(今回は文章だけですし、とても専門的でありマニアックです。一般の人には解りにくい内容です。)

 

 現在70歳くらいの人形職人が毎月からだのメンテナンスの為に来店されています。人形制作が仕事ですから、長時間椅子に座り続け、両手を前に出しながら細かい作業をされているとのことです。
 仕事がら腱鞘炎のような症状に悩まされることは多いようです。ですから、毎回、手~前腕~肩にかけては細かく観察しながら調整を行っています。
 本日は、両手が握りづらくなっていて、特に右手の人差し指が途中までしか曲げることができない症状を訴えました。
 「また腱鞘炎なのかな?」と心配していましたが、両手が同時におかしい、というのは普通はあり得ないことなので、症状の原因は他にあると思いながら施術を進めていきました。

 利き手は右ですし、人差し指は動かさなくても痛みを感じるということなので、右手から観ていきました。
 前腕の伸筋群は殆どがこわばっていました。深層にある回外筋、長母指外転筋、長母指伸筋、短母指伸筋、示指伸筋、表層の指伸筋、短橈側手根伸筋などです。これだけの伸筋群が揃ってこわばっているということは肘関節が歪んでいると判断することができます。ちなみに肘筋もこわばっていました。
 先ず考えられることは尺骨が上腕骨に対して回外方向に回旋している可能性です。そして上腕の筋肉を確認すると上腕三頭筋内側頭が強くこわばっていました。ここでの結論としましては、上腕三頭筋内側頭が強くこわばっていることで、尺骨を上腕の内側に引っ張り上げるようにしていることで、肘関節で前腕(尺骨)を回外方向に回旋させていたということです。
 ですから、上腕三頭筋内側頭のこわばりを解消すれば、肘関節が本来の状態に戻る可能性があります。前腕の伸筋群の起始は上腕骨外側上顆ですから、尺骨が回外位になってしまったことで伸筋群の起始と停止の間が広がり、それぞれの筋肉がこわばってしまったのかもしれません。
 ところで上腕三頭筋内側頭は小円筋と連動関係にありますが、小円筋も当然こわばっていました。そして小円筋のこわばりをゆるめると上腕三頭筋内側頭のこわばりもゆるむことが確認できたので、施術は小円筋のこわばりを解消する方へと進んでいきます。
 小円筋と連動している筋肉を私は把握しきれていないのですが、胸郭の捻れと小円筋の変調には関連性があります。この方の胸郭は下部の部分、それは第7肋骨以降、腹側方向に捻れていました(CCWの捻れ)。そしてその捻れを戻すと小円筋のこわばりは解消しました。
 そして胸郭が捻れている原因は腹横筋がゆるんでいることが原因でした。
 踵重心などで、踵の底の筋膜がこわばって硬くなりますと腹横筋はゆるみます。その他には、腹直筋のある部分がこわばりますと腹横筋はゆるみます。ですから、踵への施術を行いました。そして腹直筋を確認したところ端のラインにこわばりがありました。このラインは胸骨甲状筋―腹直筋―恥骨筋―中間広筋という連動ラインです。胸骨甲状筋を確認するために喉元を触りますと、オトガイ舌骨筋や顎舌骨筋がこわばっていて舌骨を前上方に引っ張り上げている状態になっていました。この状況によって甲状軟骨も上方に引っ張られてしまっているために胸骨甲状筋がこわばっていることがわかりました。ですから、オトガイ舌骨筋と顎舌骨筋をゆるめるための施術を行いました。これらによって腹横筋の状態は改善し、胸郭の状態もよくなって小円筋及び上腕三頭筋内側頭のこわばりがとれました。前腕の伸筋群のこわばりもとれました。
 
