銀河漂流劇場ビリーとエド 第6話・不時着惑星シリーズ第1弾『クイズ!バトルランナー』・⑤ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

 

登場人物

 

第6話  ①、  ②、  ③、  ④、  ⑥、  ⑦(終)  

 

「開かねえなぁ…打ち切りにでもなったか?」
「放送途中での打ち切りなんて聞いたことないよ」

 ラストサムライ・ワタベの間違い探しを征したシルバーアロー号の面々は、巨大な壁の前で
立ち往生していた。

 すぐ真下から見上げれば空が隠れて見えなくなるほど高く、左右に目をやれば、その両端は
霞んで見えなくなるほどに、どこまでも続く巨大なコンクリートの壁、壁、壁…順路に従って
辿り着いた先には、巨大な壁と固く閉ざされた巨大な門、そしてその脇には瓦礫とゴミの山で
見えないようにカムフラージュされた、小さなドアがあった。

 おそらくここが第二関門の入り口と、スタッフ用の連絡通路になっているのだろう。門の方
はともかく、小さなドアもしっかりと施錠されているようで、スチール製片側開きのきわめて
簡素なものだったが、押しても引いても叩いても、蹴飛ばしても開かなかった。

「演者も知らない最終回はあったみたいですよ、たぶんCMの最中なんでしょう」
「じゃあ大人しく待つとするか。…そろそろおねむの時間だろうが、我慢してくれよなアルル。
逃げ道は多めに用意しときたいからな」
「分かってる。…船の方はいつ拾ってくれるの?」
「ナビコさんがとっくに気付いて向かっている頃ですよ、船に連絡は入れてますからね。大体
あと30分から1時間くらいで見ていただければ」
「番組終わっちゃうじゃん、アルルさんに頼んだ方が早くない?」

 宇宙暮らしの人間は切り替えが早い。録画だったらチャプタージャンプですっ飛ばし、オン
タイムでの視聴であれば中座するタイミングであり、社長が所属タレントを半世紀以上も食い
散らかしてきたことが事実として白日の下に晒されながら出直しのための適切な対処も取れず、
保身のことしか頭に無いような醜い銭ゲバ根性丸出しのタレント事務所にしがみつくキレイな
男の子たちをわざわざ起用するスポンサー企業なんてものは常識的に考えれば存在するわけが
無いことでおなじみのテレビCMが終わるまでの間、ビリーたち4人は今後の方針を雑談交じ
りに話し合いながら、それぞれ思い思いに過ごすことにした。

 ゴミの山から見つけたペンチやドライバーを首元から突っ込み、愛くるしい男の子に仕掛け
られた首輪爆弾の解体を試みる目つきの悪い男…これまたゴミの山から拾ってきたボロ椅子に
腰かけて、フィールドを照らす水銀灯の眩しさに目を細め、夜空の向こうに未だ姿の見えない
母船を仰ぎ見る超能力少女…そんな彼らの周囲をローラー歩行でうろつくポンコツロボットは、
ゴミと瓦礫の山の前まで近付いては歩みを止め、山の中に手を突っ込み引きずり出した小さな
機械を握りつぶす、謎の動きを繰り返していた。

「…何やってんだ?」
「隠しカメラをツブしてます」
「そいつはCM明けが楽しみだな」

『それ以上やられると困るんだよねー』

 聞いているだけでイラつくようなイヤミったらしい声がスピーカー越しに響き渡り、やがて
門のすぐ傍の、コンクリートの壁に埋め込まれた巨大なインターホンみたいな大型モニターに、
番組MCの顔が映し出された。テカテカに脂ぎった小麦色の肌にパンチパーマと、笑顔でむき
出しの白い歯が不気味に光る顔面は、モニター越しでもドギツいしつこさを誇っている。
 それに気付いた4人は一斉に作業を中断し、モニター画面のヒゲ親父をにらみつけた。

