『ユヅは僕のために泣いてくれたんだ』 ハビエル・フェルナンデスは“羽生結弦の決意表明会見”をどう受け止めたのか? <独占インタビュー>

7月19日、会見にてプロへの転向を表明した羽生結弦。トレーニングメイトとして長年にわたり羽生と過ごし、親交の深いハビエル・フェルナンデスが独占取材に応じた。よき仲間、そしてライバルでもあった彼は、“羽生の決断”をどう受け止めたのか

 

 7月19日、羽生結弦が競技生活に終止符を打ち、プロに転向することを明らかにした。彼が2012年夏にトロントのクリケットクラブに拠点を移してから、同じブライアン・オーサーコーチのもとでトレーニングをしてきたスペインのハビエル・フェルナンデスは、羽生のことをもっとも身近に見てきたスケーターの一人である

 

 2018年平昌オリンピックで羽生が金メダル、フェルナンデスが銅メダルを取るまで、およそ5年半をトレーニングメイトとして一緒に過ごしてきた。よき仲間でありライバルであった彼が、今回の羽生の引退に関して独占取材に応じた。スケートセミナーのために滞在中だというイタリアから、電話を通して元気な声を聞かせてくれた

 

 最初に、フェルナンデスが羽生のプロ転向宣言をどのように受け止めたのか、その感想から述べてもらった

 

 『今回のユヅの発表がサプライズだったか、というのはイエスでもあり、ノーでもありますどの選手にとっても、今年は決断をする時です。オリンピックが終了し、次の4年間を続けていくのか、やめるのか。だから彼も恐らく色々と考えているだろうなと思っていました。ユヅはこのことについて、きっと長い長い時間をかけて考えてきたに違いないと思うんです。スケーターにとって競技活動中と、プロ転向後でとでは人生がガラリと変わるわけですから。人生の節目ともいえる重要な決断です』

 

フェルナンデスが忘れられない“羽生と過ごした特別な時間”

 フェルナデス自身も経てきた道だった。彼は3度目のオリンピックとなった2018年の平昌オリンピックで、競技引退を羽生に伝えた(実際にはその翌シーズンの欧州選手権のみ出場し、7連覇を達成した)。フェルナンデスは羽生より3年8カ月年上なので、奇遇にも二人は、27歳という同じ年齢で競技を卒業したことになる

 

 『平昌オリンピックのメダル授与式の後の時で、ユヅと、そしてその場にいたショウマ(宇野昌磨)に僕は「君たちと一緒に試合に出るのは、これが最後だよ。今まで同じ大会に出られて本当に嬉しかった」と言ったんです。そうしたら驚いたことに、ユヅは涙ぐみました。そして僕と戦えなくなるのは寂しい、もう少し一緒に戦って欲しいけれど、でも僕の意志を尊重して理解すると言ってくれました。これまで一緒にトレーニングをしてきた彼が、僕のために泣いてくれたことに驚きました。すごく特別な瞬間で、あの時のことは一生忘れないだろうと思います』

 

ユヅはトップでいられるうちに、決断をしたかったと思う

 『僕自身も経験があるので、よくわかるのですが、アスリートにとって競技から身を引く日がいつか来るのは避けられない悲しいけどそれが現実です。でも僕個人は、まだトップで競えるうちに身を引こうと思った。実際のところ、トレーニングをしていくのが身体的に年々きつくなっていったし、周りの若手たちがどんどんうまくなっていくのを実感していました

 

 ユヅと一緒にトレーニングをしていて、とても彼のようなペースでのハードな練習は続けていけないな、とも思いました。そろそろ次の世代に舞台を譲る時が来た、と思ったんです。ユヅも同じように、まだトップでいられるうちに潔く決断をしたかったのだと思います。ただぼくと違うのは、彼はこれからもずっとトレーニングを続けていくと言っていることですね』

 

 そう語るフェルナンデスは、現在コーチとして指導する傍ら、プロとしてショー活動も行っている

 

『ファンタジー・オン・アイス』で羽生と再会して

 だが現在は、普段はほとんどしていないのだという

 

 『教えるために氷の上に乗っているけれど、自分のトレーニングはあまりしていません。氷の上にいない時間は、マドリードにある自分の事務所でマネージャーとスケート合宿など色々な企画をたてて、事務的な仕事もしています。でもショーの依頼が入ると、目標ができてトレーニングを再開できるので嬉しいんです。今でも練習をすれば、3アクセルまでは跳べます』

 

 今年は『ファンタジー・オン・アイス』に出演して、久しぶりに羽生に再会した

 

 『本当に久しぶりだったので、お互いの近況を報告し合いました。最近どうしてるの、と言われて僕が今やっている活動などについて語り、彼は彼の身の回りのことを話してくれました』

 

 今年2月の北京オリンピックは、スペインのテレビ局の解説者として見たというフェルナンデス

 

 『彼が4アクセルに挑んだのは、すごいことだと思う。あそこで成功していたら本当に良かったのに。そうしたら彼はまたもう一つ新たな歴史を作ったでしょう。でもどんなアスリートだって、ベストな演技ができる時とそうではない時があります。それがスポーツですから、仕方ありません』

 

 フェルナンデスはそう言って、苦労を共にしてきたライバルを思いやった

 

 <後編に続く>

 

ハビエル・フェルナンデスさん独占インタビュー後編