映画「グランド・ブダペスト・ホテル」平成26年6月4日公開 ★★★★☆

 


1932年、品格が漂うグランド・ブダペスト・ホテルを仕切る名コンシェルジュのグスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は、
究極のおもてなしを信条に大勢の顧客たちをもてなしていた。
しかし、常連客のマダムD(ティルダ・スウィントン)が殺されたことでばく大な遺産争いに巻き込まれてしまう。
グスタヴは信頼するベルボーイのゼロと一緒にホテルの威信を維持すべく、ヨーロッパ中を駆け巡り……。
                                                                                                (シネマ・トゥデイ)

 

ホテルが舞台で、↑ こ~んなに豪華キャストだったら、
客室あちこちで同時進行にドラマがくりひろげられる「グランドホテル方式」に違いない!
と思ってしまいますが、予想は大ハズレ!
ただただウェス・アンダーソン監督の世界を満喫する映画でした。

主役のコンシェルジュ、グスタヴはレイフ・ファインズ。
それに、ジュード・ロウ、シアーシャローナン、レア・セドウなんかも出てますが、
脇を固めるのはいつものウエス・アンダーソンファミリーの面々。
設定は全然違うけれど、「ダージリン急行」や「ムーンライズ・キングダム」にとっても似ています。
殺人事件や遺産相続、冤罪、脱獄・・・なんていうのも出てくるから
今回は多少は「まったり感」薄いので、私は一番好きかも知れないです。
ただ、ミステリー仕立てに騙されてはいけません。
こちらも何のひねりもなく、犯人捜しのワクワク感もありません。

ただ、たくさん人が出てくる割に人間関係は複雑ではないので、混乱はしないです。
知ってる人(俳優)がほとんどだからかもしれませんが・・・
(ちなみに今NHK地上波でやっている「ダウントン・アビー」はすごく面白いんですが
マギー・スミス以外ひとりも知らないので、もう誰が誰やら・・・相関図と首っ引きで見ています。)

唯一複雑なのは、この話、なんと4つの時代を回想でつないでいるのです。
「入れ子方式」というやつです。
去年観た「ザ・ワーズ 盗まれた人生」がこの分野ではすごくよくできていると思ったんですが、
本作では「これって必要?」ってレベル。
① 現代     若い女性がある作家の墓参りに来る
②1985年   その作家が生前、自分の著作に影響を与えたある人物について語る
③1968年   若き日の作家(ジュード・ロウ)がさびれたホテルに泊まるとそこで
          超金持ちながら使用人部屋に泊まる不思議な老人に遭遇。
          彼はベルボーイだったころのグランドブダペストホテルとそこの伝説のコンシェルジュについて語り始める。
④1932年  ここからが本編                                                                                                                   

・・・・というわけで、話のほとんどが④のパートですから、あとは後日談で最後に付け加えるか、
「ライフ・オブ・パイ」のような回想形式にするなら、③と④がせいぜいで、
①と②は全く不要なんですよ。
つまりここは「包み紙」みたいなものですね。
同じケーキだっておしゃれなラッピングでうんと価値がアップするっていうもの。
ストーリー自体はなんてことない話なので、あんまり期待すると裏切られますが、
とにかくすべてのシーンの構図や色づかいがそれはそれは魅力的なので、ほとんどの人が
「楽しかった!」と思うんじゃないかな?
箱庭のような・・・可愛い絵本のような・・・・豪華なデコレーションケーキのような・・・
「監督の作家性がすべて」の映画なので、ツイッターなんかでも、誰も内容に触れてないのが笑える!

あえてストーリーを説明しますと、
1932年。東欧のブブロフスカ。
高級ホテルグランドブダペストホテルにはグスタヴ・Hという伝説のコンシェルジュがいて
「金持ちで金髪でさびしがり屋」の客たちの心を癒し、秘密を守る彼の最高のおもてなしでホテルは大盛況。
なかでも19季連続で逗留しているマダムDは一番の上得意で、「夜のおもてなし」なんかもあったようですが、
彼女がある日自宅で殺されてしまいます。
マダムDから絵画を貰い受けることになっていたグスタヴはベルボーイのゼロをつれて
屋敷に乗り込むのですが、そこで殺人犯の濡れ衣を着せられ、結局逮捕されて監獄送りに。
ゼロやメンデルケーキ屋の娘で彼のフィアンセのアガサたちの協力で脱獄に成功し、
真犯人をみつけて一発逆転を試みる・・・・みたいな話です。

メリケンサックの殺し屋はかなり残虐で、指を切り落としたり生首が転がったりするし、
刑務所からの逃走劇なんて、手に汗にぎりそうなもんですが、
全編にただようのはユルユルしたまったり感で、おとぎ話をみているようです。
だから生首とか出てきても作り物にしかみえないし。
この不思議な感覚を心地よいと感じるか、厳しい目でみるかは観る人次第ですね。
ストーリーのほうは突っ込みどころ多数ながら、
緊張感ないドラマの苦手な私でも、細部まで作りこんだ映像美でもって、
ずっと集中して見られました。
あんなにハイテンションでしゃべりまくるレイフファインズを観るのも初めて。
エキセントリックな婆さんがティルダ・スウィントンというのもビックリすべきなんでしょうが
「スノーピアサー」で、もっとスゴイの観ちゃったので驚きませんでした、残念。

1932年にはピンク色のお菓子の城みたいだったホテルが
30年後にはすっかりさびれてしまったけれど「魅力的な廃墟」でマニア心をくすぐります.

ホテルはいい感じに枯れていますけれど、同じ人物の若いころと30年後がどうしてもつながらなくて・・・・
とくにベルボーイのゼロは30年ちょっとの間に風貌が全く変わり、人種まで変わっちゃったのは
どういう「こだわり」があったのか??これは納得できないなぁ・・・
だいたい、東欧のどっかの国の設定なのにみんな英語で話していましたし、
エンドロールのかわいいイラストもいろんな形のバラライカとコサックダンスでしたが
ロシアってどこかに出てきましたっけ?
でもこれ、とても可愛いので、エンドロールになっても席をたたないのをお勧めします。