 この状態で、手を握る動作をしていただきました。すると、かなり楽には握れる状態になったのですが、人差し指
の引っかかりは残ってしまうとのことでした。示指伸筋にこわばりがあるわけではありませんから、別の理由で示指の関節に歪みが生じているのだと判断しました。
 「橈骨にも問題があるのかな?」と思いました。浅指屈筋や深指屈筋において示指に関係が深いのが橈骨だからです。
 そこで肘関節において上腕骨と橈骨の関係をもう一度チェックしました。
 橈骨に上腕二頭筋が停止している辺りにこわばりを感じました。上腕二頭筋長頭が強くこわばっていました。そして、上腕二頭筋長頭がこわばっている理由を探しますと、鎖骨が内側に歪んでいて三角筋前部線維がこわばり、それが上腕二頭筋長頭のこわばりへと連動していました。上腕二頭筋長頭のこわばりによって橈骨が回外しながら上腕骨の方に引き寄せられた状態になっていましたが、それによって示指につながる浅指屈筋と深指屈筋が変調を起こし、さらに虫様筋も変調していたようです。

 鎖骨が内側に歪んでいる原因は胸鎖乳突筋鎖骨頭がこわばっていたからですが、その原因を探していきますと肩甲挙筋のこわばりによって第1頚椎と第2頚椎が下向きの状態になっていたからでした。
 肩甲挙筋は目の疲労(外眼筋のこわばり)と関係しますので、コメカミの辺りを指圧してゆるめました。そして、肩甲挙筋のこわばりが解消すると胸鎖乳突筋の変調も改善し、鎖骨が本来の位置に戻り上腕二頭筋長頭のこわばりも取れました。
 右手人差し指の曲がりも良くなりましたが、左側は何もしていないにもかかわらず、左手の不調も改善していました。

 結局、いろいろ施術しましたが、最後の決め手は目の疲労の解消でした。
 ご本人にそのことを申し上げたところ、「ここのところ老眼が進んでしまい、なかなかよく見えないので目を凝らして仕事していた。」とのことでした。
 腱鞘炎になると、回復までにある程度時間が掛かって仕事に支障がでること懸念していたようですが、目の疲労が大きな原因であったことがわかり、そして今回の施術で問題が片付いたので、ホッとされて帰えられました。
さっそく眼鏡をつくりに行くと仰ってました。

 今回は私にとってもレアなケースでした。胸鎖乳突筋の鎖骨頭がこわばると鎖骨が内側に歪むことを知ることができました。

 座る姿勢が悪い、姿勢を正そうとしてもすぐに骨盤が倒れて猫背になってしまう、というような相談をよく受けます。
 このような人の場合、背筋を伸ばして座るためには意識的に背筋に力をいれて姿勢を保つか、あるいは癖として常に背中に力が入った状態(=首や肩にも力が入っている)になっている可能性があります。いわゆる「反り腰」もこの類です。

 このような人の場合、腰椎の構造に問題がある場合が多いのですが、その他に下腹部の腹筋が使えない状態になっている場合もあります。

 腰椎の構造的な面、つまり腰椎の歪みという面では、頚椎のストレートネック同様に、腰椎の前弯が消失している場合が多いです。

 

 腰椎の前弯は、上図のように第3、第4、第5腰椎のところが要です。3つのなかで中心となる第4腰椎がほぼ地面と平行な状態になっているとき、第3腰椎は上を向き、第5腰椎は下を向いている状態が理想的です。腰椎がこのようになっているのであれば、特に意識することもなく自然と背筋が伸びが正しい姿勢を築いて保つことができます。
 図の右側のように腰椎がストレートな状態になっていますと、腰椎より上の部分で後ろに反らさないと上半身が前に倒れてしまいますので、バランスを撮るために腰椎と胸椎の境辺りで背骨を後ろに反らせるようになります。するとその反動として胸椎の上の方で背骨のバランスをとるために後弯をおこないますので、肩甲骨辺りが後ろに飛び出すような猫背の状態となってしまいます。

下腹部の腹筋が使えないために正しい姿勢が保てない状態

 腰椎がストレートというわけでもないのに、座位や立位で心地良い姿勢を保つことができない状況もあります。

 実例をあげます。大学生の若い男性は、座位で正しい姿勢を保つことができなくてすぐに後ろに寄り掛かるように(つまり骨盤を寝かせて)座ってしまう癖があります。骨盤を立たせようと意識するとそれは可能で背筋をのばすこともできますが、すぐに疲れてしまったその状態を保つことができなくなります。立位では、出っ尻出っ腹のいわゆる「おじさん体型」となってしまい、スーッと気持ちよく立っていることができません。つまり、骨盤に寄り掛かるようにして立ってしまうので反動として首が前に出た立ち方になってしまいます。

