くるり『愛の太陽EP』感想&レビュー【名曲のオールスターズ】 | とかげ日記

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●渋く凛々しい名曲のオールスター

音楽的に高度に構築され、突き詰めて研ぎ澄まされたサウンドと曲の構成。直近のアルバム『天才の愛』(13thアルバム, 2021年発表)からの流れを感じる。最初に聴いたときには淡泊にも聴こえたが、胸をひらき耳をすませば穏やかなドラマがあり、心を動かす物語とエモーションがある。エレガントでおごそかなサウンドスケープの中で静かな熱をたぎらせるという技巧では『天才の愛』の達成点を超えたかもしれない。本作『愛の太陽EP』には『天才の愛』の「益荒男さん」さんのようなストレンジ(≒変態)な曲はないけど、このEPの音へのこだわりは変態の域に達しているだろう。

どの曲もそれぞれの良さがある。アルバムの中で突出して良い曲(ホームランヒッター)があるとその曲ばかり聴いてしまうが、本作EPはどれも佳作の歌(アベレージヒッターorオールスター)なので全曲満遍なく聴けてしまう。以下、全曲について簡単に感想を書く。

#1「愛の太陽」は前向きなワルツのバイブスを感じさせてくれる。くるりの過去曲「everybody feels the same」でアップテンポに疾走しながら"みんな"で前に進むポジティビティも良いが、太陽を前にして"一人"で思量を重ねながら三拍子で駆けていくポジティビティも渋く味があってナイスだ。



純朴で温かなムードに親しみを覚える#2「Smile」。この曲を聴いていると亡くなった父に会いたくなる。記憶の中の父はいつも笑顔だ。



#3「八月は僕の名前」。本作EPでは、太陽、八月、真夏日など夏を連想させる言葉が曲名に並ぶが、この曲「八月は僕の名前」は真夏の夜の刹那なわびしさと高揚感を見事に捉えていると思う。



#4「ポケットの中」。平熱のテンションで歌うヒューマンな歌詞が胸に染み入る。アウトロのギターソロが素晴らしい。



ウェルメイドな多幸感を覚える#5「宝探し」。佐賀県江北町70周年記念楽曲として書き下ろされた経緯を持つが、その町もこの曲と同じくらい素敵な感じなのだろうか。既聴感のあるメロディだけど(なんの曲と似ているのかは思い出せない)、美しいメロディなのでこの曲も美しい。ある程度の既聴感は名曲に与するのだ。



#6「真夏日」は孤独な切なさが涙を誘う。細部まで研ぎ澄まされた凄まじき名曲("神は細部に宿る"…まさにアート!)だ。岸田繁さんの繊細で情緒豊かなボーカルからは真夏日の情景がありありと思い浮かぶ。声量やパワフルさとは別種の歌の上手さが光っている。また、ギターの精緻な音も言葉では表現できないメッセージをリスナーへと運ぶ。



悟っているというか醒めた印象を全曲から受けるが、優しく温かいオープンな歌にも聴こえる。長年の夫婦のように岸田さんに寄り添う佐藤征史さんのベースに泣けてくる(岸田さんも佐藤さんも音楽的な方だし天才だ)。

くるりの王道、ここに極まれり。ストイックに突き詰めていった良い"うた"がここにある。2023年の年間ベスト音源に入りそうなくらいの名曲ぞろいのアルバムなのでぜひ皆さま聴いてみてくださいね!



Score 9.1/10.0

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