くるり『感覚は道標』感想&レビュー【ふたたびのもっくん(喜)】 | とかげ日記

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●ふたたびのもっくん(喜)

ふたりになったくるりが、オリジナルメンバーの森信之をドラムに迎えてフレッシュで成熟したサウンドを奏でる14枚目のフルアルバム。

彼らはまだ未熟だと自分たちのことを謙遜しているが、未熟な思考や作品が巷を席巻する中、僕の目から見たくるりは成熟している。あるいは、彼らは本当に自分のことを未熟だと思っているのかもしれない。しかし、逆説的だが、足らざるを知り、自分が未熟だと認識しているのは成熟している証なのだ。そして、少なくともストロークスのようなモダンで洗練されたサウンドデザインは音楽的な成熟を果たしていると言わざるを得ない。

初期の3枚(『さよならストレンジャー』『図鑑』『TEAM ROCK』)で聴けるようなムズムズするような青春感はなくなったが、このアルバムには世界を俯瞰するような自由な視点がある。そして、「バンド歌もの」として傑作であり、良い歌にさらに磨きがかかっている。

配信限定シングル曲であり、リード曲の#12「 In Your Life」からして素晴らしかった。適度に歪んで輪廻のようにメロディが回転し続けるギターサウンドは、中村一義「セブンスター」や、スマパン「1979」と共通し心に触れるものがある。喧騒から離れて車で道を駆け抜けていく情景がありありと思い浮かぶイマジナティブな曲だ。



これも先行して配信されたリード曲だが、#4「California coconuts」も良い。カリフォルニアの晴れ渡った空のようにシンプルで見通しの良く開放感のあるもっくん(!)のドラム。歌も演奏も情緒を掘り下げる一方でカラッとしていて、ルサンチマン(恨みねたみ)のかけらも感じない。ただただ、音楽への愛を感じる。



2011年にリリースしたシングル曲「奇跡」を筆頭にするような、淡く穏やかなセンスの作品。人によってはこの境地は老成とか諦念によるという方もいるだろう。たしかに、くるりのメンバーも年を取ったし、それゆえに鳴らせる音楽もある。しかし、音楽に対するピュアな視線は変わらない。だからこそ、このアルバムのように自由でフレッシュなバンドサウンドを鳴らせるのだ。

また、くるりは実験的な曲とサウンドでもリスナーを魅了する。本作『感覚は道標』も実験的精神が光るが、ポップの範疇に収まるように手綱がちゃんと握られている曲集になっている。

収録曲を見ていこう。

#1「Happy Turn」、#2「I'm really sleepy」、#8「馬鹿な脳」、#11「no cherry no deal」のストーンズ、ザ・フー、初期ビートルズのようなゴキゲンなロックンロールや、リスナーを踊らすブギーが痛快で楽しい! 20年ぶりにオリジナルメンバーの3人が鳴らす音楽はバンド感にあふれている。このうち、「no cherry〜」は全編英詞であり、余計な日本語が頭に入ってこないので、あたまをからっぽにして聴けてスカッとする。

#3「朝顔」。「ばらの花」のようなおごそかで温かな空気の名曲。オススメです。一聴するとシンプルなバンドサウンドなのだが、実はかなり複雑なことをしていてアイデアに富んでいる。



#5「window」はチルなリバーブが心地良いリラキシンな曲。少しばかりのタイトな緊張感もあり、その緊張感がこの曲を特別なものにしている。

#6「Lv.69」。イントロでアイリッシュなホーンが鳴ったり、曲中ではギターが火を吹いたり、アウトロではカオスな電子音が聴こえたり、奇想天外で自由奔放に音楽のアイデアがあふれ出す名曲。曲名には、『TEAM ROCK』収録の「Lv.30」、『魂のゆくえ』の「Lv.45」を思い起こす。69という数字には、ロックという単語との掛け言葉であると同時に、「俺たちはLv.69まできた」という進境の自負でもあるのだろう。

#7「doraneco」。 これもイントロのギターの刻みが「ばらの花」みたい。8分音符でルートを繰り返すベースと歌メロのシンプリシティー(簡単,平易,分かりやすさ)が曲の世界観を語る。

#9「世界はこのまま変わらない」。「007 ジェームズ・ボンドのテーマ」を連想させる、歌うようで妖しげなベースやドラムが素晴らしい! 世界を変える「君」はくるりにとって往年のロックスターだったりするのだろう。

#10「お化けのピーナッツ」。ラテン歌謡的であり、本作において異彩を放っている。いつもくるりのアルバムはこういった変化球のジャンルの音楽も複数収められていて(しかも、浮かないでアルバムの作風と調和している)、そこも聴きどころになっている。僕が推している、うみのてなど音楽性の異なる4バンドを率いる笹口騒音さんのように、作品によって違う多彩な音楽性を味わえるのはくるりならでは。

そして、最後の曲#13「aleha」。「aleha」は歌詞中にある「あれは」のことだろう。懐かしく遠ざかる何かのことを「あれ」と歌う曖昧さが叙情性をかもし出し、しっとりと終わる三拍子のバラードだ。


音楽の二類型である没入型と鑑賞型のグラデーションで音楽の聴き方が変わると以前のレビューで書いたが、 本作はこれまでのくるりと同様、没入する対象としても鑑賞する対象にしても濃密に聴ける。そのあたりが、一般リスナーからも評論家筋からも評価が高い理由だろう。

本作では、収録曲名にある「ココナッツ」的な甘さがストイック(禁欲的)な音楽性の曲の中で時折顔を出す。最近のくるりは以前よりも音楽的なスタイルがストイックになったが、それだけではなく、聴きやすい甘やかなポップネスもある。

オリジナルメンバーの3人で改めてバンドをやる感覚が道標となって、彼らの音楽を鷹揚な彼岸へと連れていく。音楽の権威になっても彼らは偉ぶらないし、フランクでフラットに音楽と人々に接している。岸田繁さんも佐藤征史さんも森さんも誠に音楽的な人間だといえるだろう。音楽好きな僕は音楽的な彼らを応援したい。彼らの音楽を骨の髄まで味わいつくしたい。

Score 9.1/10.0

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