奇妙礼太郎『奇妙礼太郎』感想&レビュー【オルタナティブな感性と豊かな歌心】 | とかげ日記

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●オルタナティブな感性と豊かな歌心

奇妙礼太郎さん。何度かお名前を拝見したことがあったが、じっくり聴いてみるという機会はなかった。図らずも、僕が推している塩塚モエカ(羊文学)さんが彼の曲でボーカルに参加したと聞き聴いてみた。

それが、 「春の修羅 feat. 塩塚モエカ(羊文学)」という曲。曲名は宮沢賢治の詩「春と修羅」に寄せてきたのだろうか。 修羅(インドの鬼神)のことをこんなに軽快でポップに歌った感性に脱帽しました。それでいて深みと滋味、ワビサビがあり、素晴らしいです! また、この曲の中盤(「雪の中を犬が走っている」のくだり)では、くるり「ばらの花」(「暗がりを走る 君が見てるから」のくだり)に通じる、実存の結び目がほどけていくような淡く寂しげなエモーションが感じられる。


👆「春の修羅 feat. 塩塚モエカ(羊文学)」

この「春の修羅」という曲を聴いたのをきっかけに、奇妙さんの他の曲も掘っていった。1998年から活動されていた古参の方なのですね! 多くの曲に志磨遼平さん(現:ドレスコーズ、ex.毛皮のマリーズ)に通じるオルタナティブな感性と豊かな歌心が感じられ、これは俺の好きなタイプの音楽だ!と思ってさらに過去の曲を掘っていたら、実際に「恋愛重症」という曲で志磨さんから楽曲提供を受けていたことがあると分かった。

また、歌も上手い。伝えたいことが過不足なく伝わってくる。「ミスキャスト」(2015年)では、スキマスイッチ大橋卓弥とコラボしたが、のど自慢な大橋さんとタメを張れる歌唱力が奇妙さんにはあった。それから、歌における表現の方向性において、ハナレグミや七尾旅人を思わせる淡くて豊かな歌心がある。

長年CM音楽を手掛けていただけあって、歌メロがキャッチーだ。情景を描写する才能に長けている。何かテーマを与えられて的確な音楽に表現する才腕では、僕が表現者として私淑する笹口騒音(うみのてetc)さんと並ぶだろう。表現の核の一つにエロスがある点でも、笹口さんと共通する。

また、カバーの活動も盛んで、カバーアルバムも出している。スピッツファンとして嬉しい「ロビンソン」のカバーを聴けてよかった。フェイクを交えながら、弾き語りで新しい解釈(サビの語頭のアタックの強さが気持ち良かったり)のロビンソンがそこにあった。

それでは、本作『奇妙礼太郎』(セルフタイトル)を聴いていこう。

菅田将暉と組んだ一曲目 「散る 散る 満ちる feat. 菅田将暉」。チルなヒップポップ的ビート、ceroや他のシティ・ポップと通じるシティ感。これは僕の大好物。きのこ帝国の名曲「クロノスタシス」っぽさも感じてますます好きだ。あと、菅田さんは実力のあるアーティストを教え広めてプッシュする点で、日本のジャスティン・ビーバーなのだと思う。


👆 「散る 散る 満ちる feat. 菅田将暉」

先述した二曲目「春の修羅」を経て、三曲目はお笑いタレントとしても知られるヒコロヒーと組んだ「HOPE feat. ヒコロヒー」。アコースティックで親密な音空間は、前述したバンドでいえば、くるりの「男の子と女の子」を彷彿とさせる。ヒコロヒーの静かな優しさと穏やかなヤサグレ感を引き出した良曲です。


👆「HOPE feat. ヒコロヒー」

その後もアコースティック主体で心安らぎ落ち着く楽曲が続く。どの曲も素晴らしい。#6「touch my soul」の曲名どおり、ソウル(魂)に触れる楽曲群。坂本慎太郎さん(ex.ゆらゆら帝国)のような、生身で迫ってくるサウンドと、洗練されつつ、コーティングしないむき出しの歌声が胸を打つ。

最後の曲#10「いつのまにか猫」。スカのサウンドが爽快。小品であっけらかんとアルバムが終わるこの感じ、いいね! 歌詞で"またたび"と"また旅"を掛ける感性がかわいい😸

CMソングを多数手掛けている能力でも分かるとおり、キャッチーで歌詞の言葉に訴求力がある。そして、サウンドも音数が多くなく歌を邪魔せずに、音の隙間で魅せる。そして広がる、虚飾を排したシンプルで深甚な音世界。かなり好みの音楽です。乾いた歌ものの名曲を追い求めている方はぜひ!

Score 8.2/10.0

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