子供の頃から何十年も内股の女性がいます。背中のハリ感と不快感、浅い呼吸と内臓活動の不調という慢性症状に悩まされています。
 お腹の筋肉のことを一般的に、一口に「腹筋」と呼んでいますが、腹筋には四つの筋肉があります。誰もが「腹筋」として認識しているのが腹直筋(ふくちょくきん)ですが、その他に2つの腹斜筋(外腹斜筋と内腹斜筋)、そして最も深部に腹横筋(ふくおうきん)があります。腹横筋は腹圧に深く関係している筋肉ですが、腰腹部のコルセットのような働きをしています。



 今回は腹横筋にスポットを当てて、先の女性が悩んでいる背中の硬さやハリ感、浅い呼吸、内臓の不調について考えてみます。

 私が観察したところによれば、腹横筋がこわばるとウエストは少し細くなります。(反対に腹横筋が弛んだ状態ではウエストが太くなります)
 しかし、その反動として胸郭(肋骨)が横に拡がって平たくなります。胸部が広がってウエストが細くなるので、一見するとスタイルが良くなったように見えるかもしれませんが、これまでたくさんの人たちを観察してきた私の目にはそうは見えません。
 胸郭が横方向に拡がって平たくなるのを専門的に云々しますと、背骨から肋骨が離れた状態に歪んでいて不安定な状態であるると言えます。
 このような状態になりますと、肋骨に関係している背中の筋肉(脊柱起立筋の胸最長筋や腸肋筋群)は硬くこわばってしまいますが、それが背中のハリ感として認識されると思います。



 また、腹式呼吸にとって非常に大切な横隔膜は肋骨を足場として収縮したり弛緩伸張していますので、肋骨が不安定だと横隔膜の働きも当然悪くなります。そして横隔膜の働きが悪くなりますと、内臓の働きも低下しますので胃腸の働きが悪くなったり、肝臓の働きにも影響が及ぶかもしれません。



腹横筋がこわばる理由

 さて、胸郭を本来あるべき状態に近づけるためには、腹横筋のこわばりを解消する必要があるわけですが、腹横筋がこわばる理由について考えなければなりません。
 筋肉の連動関係で言いますと、私の知っている限りでは、眼球を外側に向ける外眼筋と肩甲骨と喉(舌骨)を結ぶマイナーな筋肉である肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん)と腹横筋は連動します。
 ですから、たとえばテレビやパソコン画面が右側にある、あるいはパソコンに有力するときに書類が右側にあって右側を見る機会が多い人は、右目のこの外眼筋がこわばります。すると、それに連動して右側の肩甲舌骨筋、右側の腹横筋がこわばります。
 あるいは、何かの理由で舌骨が歪んだり、肩甲骨の位置が歪んだりして肩甲舌骨筋がこわばると同側の腹横筋がこわばります。

 ところで、筋連動の関係以外の理由で腹横筋がこわばることもあります。



 腹横筋がこわばっている人によく見られる以下のような状態があります。
 まず仙骨を覆う筋膜が硬くこわばっていて、仙骨が腰椎の方に引き付けられている状況があります。仙骨が前傾していると状況に似ていますので「良い状態」と受け取られるかもしれませんが、仙骨と仙腸関節を覆う筋膜が硬くなっているので仙骨は身動きできないような状態であると考えられますし、仙骨下部と尾骨部分が突出している感じなので、「出っ尻」に近い状態です。
 そして仙骨の両側にある骨盤の骨(腸骨)は上方が外側に拡がるようになっていてます。この状況は骨盤下部の坐骨結節が内側に回転するように狭まっていることが原因でもたらされていますが、ここが修正すべき大事なポイントです。。

 坐骨結節が内側に歪んでしまう理由は幾つか考えられます。
 尾骨と坐骨を結んでいる尾骨筋がこわばっている可能性が考えられます。あるいはハムストリングの変調が原因になっている可能性も考えられます。
 しかしながら、上記のような状況のときにはハムストリングの変調による可能性の方が高いようです。

(余談ですが、通常では、仙骨が上方にあがる(前傾する)と骨盤の下部(坐骨結節)が拡がり骨盤全体が前傾します。仙骨が下がると骨盤下部がすぼむように狭くなって骨盤全体も後傾します。ですから、上記のような仙骨が上がりながら骨盤下部が狭くなる状況は「通常ではない」と判断できます。)

