万引き家族   2018年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

監督・脚本 是枝裕和
音楽    細野晴臣

 

キャスト
柴田初枝       :樹木希林
柴田治(榎勝太)   :リリー・フランキー
柴田信代(田辺由布子):安藤サクラ
柴田亜紀       :松岡茉優
柴田祥太       :城桧吏
北条樹里       :佐々木みゆ  ゆり→凛と改名
柴田譲         :緒形直人
柴田葉子       :森口瑤子
北条保         :山田裕貴 樹里の父親
北条希         :片山萌美 樹里の母親
川戸頼次       :柄本明  駄菓子屋の主人
前園巧         :高良健吾 警察官
宮部希衣       :池脇千鶴 警察官
4番さん        :池松壮亮 亜紀の常連客

 

 

感想
毎回、あらすじが長くなるため、感想を先に持って来る事にした。
カンヌ映画祭で、パルムドールを受賞した関係で注目度が高く、そのため賛否も双方あって一概に言えない部分がある。何事も自分の目で確認が大切。

ざっくりと言えば、血縁のない擬似家族を構成していた者たちが、あるきっかけを通じて散って行く物語。

 

元々この家の主だった柴田初枝。年金生活者という触れ込みだったが、話の進行と共に、夫と離婚している事が判って来る。これだと夫の遺族年金をもらうのは厳しいだろう。
後妻となる女性から追われる様に家を出て、その慰謝料として毎月の手当てを貰っているという図式か。元夫と後妻は既に他界したが、毎月の支払いは継続されている。

その息子夫婦の家へ時々焼香に行く初枝。負い目のある息子は毎回小遣いを渡す。彼の娘である亜紀とは、その際に接点が出来たのか、いつの間にか同居。

 

治と信代夫婦。こちらの過去は暗い。信代の元夫を殺して埋めた。不倫関係のもつれか。この時は正当防衛が通り、実刑は免れた。

そして何らかの繋がりで初枝と同居を始めた。祥太を拾って来たのはその前か後か、その辺は不明。

 

祥太は、松戸のパチンコ屋で車から拉致された(信代の言い分では拾って来た:終盤で判明)。想像としては、両親ともパチンコに興じて、子供が車に残された。鍵でも掛かっていれば死ぬ恐れもあった。
血縁はないと知りつつも、治の言うままに万引きの片棒を担いで育った祥太。

凛は、物語の冒頭でもある様に、アパートの外廊下で震えているところを拾われた。


万引き家族、と言う割りに、それに対する依存度はさほど高くない。初枝の固定収入、信代のパート、治の日雇い。普通に考えてリスクを考慮すれば、万引きなんて割りに合わない。
この辺りの中途半端さ。万引きが「遊び感覚」に見えるのが賛同し難い要因。
それと手口が稚拙すぎる。生業として考えるならば、もっと気合いを入れて欲しかった。治のやるスーパー前での指サインなんて、店員から一番に目を付けられるだろう。この辺は元プロなんて人を探し出して研究するとか、方法は沢山あるはず。
そんな覚悟もないのに「万引き」なんて題名を付けた所は失敗。

後述するが、物語としてはいいので、非常に残念。

 

物語の展開としては秀逸。女の子をつい連れて来てしまった治の甘さ。祥太の事を思い出して信代が一旦は返しに行くも、それを断念させる夫婦ゲンカ。元々疑似家族だからこその倫理観のゆるさが、心の繋がりを優先させた。

 

凛に万引きをやらせたくない祥太。困難な環境の中で、勉強に対する望みも捨てていない。

そんな中に挿入される、亜紀のJKビジネス風景。最近このテのお遊びは経験がないので、勉強になった。それにしても海水浴の時の松岡茉優。細々とした体型の割りに立派な胸で、こちらも堪能出来た。

 

ヤマトヤの店主が素晴らしい。祥太の時には知っていて見逃していたのが、凛に万引きをさせた時、初めて諭す。最初から知っていた「おまじない」。店主を演じる柄本明。彼なればこその存在感。

 

スイミーを持って来たのには絶句。息子に買った絵本。「ボクが目になろう」は一生忘れない言葉。
寄り添う事で生存する、はこのドラマの原点でもある。赤い魚たちの中で、一匹だけ黒いスイミーに自分を重ねる祥太。

 

初枝の死体遺棄が判明してからの流れは、やや冗長な感じ。ただ伏線回収のためには必要な事か。
女性警察官、宮部の無神経さが世間の声の代弁。子供を産めない信代を追い詰める言葉の数々。子供二人は貴女のこと、何て呼んでました?ママ?お母さん? と言われた時の信代。言葉が出せずに髪を撫でながら静かに涙を流す。数分間続いたろうか。

印象深いシーンだった。

 

この映画のメイキング映像を観た。
印象的だったのは監督の「それぞれの役を、役者さんに寄せて行く」の言葉。読み合わせを経ながら、どんどん役者の個性に応じてセリフを変えて行く手法。
役者自身があぶり出されるというのも、役者にとっては恐怖・・・かも。

