ギックリ腰を経験したことは理解できると思いますが、その症状の一つにちょっとした振動でも痛みが上がってきて、そーっとでないとからだを動かすことができない状態があります。そして症状も回復して動作がほとんど普通にできるようになったとしても、階段をトントンと降りたり、ちょっとした段差で腰部に振動が来たときには、やはり痛みを感じる状態がしばらく残ってしまうこともあります。

 この女性は10年程前に「腰が破壊されている」と私が感じるほど骨盤と腰部が酷い状態になっていました。現在は普通の生活がそれほど苦なくできる状態にまで回復しています。ところが最近自転車を乗るようになって、道路にある段差などを通過するときの小さな振動が腰の下部に響いて、何度も繰り返しているうちに痛みとなって腰が固まってしまう状態になってしまうと訴えました。

 症状に直接関係するからだの状態としては、第3・4・5腰椎と仙骨の間(椎間)が不安定で、その部分をドンドンと軽く叩いても嫌な響きが感じられる状態です。ギックリ腰を何度も経験したり、腰部に大きな損傷を負った場合はこんな状態になりますが、たいていは背骨と骨盤をケアすることで次第に状態は改善されていきます。
 しかし、この女性の場合はそれだけでは改善が見られませんでした。私がこれまで施術経験した中でもっとも酷い腰痛(それは本当に腰や骨盤が破壊された状態でした)だったので、今、普通の生活ができるようになったのも不思議なくらいですが、おそらく最後の最後の症状であるこの状態をなんとか改善したいと考えています。
 そこで、腰部ばかりでなく腹部の方ももう一度細かく観察してみることにしました。

 恥骨結合の上辺あたりの深部に硬結がありました。「この硬結がゆるめば、もしかしたらバランスの関係で腰部がもう少ししっかりするかもしれない」と思いまして、それに向けての施術を行いました。
 下肢の内転筋群の深部にこわばりがあって、それが恥骨結合付近を下方に引っ張っている可能性を感じました。これら内転筋群の深部がゆるめば恥骨の位置が戻って硬結がなくなるかもしれないと考え、そのための施術を行いました。

 それは足の背側骨間筋と底側骨間筋、長腓骨筋の停止部を念入りにほぐしてゆるめる施術が殆どでした。
 度重なるギックリ腰と、それにともなう酷い腰痛を経験したことのトラウマにより、腰椎や仙骨を動かすことを避けてしまうため、歩き方も含め、足に必要以上に力を入れて頑張る癖となってしまったために足の筋肉がとてもこわばっています。そして、骨間筋はもっとも深部にあるのですが、そこが頑固にこわばっていますので、それが内転筋群深部のこわばりをもたらしていました。
 施術はとても痛みを伴いました。しかし、中途半端で終わらすことはできないので、痛みをこらえていただきながら施術を受け入れていただきました。

 結局、予想は当たっていて、恥骨結合上辺の硬結はなくなり、腰椎の不安定だった部分も或る程度しっかりしました。ドンドンと叩いて刺激しても痛みを感じない状態となりました。

 この女性のような症状でなくても下部腰椎が不安定で腰が使えないとか力が入らない、座位が安定しないような人はいますが、そのような場合は腰部や骨盤に目をやる他に、腹側の恥骨周辺も確認してみることも必要なことだと再認識しました。