 ベッドにうつ伏せの状態になってもらったときに私が感じた第一印象は、「腰部が使えない」「腰部が腑抜けのような状態」だと感じました。そして殿部も下がっているのでとても若者のからだとは言えない印象でした。
 腰椎を観察していきますと、本来下向きになっているはずの第5腰椎が上を向いていました。そして第1腰椎が下向きの状態になっていました。その第1腰椎を私の手で修正しますと、第5腰椎は下向くの状態になり、たれていたお尻の筋肉やハムストリングもしっかりした状態になり、頼りなかった腰部にも力感が戻りました。
 ですから、第1腰椎が直るように考えていけば良いわけですが、そのヒントを得るために背骨のさらに上部、胸椎を確認していきました。すると胸椎に限らず肋骨(胸郭)にも何か損傷のようなものを感じました。
 そこで質問をしました。「過去に背中を強打したことがありますか?」
 すると「高校生の時に2階のような高いところから落ちて背中全体をドスンと地面に強打したことがある」とのことでした。

 下腹部の腹筋が使える状態か否かを確認する簡単な方法は、座った状態で上半身を後ろに傾けたときにどこに力を入れてその姿勢を支えるかで知ることができます。


 腹筋が働かない状態の人は、骨盤の背面や腰部に力を入れて姿勢を支えるようになります。下腹部の腹筋が働ける状態の人は、下腹部や恥骨結合の近辺に力が入ってこの姿勢を支えるようになります。そして、腹筋が働ける状態の人は、この上半身を後方に傾けた状態を前に戻そうとするときに腹筋を使ってその動作を行うようになりますが、それはとても自然で速やかな動作として行うことができます。

 そして、この下腹部の腹筋が働ける状態というのがとても重要です。私たちの骨格筋の大きな特徴として、同じ状態を長く保つことが苦手なことがあります。長い時間収縮し続けたり、弛緩し続けたりすることが苦手です。骨格筋は収縮したり、弛緩したりすることを交互に行っていたいのです。
 ですから、同じ座った状態を保つにも、重心の位置をいろいろと変えながら特定の部位だけに負担が行かないように私たちは無意識の微妙な動作を行っています。
 もっと簡単に言いますと、座り続けるにも重心を骨盤(坐骨)の後側に掛けたり、前側(恥骨結合)に移動したりと何度も何度も繰り返しています。そして、骨盤の後側に重心が掛かったときには腰部(背面)の筋肉を使い、骨盤の前側に重心が掛かったときには腹筋を使う仕組みになっていて、腹筋と背筋がバランス良く使われるようになっています。
 ところが下腹部の腹筋が働かない状態=使えない状態では、重心を骨盤の前側に移すことができなくなりますので、骨盤の背面ばかりで姿勢を支えなければならなくなります。ですから、お尻や腰部の筋肉に負担が強いられるようになってしまいます。そして、この状況は正しい姿勢を保つことができないだけでなく、腰痛の原因ともなります。

 この男性に対しては、背面を強打した名残として背骨(脊椎)がおかしくなっているところを調整しました。3箇所くらい修正しなければならないところがありましたが、それを済ませると本人もビックリ、自然に恥骨側に重心が乗った状態で座ることが可能になりました。反り腰の状態ではなくなりましたので、本人がきにしていた「首が前に出る」状態も自ずと改善しました。

