骨盤の上前腸骨棘(ASIS)と恥骨結合を結んでいる靱帯(鼡径靱帯)を中心に鼡径部があります。
 鼡径靱帯と恥骨~腸骨にかけての部分は隙間になっていますが、その中に幾つかの筋肉と太い動脈と静脈、リンパが通っています。ですから、骨盤(腸骨と恥骨)に歪みがあったり、周辺の筋肉(大腰筋、腸骨筋、恥骨筋、長内転筋など)に変調があったりしますと血流やリンパの流れが滞ってしまい、浮腫などの症状を呈するようになります。

 また、これまでの施術経験で申せば、鼡径部の状態によって以下のような症状を発症する可能性があります。

 ・骨盤周りや下半身のむくみ
 ・鼡径ヘルニア(脱腸)
 ・舌~喉の位置と働き
 ・胃下垂を含めた内臓の働き
 ・頻尿、子宮・卵巣関係の問題
 ・股関節の不具合など

①骨盤周りや下半身のむくみ
 整体的に観点では、むくみに関しては静脈とリンパの流れが大きく影響していると言えます。
 特に骨格筋の中で腸骨筋、長内転筋、恥骨筋などがこわばって硬く太くなりますと、狭い鼡径部の隙間がさらに狭くなりますので、大腿静脈やリンパ管が圧迫されて流れが悪くなり、むくみを生じてしまう可能性がたかくなります。ですから、筋肉の変調を改善するように整えることが主体の施術となります。

 

②鼡径ヘルニア(脱腸)
 鼡径ヘルニアの原因の一つとして、小腸が鼡径靱帯を超えて鼡径部からはみ出してしまう要因も考えられます。(現に、そのような状態に人を何人か観ました。)
 鼡径靱帯は小腸が骨盤からこぼれ落ちないようにする防壁のような役割をしていると考えることもできます。ですから、小腸がすっかり骨盤内に納まる状態になるよう、鼡径靱帯や骨盤を整えることで対応します。

 


③舌~喉の位置と働き
 私たちの腹側の中心には腹直筋がありますが、それは恥骨結合から始まりますが、解剖学的に胸骨上の筋膜~胸骨舌骨筋~舌筋(舌)へと一繋がりになっています。
 さらに二足歩行(人類)の立位として、足の小趾側アーチ~膝のお皿(膝蓋骨)~鼡径部~喉(喉頭隆起)~舌へと、一つの関連性があります。足の小趾アーチが下がっている人は膝のお皿も鼡径部も喉も下がった状態になっていますが、舌も下がってしまいます。
 舌の位置は無呼吸症候群に密接に関係している他、そしゃくにも影響し、噛みしめ状態を招きますが、いろいろな不調の原因となります。
 鼡径部を整えることで足の小趾側アーチがしっかりしたり、あるいは小趾側アーチを整えることで鼡径部が上がり、舌の位置が良くなる場合もありますが、私は鼡径部と舌は密接に関係していると考えて施術を行っています。

 



④胃下垂を含めた内臓の働きに影響
 胃下垂の人に観られる傾向あります。それは恥骨結合で左右の恥骨が離れた状態になっていることです。そのような人の左右の恥骨を近づけると胃の位置が上がって、さらに内臓に変化が生じるのを感じることができます。
 恥骨結合で左右の恥骨が離れた状態になっているとは、恥骨結合の結合組織がゆるんだ状態になっているか、鼡径靱帯が縮もうとした状態になっていて恥骨を外側に引っ張る力が働いている状態です。
 恥骨を打撲した経験があるなどで恥骨結合の結合組織が損傷状態になったままになっている人もいます。そのような場合は恥骨結合を手当てするなどして、回復を促すようにケアすることを勧めています。

 鼡径靱帯がこわばっていて縮みたがっている状態の人は、なんとなく鼡径部に硬さや詰まり感を感じていると思います。長座した状態で上半身を前屈しようとした場合など、鼡径部が伸びてくれないので「これ以上前屈できない」とストップ感を感じるかもしれません。
 ところで、この鼡径部がこわばった状態というのは、その仕組みがちょっと複雑です。

 

 多く見受けられる状態としては、小殿筋や大腿筋膜張筋と大腿方形筋あるいは内閉鎖筋がこわばっている状況です。小殿筋と大腿筋膜張筋は収縮することで股関節(大腿骨)を内旋(内側に捻る)する働きをしますので、それらの筋肉がこわばった状態は大腿骨が内側に捻られる力が掛かった状況を招きます。一方、大腿方形筋と内閉鎖筋は大腿骨を外旋(外側に捻る)させる働きがありますので、それらの筋肉がこわばった状態では、大腿骨が外側に捻られる力が掛かった状態を招きます。
 ですから小殿筋・大腿筋膜張筋、大腿方形筋・内閉鎖筋がこわばった状態では、大腿骨には常に内旋と外旋の両方の力が掛かっている状況となっています。つまり、大腿骨は拘束されて動きをきつく制限された状況となっています。そして、このとき鼡径靱帯は強くこわばる傾向があると私は認識しています。

 私たちの日常生活では前腕を内側に捻る動作がとても多いのですが、その影響で手首と肘関節は歪みが固定しやすい関節であると言えます。
 手首を内側に捻る筋肉である方形回内筋は筋連動として大腿方形筋と繋がっていますので、ノートパソコンを操作する、包丁を使うなど手首を内側に捻ることの多い人は方形回内筋がこわばっていますので大腿方形筋もこわばった状態になっています。そして、肘関節が内側に捻られていることで肘筋もこわばった状態になっていますが、肘筋は小殿筋と連動関係にありますので結論的に申しますと、前腕を内側に捻る動作の多い人は小殿筋もこわばり、股関節に余裕がなくなり、鼡径部靱帯がこわばります。
 ですから、いろいろな過程を省略して述べれば、前腕を内側に捻る動作の多い人は鼡径部が硬くなって胃下垂になりやすい、ということになります。



⑤頻尿、子宮・卵巣関係の問題
 膀胱、子宮は恥骨近辺の深部にありますので、単純に鼡径部や恥骨周辺が硬くなりますと、それらが圧迫されて余裕がなくなり、不調や不具合を呈するようになると考えることができます。
 また、上記①で述べましたとおり、鼡径部での血流が悪くなりますと当然、骨盤内臓(子宮、卵巣、前立腺、膀胱、直腸など)の働きに影響がでると考えることができます。

 私のところへは女性の来店が多いのですが、卵巣について私はいつも気にしています。足の踵の外側には卵巣の反射区がありますが、そこがとても硬くなっていて、その影響がいろんなところに及んでいますので、大切なところだと考えています。ですから、鼡径部を整えることは大切です。

⑥股関節の不具合など
 これについては、④のところで述べたとおりです。
 また小殿筋については、こわばった状態の反対でゆるんで働きの悪い状態になっている場合は、股関節でちゃんと座ることができなくなり、骨盤を寝かせて座るようになってしまいます。そしてそれは猫背の姿勢や腹筋に力が入らない状況を招きますので、小殿筋の状態は大切です。