銭形平次を演じた歴代俳優
昨ブログで野村胡堂『銭形平次捕物控』に触れました。初出は1931年発行の「文藝春秋オール讀物号(文藝春秋)」創刊号に「金色の処女」が掲載され、以降第二次世界大戦を挟んで1957年までの26年間、長編・短編あわせて383編が発表された(wiki)とありますが、正確なところは分かっていないようです。
ドラマでは大川橋蔵主演『銭形平次(1966-1984年』まで、フジテレビ系列で、ドラマ史上最長の全888話が放送されギネスブックで世界記録に認定されています。初出原作では、実は銭形平次は小判を投げていますが、ドラマのように腰帯に吊るした紐通しの一文銭は橋蔵の工夫だったようです。
野村胡堂:平時の横顔(1954)要書房
野村胡堂:江戸の恋人達 山本武夫 挿絵
お馴染みのアゴの長い八五郎ことガラッ八が「てえへんだぁ」叫びながら「長んがい顎で格子を開けて(嘘を吐きやがれ)反りを打たせた顎を宙に泳がせながら」飛び込んできて、銭形の親分との落語的かけあいで始まります。この冒頭のシーンだけで銭形平次の世界に引き込まれるという絶品の書きだし。
恋女房のお静がいそいそと夕餉の支度に立ち働くのを伴奏に、小市民的安穏にひたっていた平次が現実に引き戻される瞬間です。歴代のお静といえば、八千草薫(1話 - 157話)鈴木紀子(158話 - 208話)香山美子(209話 - 888話)ということですが、私が知るのは香山美子、よかったですよ。できれば八千草薫のお静が見たかったなぁ。
桜木のいましめ
いまさらですが、平次がまとっていたのんびりとした愉悦感はなんとも尊いものを感じます。平次とお静、ガラッ八が育んだ日向のような幸せは喪ってから気づいても取り返しがつかない。神田明神下御台所町の貧乏長屋で粉のような安煙草の一服を愛おしみながら、神田町を守る銭形平次の背中はもはや遠い。