要になる第1腰椎と第5腰椎

 その他にも第5腰椎の向きが本来とは反対(上向き)の状態であることが理由で、腰部がおろそかな感じになり、お尻が下がり、ハムストリングが力ないのに下半身がむくんでいるという状況の人がいました。まだ20歳代前半の若い女性でしたが、仕事上、とてもストレスが多いようです。
 この女性も上記同様、第1腰椎は下向きの状態になっていましたが、とても気になったのは第5胸椎の硬さでした。第5胸椎やその周辺が盛り上がるように硬くなっていて、肋骨の動きも悪い状態になっていて呼吸も浅い状態でした。(横隔膜の動きが悪いので腹式呼吸が不完全)
 「胸はセンサー」です。そしてその中心は第5胸椎と考えられています。第5胸椎は背骨(脊椎)ですが、その腹側の胸骨上には?中という大切なツボがあります。あるいは、ハートチャクラでもあります。
 強いストレスは胸を締め付けたり、あるいはストレスを体内に取り入れないようにするために胸を締めたりしますが、その中心が?中であり第5胸椎です。
 私は硬くなってしまった第5胸椎及びその周辺をゆるめるために?中を中心に軽く揉みほぐしを行いました。あるいは、大胸筋がゆるむように施術を行いました。すると次第に横隔膜が動くようになって腹式呼吸が始まりました。そして第1腰椎と第5腰椎を確認しますと、それは良い状態に戻っていて、腰部の筋肉も使える状態になりました。

 まだ、「絶対にそうだ」とは言いきれませんが、第1腰椎と第5腰椎、そして第5胸椎には体幹のバランスを取るための大切な関連性があるのだと考えています。

腹筋が使えないその他の理由

 今回は下腹部の腹筋と腰椎との関連性の話題でしたが、下腹部の腹筋が使えない理由はいくつかあります。
 鼡径部が硬くて恥骨結合の状態が良くない。股関節で大腿骨と骨盤の関係が良くない(O脚や内股など)。舌の位置が悪い。噛みしめている。顎関節の状態が悪い。鎖骨の状態が悪い。
 もっと他にもあるかもしれませんが、私たちのからだは腹側(陰)と背側(陽)のバランスが大切です。それは姿勢のことだけでなく、生理機能にも影響すると思われます。
 ジムやトレーニングやストレッチなどでからだをケアすることは好ましいことですが、どうぞ陰と陽のバランスを考えて行ってください。
 たとえば腰痛だからといって腰部の筋肉ばかり鍛えても、腹筋の働きが悪ければ症状は改善しません。整形外科のリハビリでよく指導されるようですが、たとえば膝関節の問題に対して大腿四頭筋ばかり鍛えても、的外れです。
 バランスはとても重要です。

 

 立位での重心が小趾側に掛かっている人は歩行時、前足を踏み出す動作において長趾伸筋と第3腓骨筋を使って足首を背屈する状態になる傾向が強いと言えます。
 その流れは股関節では大腿筋膜張筋を主体に使っている状態なので、大腿の外側~ふくらはぎの外側が張り、更にスネの外側(第3腓骨筋)が張って、長く歩き続けると辛さを感じるようになると思われます。(理想としては股関節では大腰筋~長内転筋、下腿部では前脛骨筋を使って母趾側を使って足を背屈する。つまり下肢の内側部を使って前足を踏み出すことが望ましい)



 さらに小趾側に重心の掛かっている人は、長趾屈筋と足底方形筋がこわばって硬くなっている傾向にありますが、それは常に足底を曲げて「グー」している状態と同じような状態です。このような人たちに「足でパーをしてください」と動作してもらうと、踵から母趾のラインに突っ張りが生じて心地良い足パーはできません。
 この突っ張っている筋肉は長母趾屈筋ですが、それは筋連動として大腿直筋~腹筋~大胸筋鎖骨部と関係しますが、それはそれでいろいろと不調や不具合の原因になったりします。

 また、足底方形筋は股関節では大腿方形筋、長趾屈筋は短内転筋と連動関係にありますので、結論的には、小趾側に重心があり、第3腓骨筋を使って足を背側している人は必ずと言っていいほど、股関節や鼡径部にも問題を生じていると言えます。

 整体の施術者として股関節~足までを整えようとした場合私は、ふくらはぎやハムストや内転筋などに問題があることを感じ取ったとしてもまずは第3腓骨筋と足底方形筋、長母趾屈筋を整えることから施術を始めることが多いです。そしてその他には母趾内転筋や母趾周辺、踵筋膜を整えます。
 それらのこわばりが解消しますと、自ずと股関節~足にかけての状態はりらくすした状態になります。

