●SICK & DEEPEST SONGS
フロントマンの笹口さんいわく「日本のArcade fire、東京のBeirutこと笹口騒音オーケストラ」の傑作3rd アルバム! 笹口さんはうみのてなど4バンドを率いる実力派のミュージシャンです。
心でもソウル(魂)でも「何か大切なもの」が伝わってくる14曲(+1曲)。全体を通して、この場末感。俺の実家だ。そして、叙情と共にヒューマン味を感じる。様々な人間のことが歌われるこのアルバムで想像力の翼を広げたい。
一曲目「THE MAN WHO...」。冒頭のアコーディオン独奏のリズムはヨレていてオンタイムではなく感じるが、それゆえに曲とリスナーは親密な空気に包まれる。
(👆ライブ動画)
#2「地球の店員」。全地球人必聴! ゲストに迎えたもみじさんも素敵な笑顔&歌で良い感じ。こういうホッコリしたアットホームな曲を作らせたら、笹オケにかなう者無し。僕の故郷は地球だし、笹オケの流れる空間ですよ。
(👆地球の店員(MV)- 笹口騒音オーケストラfeat.小棚木もみじ)
#3「ビリーバーズ」。悪徳新興宗教のテーマソングになりえるぶっ飛んだ歌。ただのネタソングにとどまらない、指弾すべき悪徳新興宗教の思想が歌で如実にひも解かれている。
(👆ライブ動画)
#4「シンプル★です」。「シンプルに死んでくれ」というギョっとする歌詞があるが、逆説的に命を肯定する笹口流のシニカルな表現だと思う。
曲順も練られている。#5「バ(っ)カな人」から#6「変態」へ。「変態」の「きみがいないとぼくは天才でいられない」という歌詞は、天才の反意語である「バカ」に引っ掛けているのだろう。#10「猫はおしゃれ」から#11「こたつ」へのつながりも、ささやかな愛を感じる。「こたつ」には「猫がみてたよ」という歌詞もあるしね。
#7「名曲飢饉」。ホーンでカノンの旋律が流れるところとか、風刺が効いていると感じる。カノン進行の曲はたいていが「名曲」だからね。
(👆ライブ動画)
#8「幽霊」。淡い色彩のアンサンブルに舌鼓。ホーン隊の息づかいが霊性を運んでくるね。
#9「耳たぶ」。笹口騒音のシュールな感性が光る。「耳たぶが落ちていた」という歌詞には、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎さんが監督した『ポプラン』という映画を思い出した(観ていないけど)。『ポプラン』は主人公のイチモツが家出したという(なんとも珍妙な)お話です。
#10「猫はおしゃれ」。こたつで猫がくつろぐように、人間が聴いてもリラックスできる素敵な小品です。この日常感の旨みは笹オケでしか出せない。
(👆MV)
#12「海(U&ME)の家 feat.円庭鈴子」。笹口さんと円庭さんが夫婦だからこそ響くリリックと歌声のハーモニー。お互いがお互いにとって、歌詞にある「DEEPEPT OCEAN」なのだろう。今ふうの言葉でいうのなら、お互いの精神がお互いに"ハマる"といったところか。オススメの曲です!
(👆リリックビデオ)
#13「エイプリルフールボーイ」。まずはこのMV👇を観てほしい。B級グルメやB級映画のようなB級MVだけど、B級ならではのユーモアと味わい深さがツボでB(est)な映像作品だ。
音楽面についても書いておくと、ヒップホップのフロウのように歌われるボーカルが、光のように、風のように、波のように、海のように心地よい。アコーディオンとホーンセクションの絢爛さと風通しの良さは笹オケならでは! リアルタイムで読んでいた漫画なので「とっても!ラッキーマン」というフレーズが出てくるのが好きだ。ラッキーマンも笹オケの曲も平和で幸運なバイブスを(とっても!)感じる。
#14「供花歌」。「供花」とは、亡くなった方に手向けられる花のこと。本作『(Songs of)THE MAN WHO...』を通して様々な人々の命が歌われてきたが、この歌は歌に宿る命を描いている。筆者の僕自身も、あくまで観測範囲の中でだが、体感的に魂がない歌が増えてきているのを感じている(それは、僕が老害だからなのかもしれないが、「最近の曲なんかもう クソみたいな曲だらけさ なんてことを君は言う そういつの時代でも」©神聖かまってちゃん という歌詞が現在でも示唆的だと思う)。
そして、ネタバレになってしまうが名曲なので書いておく、シークレットトラック「雷魚」。ベーシストの大林いくおさんがボーカルを担っている。ルイ・アームストロングのしゃがれ声のような渋い歌声が美しい。この歌声こそ、魂だ。
(👆ライブ動画)
YouTubeで笹口騒音オーケストラの新曲を聴いていたら、英語で"Sick"というコメントがあった。"病的な"という意味のディスなのかなと思ってググると、「最高」「やばい」「かっこいい」という意味合いのスラングらしい。笹口騒音さんのソングライティング、メンバー(笹口さん、大林いくおさん<ベース>、雨ノ地晴太郎さん<ドラム>、カトー直喜さん<トランペット>、NAPPIさん<トロンボーン>、西山小雨さん<アコーディオン>)の演奏、マヂでSickだよね!
歌詞のフックは至るところにあるし、メロディとアレンジのフックも中毒性がある。笹オケ、やはりスゴいです。キャラクターたちが地球の店員のように円になって手をつないでいるジャケット絵は、ディズニーランドの「イッツアスモールワールド」もびっくりの平和感。戦争や紛争の絶えない世界で、風刺で人のズルさを鋭く突きつつ、笑顔と音楽で人をつなぐ、そんな理想的な表現がここにはある。
Score 9.4/10.0
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Yanagawa Records(笹口さんの通販サイト)
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