【何なんwからgraceまで】藤井風を聴かず嫌いが聴いてみた | とかげ日記

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今まで藤井風さんの音楽は紅白や街頭で流れているものを聴くか、流すように1, 2曲チェックしてみたりしただけで、意識的に聴いてこなかった。スカしているように見えてボンヤリと嫌いだった。上手くやりすぎているような気がしていたのだ。

しかし、これほど勢いのあるアーティストだったら聴かなければいけない。総再生回数が10億に迫る勢いで、紅白にも出場した。海外人気もあり、「死ぬのがいいわ」という曲ではspotifyで海外23か国で1位を記録。はたして、昔の自分が義務感で聴いてみたマイケルジャクソンの音楽のように、義務感を忘れてのめり込む体験はできるのか。それが僕が彼の音楽を聴く上での焦点だった。

そこで、シングルデビュー曲「何なんw」から最新曲「grace」まで片っ端から聴いてみた。ひととおり聴いてみて思ったのは、(良い曲をコンスタントに発表しているアーティストというと真っ先にヒゲダンが思い浮かぶが)藤井さんはヒゲダンに負けないくらい、たくさんの良曲を作っているということ。ヒゲダンは僕が支持しているバンドだが、高音のボーカルがキンキン響いて聴くと疲れてしまう。同じポップスの名曲を聴くなら、ヒゲダンよりも藤井さんの音楽を聴いていた方が落ち着いていてよいのかもしれない。(ヒゲダンのボーカルの高音が切実に聴こえて素晴らしいと思う方もいるだろう。しかし、僕はその時期はすでに過ぎてしまった。)

とにかくクオリティが異次元なのだ。鋭いリズムとポップなメロディの二刀流で毎打席奪三振&ホームラン状態。聴いたことがあるメロディのはずの曲も、初めて聴いた感触がフレッシュ極まりない。間違いなく天才であり、天才であることにかまけていなく愚直に音楽と向き合い、良い歌を作ろうとする姿勢にも好感が持てる。歌唱に色気もあり、人気曲「死ぬのがいいわ」では女性言葉を使うからこそ漂う若い男性のセクシーさがある。

デビューシングル「何なんw」は10代から20代の若者にとって宇多田ヒカル級の衝撃だったのではないか。宇多田ヒカルが繰り出すリズムが邦楽製R&Bの活路を開いたように、あるいは、RADWIMPSが邦楽ロックシーンにミクスチャーの16ビートの感覚を知らしめたように、藤井さんの作り出す風のような新しいリズムは若者を魅了しただろう。若くして亡くなった伝説のトラックメーカーであるNujabesのようなクールなグルーヴや、JpopアーティストでいうとGReeeeNのようにメロディのスポッとした見事なハマり方があり、歌う本人の名前どおり風が吹き抜けていく心地よさがある(藤の花のような瀟洒な華もある)。

また、「何なんw」には岡山の方言(曲名や一人称の「ワシ」)やネットスラング(w)の風味が漂っている。だからこその親しみやすさとリアルが伝わり、この人は本音を語っているとリスナーに思わせる。音楽由来の快楽性とイマドキの若者のバイブスを代弁する意味性の両面があるアーティストだと思う。



そして、最新曲「grace」にも触れておこう。"grace"とは、日本語で"優雅,優美,気品"の意味だが、まさに藤井風の音楽性こそ、"優雅,優美,気品"だろう。穏やかで美しい音楽と一体になるようなこなれた歌唱も、抑制が効いたバスドラの音の質感もまさに気品にあふれている。(追記:"grace"には「恵み」という意味もあり、本人もそう言っていた気がするとファンの方からご指摘を受けました。たしかに、この曲の歌詞を読むと「恵み」の方がしっくりきますね。ご指摘ありがとうございます!)



また、藤井さんがインドのサイババを信奉していることを問題視している方もいるが、それに伴う行為が違法でも悪質でもないのだからそんなの個人の勝手でしょ。僕だって、神道、仏教、キリスト教がごちゃ混ぜになった日本のアマルガムなアニミズム的宗教を信仰している(人によっては無宗教と呼ぶ方もいるだろう)が、その信仰は誰かにとやかく言われたくない。

インドのスピリチュアル界隈の話でいうと、ビートルズだってインドにハマっていた。そして、そのことがビートルズの音楽の精神性に一定の深みをもたらしたといえるのではないか。同様に、サイババを信じることが藤井さんの音楽にも味わいと深度を与えているのなら、音楽リスナーとして文句は言えまい。

アルバムがCDショップ大賞<赤>【総合部門】を受賞したのも頷ける素晴らしさだった。(なお、大賞<青>【新人部門】は羊文学が受賞している。)この若さにしてこの境地。すでに邦楽界の良心だ。洗練さが前面に出てくるシンガーソングライターには、藤井風を始めとしてカネコアヤノ、君島大空、中村佳穂、折坂悠太など新進気鋭の才能ある若者がどんどん出てきているが、その中で一番聴きやすく、大衆性があるのが藤井さんだろう。

しばらくは、「死ぬのがいいわ」をリピートする日々になりそう。一曲だけ好きでも、そのアーティストのファンといえると誰かが言っていた。その意味では僕はすでにファンといえるだろう。繊細さだけではなく大胆さも持ち合わせ、「J-POP」を更新していく藤井さんのことを支持していたい。




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