 



手強い第3腓骨筋のこわばり
 

 これまでの経験で言いますと、サッカーをしていた人は特に第3腓骨筋のこわばりが尋常ではありません。両足の間にボールを保持しながらドリブル走行することが原因なのか、O脚のような内股のような脚の形になっている人が多いのですが、総じて小趾側重心です。

 強くこわばってしまっている第3腓骨筋は持続指圧でじっくりほぐすようになりますが、その感じる痛みは非常に強いものになります。第3腓骨筋は小さな筋肉ですが、頑固なこわばりはなかなか解消しません。これまでの歩き癖のツケがすべてこの筋肉に集積されているようにも感じます。実際の施術では5分~10分程度この激しい痛みに耐えていただくようになりますが、第3腓骨筋のこわばりがゆるんできますと脚はとても楽になるようです。そして心地良い「足のパー」ができるようになります。つまり、第3腓骨筋と長母趾屈筋は関係が深いということです。

 そして、さらに結果として足底方形筋もゆるみます。
 

 

 足底方形筋について詳述しますととても長くなりますので、それは別に取り上げますが、結論的に言いますと、足底方形筋がかたくこわばっていますと動する大腿方形筋もこわばった状態になっていますが、すると骨盤(坐骨結節)を下方に下がった状態になっています。いわゆる「お尻が下がっている」状態ですが、すると後頭部も下がった状態になっています。首のつけ根(後頭部との境)で後頭部がボテッとしていて厚ぼったくなっている感じです。お尻が下がっているように後頭部も下がっているのです。

 ですから結論だけを言いますと、こわばっている第3腓骨筋を持続指圧で強い痛みに耐えながらもゆるめますと、お尻も上がり股関節周りもなんとなくスッキリして、さらに後頭部もすっきりし、首を動かすのが楽になるようになる可能性があります。

 現在50歳くらいの女性ですが、介護の仕事に従事しています。
 仕事柄、慢性的な腰痛はありますが、「それよりも何よりも、頭から肩甲骨の下辺りまで痛くて! 痛くて!」ということで来店されました。
 お腹側は胸郭の上半分くらいから、背中側は肩甲骨の下辺のあたりまで筋肉がガチガチの状態です。
 一般的な施術の段取りで、首肩の揉みほぐしから施術を始めましたが、首も肩も頭部も筋肉が硬すぎて揉みほぐしでは歯も立たないと感じました。
 症状や状態から察するに、慢性的な強い噛みしめが原因であると思いました。すると「子供の頃から歯ぎしりがひどくて、一緒にねている母親に『うるさくて眠れない』とよく言われた。」とおっしゃいました。

 「いつくらいから痛みを感じていたのですか?」「中学生の頃はどうでした?」と尋ねますと「その頃からは慢性的に痛みを感じていた」とのことでした。

 もう、九分九厘噛みしめによるものだと感じましたので、揉みほぐしはそこで止めて、噛みしめの原因探しと改善への施術へと変更しました。

 過去の怪我について尋ねると、「数年前に右足の小指の先を骨折した。さらにその数年前に右足の2趾と3趾にヒビが入った」とのことでした。
 しかし問題は、子供の頃から歯ぎしりをしていた、つまり、子供の頃のケガか何かの影響で噛みしめ癖になったわけですから、もっと昔の原因にたどり着かなければなりません。
 一応、骨折した箇所のケアと、尾骨の打撲も2度ほどあったとのことですから、そのケアも行いました。
 すると、ガチガチだったそしゃく筋はちょっと緩みまして、口をそこそこに開けられるようにはなりました。しかし、まだ噛みしめ状態は解消されていません。

 このときの状態は、背中の肩甲骨周辺や首筋のガチガチはだいぶ緩和されていましたが、小胸筋がまだ強くこわばっていて胸の上部(第5肋骨付近まで)の大胸筋も強くこわばったままでした。
 「お腹になにか問題があるのかな?」と感じましたので、「たとえば子供の頃、鉄棒にお股をぶつけたとか、恥骨周辺の打撲などはありませんでしたか? 思い出せませんか?」と尋ねました。
 いつものことですが、すっかり忘れていたことも施術を進めているうちにポイントのところに近づきますと、記憶が蘇ってくることがあります。
 「そういえば、記憶ははっきりしていないけど、うんと小さい頃、おもちゃの自動車の乗ろうとしてお股をぶつけて痛かったような‥‥」と思い出してくれました。