半膜様筋が要


 ハムストリングは太ももの裏側にある筋肉群のことで、通常は半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋のことを指します。
 半腱様筋と半膜様筋は坐骨結節と膝裏内側(脛骨)を結んでいます。大腿二頭筋の長頭は坐骨結節と膝裏外側(腓骨)を結んでいます。
 これらの中で坐骨結節の左右の歪みに関係が深いに筋肉は半膜様筋と大腿二頭筋長頭になります。そして坐骨結節が内側に歪む現象は、坐骨結節を外側に引っ張る役割をしている大腿二頭筋長頭が損傷したり、疲弊したりしてゆるんでしまったか、あるいは坐骨結節を内側に引き寄せる働きをする半膜様筋がこわばって縮んでいるかのどちらかが考えられます。



 私のこれまでの施術経験では、今回の腹横筋のこわばりの原因となっている件としては、半膜様筋のこわばりが原因になっていることが圧倒的に多いです。

 さて、ではどうして半膜様筋がこわばってしまうのか? という問題が次に訪れます。
 膝関節が歪んでいる場合が一つ考えられます。もう一つは筋肉の連動関係によるものが考えられます。

 膝関節の歪みは、またいろいろと原因が考えられますので、今回は筋肉の連動関係による原因について考えてます。

 半膜様筋と連動関係にある筋肉はふくらはぎのヒラメ筋の内側線維と足では母趾MP関節の先の内側の筋膜です。



 極端な例で話しますと、歩くときにちゃんと母趾先を使って地面を蹴っているのではなく、このMP関節先の内側部分を使って母趾を捻るようにして地面を蹴っている状況が目に浮かびます。
 たとえば外反母趾の人は、母趾のMP関節がはみ出しているので母趾が斜めになっています。この状態では正しく母趾を使って歩くことはできません。母趾を回転させて捻らないと地面を蹴ることができません。
 ですから母趾MP関節の先にはタコができて硬くなっていると思います。そしてその硬さがヒラメ筋の内側線維にこわばりをつくり、半膜様筋のこわばりへと連動して坐骨結節を内側に引っ張ってしまうことになります。



 今回は足の指と骨盤の歪みと腹筋や呼吸のかんけいについて私が真実だと思っていることを記しました。
 「楽に生きる」、「楽なからだになる」、そのためには呼吸が最も大切だと思います。理想的な呼吸状態はそれだけで全身のマッサージ効果になりますしし、宇宙のリズムと呼応しますので、伸びやかになることができます。ヨガや様々な呼吸法は理想的な呼吸状態をもたらすための手段でもありますが、私は整体の施術でそれを実現することもできると考えています。
 今回の話が、皆様の参考になればと思っています。


余談:甲高の人は注意してください。

 私はしばしば「踵重心は改善しなければならない」「小趾アーチが沈んだ状態は改善する必要がある」と言っています。なぜならば、これらの人たちは足裏を伸びやかに使うことができないからです。
 本来は、ふくらはぎ(脛骨)と足の関節となっている距骨に体重が乗っていることが望ましい状態です。そうであれば、体重の負荷は足裏で分散されますし、足の指は伸びやかな状態を保つことができます。
 ところが踵に重心が乗ったり、小趾側に重心が乗ったりしますと、立った時に足の筋肉は緊張状態(収縮状態)になってしまいます。平たく言いますと「足の指で踏ん張って立っている」状態です。足の指に力を入れてバランスをとり続けないと立っていられないのです。(この状態に馴れている人は、それが当然なので何とも感じないかもしれません)

 



 甲高の人は、足をすぼめた状態であると認識した方が良いと思います。もちろん生来の体型的なものによる個別差はあると思いますが、踵や小趾側に重心のある人は平たい足でも足首の先の部分(楔状骨)は高くなっているはずです。

 

追記:〇胃の不調と腹横筋のゆるみ過ぎ
 

 胃が硬くなって動きが悪くなると背中が盛り上がるようにかたくなります。それは、胃は背中側に向けて膨らむからです。
腹横筋がゆるんでいる場合、胸郭が背骨の方に引き付けられるようになって胸が狭くなりますが、この状態と胃の不調は関係あるかもしれません。
 胸の中で胃が活動するスペースが減るので窮屈になり、不調となって硬くなり背中側に突出する感じになるのかもしれません。
 
