サニーデイ・サービス『サニービート』感想&レビュー【たおやかで穏やかな日差しのようなビート】 | とかげ日記

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●たおやかで穏やかな日差しのようなビート

先月「曽我部恵一」名義でソロアルバム(全32曲!)をリリースしているから、本作『サニービート』のリリースの発表には驚いた。曽我部さんのクリエイティビティの源泉は枯れることがない。

以下、このサニーデイ・サービスのニューアルバム『サニービート』について述べていくが、著者よーよーのサニーデイ・サービスとの出会い、聴取歴や向き合い方、彼らのことをどう思っているかについては、以下のリンクの記事にもあるから、ご興味のある方は見てみてね。
👉サニーデイ・サービス『DOKI DOKI』感想&レビュー【いい歌だなぁ】

時にアシッドハウスに近接したりするなど、挑戦的な音楽性も魅力な彼らだが、このアルバムに関しては、初期か最近の曲か分からない彼ららしい王道のフォークロック。ただ、彼らのキャリアの中にあって、インディーロックならではの手作り感の演奏や音質を特に感じるアルバムだった。
(ちなみに、僕が最も手作り感を覚える作品は、うみのて等を率いる笹口騒音さんソロ音源です。手作り感というか手作りそのもの。)

イチローのように求道(球道)的に"良い歌"(ヒットの精度)を目指す王道な愚直さも感じ取れる。彼らがリスナーから支持を集めるのも、彼らが作る歌に「うた」としての旨味があふれるからだろう。歌メロの音域が気持ちよい。ソフトな歌い口も絶妙で、集中して聴くのも楽しいけど、流して聴いているだけでも楽しい。

カントリーほどさっぱりして明るくなく、まさにフォークの湿り気がソングライティングと歌唱の通奏低音にある。そして、サウンドは少しだけ乾いている。でも、晴れやかさ(サニーデイ)の中の音楽のような、淡い光も感じ取れる。気だるくまぶしい日差しにも似たその光にすがるように、僕は彼らの曲を聴き続ける。

本作タイトルの『サニービート』から思いを馳せてサニーデイ・サービスのビートについて思うことを言えば…。曲の地盤を支えつつグイグイ動くベースと、歌を前に進めるドラムの感触が僕にとってまさにサニービート。向光性の音楽とはこのこと。「あじさい」(1996年発売の2ndアルバム『東京』収録曲)という梅雨の歌だってそうだ。ギターの音には雨の湿り気があるが、雲の間から降り注ぐ晴れの光を希求するはっぴいでヘブンリーなバイブスを感じる。

本作でも、そのサニービートは炸裂している。#1「青空であること」を君は聴いたか? スネアがカラっと響き、バスドラとベースで進んでいき開ける風景。晴れやかなビートとはこのこと。猥雑さの中における太陽のような熱をもって曲の魂が伝わってくる。



そこからハネたリズムが特徴的なアルバムラストの#12「関係ない恋の唄」まで、サニービートの行進は続く。ウォールオブサウンドの対極にある、間を活かした音空間におけるサニーなビートは、晴天に吹き抜ける風のようだ。ギターもネオアコみたいにゴキゲンで嬉しくなっちゃうね。



他にいくつか気になった曲の印象/感想を書いていこう。

#2「サマーギグ」はシティ・ポップに通じる音楽性で夏の気だるさがよく表現されている。何もしないモラトリアムの中で気だるいのが気持ち良かったりするんだよね。でも、彼らのギグ(ライブ)は気持ち良いだけではなく、共振するリスナーを生み出している。誰かにとっての無意味は、他の誰かにとって生きる意味(生きがい)を持つものだったりもするのだ。



#5「炭酸No.1」は、夜中の3時にファミレスでサイダーを飲むという状況説明がされるが、それ以上でもそれ以下でもない歌詞に拍子抜けする。彼らがこの曲で伝えたいのは何か深遠なメッセージではなく、炭酸の(薄いけど)No.1な爽快感なのだろう。ミニマルな感情の歌。その潔さが素敵だ。本作『サニービート』も全12曲36分で終わるけど、後味さっぱりで潔いよね。



#6「ふつりあい」。コード進行とサウンドを注視すると、神聖かまってちゃんの初期曲にこんな曲があったような。まさに初期の神聖かまってちゃんのごときサウンドが体現するローファイチックな生き方をしている「ぼく」と、とてもきれいでスタイルも良いハイファイチックな「あの娘」。彼らの"不釣り合い"なロマンスに胸キュンで耳キュン。



#11「梅ヶ丘通り」。このなめらかで艶やかな音はスティールギター? レイドバックでリラキシンなサウンドに舌鼓(耳鼓)。このアルバムにおいては異色であり、良いアクセントになっている、ドリフターズ「いい湯だな」的存在。



ソロ作の方が音楽性が幅広かったり、実験的に感じたりするところを見ると、サニーデイ・サービス名義の音楽では、これぞサニーデイ!というべき音楽を鳴らし、そこから外れる音楽はソロに回すということなのだろうか。(アジカン名義とGotch名義の違いのように。)

ある年代以降のバンドの多くには、サニーデイ・サービスの血が流れている。お茶の間的な知名度は無いかもしれないが、彼らの音楽を支持するミュージシャンは多く、まさにミュージシャンズミュージシャン。それだけ、ソングライティングとサウンドに奥深い魅力があるのだろう。

サニーデイ・サービスの音楽は、日本が誇るべきロックバンド「おとぎ話」と通じるレトロな叙情を感じさせる。日本語ロックでしか鳴らせない、たおやかで穏やかな味わいがそこにはある。はっぴいえんどや70年代邦楽のその先に行こうとする彼らの音楽に喝采を送りたい。

なんと、YouTubeでフルアルバムが聴けちゃいます。太っ腹!



Score 8.2/10.0
👆普通に名曲が並ぶのだけど、その普通を突き抜ける何か(僕にとってのフック)がほしかった。

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