 そこで、恥骨や鼡径部にポイント絞り施術を進めますと、次第に噛みしめ状態が緩んでいきました。
 「私はそこを触ることはできないので、自分の手でお股(恥骨結合)に手を当ててみてください。」とやってもらいました。
 この状況で、そしゃく筋を確認しますと、噛みしめ状態はほとんど解消されていました。「口を開けてみてください」とやってもらいますと、本人もびっくりするくらい口が大きく開きました。
 そして、そしゃく筋と連動する首の筋肉(斜角筋や胸鎖乳突筋)もゆるみ、首肩から力も抜けて楽な状態になりました。
 これまで何十年に渡って噛みしめていたために蓄積されていたコメカミ(側頭筋)の硬いコリは残っていますが、それはほぐすことで解消できます。

 コメカミの強いこわばりは片頭痛を招きますし、しばしば片頭痛が酷くて吐いてしまうこともあったということです。
 お股へのセルフケアをやり続けていただければ、噛みしめることもなくなりますので、コメカミのコリも次第に和らいでいくことでしょう。

 ということに関連して、恥骨結合の大切さを少しお話させていただきます。

 これは医学的にはおそらく証明されていないでしょうし、これからも証明されないことかもしれません。私の日々の施術経験で言いますと、つまり「私の真実」として発言しますと、恥骨結合が不安定な人は呼吸や内臓の働きが悪くなります。そして噛みしめ癖、口呼吸などの症状を呈するようになる可能性もあります。
 ご自分で左右の恥骨をガバっと掴むように触ったときに痛みを感じる人、つまり鼠径靭帯がこわばっている人なのですが、そのような状態の人は恥骨結合が離れた状態になっています。
 痛みの耐えながら、恥骨結合をしっかりくっつけるように操作しますと、急に横隔膜が動き出して呼吸が楽になったり、下がっていた胃や舌が上がってきたり、お腹が動き出すなどの変化が起きるかもしれません。

 恥骨結合で恥骨を引き離そうとする力が掛かる状況には幾つかのパターンがあります。この女性の場合は、恥骨結合の打撲による損傷でしたが、恥骨に関係する筋肉の変調が原因になっていたり、恥骨結合は骨盤ですから、骨盤の何かの問題でそうなる場合もあります。そしてそんな中で、本当に多く見受けられるのが、鼡径靱帯がこわばって縮んでいるために恥骨結合を外側に引っ張っている状況です。
 それは下肢や股関節の問題に絡みますが、鼡径部にも問題があることですから、下半身の血流やむくみの原因にもなります。







 上記の女性は、頭痛が激しすぎるのでこれまでに何度もMRIでの診断も受けたそうです。そして、そのたびに医師の仰ることは一緒で「脳には異常はありません」でした、とのことです。

 今回の話題は、実はかなりマニアックな内容です。
 お読みいただいて有り難うございました。

 子供の頃から何十年も内股の女性がいます。背中のハリ感と不快感、浅い呼吸と内臓活動の不調という慢性症状に悩まされています。
 お腹の筋肉のことを一般的に、一口に「腹筋」と呼んでいますが、腹筋には四つの筋肉があります。誰もが「腹筋」として認識しているのが腹直筋(ふくちょくきん)ですが、その他に2つの腹斜筋(外腹斜筋と内腹斜筋)、そして最も深部に腹横筋(ふくおうきん)があります。腹横筋は腹圧に深く関係している筋肉ですが、腰腹部のコルセットのような働きをしています。



