子供の頃から何十年も内股の女性がいます。背中のハリ感と不快感、浅い呼吸と内臓活動の不調という慢性症状に悩まされています。
お腹の筋肉のことを一般的に、一口に「腹筋」と呼んでいますが、腹筋には四つの筋肉があります。誰もが「腹筋」として認識しているのが腹直筋(ふくちょくきん)ですが、その他に2つの腹斜筋(外腹斜筋と内腹斜筋)、そして最も深部に腹横筋(ふくおうきん)があります。腹横筋は腹圧に深く関係している筋肉ですが、腰腹部のコルセットのような働きをしています。
今回は腹横筋にスポットを当てて、先の女性が悩んでいる背中の硬さやハリ感、浅い呼吸、内臓の不調について考えてみます。
私が観察したところによれば、腹横筋がこわばるとウエストは少し細くなります。(反対に腹横筋が弛んだ状態ではウエストが太くなります)
しかし、その反動として胸郭(肋骨)が横に拡がって平たくなります。胸部が広がってウエストが細くなるので、一見するとスタイルが良くなったように見えるかもしれませんが、これまでたくさんの人たちを観察してきた私の目にはそうは見えません。
胸郭が横方向に拡がって平たくなるのを専門的に云々しますと、背骨から肋骨が離れた状態に歪んでいて不安定な状態であるると言えます。
このような状態になりますと、肋骨に関係している背中の筋肉(脊柱起立筋の胸最長筋や腸肋筋群)は硬くこわばってしまいますが、それが背中のハリ感として認識されると思います。
また、腹式呼吸にとって非常に大切な横隔膜は肋骨を足場として収縮したり弛緩伸張していますので、肋骨が不安定だと横隔膜の働きも当然悪くなります。そして横隔膜の働きが悪くなりますと、内臓の働きも低下しますので胃腸の働きが悪くなったり、肝臓の働きにも影響が及ぶかもしれません。
腹横筋がこわばる理由
さて、胸郭を本来あるべき状態に近づけるためには、腹横筋のこわばりを解消する必要があるわけですが、腹横筋がこわばる理由について考えなければなりません。
筋肉の連動関係で言いますと、私の知っている限りでは、眼球を外側に向ける外眼筋と肩甲骨と喉(舌骨)を結ぶマイナーな筋肉である肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん)と腹横筋は連動します。
ですから、たとえばテレビやパソコン画面が右側にある、あるいはパソコンに有力するときに書類が右側にあって右側を見る機会が多い人は、右目のこの外眼筋がこわばります。すると、それに連動して右側の肩甲舌骨筋、右側の腹横筋がこわばります。
あるいは、何かの理由で舌骨が歪んだり、肩甲骨の位置が歪んだりして肩甲舌骨筋がこわばると同側の腹横筋がこわばります。
ところで、筋連動の関係以外の理由で腹横筋がこわばることもあります。
腹横筋がこわばっている人によく見られる以下のような状態があります。
まず仙骨を覆う筋膜が硬くこわばっていて、仙骨が腰椎の方に引き付けられている状況があります。仙骨が前傾していると状況に似ていますので「良い状態」と受け取られるかもしれませんが、仙骨と仙腸関節を覆う筋膜が硬くなっているので仙骨は身動きできないような状態であると考えられますし、仙骨下部と尾骨部分が突出している感じなので、「出っ尻」に近い状態です。
そして仙骨の両側にある骨盤の骨(腸骨)は上方が外側に拡がるようになっていてます。この状況は骨盤下部の坐骨結節が内側に回転するように狭まっていることが原因でもたらされていますが、ここが修正すべき大事なポイントです。。
坐骨結節が内側に歪んでしまう理由は幾つか考えられます。
尾骨と坐骨を結んでいる尾骨筋がこわばっている可能性が考えられます。あるいはハムストリングの変調が原因になっている可能性も考えられます。
しかしながら、上記のような状況のときにはハムストリングの変調による可能性の方が高いようです。
(余談ですが、通常では、仙骨が上方にあがる(前傾する)と骨盤の下部(坐骨結節)が拡がり骨盤全体が前傾します。仙骨が下がると骨盤下部がすぼむように狭くなって骨盤全体も後傾します。ですから、上記のような仙骨が上がりながら骨盤下部が狭くなる状況は「通常ではない」と判断できます。)
半膜様筋が要
ハムストリングは太ももの裏側にある筋肉群のことで、通常は半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋のことを指します。
