銀河漂流劇場ビリーとエド 第6話・不時着惑星シリーズ第1弾『クイズ!バトルランナー』・① | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第6話 ②、  ③、  ④、  ⑤、  ⑥、  ⑦(終)  

 

 8(エイト)ビートの軽快な音楽に乗り、ブロンドの美女たちが両側の舞台袖から現れる。
白を基調とした舞台で繰り広げられる美女たちの妖艶(ようえん)な舞いは、観客たちの興奮
をますます高め、その視線を集めていく。

 やがて美女たちの群れは波が割れるようにサアッ、と左右に分かれ、舞台中央の“奈落”と
呼ばれる仕掛けの底から1人の男が現れる。テカテカに脂ぎった小麦色の肌にパンチパーマ、
白のYシャツに黒の蝶ネクタイ、笑顔でむき出しの白い歯が不気味に光るヒゲ親父だった。

 万雷の拍手を浴びながら、男は力強く右手を掲げ、絞り出すような大声で叫ぶ。

「いま一番面白いテレビといえば!?」

「クイズ!バトルランナー!!」

「いま一番ホットでイケてるテレビといえば!!?」

「クイズ!!バトルランナー!!!」

「もう一度!!?」

「クイズ!!バトルランナー!!!」

 反復・増幅された観客たちの絶叫が、舞台を大きく震わせる。
 一方その頃、地下の選手(ランナー)控え室では…。

「いや~とうとう始まりましたね、不時着惑星シリーズ」
「“とうとう”なんて言われるほど誰も待っちゃいねーだろうが」
「しかもシリーズってさぁ、どっか行く度にこんな目に遭わされるの勘弁してほしいんだけど」

 時は未来、ところは宇宙。

 ビリー、ロボ、アルル、エドワード船長…おなじみの面々は、おなじみの宇宙船・シルバー
アロー号で永遠のように繰り返される引きこもり生活の気晴らしに、観光を兼ねた調査旅行へ
出かけることにしたのだが、その先で謎の襲撃を受け身柄を拘束された彼らは、ディストピア
名物でお馴染み“クイズ”デスゲームへの参加を“要請”された。

 現在彼らは、脚の無い背もたれだけの椅子をむき出しのパイプフレームで囲った、乗り物の
ような“何か”に両手足を縛り付けられ、首に括り付けられた仰々しい金属の輪(リング)は、
赤いランプの光る謎の機械が組み込まれている。彼らに選択の余地は無かった。

「ヒトの首に爆弾巻いて“オネガイ”してくるのがディストピアあるあるだよな。医療費自己

負担十割と引き換えにゴリ押してくる自民党のマイナンバーカードまんまじゃねーか」
「断ったら命を取られるような状況で“要請”とか言ってるのがいかにもですよね。日本医師
会も政府のお達しを公然と無視して紙の保険証を使い続ける宣言でもしていれば、その勢いで
返納祭りにつなげて廃止に追い込めたかもしれないというのに…」
「ジーンシャープの非暴力闘争メソッドを実行する機会は日本で永久に失われたわけだな」

 

 

 

 

 

「それはともかくさぁ、ナビコさんもちゃんといるよね、ロボ?」
「忘れてるわけじゃないから安心しなエド。住む世界が違うってだけだ、文字通りの意味でな」

 時は未来、ところは宇宙。もはやどこかも定かではない、とある星系でのこと。

 破綻した経済と、それに対し何の手も打てない無策無能を極めついに開き直った時の政権は、
「カネだけ、今だけ、自分だけ」と言わんばかりに国民の財産を収奪する様々な税制を施行、
ジャーナリズムの精神よりも“企業利益”と“自己都合”を優先したメディアは権力側につき、
政権に不都合な情報は“報道しない自由”を発揮する一方で、ガス抜きの“弱い者いじめ”は
どんどん過激化していった。半世紀以上に渡って被害者を出し続けた芸能事務所社長の性加害
という明らかな犯罪行為にダンマリを決め込みながら、犯罪でもない単なる当事者間の問題で
しかないはずの芸能人の不倫を執拗に攻撃する…そうして腐敗した権力に忖度する報道の行き

着いた先が、自分たちの都合“だけ”ででっち上げたワルモノたちを衆人環視の下で処刑する、

リアリティショーが邪悪な進化を遂げた殺人クイズ番組『クイズ!バトルランナー』であった。

「…なんだか色々語ってますけどムツカシイことなんか考えずに単なるB級映画のパロディと
思ってくれればいいんですよ。それでもコチラは一向に構いません」
「誰に向かって話してんだお前は」

 今回のサブタイトルからして、まさに安っぽいパロディ全開である。
 相変わらずマイペースな彼らが80年代B級映画の主人公さながら飄々とした余裕の態度を
貫く間も、吊り下げられたモニターの向こうでは番組が進行していた。

「クイズ!バトルランナー、ルールは簡単!ランナーが進んでいった先のバトルフィールドで
それぞれ待ち受ける3人のクイズマスターたちとクイズで対決!最後のスペシャルクイズまで
見事勝ち抜いた優勝者には、南の島3泊4日の豪華旅行をプレゼント!」

「た~だ~し!!」

「…もしクイズに間違えたり試合放棄で逃げだしたりすれば…………!?」


「「………ドカーーーーーーン!!!」」

「首輪爆弾が作動してあわれあの世行き!そうならないためにもさぁみんな!!」

「走れ!!答えろ!!生き延びろオォ~~!!」

「~~決まった!!」

 観客との息もピッタリの最高の舞台。そこに問題があるとすれば、これが文字通りの意味で
命がけの、イカれたクイズ番組であるという一点のみだ。

〈続く〉

 

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