 今回は腹横筋にスポットを当てて、先の女性が悩んでいる背中の硬さやハリ感、浅い呼吸、内臓の不調について考えてみます。

 私が観察したところによれば、腹横筋がこわばるとウエストは少し細くなります。(反対に腹横筋が弛んだ状態ではウエストが太くなります)
 しかし、その反動として胸郭(肋骨)が横に拡がって平たくなります。胸部が広がってウエストが細くなるので、一見するとスタイルが良くなったように見えるかもしれませんが、これまでたくさんの人たちを観察してきた私の目にはそうは見えません。
 胸郭が横方向に拡がって平たくなるのを専門的に云々しますと、背骨から肋骨が離れた状態に歪んでいて不安定な状態であるると言えます。
 このような状態になりますと、肋骨に関係している背中の筋肉(脊柱起立筋の胸最長筋や腸肋筋群)は硬くこわばってしまいますが、それが背中のハリ感として認識されると思います。



 また、腹式呼吸にとって非常に大切な横隔膜は肋骨を足場として収縮したり弛緩伸張していますので、肋骨が不安定だと横隔膜の働きも当然悪くなります。そして横隔膜の働きが悪くなりますと、内臓の働きも低下しますので胃腸の働きが悪くなったり、肝臓の働きにも影響が及ぶかもしれません。



腹横筋がこわばる理由

 さて、胸郭を本来あるべき状態に近づけるためには、腹横筋のこわばりを解消する必要があるわけですが、腹横筋がこわばる理由について考えなければなりません。
 筋肉の連動関係で言いますと、私の知っている限りでは、眼球を外側に向ける外眼筋と肩甲骨と喉(舌骨)を結ぶマイナーな筋肉である肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん)と腹横筋は連動します。
 ですから、たとえばテレビやパソコン画面が右側にある、あるいはパソコンに有力するときに書類が右側にあって右側を見る機会が多い人は、右目のこの外眼筋がこわばります。すると、それに連動して右側の肩甲舌骨筋、右側の腹横筋がこわばります。
 あるいは、何かの理由で舌骨が歪んだり、肩甲骨の位置が歪んだりして肩甲舌骨筋がこわばると同側の腹横筋がこわばります。

 ところで、筋連動の関係以外の理由で腹横筋がこわばることもあります。



 腹横筋がこわばっている人によく見られる以下のような状態があります。
 まず仙骨を覆う筋膜が硬くこわばっていて、仙骨が腰椎の方に引き付けられている状況があります。仙骨が前傾していると状況に似ていますので「良い状態」と受け取られるかもしれませんが、仙骨と仙腸関節を覆う筋膜が硬くなっているので仙骨は身動きできないような状態であると考えられますし、仙骨下部と尾骨部分が突出している感じなので、「出っ尻」に近い状態です。
 そして仙骨の両側にある骨盤の骨(腸骨)は上方が外側に拡がるようになっていてます。この状況は骨盤下部の坐骨結節が内側に回転するように狭まっていることが原因でもたらされていますが、ここが修正すべき大事なポイントです。。

 坐骨結節が内側に歪んでしまう理由は幾つか考えられます。
 尾骨と坐骨を結んでいる尾骨筋がこわばっている可能性が考えられます。あるいはハムストリングの変調が原因になっている可能性も考えられます。
 しかしながら、上記のような状況のときにはハムストリングの変調による可能性の方が高いようです。

(余談ですが、通常では、仙骨が上方にあがる(前傾する)と骨盤の下部(坐骨結節)が拡がり骨盤全体が前傾します。仙骨が下がると骨盤下部がすぼむように狭くなって骨盤全体も後傾します。ですから、上記のような仙骨が上がりながら骨盤下部が狭くなる状況は「通常ではない」と判断できます。)

半膜様筋が要


 ハムストリングは太ももの裏側にある筋肉群のことで、通常は半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋のことを指します。
 半腱様筋と半膜様筋は坐骨結節と膝裏内側(脛骨)を結んでいます。大腿二頭筋の長頭は坐骨結節と膝裏外側(腓骨)を結んでいます。
 これらの中で坐骨結節の左右の歪みに関係が深いに筋肉は半膜様筋と大腿二頭筋長頭になります。そして坐骨結節が内側に歪む現象は、坐骨結節を外側に引っ張る役割をしている大腿二頭筋長頭が損傷したり、疲弊したりしてゆるんでしまったか、あるいは坐骨結節を内側に引き寄せる働きをする半膜様筋がこわばって縮んでいるかのどちらかが考えられます。