 踵の筋膜が硬くなると腹横筋はゆるみますので、施術としては踵の筋膜をゆるめます。これによって胸の狭さは改善されます。そして、胃の反射区(足裏と手)を刺激し、そのほか腹直筋や腹斜筋の状態を整え、前鋸筋を整えて、呼吸の状態が良くなるようにしました。
 以上で胃の状態は良くなったようです。(顧客本人談)

 パソコン業務を行っている人は、猫背になりやすい傾向があります。
 猫背にもいくつかのタイプがありますが、肩関節で上腕骨が前に突出しているようなタイプでは、大胸筋の胸骨部がこわばっている可能性も考えられます。大胸筋胸骨部がこわばると胸の中央にある胸骨に上腕を引きつける状態になりますので、いわゆる胸が広々としていなくて狭くなり、息苦しい感じになります。息を吸っても胸が広がらないので空気が十分に入って来ないのです。

 さて、話は少し変わりますが、物を掴むときに中指、薬指、小指の指先に力が入らず上手く握れないので、手のひらの筋肉を使って掴んでしまう人がいます。
 これを専門用語を使って言いますと、深指屈筋の働きが悪いので小指対立筋や短小指屈筋を使って掴んでいる、となります。
 

 

 深指屈筋が使えない状況はいくつか考えられますが、スマホ操作やスマホゲーム、携帯ゲームなどで親指を回転させたりしている人の場合、親指を後ろ(手の甲側)に引き上げる筋肉(短母指伸筋)がこわばっていますが、そのような人はこの傾向にあります。



 手のひらの手首付近の膨らみは親指側と小指側の2つがありますが、親指側を母指球、小指側を小指球と言います。
 小指球は小指対立筋、短小指屈筋、小指外転筋のはじまり(起始)が集まったっものですが、上記のような傾向の人は小指球の深部がとても硬くなっているはずです。ぐっと力を入れて指圧するとかなり痛みを感じるか、あるいは硬すぎて最初のうちはなんの痛みも感じないかもしれません。

 小指対立筋は胸の大胸筋の胸骨部と連動関係にあります。短小指屈筋は大胸筋の鎖骨部と連動関係にあります。
 

 

 大雑把に申しますと、大胸筋胸骨部がこわばると肩関節で上腕を前に突出させながらさらに胸の中央方向に引きつけます。大胸筋鎖骨部がこわばりますと、鎖骨を引き下げながら外側(腕の方)に歪めます。
 ですから、小指球の硬くなっている人、つまり小指を中心に中指、薬指、小指の指先を使って物を掴んだり握ったりすることのできない人は、胸が狭くなって鎖骨が外下方にずれ、肩も前に出た状態になっていると考えられます。そして、胸が広がらないので呼吸も浅くなっていると考えられます。
 また、その他にも鎖骨が本来の位置にありませんので、それによる弊害も生じています。首の動きが悪かったり、噛みしめや歯ぎしりの癖を持っているかもしれません。

 深指屈筋の働きが良くなるようにすることで、これらの問題は改善しますが、具体的な対策は個別に見ないと的確に云々できません。
 しかしながら、今回はスマホ操作、スマホや携帯ゲームで親指をたくさん使うという前提で話題にしていますので、そのような人の場合は、短母指伸筋を指圧などでストレッチすることがよろしいかと思います。
 

 

 短母指伸筋はちょっと入り組んだところにありますので、的確に捉えることはできないかもしれませんが、前腕の甲側、手首から4?5センチメートル肘の方に上がったところの人差し指の延長線上、骨(橈骨)の際の深部に指先を入れるように指圧します。最初は周りの筋肉も硬いのでなかなか指圧の指が奥まで入らす短母指伸筋に届きませんが、しばらく指圧を続けているうち筋肉に届くようになると思います。そして、届くと、とても強い痛みを感じると思いますが、そのまま持続指圧を続けていますと硬さがゆるみ、心地よい痛みに変わると思います。ぜひ、底までやってみてください。
 すると、物を掴むとき、これまでとは違って指先に力が入り「握る」ということの意味が理解できると思います。

