前回は、自己受容について、アドラー心理学の考え方を用いて説明をしました。
それをまとめれば、自己受容とは、
ありのままの自分を肯定して、「変えられないもの」は、そのまま「それを持っている私」を受け入れ、「変えられるもの」は「変えていく」ことで、他者と交わっていく勇気を持つこと
となるでしょう。
今回は、この自己受容を具体的にどのように行っていったらよいのか、その方法を考えてみたいと思います。
皆さんは、自己受容というと、「何か心に暗示をかけなくてはいけない」と思っていないでしょうか?
「今の私の状態は気に入らないのだけれど、できるだけ気に入るようにしなくては・・・」
と暗示をかけるのは、「今の私の状態」を否定していて、自己受容になってないわけです。
「自分を認められない自分を認めること」というレベルに達したとき、真の自己受容ができるようになったと言えます。
「今の私の状態は気に入らないけれど、そんな?今の私”もOKだし、?気に入らないと思っている私”もOKだ!」
と思える感覚、それが自己受容だと言えるでしょう。
自己受容を行う場合の秘訣は「習慣化」です。
なぜ習慣化が秘訣になるかというと、その逆、つまり、私たちは自己否定を知らず知らずにしてしまう習慣を身につけているからです。
例えば、毎日の生活の中で、「でも」「だって」「どうせ」といった否定的な言葉を言ったり、心の中で思ったりしていませんか?
これは、自己受容ができていないサインですね。
こういうことが習慣になっているのであれば、それを修正して自己受容するのも習慣化によって行うのが良いのです。
この習慣化にはステップがあります。
①自分にダメ出し(自己否定)せず、
↓
②出来ても、出来なくても、ありのままの自分を受け入れる(自己受容)
↓
③そのうえで、「あなたなら出来る」という自己肯定感をつくる
というステップです。
このステップの②がとても大事です。
前回のブログ記事で、自己受容と自己肯定は違うと言いましたが、自己肯定はなくても良いと言うことではありません。
自己受容を飛ばして、一気に自己肯定へ進んでしまうことに少し問題があります。
「マイナス言葉は良くないから、常にポジティブ言葉を使おう」
「元気がないのは良くないから、常に明るい自分でいよう」
「成功を信じて、失敗してしまうイメージは思い浮かべないようにしよう」
という思いを持つことが自己肯定ですが、先ほど「暗示」の部分で言ったのと同じで、ちょっと無理しているような感じです。
ただ、無理が続くと、「本当の気持ちは違っていて、不安なのに……」という思いが、心の中で大きくなってしまい、自分にとって間違った「方向」に進んでしまう可能性が高くなります。
そしてある日急にすべてを投げ出してしまう……ということが起こることもあるのです。
そうならないためにも、自己受容を挟むことで、自然なステップで「自分を応援できる自分」になれるのです。
それでは、「ありのままの自分を受け入れる」(自己受容)ための「ワーク」をご紹介します。
まず、ステップ①に書いたように、「ダメだし」(自己否定)のワークから始めます。
【ダメ出しワーク】
①あなたの体のどこかに調子が悪いと感じる箇所はありますか?
肩が重い、腰が痛い、目が疲れている……そんな部分を何箇所か感じてみてください。
②次に、調子が悪い自分にダメ出しをしてみてください。
「何やってるの?」「今、そんなふうに不調でどうするの?」「これくらいのこと我慢しなきゃダメ!」……といった具合に、思い切り嫌な人になって自分を責めてください。
③やってみた感想はいかがでしたでしょうか?
このような自己否定の状態は、日常無意識に行われています。
しかし、改めて意識してみると、正直、気分が悪くなりませんか?
このワークは、ダメ出ししたときの気分を味わって、それを脳にインプットした上で、日常、自分にダメ出ししている場面に気づきやすい心をつころうという目的があります。
このワークでやってもらいたいことがもう1つあります。
それは、自己否定が強い傾向にある人は、その自己否定の根本的な理由がどこにあるかを、だいたい自分なりに分析しておいて欲しいということです。
自己否定の根本的な理由のパターンとして、次のようなものがあります。
1.不足感 2.罪悪感 3.拗(す)ね 4.復讐 5.保身
1.の「不足感」は、自分には何かが欠けているという気持ちから、欠けている自分を否定してしまうというものです。
2.の「罪悪感」は、例えば、「母親を幸せにできなかったのに、自分だけ楽しんではいけない」と思って、人生を楽しむことができないというものです。
3.の「拗ね」は、「言ってもわかってもらえない」「どうせ大事にしてもらえない」という思いから、「人に頼るものか」と拗ねているということです。
4.の「復讐」は、否定された出来ごとや大事にされなかった出来ごとを通じて、
自分が幸せにならないことで、相手に罪悪感を感じさせようとしていることを意味します。
5.の「保身」は、人から否定されたときに、自分を認めていない方が傷つかずにすむという、ダメージを和らげるための無意識の思いです。
あなたは、自己否定をしてしまうとき、特にどの傾向が強く出るでしょうか?
それは1つとは限らないと思いますが、複数あっても、2、3ぐらいを意識しておいてください。
その傾向を掴んでおくと、自分がどんなときにダメ出しするかを捉えやすいと思います。
それでは、自己受容のワークを続けます。
【自己受容ワーク】
心の中で、「今のままの自分(ダメ出しされそうな自分)」と「ダメ出ししそうな自分」を分けて、「今のままの自分(ダメ出しされそうな自分)」にニックネームを付けましょう。
例えばあなたの名前が「和美(かずみ)」だったら、「カズちゃん」といったように付ければ良いでしょう。
もちろん、ニックネームでなくても、自分の普段の名前でも良いです。
例では、「カズちゃん」でいきますね。
①(「ダメ出しワーク」と同じで)あなたの体のどこかに調子が悪いと感じる箇所はありますか?