 私のこれまでの施術経験では、今回の腹横筋のこわばりの原因となっている件としては、半膜様筋のこわばりが原因になっていることが圧倒的に多いです。

 さて、ではどうして半膜様筋がこわばってしまうのか? という問題が次に訪れます。
 膝関節が歪んでいる場合が一つ考えられます。もう一つは筋肉の連動関係によるものが考えられます。

 膝関節の歪みは、またいろいろと原因が考えられますので、今回は筋肉の連動関係による原因について考えてます。

 半膜様筋と連動関係にある筋肉はふくらはぎのヒラメ筋の内側線維と足では母趾MP関節の先の内側の筋膜です。



 極端な例で話しますと、歩くときにちゃんと母趾先を使って地面を蹴っているのではなく、このMP関節先の内側部分を使って母趾を捻るようにして地面を蹴っている状況が目に浮かびます。
 たとえば外反母趾の人は、母趾のMP関節がはみ出しているので母趾が斜めになっています。この状態では正しく母趾を使って歩くことはできません。母趾を回転させて捻らないと地面を蹴ることができません。
 ですから母趾MP関節の先にはタコができて硬くなっていると思います。そしてその硬さがヒラメ筋の内側線維にこわばりをつくり、半膜様筋のこわばりへと連動して坐骨結節を内側に引っ張ってしまうことになります。



 今回は足の指と骨盤の歪みと腹筋や呼吸のかんけいについて私が真実だと思っていることを記しました。
 「楽に生きる」、「楽なからだになる」、そのためには呼吸が最も大切だと思います。理想的な呼吸状態はそれだけで全身のマッサージ効果になりますしし、宇宙のリズムと呼応しますので、伸びやかになることができます。ヨガや様々な呼吸法は理想的な呼吸状態をもたらすための手段でもありますが、私は整体の施術でそれを実現することもできると考えています。
 今回の話が、皆様の参考になればと思っています。


余談:甲高の人は注意してください。

 私はしばしば「踵重心は改善しなければならない」「小趾アーチが沈んだ状態は改善する必要がある」と言っています。なぜならば、これらの人たちは足裏を伸びやかに使うことができないからです。
 本来は、ふくらはぎ(脛骨)と足の関節となっている距骨に体重が乗っていることが望ましい状態です。そうであれば、体重の負荷は足裏で分散されますし、足の指は伸びやかな状態を保つことができます。
 ところが踵に重心が乗ったり、小趾側に重心が乗ったりしますと、立った時に足の筋肉は緊張状態(収縮状態)になってしまいます。平たく言いますと「足の指で踏ん張って立っている」状態です。足の指に力を入れてバランスをとり続けないと立っていられないのです。(この状態に馴れている人は、それが当然なので何とも感じないかもしれません)

 



 甲高の人は、足をすぼめた状態であると認識した方が良いと思います。もちろん生来の体型的なものによる個別差はあると思いますが、踵や小趾側に重心のある人は平たい足でも足首の先の部分(楔状骨)は高くなっているはずです。

 

追記:〇胃の不調と腹横筋のゆるみ過ぎ
 

 胃が硬くなって動きが悪くなると背中が盛り上がるようにかたくなります。それは、胃は背中側に向けて膨らむからです。
腹横筋がゆるんでいる場合、胸郭が背骨の方に引き付けられるようになって胸が狭くなりますが、この状態と胃の不調は関係あるかもしれません。
 胸の中で胃が活動するスペースが減るので窮屈になり、不調となって硬くなり背中側に突出する感じになるのかもしれません。
 
 踵の筋膜が硬くなると腹横筋はゆるみますので、施術としては踵の筋膜をゆるめます。これによって胸の狭さは改善されます。そして、胃の反射区(足裏と手)を刺激し、そのほか腹直筋や腹斜筋の状態を整え、前鋸筋を整えて、呼吸の状態が良くなるようにしました。
 以上で胃の状態は良くなったようです。(顧客本人談)