 ずっと左側を下にして横寝をしている人がいます。
 かつて腰をひどく傷め重度の腰痛持ちだった経験がありますが、横寝を続けているので慢性的な左側腰痛の状態です。

 さらに今回来店されたときには、以上の状況に加え、左側の腎臓が腫れていて肋骨に圧迫され続ける不快さと痛みも加わりかなりつらい思いをしていました。

 腎臓は、大雑把に「ストレスが溜まると腫れる」と言うこともできます。腎臓が腫れると肋骨に圧迫される状況になりますので、痛みや不快感を感じますが、場所的に腰痛と間違えられることもあります。

 

 私は腎臓の腫れに対しては反射区を利用した施術を行います。腎臓の反射区は足裏の中央少しつま先寄りにありますが、腎臓の腫れている人の場合、その反射区の奥が硬くなって膨らんでいます。施術としてはその硬い膨らみを指圧するなどして解放するようにします。

 


 大抵は、この施術によって腎臓の腫れや膨らみは解消されますが、この度はなかなか良い結果にたどり着くことができませんでした。

 

 ところで東洋医学では腎臓と耳は深い関係があるとされています。
 ですから、私は左耳を確認してみました。聴力には問題はありませんでしたが、耳につながる首筋(胸鎖乳突筋など)がガチガチに硬くなっていました。揉みほぐそうと少し圧をかけただけでもとても痛がる状態でした。
 「これがきっと腎臓の問題につながっている」と直感的に思いました。

 いつも左側を下にして寝ていることから、肩甲骨周辺のどこかにゆるんでしまっているところがあり、その影響で左耳につながる筋肉が硬くなっているのだろうと予想しました。
 結局、腕の付け根と肩甲骨の境界付近の広背筋が伸び切った状態になっていて、それが原因で首筋が硬くなり、さらに左腰部の筋肉も硬くなっていました。

 結論としては、ストレスと左肩を下にして寝ていることによる広背筋の疲弊が原因で、腫れた腎臓(耳とも関係)が肋骨だけでなく腰部の硬く縮んだ筋肉にも圧された形で制限を受けていたために、腰痛+腎臓の腫れという症状になっていたのだと思われます。
 そして、硬く縮んでいた腰部の筋肉によって腎臓はさらに圧迫を受けていたためにリンパや血液など水分の流れが滞ってしまい、反射区だけの施術では解放ができなかったのではないかと思いました。

 多くの人達が横寝をしているようです。からだも歪むし、今回のような状況を招く可能性もありますので、なるべくやめたほうが良いと思うのですが、なかなか癖を治すのは難しいようですね。

 受験のシーズンも一段落したようですが、現在の受験生は昼は学校、夜は塾と、休日もなく勉強し続けなければならないようで大変ですね。
 小学校4年生の頃から知っている女子が、大学受験が終わり時間が取れるようになったということで来店されました。「腰痛ベルト無しでは5分も座り続けていられない」という、腰痛の訴えです。
 考えられないくらい重たいリュックサックを毎日担いで、高校と塾に通っていたようです。

 長く座り続けていられない腰痛は、その原因が幾つかのパターンに別れますが、この女子の場合は重たいリュックサックを担ぎ続けたことによる踵重心が主な原因でした。その他に肩の筋肉の疲労も関係していました。

腹横筋はコルセットの役割

 一般に「腹筋」と呼ばれている筋肉は専門的には四つに分かれます。「腹筋が割れる」で有名なカラダの中央にある筋肉は腹直筋と言います。そして腹直筋に斜め横や横から接続している二つの腹斜筋(外腹斜筋と内腹斜筋)と深部に腹横筋があります。
 大雑把に表現しますと、上半身の縦方向の動きに関しては腹直筋の働きが主体となります。からだを捻るなどの動作では腹斜筋が主体となります。そして、トイレでいきんだり腹圧を高めてからだを支える働きは腹横筋が主体となっています。
 どの筋肉も腰痛に関係はしますが、「座り続けられない」という症状は、腹横筋の働きが悪いことがまず考えられることです。



 そして、この女子の腹横筋を観察しますと、案の定、腹横筋がゆるゆるになっていてほとんど働けない状態であることがわかりました。つまり腰部を支える自然のコルセットが機能していないということです。これでは立ち続けたり、座り続けたりすることは困難なので、ぎっくり腰を患ったわけでもないのに腰痛ベルトを装着し続けて、腹横筋の働きを腰痛ベルトに代替してもらわないと過ごせないことがわかりました。
 そして、腹横筋がしっかりしていないので、他の腹筋や腰部の筋肉(脊柱起立筋や腰方形筋など)がガシッとこわばって体幹を支える仕事もしていることがわかりました。



