銀河漂流劇場ビリーとエド 第6話・不時着惑星シリーズ第1弾『クイズ!バトルランナー』・③ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第6話  ①、  ②、  ④、  ⑤、  ⑥、  ⑦(終)  

 

「…ワタナベではない!!ワタベだ!!!」

 

 タコ糸か何かで雑に結い上げただけのヤシの木みたいなちょんまげと、無駄にラメの入った
目に痛いカラフルな着物。大きさも長さも同じくらいで一体どっちがキクマサなんだか分から
ない腰の二本差しが、申し訳程度のサムライ要素どころか売れないドサ回りの演歌歌手にしか
なっていないチャックノリスのそっくりさんは、割れんばかりの「ワタベ」コールとスポット
ライトを全身に浴びながら、まるで何かを“降ろす”ように陶然とした面持ちで薄く目を閉じ、
両腕を拡げた。

「…ワタベの雨を降らす男ってか?」
「ワタベメーカーだね」
「何なのよワタナベメーカーって」
「ワタナベ乳業とかそういうのだろ」
「ホントにあったら困るからやめときましょう、そういうのは」

 もちろん、この物語は純然たるフィクションであり、実在の人物・団体名との単なる偶然の
一致に関して、いかなる政治的・思想的意図も含まれていないことを予め断っておくとしよう。
何か言いたいことがあればもったいぶらず、名指しでハッキリ書いている。

 


 ワタナベとワタベを間違えながら、目の前で繰り広げられる無駄に壮大な茶番劇に軽蔑の眼
差しを向ける4人。そのまま通り過ぎてしまおうかとも考えたが、番組も序盤のうちから首輪
爆弾を無視するよりこのまま油断させておいた方がいいということで、退屈な前フリが終わる
のを待つことにした。

 チャックノリスのそっくりさんが腰の二本差しをおもむろに抜き放つと、それを合図にして、
客席は再び静寂に包まれる。その視線と切っ先はビリーたちに向けられていた。

「今回のランナーはお前たちか。だが俺は女子供といえど容赦はしない!いくぞ!!」

 抜き身の刀を地面に突き立て(刃が痛むからマネしないように)、売れないドサ回りの演歌
歌手みたいなラストサムライが天高く掲げた右手指をパチンと鳴らすと、すぐ後ろの地面から、
2つの巨大なスクリーンパネルがせり上がった。

 映し出されたのは、10代くらいの女の子5人が仲良く写った集合写真だった。

「俺の出すクイズは間違い探しだ!この中に5つの間違いがある、お手付きは3回まで。さあ
答えろ!!」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 “クイズ”デスゲームに巻き込まれているビリーたちやさぐれ4人組は、画面を何秒かボン
ヤリ眺めた後、答えるのもアホらしいと言うように首を振り、ワタベを睨みつけた。

「…手の形がピースじゃなくてグワシだ。ま、どーせ勝てねえようになってンだろーけどな!
これでいいのか?ワタナベ

 耳の穴ほじくった左小指をフッ、と吹きながら、目つきの悪い男は吐き捨てるように答えた。

「結局ギリギリのところで負けちゃうようになってるんだよね、右端の女の子がお歯黒だって
答えてもさ。そうでしょ、ワタナベ。やらせが入ってることぐらい知ってるんだよ」

 普段は温厚で愛くるしいエドワード船長も、明らかに不機嫌な口調で「ワタナベ」呼びしな
がらプイッと顔を背けた。

「そうですね、ワタナベ。この後にチャレンジャーが控えているかどうかまだ分かりませんが、
ワタナベ、右から2番目の女が豊胸手術してるって答えても、ワタナベ、どうせソチラさんの
都合で別の答えを用意してるんでしょう?ワタナベ」

 ロボはロボで、グーとパーしか出せないクレーンゲームみたいな両手を輪っかのように見せ
ながら、それを自身の、人間で言うところの股座(またぐら)に当たる部分で上下させながら、
3つ目の間違いを答えた。

「…このポンコツ最低だわ。ていうか左端の女さ、ムダ毛処理サボってるでしょ。わきの下で
ヒジキ栽培でもやってんの?ワタナベw」

 鼻で笑いながら答えるアルルの態度も目くそ鼻くそだが相手もさるもの。チャックノリスの
そっくりさんみたいなワタナベでも一応は番組の用意したクイズマスターといったところか、
それとも紛らわしい苗字あるあるで間違われることに慣れているのか、ビリーたちの挑発にも
動じることなく、腕を組んで悠然と構えていた。

「とかなんとかナレってますけど袖のあたりにシワが寄ってますよ?指先でグッとこらえてる
みたいに見えますね、ワタナベ」
「よく見りゃついでにブルってるみたいだな、気にしてンのか?ワタナベ」

「…ワタベだ」

「ここにワタナベがいるのか?ワタナベ。どっちでもいいじゃねぇか、ワタナベ」

 全国のワタベさん方におかれましては、ビリーたちのこうした侮蔑的な発言の数々は、ふざ
けた“クイズ”デスゲームに巻き込まれた人間の口から怒りと共に吐き出される、ごく自然な
反応として理解を示していただければ幸いである。

「言いたいことはそれだけか。間違いは全部で5つ、お前たちが言い当てたのは4つ…最後の
1つが答えられなければ、お前たちの負けだ!」

「…そういやそうだったな、忘れるトコだったよ。ちょっと待ってろ、ワタナベ」

 ビリーは仲間たちに手で合図して呼び集めると、円陣を組むようにして額を突き合わせた。

「とりあえず、どうしようか?」
「船長含めた全員であれだけおちょくって誰も殺されずに済んだことを考えると、今のところ
ルールを守る気はあるようですね」
「じゃあ、正解すれば無事に通過出来るってこと?」
「今のところはな、アルル。この後にランナーが控えてりゃ怪しいけどな」
「そう簡単に次が用意出来るとは考えにくいですが、一応は警戒しておきましょうか」
「それでさ、最後の間違いって…やっぱりアレかな?」
「…アレしかないだろう?」

 4人は同時に頷き、再びラストサムライの方へと向き直った。

「腹を決めたようだな。最後の間違いはどこだ、さあ答えろ!」

 4人は、いっせいに指差した。
 
〈続く〉

 

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