肩が重い、腰が痛い、目が疲れている……そんな部分を何箇所か感じてみてください。
②今度は心の中で「そうなんだね」と言ってあげてください。
例えばあなたが肩が重いと感じているとします。
その場合、「そうなんだ、カズちゃんは肩が重いんだね」とか、腰が痛いのならば、「そうなんだね、カズちゃんは腰が痛いんだね」といった感じです。
③あなたが自分の状態に評価を加えようとしたら、それは「今のままの自分」が評価しているとイメージして、そのまま受け流してください。
賛成するとか反対するとか、甘やかすとか厳しくするといった評価は一切しません。
例えば、
「そうなんだ、カズちゃんは肩が重いんだね」
(自分が「でも、今日は大事な用事があるから我慢して外出しなくっちゃ」と思っているのなら)
「そうか、カズちゃんは肩が重くても我慢して外出しようとしているんだ」
といった具合に、対話をしてみてくだい。
④「今のままの自分」に、「今よりちょっとだけ変化してみようか」と声をかけてみてください。
「今の状態の自分を少しだけ良くできるとしたら、それは何だろう?」と、「今のままの自分」に問いかけてください。
例えば、「ちょっと肩が重い」と感じている自分を、「そうなんだね、肩が重いんだね」と受け入れた後、「肩が重い自分の状態を、ほんの少しでも良くあげることができるとしたら、それは何だろう?」と考えてみます。
「肩をぐるぐる回してみたらうだろう?」と思ったら、それをやってみます。
「さっきより少し楽になったな」と思えたら、自己受容による行動ができたことになるのです。
⑤やってみた感想は、いかがですか?
「自己受容ワーク」のステップで、特に重要なのは、③と④ですが、④の「ちょっとだけ変化をつけてみる」という部分は、いろんなことが考えられます。
前回のブログで、自分の中で、「変えられるもの」と「変えられないもの」を区別することの大切さをお伝えしえしましたが、この④の過程で、「変えられそうにない」と思ったら、それは、あなたの中で「変えられないもの」となっているのですから、気にする必要はないのです。
少しでも「変えられそう」と思ったら、どんなふうに変えられそうかを考えてみましょう。
それがすぐに見つからないくても良いのです。
①のダメ出ししている自分に気づくところから始まって、③までのステップを繰り返しているうちに、④で「変えられそうな部分」も見つかるようになるでしょう。
それでは最後に、いくつかの自己受容ができていない状態に基づいて、どのようなつぶやきを自分にかければ良いかの例を示しておきます。
(例は、「和美」さんが「カズちゃん」に声をかけるという想定です)
(1) ダメ出ししてる自分に
カズちゃん:「今日も仕事で、自分の言いたいことの半分も言えなかった。私ってダメね・・・」
和美:「そうなんだ、その気持ち、わかる、わかる」(と合の手を入れる)
(2)責めてる自分に
カズちゃん:「あの人が落ち込んでいるのは私のせいなんだって思うと、私、すごく辛くなる」
和美:「よく『自分を責めてる』って気づけたね。気づけたことが素晴らしいよ」
(3)認められない自分に
カズちゃん:「自分なりに頑張っていることを認めてほしいのに、認められなくて悲しい」
和美:(イメージで自分の肩をポンポンとしながら、または頭をなでながら)「カズちゃん、頑張ってるね」
(4)頭でっかちな自分に
カズちゃん:「あれこれ考え過ぎて、もう分けがわからない。頭の声がうるさくて落ち着かないわ」
和美:「カズちゃん、おいしいものを食べた時のことを思い浮かべて。ごちそうをイメージして、その味や匂いなどを思い出すの」
おいしいものを食べた瞬間の口の中の感触を思い出すと、頭でっかちな思考にとらわれていた意識がそちらに向きます。
自分は「頭の声」ばっかり聞いているなあ、と感じる人にオススメなのがコレです。
頭でっかちのタイプの人は、まず、意識を五感で感じることにチェンジしてみると良いでしょう。
(5)深刻に悩んでいる自分に
カズちゃん:「お母さんが倒れて入院したので、これからのことがとても不安・・・」
和美:「カズちゃん、鏡の中の自分に笑いかけてみましょう」
全体を客観的に見られないとき、人間の不安というものは増幅していきます。
ところが、全体がどうなっているかわかれば、心は落ち着いていきます。
鏡で自分の顔を見ると、自分の状態を把握できます。
そのうえで、そんな自分に向かって笑いかけます。
笑いは、気分をアップするための最強の方法のひとつですから、深刻な気持ちから解放されていきます。
(6)疲れてきた自分に
カズちゃん:「なんだか疲れてきて気分が落ち込んできちゃった・・・」
和美:「カズちゃん、顔がうつむいて眉間にしわが寄ってない?背筋が曲がって猫背になってない?」
人は疲れてくると、視線が下がる、背筋が曲がる……など、身体的に「閉じている」状態になるものです。
それを「開く」状態にすることで、疲れを取り除くことができます。
気持ちは身体と連動しています。
身体が開放されれば、それに準じて気持ちも開放されていきます。
(7)イヤなことを忘れたい自分に
カズちゃん:「今日は学校の先生にひどく怒られて、ムシャクシャする!」
和美:「そんなときは、口角をちょっとだけ上げてみて、カズちゃん」
表情と気持ちも連動しています。
何かイヤなことがあったときでも、口角をほんの少しだけ上げるクセをつけてしまえば、気分は確実に上がります。
さらに、これを人と会う前の儀式にしてしまえば、とてもいい表情で相手を迎えることができます。
[以上、参考にしたのは、『今すぐ変わりたい人の行動イノベーション』]
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