 ところで、足裏の踵の筋膜が固くなると腹横筋の働きが悪くなることがわかっています(私は施術を通して知っています)。
 そこで解決しなければならない問題が浮上します。踵重心の状態を改善しないと、立ったり歩いたりすることで踵に余計な負担が掛かりますので、踵は硬くこわばってしまいます。ですから踵重心を改善しない限り、すぐにまた同じ症状を発症することになっていまいます。
 重たいリュックサックを担ぐことは、それが背中に担いでも、お腹側に担いでも、立位のバランス、つまりお腹側の筋肉の使い方と背中側の筋肉の使い方のバランスが正常ではなくなりますので、踵重心になってしまいます。
 ですから受験が終わって、重たいリュックを担がなくてもよい状況になれば、次第に踵重心の状態は改善されていきますから、腹横筋の問題による腰痛は自ずと改善されていくものと思われます。

 余談ですが、お腹が大きくなった妊婦さんは踵重心になりますので、それが腰痛になりやすい理由でもあると思います。
また、お腹が突出しているお父さんや、腰に寄っかかるようにして下腹を前にだしているおばさんたちも、踵重心による腰痛を患いやすいと言うことができます。

 夜の銀座で働いている女性が定期的に来店されています。普段はドレスを着て仕事をいしているとのことですが、冬の寒い時期は着物で接客する方がからだの負担が少ないということで、この時期は着物で仕事をしているとのことです。
 先日プライベートで静岡県の久能山を訪れ、たくさんの階段を登り降りしたとのことです。普段運動をそれほどしていないので筋肉痛が激しかったようですが、その数日後になって副鼻腔が腫れぼったくなり発声することが困難になったということで来店されました。

 来店されたときには声もかすれ、普通に会話することも困難でした。
 状態としては、頬骨のところにある副鼻腔(上顎洞)も眉間のところの副鼻腔(前頭洞)も詰まった状態で腫れぼったくなっていました。病院での診察では副鼻腔の炎症ということで、抗生物質が処方されたようです。

 筋肉は連動する仕組みを持っています。そして副鼻腔にも筋肉連動の影響は及びます。まだ正確に把握しているわけではありませんが、上顎洞は外肋間筋、前頭洞は内肋間筋と関係が深いようです。



 例えば目の下の頬骨のあたりが硬くなっていたり腫れぼったいようですと、上顎洞の副鼻腔の働きに支障が生じるようです。顔の中心に力が入りやすい癖を持っている人は頬骨が中央に寄り、鼻翼から頬にかけて硬くなっていますが、すると上顎洞の副鼻腔に空気が通らなくなり、そこが詰まったり、炎症が生じる可能性が生じるようです。
 あるいは、眉間に力が入る癖をもっている人は額の副鼻腔である前頭洞に空気が通らなくなり、そこが詰まったり炎症を起こす可能性が考えられます。

 また、外肋間筋は外腹斜筋(上腕二頭筋長頭?三角筋前部線維?外腹斜筋?外側広筋?前脛骨筋という連動)と、内肋間筋は内腹斜筋(上腕筋?内腹斜筋?長内転筋?後脛骨筋という連動)とも関係が深いようです。



 外肋間筋が収縮すると肋骨を引き上げますので、胸郭は上方に動き胸が広がります。つまり外肋間筋は息を吸う動作に直接関与します。ところで、息を吸うときだけ外肋間筋が収縮するなら問題はないのですが、常に収縮した状態=こわばった状態になっていますと、胸郭が下がらなくなりますので息を吐き出す効率が悪くなります。さらに臨床的に気になるのは、胸郭が上がって広がったまま(胸板が厚くなる)になっていますので、それ以上息を吸い込むことも難しくなります。いわゆる過呼吸状態に近い感じです。
 一方、内肋間筋は収縮することで肋骨を下げますので、胸郭は下方に動き胸郭自体も薄く平たくなります。この作用によって肺から息を吐き出す動作がスムーズにいきます。しかしながら内肋間筋がこわばった状態になっていますと、息を吸う動作をしようとしても胸郭が上がって来ませんので、胸が広がらず息を肺に効率よく入れることが難しくなります。