半腱様筋と半膜様筋は坐骨結節と膝裏内側(脛骨)を結んでいます。大腿二頭筋の長頭は坐骨結節と膝裏外側(腓骨)を結んでいます。
これらの中で坐骨結節の左右の歪みに関係が深いに筋肉は半膜様筋と大腿二頭筋長頭になります。そして坐骨結節が内側に歪む現象は、坐骨結節を外側に引っ張る役割をしている大腿二頭筋長頭が損傷したり、疲弊したりしてゆるんでしまったか、あるいは坐骨結節を内側に引き寄せる働きをする半膜様筋がこわばって縮んでいるかのどちらかが考えられます。
私のこれまでの施術経験では、今回の腹横筋のこわばりの原因となっている件としては、半膜様筋のこわばりが原因になっていることが圧倒的に多いです。
さて、ではどうして半膜様筋がこわばってしまうのか? という問題が次に訪れます。
膝関節が歪んでいる場合が一つ考えられます。もう一つは筋肉の連動関係によるものが考えられます。
膝関節の歪みは、またいろいろと原因が考えられますので、今回は筋肉の連動関係による原因について考えてます。
半膜様筋と連動関係にある筋肉はふくらはぎのヒラメ筋の内側線維と足では母趾MP関節の先の内側の筋膜です。
極端な例で話しますと、歩くときにちゃんと母趾先を使って地面を蹴っているのではなく、このMP関節先の内側部分を使って母趾を捻るようにして地面を蹴っている状況が目に浮かびます。
たとえば外反母趾の人は、母趾のMP関節がはみ出しているので母趾が斜めになっています。この状態では正しく母趾を使って歩くことはできません。母趾を回転させて捻らないと地面を蹴ることができません。
ですから母趾MP関節の先にはタコができて硬くなっていると思います。そしてその硬さがヒラメ筋の内側線維にこわばりをつくり、半膜様筋のこわばりへと連動して坐骨結節を内側に引っ張ってしまうことになります。
今回は足の指と骨盤の歪みと腹筋や呼吸のかんけいについて私が真実だと思っていることを記しました。
「楽に生きる」、「楽なからだになる」、そのためには呼吸が最も大切だと思います。理想的な呼吸状態はそれだけで全身のマッサージ効果になりますしし、宇宙のリズムと呼応しますので、伸びやかになることができます。ヨガや様々な呼吸法は理想的な呼吸状態をもたらすための手段でもありますが、私は整体の施術でそれを実現することもできると考えています。
今回の話が、皆様の参考になればと思っています。
余談:甲高の人は注意してください。
私はしばしば「踵重心は改善しなければならない」「小趾アーチが沈んだ状態は改善する必要がある」と言っています。なぜならば、これらの人たちは足裏を伸びやかに使うことができないからです。
本来は、ふくらはぎ(脛骨)と足の関節となっている距骨に体重が乗っていることが望ましい状態です。そうであれば、体重の負荷は足裏で分散されますし、足の指は伸びやかな状態を保つことができます。
ところが踵に重心が乗ったり、小趾側に重心が乗ったりしますと、立った時に足の筋肉は緊張状態(収縮状態)になってしまいます。平たく言いますと「足の指で踏ん張って立っている」状態です。足の指に力を入れてバランスをとり続けないと立っていられないのです。(この状態に馴れている人は、それが当然なので何とも感じないかもしれません)
甲高の人は、足をすぼめた状態であると認識した方が良いと思います。もちろん生来の体型的なものによる個別差はあると思いますが、踵や小趾側に重心のある人は平たい足でも足首の先の部分(楔状骨)は高くなっているはずです。
追記:〇胃の不調と腹横筋のゆるみ過ぎ
胃が硬くなって動きが悪くなると背中が盛り上がるようにかたくなります。それは、胃は背中側に向けて膨らむからです。
腹横筋がゆるんでいる場合、胸郭が背骨の方に引き付けられるようになって胸が狭くなりますが、この状態と胃の不調は関係あるかもしれません。
胸の中で胃が活動するスペースが減るので窮屈になり、不調となって硬くなり背中側に突出する感じになるのかもしれません。
踵の筋膜が硬くなると腹横筋はゆるみますので、施術としては踵の筋膜をゆるめます。これによって胸の狭さは改善されます。そして、胃の反射区(足裏と手)を刺激し、そのほか腹直筋や腹斜筋の状態を整え、前鋸筋を整えて、呼吸の状態が良くなるようにしました。
以上で胃の状態は良くなったようです。(顧客本人談)