『君たち困るんだよねー段取りとか撮れ高とか、もうちょっと考えて動いてくれないとさ』
「うるせえ。俺たちがそんなモンに忖度する義理があると思ってンのか?」
「恐怖と絶望でギドギドに引きつった表情でのたうち回る残酷な殺戮ショーが撮りたかったん
じゃあないですか?全員無事に第1関門を突破したのがお気に召さなかったようで」
「困るなんて言われてる僕たちの方が困るよね、アルルさん」
「そうそう、こんな下らない茶番に出てやってるだけでもありがたいと思ってもらわないとね」

『…どうやら自分たちの立場が分かっていないようだね』

 画面の向こうのヒゲ親父は4人を見下すように顔を上げながら、右手に握られたスイッチの
赤いボタンに指をかけ、これみよがしに見せびらかした。

「なんだ?俺たちを殺すつもりか?この首輪爆弾で?番組の途中だろ?落とせンのか?お前に?
…やれるもんならやってみやがれ」
「実際に命のやり取りなんかしてて、そんな簡単に代わりを用意出来るわけが無いことぐらい、
簡単に想像がつくと思いませんか?ねえ船長」
「『ハンガーゲーム』みたいにランダムに選んでるわけじゃないんでしょ?」
「グチャグチャ死んでるだけで客が釣れるんだもん、仕事も雑になってくよね~」

カチッ!

「「「「………………………」」」」

「……?………?…………??」

 たまらずにこみ上げてくる笑いを堪えるような、ヘラヘラした口調と余裕の態度で挑発する
ビリーたちの目の前で、首輪爆弾のスイッチが押された。

 しかし、爆弾は爆発しなかった。

カチッ!カチッ!…カチカチッ!!

 白い歯をむき出しにした不気味な笑顔を引きつらせ、司会のヒゲ親父はスイッチを連打する。
しかしそれでも爆弾は爆発しない。そしてビリーたち4人は別段驚く様子も無く、ヒゲ親父の
狼狽(うろたえ)ぶりを平然と眺めていた。

「『ただの首輪爆弾だとでも思っていたのかね君たちは?』」
「!!?」
「とでも言ってやりたかったんでしょう?」
「即興でのモノマネ音声にしちゃあ上出来だな」
「爆弾じゃなかったら一体どんなギミック仕込んでたのかな?」
「生放送にアクシデントはつきものだもんねエドくん、しょうがないわよ」
「でもせっかくだから見てみたかったですよねえ皆さん!!」

「アッハッハッハッハッハッハ!!!」

 腹を抱え、膝をバンバン叩いて、4人は堰を切ったようにわざとらしく大爆笑してみせた。

「…そろそろCM終わりじゃないですか?ほら!早く舞台に戻らないと!」

 笑いを堪えた4人が震える指先を横に向けると、画面の向こうのヒゲ親父は引きつった笑顔
のまま指差した先…画面横へと消えていき、間もなく映像も切れた。

「「「「…………、」」」」

 映像が切れるのとほぼ同時に、4人の大爆笑はピタリと止んだ。

「交信は切れたみたいだな…もう大丈夫だろうな?」
「ええ、向こうはコチラを見ていないはずです」

 ロボの発言を受け、ビリーたちは自分の首元…首輪爆弾の近くで握り締めた“何か”を引き
抜くような動きを見せた。

「首輪爆弾に電気ショック…ありきたり過ぎて笑えもしねえな」
「アースとっといて正解でしたね」

 首元から引き抜いたのは、細い金属線だった。金属線は地面に突き刺さっていて、そのすぐ
傍では、引っ繰り返ったネズミが泡を吹いて痙攣していた。さらに首の間には、ゴムホースや
タイヤチューブの切れ端をかませ、感電を阻止したのだ。
 嫌がる相手を無理矢理担ぎ出すのに、爆弾をちらつかせるだけでは不十分。殺さない程度に
痛めつける“何か”があるはずだと、電気ショックの仕掛けを見破るのは簡単だった。

 ディストピアの権力者どもが考えることは手に取るように分かる。「何をやっても許される」
幼児的万能感を拗らせた連中の思考パターンは、結局どれも似たり寄ったりでしかないのだ。

 この時点で番組の進行は、ビリーたちに完全に掌握されていた。

〈続く〉

 

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