 私の観察によれば、上顎洞の副鼻腔への通りが悪い状態になっている人は外肋間筋がこわばっている傾向がありますし、前頭洞の副鼻腔の通りが悪い人は内肋間筋がこわばっている傾向があります。ですから、おでこ(前頭洞)にも頬(上顎洞)にも両方とも吸気が通らない人は、外肋間筋も内肋間筋もこわばった状態になっていて、胸郭は固まったようにガチガチの状態になっています。胸郭(肋骨)をマッサージすると嫌な痛みを感じると思いますが、この女性がそのような状態でした。

 さて、このような状態を整体的に解決する方法を考えたときに、外肋間筋と内肋間筋を中心に、それぞれの変調を改善することで対応しようと考えました。

 外肋間筋は「外腹斜筋―外側広筋―前脛骨筋の連動関係」と深い関係がありますので、例えば前脛骨筋がこわばっていますと外肋間筋がこわばってしまう可能性は高いと考えられます。
 そこでヒントになったのが、久能山に行き、たくさんの階段を昇り降りしたことの影響と和装の草履や足袋と前脛骨筋の変調です。下り坂や階段を降りる動作では、中間広筋と外側広筋が酷使されます。登山などで上りはふうふうしながらも心地良く昇れるのに、下山した後で膝がガクガクしてしまう経験をしている人もいるかと思いますが、それは上りと下りでは主に使われる筋肉が異なることと、下りでは「筋肉の粘り」が必要になりますので、太もも筋肉が変調を起こしやすいからです。(中間広筋と外側広筋がかなり変調していましたが、外側広筋の変調は前脛骨筋の変調へとつながります。)
 また、和装の草履の鼻緒はちょうど前脛骨筋の停止に近いところに当たりますので、前脛骨筋が変調を起こす可能性も考えられます。そして案の上、前脛骨筋の停止付近がとてもこわばっていて、揉みほぐすと強い痛みを感じました。



 痛みはかなり激しかったですが、痛みに耐えていただきながら揉みほぐしていきました。3分程した後には痛みも和らぎましたし、目的であった外肋間筋のこわばりも解消されていきました。鼻の通りも少し良くなり声のかすれも良くなりつつありました。

 次に内肋間筋のこわばりの変調に取り組みました。
 この女性は元々眉間に力を入れてしまう癖を持っていますので、素地として前頭洞の通りが悪く、内肋間筋がこわばりやすい傾向があります。
 それに加え、今回は中間広筋が疲弊状態にあったことの影響が内肋間筋のこわばりを強くしていました。
 久能山に行く前は気にならなかったことで、その時気になっていることに足袋が母趾と2趾の間に「食い込んで痛い」という訴えがありました。
 詳細を省いて結論だけ申しますと、たくさんの階段を降りたことで中間広筋が疲弊状態になっていましたが、それは短母趾伸筋がゆるむという形で連動します。そして、その影響で母趾と2趾の間の筋膜がこわばってしまい、そこに足袋の凹んだ生地が接触するので痛みを発していました。痛いので気になってそこに力が入るようになるので、さらに痛みが強くなるといった状況です。ですから短母趾伸筋のゆるみ過ぎの変調を解消することでこの症状は治まりますが、そのためには中間広筋の状態を回復させることが必要となります。
 そして中間広筋の変調が、結論として眉間~額にかけてのこわばりをもたらしていて前頭洞の通りを悪くしている原因になっていました。
 右足首はこれまで幾度となく捻挫をした経験があるようで、慢性的に短母趾伸筋(中間広筋―恥骨筋等々に連動)の働きが悪い状態なので右側の恥骨の位置も歪んでいて腹筋から喉元の筋肉まで少し変調していますが、それが眉間に力が入ってしまう要因の一つだと思われます。

 今回の整体に対する結論としては、足指や足元の問題が、階段をたくさん昇り降りしたことで胸郭を硬くして副鼻腔の通りに影響をもたらしていたということです。そして一時的な副鼻腔炎となり、喉元まで影響を受けて声が出なくなったしまったという一連の繋がりが考えられます。
 施術が終わりますと、本来の声まですっかり戻ったわけではありませんが、普通に会話ができるようになりました。仕事ができるようになったのでホッとしたようです。