米津玄師『LOST CORNER』感想&レビュー【失われた「がらくた」を探して】 | とかげ日記

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●失われた「がらくた」を探して

待ってました。米津玄師、4年ぶり6枚目のニューアルバム『LOST CORNER』! とても充実した作品になっています。

<収録内容>
01. RED OUT(Spotify ブランドCMソング)
02. KICK BACK (TVアニメ「チェンソーマン」オープニング・テーマ)
03. マルゲリータ + アイナ・ジ・エンド
04. POP SONG (PlayStation® CMソング)
05. 死神
06. 毎日 (日本コカ・コーラ「ジョージア」CMソング)
07. LADY (日本コカ・コーラ「ジョージア」CMソング)
08. ゆめうつつ (日本テレビ系「news zero」テーマ曲)
09. さよーならまたいつか! (NHK連続テレビ小説「虎に翼」主題歌)
10. とまれみよ
11. LENS FLARE
12. 月を見ていた (「FINAL FANTASY XVI 」テーマソング)
13. M八七 (映画「シン・ウルトラマン」主題歌)
14. Pale Blue (TBS系 金曜ドラマ「リコカツ」主題歌)
15. がらくた (映画「ラストマイル」主題歌)
16. YELLOW GHOST
17. POST HUMAN
18. 地球儀 (スタジオジブリ「君たちはどう生きるか」主題歌)
19. LOST CORNER
20. おはよう


👆アルバムのクロスフェード

ペラペラしたボカロサウンド経由でモダンかつロックな音に至った彼のサウンドは、ロック大国であるイギリスからもアメリカからも生まれない類のサウンドだ。体幹でノるブラック、足でノるホワイトとするならば、手でノるイエローな音楽をディテール細かく体現しているのが米津さんだ。彼の音楽におけるソリッドな音の綾は、両手で自在に扱うバタフライナイフのように自由で鋭い。

メロディもリズムも歌詞も慎み深く、知性を感じる。他のシンガーが米津さんの歌を歌っても、米津さんの歌だと分かる記名性がある(実際、本アルバムでも#3「マルゲリータ」でアイナ・ジ・エンドをゲストボーカルに迎えているが、米津さんが作った歌だとすぐに分かる)。

近年は良くも悪くも共感社会なので、以前にも増して誠実な人間性が人々から求められる時代であり、米津さんはすっぽりそれにハマる。音楽を聴いて身を引き締め、背筋を伸ばしたくなる思いに向かう徳性は、中村一義に匹敵すると思う。しかし、楽観的な眼差しの中村一義の音楽と比べ、米津さんの音楽のベースには喪失感やそれに似た感覚を憶える。本作のタイトルにも含まれる「LOST」の感覚だ。

烈火のシャウト、人間性の見えるファルセット、魂の叫びに似た彼の音楽は、心臓を強くひっぱる切実さもありつつ、美形の歌メロも含めてスルッと消化良くリスナーの僕の腹におさまる優しい(易しい)聴きやすさもある。僕の言っていることとか、音楽性とかよく分からない方でも、彼の真に迫った歌声を聴けば、僕の言っていることが分かるはず。

たとえば、#9「さよーならまたいつか!」。ソリッドな音の輪郭にリアリズムを感じてシビれる。「口の中はたと血が滲んで 空に唾を吐く」という歌詞の言葉に、ソリッドな刃で切り刻まれるようなシビアな現状認識が垣間見える。だが、サビで「さよーならまたいつか!」とファルセットに裏返るところで、後悔や不安が気持ちよく昇華されるのが爽快で切実だ。



ボカロP時代の「ハチ」名義から変わり、本名名義の「米津玄師」で作品を発表した初期から、エッジーで想像力に富んだサウンドであり、その頃からアイデンティティとオリジナリティーがあった。音の一閃一閃の鋭さが脳に突き刺さる感覚に魂が小刻みに震える。

米津さんならではのピュアネスの感覚は、ブレイクのきっかけとなった「Flowerwall」「アンビリービーズ」('15)のころから変わらない。イノセントな楽曲群はジブリ作品のようにまっすぐで不思議な霊性を感じる。あるいは、RADWIMPSと通じる超越性と日常性のバランスを想う。

その一方で最近の米津さんは、誠実なのにワルっぽい音や声も出すから、そのギャップのセクシーさに女子も男子もヤられちゃうのだ。
(本アルバム収録曲では、タイトなバスドラの打ち込みが魅力的な#1「RED OUT」や乾いたベースがカッコいい#2「KICK BACK」など。「KICK BACK」の切迫した攻撃性はKing Gnuと近い要素を感じる。それもそのはず、「KICK BACK」には、常田大希【King Gnu/millennium parade】が米津さんと共同でアレンジに参加している。)





前作『STRAY SHEEP』('20)から、米津さんはスケール感の大小も陰陽の明度も自由に支配できるようになったような感じがする。それにともなって、音楽の表現としての深みや面白みがより楽しめるようになったと思う。まるで、ミュシャの精緻な筆致で、ドラクロワのドラマチックな絵画を志すかのような奥深い表現になっている。

今作では今までよりもさらに多彩(多才)なソングライティングと歌声/演奏を聴かせてくれる。
例を挙げていこう。
まず、本作におけるチル曲代表#8「ゆめうつつ」。でも、チルだけど熱い!
一瞬の青春を駆ける刹那な歌唱がハートトゥハートで心をとらえる#14「Pale Blue」
間奏などで聴けるオルタナティブなギターサウンド(→歌詞の「マイノリティ」と「オルタナティブ」は呼応しあう)の轟音が魅惑的な#15「がらくた」
以上の3曲のようなミドルテンポの曲には歌の旨みを感じる。
次に、アレグロのテンポで日々を駆け抜けていく#6「毎日」のような曲には心地よい(or心地わるい)徒労感を憶える。
そして、ストリングやホーンが華を添える曲には明るい美しさを感じる。
なんて多様な曲が集まったアルバムなんだ!!

重要なテーマをはらみつつ、Suchmosみたいにさらっと颯爽に駆け抜ける#19「LOST CORNER」でサッパリした気持ちになって、すべての終着駅である最後のインスト曲#20「おはよう」でおごそかな小品の慎ましさに心が開かれて、またザクザク突き刺されたくて一曲目から再び聴きたくなる。この音楽の引力には逆らいがたい。

既発表曲も多く、オリジナルアルバムとしての一貫性(アルバム性と呼ぶことにする)がないと主張する方も、この終盤を聴き終えた後に一曲目に向かう引力にはアルバム性があると言わざるをえないだろう。

音楽のカラフルさと表現の深みで評価するのなら、本作は米津さんの最高傑作といってよいと思う。作品としての芸術性とJpopとしての通俗性の黄金比を達成している。戦地におもむくウルトラマンのように、#13「M八七」をはじめとした曲に込められた悲壮な決意(僕は音数の少なさと音圧の強さに特にそれを感じる)を聴いてほしい。



Score 9.3/10.0

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