銀河漂流劇場ビリーとエド 第6話・不時着惑星シリーズ第1弾『クイズ!バトルランナー』・② | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第6話 ①、  ③、  ④、  ⑤、  ⑥、  ⑦(終)  

 

 殺人クイズ番組『クイズ!バトルランナー』への参加を“要請”された、シルバーアロー号
の仲間たち。首輪爆弾を仕掛けられた彼らに選択の余地は無い…と、そう思われていた。

「こんなもので我々の行動を支配出来ると思っているのが実におめでたいですね」
「逃げる方法なんていくらでもあるのにね、アルルさん」
「そうそう、電池を取られたって1回ぐらいは使えるんだし」
「だが手の内を明かすのはもう少しおちょくってからにしようぜ?」
「そうですね。こんなうすら寒いデスゲームにも3泊4日の豪華旅行がついてくるんですから、
“マイナンバーカード”の返納はそれからでも遅くはないでしょう」

 普通の人間、超合金の雑用ロボット、不死身究極生物に超能力少女…そんなふざけた設定の
彼らがこんなうすら寒いディストピアのB級映画みたいなうすら寒いデスゲーム相手に真剣に
取り合うわけも無く、さながら不可能を可能にする特攻野郎か、あるいは心で撃つ光線銃を左
腕に仕込んだ宇宙海賊に代表される80’S(エイティーズ)アメリカンヒーローばりの軽口
を叩きながら、目の前のスクリーンに映し出される会場の盛り上がりに冷ややかな視線を送る
彼らの目の奥では、怒りの炎が静かに燃え上がっていた。

 批判的な思考力を失った群衆心理と正義感が結び付いたとき、人間の行動はこの上なく残虐
で邪悪なものへと変質する。画面の向こうでは、観客のヘイトを煽るために司会の男がビリー
たち4人の罪状を大げさに紹介しながらでっち上げている真っ最中で、AIが生成した動画の
中で繰り広げられる彼らの非道に、観客たちからは容赦の無い罵声が浴びせられた。

 暴行、詐欺、器物損壊、殺人…行きずりの通りすがりに捕まった彼らにまったく身に覚えが
無いのはもちろんだが、いくら『再現ドラマ』とはいえ軽重(けいちょう)問わず盛りに盛り
まくった犯罪行為の数々は、よくよく考えてみればたったの4人で、しかもその半数は子供が
混じったような面子(めんつ)に可能なものではなく、しかも多くの被害が出ていながらこれ
までに報道が無かったことなど、いくらでも疑問は湧いてきそうなものだが、当然ながらスタ
ジオ観覧席の中に、それだけの知性と思考力を発揮出来るような人間は1人もいなかった。

 


 司会の合図と同時に、ビリーたちが縛り付けられていた金属フレームの“何か”が、足元の
レールに沿って動き始めた。狭く細いトンネルの中へと入っていったフレームは、後部に装備
されたジェット噴射で急激に速度を増し、飛ぶような勢いで駆け抜けていったその先には廃墟
が広がっていた。

 まるで爆撃の後のようなボロボロのビル群とがれきとゴミの山…しかしキレイに片付けられ、
チリ一つ落ちていない道路の上だけは邪魔にならないよう絶妙な高さと配置で、しかも街灯の
明かりにしてはやけに強い光が、暗闇の中で地面に書かれた矢印を分かりやすく照らしていた。

「親切設計だな」
「きっとこのスタート地点で立ち往生して死んだのがいたんでしょう」
「…抗議の自殺ってヤツか?」
「出来ない人はとことん出来ないものですよ、ゲームなんて」
「普通に水をやるだけでミント枯らしちゃう人だっているもんね」

 金属フレームから解放されたビリーたちが道なりに進んでいくと、廃墟とがれきとゴミの山

なのは相変わらずだったが大きな広場に出た。足元に白いスモークが焚かれ、ナイター照明で

照らされたその場所は、まさに「これからボス戦でござい」と言わんばかりであった。

「今宵のランナーを待ち受けるクイズマスター1番手は!!?
……そう!!待ってましたのあの男だ!!!」

 

 

「抜けば玉散る氷の刃、名刀キクマサに斬れぬものなし!!
オヤジアクションの決定版、時代錯誤の維持と誇りを見せてくれ!

ラスト・サムラ~~~~イ……ワタナベ!!!」

 

 真下からのスポットライトが人影を照らし出し、バトルフィールドに荘厳な音楽が流れる。
観覧席からスピーカー越しに響く“ワタナベ”コールに乗り、膝によくないスーパーヒーロー
着地で、和服に身を包んだ1人の男が降り立った。

「…チャックノリスじゃねえか」

 『ワタナベ』の『ラストサムライ』と聞いて、てっきり渡辺謙のソックリさんでも現れるか
と思っていたビリーたちの期待は、なんとも微妙な形で裏切られた。サムライはサムライでも、
侍魂&武士道で極秘任務を遂行する、ブルース・リーと戦った方のサムライだった。
 

 

「なんかヤシの木みたいだね、あのちょんまげ」
「っていうかなんでワタナベなのよ、着物もなんか無駄にラメ入ってるし」
「しかもチャックノリスって誰向けのネタなんだよ」
「ツッコミどころが多過ぎてわけが分かりませんね」

 絶叫、失神するスタジオの観客たち。スピーカー越しに“ワタナベ”コールが鳴り止まぬ中、
タコ糸か何かで雑に結い上げたヤシの木みたいなちょんまげのワタナベは懐からマイクを取り
出し、右手人差し指をビシッ!と突き立て、叫んだ。

「1つ!!…言っておきたい」
「!…………………」

 “ワタナベ”コールで沸き返っていた観客は突然、水を打ったように静まり返る。息を止め、
手に汗握り、固唾を飲み込みながら、必殺の“その瞬間”を、今か今かと待ち構えた。












「…ワタナベではない!!ワタベだ!!!」

 再び絶叫、失神する観客。その異様なテンションに全くついていけない4人は、なんかもう

完全にやさぐれていた。

「…どっちでもいいじゃねえか」
「他にいるわけじゃないのにね」
「なんで字と読み方を統一してくんないのよ」

 ワタナベとワタベ、アマミヤとアメミヤ…漢字で書けばどちらも同じなのに微妙に読み方が
違うこの両者は「紛らわしいんだよクソがッ!」と言われる名前の、まさにツートップである。

〈続く〉

 

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↓第6話の元ネタ