが真実がフィクションかわかりませんが、道徳の時間に習った「偉人」が
けっこうちっちゃい人間だったようで、正直ガッカリしてしまいました。
原題の「セルマ」を、主題歌重視で「グローリー」の邦題に変えたセンスも問題あり。

作品賞ノミネート作8作はすべて観ましたが、個人的には本作が一番下になります。


バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」 ★★★★★

6才のボクが、大人になるまで。」 ★★★★★

グランド・ブダペスト・ホテル」  ★★★★☆

「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」 ★★★★★

「博士と彼女のセオリー」  ★★★★☆

セッション」  ★★★★☆

「アメリカンスナイパー」  ★★★★☆