『知性の構造』・生の実践におけるレトリックとスタイル | くらえもんの気ままに独り言

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 いよいよクライマックスが近づいてまいりました『知性の構造』シリーズ。 できるだけ簡潔にまとめようとすると、詳しい説明を省くことになってしまうので、かえって分かりにくくなってしまったりするかもですが、これでも頑張っている方なので、許してください(;^_^A


以下、前回までのまとめです。忘れた方はもう一度復習してみてください。
第1回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11852064051.html

第2回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11855187261.html

第3回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11857103522.html

第4回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11858974746.html

第5回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11868759535.html

第6回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11874667479.html

第7回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11904741294.html

第8回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11908318654.html

第9回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11917076896.html

第10回http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11922045485.html


今までのまとめ

・知識人が腐ってきている、このままではヤバイ

・人間は真理を追究するようにできており、それを紡ぎ出すのが「言葉」

・真理の追及には信仰・懐疑・感情・論理のバランスが大事

・いかなる表現も仮説である

・仮説は棄却されにくいが、真理をつかむための方策があるはず

・真理に到達するには総合知が必要

・多様な前提と経験的事実を総合知によって結び付けていく作業が「解釈」

・解釈するとはすなわち生きることと等しい

・言葉には意味があり、その構造は伝達・表現・尺度・蓄積といった4つの機能で表すことができる

・表現には矛盾がつきもの

・葛藤は回避するのでなく平衡させねば、表現は病理化する

・平衡を維持するための知恵は伝統にある

・生命の活力の源泉は究極の目的・手段を求める営み

・活力を得るには伝統・習慣を大事に事実主義と想像主義との平衡を保つ必要がある

・日本人は葛藤が少なく平衡感覚が未熟なうえ大衆化しやすい

・平衡感覚を磨くには内部に構造化された葛藤を見出すことが重要


第十章 『生の実践におけるレトリックとスタイル』


「精神の平衡術とは何か―

それは、危険な意味・価値の山脈を縦走するに際しての、修辞という名の登山具であり、文体という名の歩行法である。(P197)」


 真理に近づくためには平衡術が必要なわけですが、真理に到達するということは不可能であります。しかし、不可能であるからこそ近づき続けることができるわけで、生きている意味もあるというものです。


 そして、真理に近づくという行為は言葉による言葉の解釈にならざるを得ないわけですが、とすると真理に近づくために重要なのは、


 言葉遣い


 ということになります。そういえば、このところ佐藤健志氏も言葉遣いに関する記事をブログで書かれていましたね。


Dancing Writer (言葉と呼吸 記事一覧)

http://kenjisato1966.com/category/blog/language-breath/


 言葉遣いについては西部先生は表現のレトリック(修辞)思考のスタイル(文体)のことであると述べておられます。



広がりゆく意味宇宙

 上図は第6回のハイライトの図ですが、本書での例を挙げますと、「美しさ」という尺度について「美人」「醜い」「花々」「枯花」などの対立した諸意味の蓄積から選択することによって表現というものがなされるわけです(「彼女はユリのように美しい」etc.)。そして、それらを結びつけること(結合)によって「美しさ」というものが伝達され、最後にその内容と最初の「美しさ」の尺度との対比が行われるというのが、言葉の意味の構造というわけですね。


 この対立、選択、結合、対比のどこを強調するかによってさまざまなレトリックが可能になります。


①対立を強調

「かぐわしき花」「みごとな造花」「残酷な美しさ」「醜い美」

②選択を強調

「百合のような女」

③結合を強調

「美しい、彼女は。」「彼女の美しさは普通じゃない。」「美しい!」「色が白くて、脚が細くて、眼が大きくて…」「美しくてきれいでカッコよくて…」

④対比を強調

「八頭身の彫像」「ヴィーナス」


 また、パラダイム、シンタックスを強調すると以下のようなレトリックが。


⑤パラダイムを強調

「彼女は百合だ。」

⑥シンタックスを強調

「彼女は明眸皓歯(めいぼうこうし)だ。」


 パラダイムを強調したレトリックはメタファー(隠喩)と言いますが、これは「彼女は百合のように美しい女性だ。」を「彼女は百合だ。」と一足飛びに表現していることからも分かるように、想像性を十分に発揮した表現と言えます。このような表現が「想像主義」と言われるわけです。(対立または選択を強調した表現も想像主義系の表現となります。)


 逆にシンタックスを強調したレトリックはメトニミー(換喩)と言いますが、「彼女は明眸皓歯だ。」つまり、眼が大きくて歯が白いといった事実に基づいた美しさの表現になっています。このような表現が「事実主義」と呼ばれるわけです。(対比または結合を強調した表現も事実主義系の表現となります。)


 想像主義に基づくレトリックまたは事実主義に基づくレトリックのどちらか片方だけに偏ると言葉の説得力を欠いてしまいます。言葉による説得力を持たせるには様々なレトリックを駆使して、双方の平衡をとるように努めなければなりません。しかし、状況は絶えず変化し、適切なレトリックも絶えず変化しますので、想像主義と事実主義のバランスを取るのにはかなり神経を使う必要がありそうです。


 このバランスをもとめる姿勢こそが「スタイル」であると。


 どのような表現が適切であるかを試行錯誤すること、それがスタイル、つまり生き方というわけですね。よって文体=生き方ということになります。


 しかし、どのように想像を働かせどんなに事実を盛り込んでも完璧に確実な言説などはあり得ないため、何事も断言は不可能です。よって、自己の能力の限界を知るという意味での謙遜のない文章は説得性が低いと言えます。(どこかの誰かさんみたいに決めつけを行った言説をすると説得力がかえって低くなるというわけですね(^ε^))


 そして、説得あるいは納得には論理だけでも感情だけでもダメで、その両方をコミュニケーションを通じて適切に活用していくということが生きるということであり、そのための統一性がいわゆるスタイルというものなのでしょう。


 さて、レトリックといい、スタイルとい生の実践とでも呼ぶべき代物であることが分かってきたわけですが、その生の実践について、同じことを繰り返すこととしての日常的なものがどんどん失われている一方、非日常的なことが起こっても驚きを見せることがなくなってきている今日この頃、人々のコミュニケーションは活力を失ってきていると言えます。それは環境の変化に対する過剰な適応がもたらしているのかもしれません。


 適切な表現を紡ぎ出し続ける事が生きるということならば、それは危機・葛藤の中にいて初めて成すことができるわけですが、危機の回避・葛藤の回避という状況への適応が「スタイル」を壊していくというのです。そして、みんな紋切り型の表現ばっかり使うようになると・・・。もしかして定型文ばっかり使うのってよくないのかな?


 世界の解釈を実践し、決断する。そしてその決断を解釈し、実践する。この繰り返しが人間の生命活動というわけですが、ある現象を解釈するのには理論による外部からの解釈と、経験による内部からの解釈の両方のアプローチが必要になってきます。つまり、外部と内部の盛んな往復運動によって解釈が可能となってくるのですが、現代ではマスコミはじめ外部から内部を破壊するアプローチが盛んに行われているため、生きたコミュニケーションというものは失われていっているのでしょうね。


というわけで、今回のまとめ

・どんな表現が適切かを試行錯誤するのが生きるということ

・それは生きたコミュニケーションを通じて行われる

・過剰な適応主義がスタイルの喪失につながる


 それでは、次回がいよいよ最終回になります。

 いやー、長かったですね(;^_^A

 でも、すごく勉強になりました。というわけでまた次回。


適切な表現を絶えず紡ぎ出す努力をするということが生きるということであると気付いた方はクリックお願いします。


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