 

ちょっとツッコミ
祥太が作業している廃車。集合住宅わきの、駐車場の一角に置いてあるが、粗大ゴミが周囲にあるものの、いかにも浮いてしまって不自然。自動車修理工場に併設の廃車置き場とかにすべき。監督自身に「都会の中の」というこだわりがあったかも知れないが、それならそれでもう一歩頑張って欲しかった。


いろいろ感じるところはあるが、結局は子供たちの話、だと思う。
疑いを持ちながらも、保護者の意向に沿って悪事を働いて来た祥太が、凛が加わる事で自分が育って来た道程を認識し、車にまで手を出した治を見限る。わざと捕まる事で、自らの力により連環を解き、新しい世界へと脱出した祥太。
信代もそれを感じて、本当の両親に関する情報を祥太に伝える。

 

取り残されたのは治。バスを追って走る姿の頼りなさ、情けなさ。父ちゃんと呼ばれたいだけの、進歩のないクズを実にうまく演じたリリー・フランキー。
信代を演じた安藤サクラもすごい。Zeldaさんの表現した「煮崩れた佇まい」がそのまんま。やさしさの底にある毒の意味も後半で判明。この人、これでまだ32歳(ビックリ!)。
優しさだけでもダメ、理詰めでもだめ。様々な教訓を内包している。要所要所でクサいセリフはあったが、まあ許容範囲。

 

祥太役の城桧吏くん。絶賛の声が高いが、監督の使い方のうまさが基本にあると思う。ヘタに演技をさせるより、その都度セリフを覚えさせて素の表情を引き出す。それが出来るのも才能ではあるが・・・
凛役の佐々木みゆちゃんも、全くの自然体で好感が持てる。

初枝役の樹木希林。もうこの人はあれこれ言う必要もない。全身ガンを公表して久しいが、何とか生存している。今回は自分の入れ歯を外しての熱演。楢山節考の坂本スミ子も凄かったが、歯のない初枝がニカっと笑った顔は、あの映画を思い出させた。


最後に音楽。細野晴臣は昔から高く評価しているが、今回の抑制した音楽は絶品。ピアノやギターソロが多かったが、さりげなさすぎるぐらいの入り方で、人の心に寄り添う。サンプル  
それから2、3ケ所で曲中音程がスーッと下がる(救急車が離れて行く時のような)表現があり、強く印象に残った。

 

話変わるが、同じYMOでも、高橋幸宏は何とかならんか。最近でも、こんなくだらない歌を出している。

 

 

 

あらすじ
スーパーに入る親子(治と祥太)。祥太は降ろしたリュックに菓子を落とし、次には治が店員から視線をガードしながら、その間に祥太がカップ麺をリュックに入れる。盗みの前にやる、祥太のおまじない。


総菜屋でコロッケを買う治。ウィンドーを見て、車のガラスを割る器具の話を祥太にする。
帰り道にあるアパートで、目隠しの間から見える女の子を見つける治。寒い中で震えている。以前から気になっていた。「コロッケ食べる?」

 

結局その女の子を抱いて連れ帰る治。家には祖母の初枝、嫁の信代、その妹有紀。それぞれがカップ麺をすすっている。女の子はユリと名乗った。コロッケや麺を食べさせる治に「返して来て」と言う信代だが、傷だらけの体を見て驚く。
その後信代が、寝てしまったユリを抱いて返しに行くが、その家ではすごい夫婦ゲンカの最中。「産みたくて産んだんじゃない!」とのフレーズを聞いて、ユリを連れ帰る信代と治。

 

翌朝おねしょをしてしまうユリ。信代が何気なく「ごめんなさい、は?」と言った言葉に「ごめんなさい」を何度も繰り返すユリ。
治は日雇いの仕事に出る。ビル工事現場で、適当に掃除をして力仕事を避ける治。信代も仕事に出る。

 

留守番の初枝、祥太、ユリ。そこへ訪ねる男。米山と言った。慣れた様にユリを連れて外に出る祥太。
頼まれたものを持って来たついでに世間話をする米山。近所の老人の引っ越し話から、立ち退きの話に。今は地上げはやってない、と米山。彼には初枝が一人暮らしだと思わせている。

 

外を歩く祥太とユリ。家で勉強が出来ない事が不満な祥太。学校へ行きたい。
小さな店に入る二人。店主が、タバコを買いに来た客の相手をしているうちに、菓子とシャンプーを盗む祥太。

信代の仕事場は大規模クリーニング店の工場。客が入れたままにしたアクセサリーをネコババ。同僚もグル。
休み時間に同僚と談笑する信代。

団地駐車場の片隅に置いてある、廃車の中で作業をしている祥太。何かを削っている。それを見ているユリ。
ユリに手の傷を事を聞くと「ころんだ」。だがそれはヤケドの跡。

ママやさしいよ、と言うユリに「じゃあ何であんなとこ居たんだよ」

 

帰った祥太とユリ。シャンプーを亜紀に渡すが、メリットはイヤだと文句(ヤマトヤにはメリットしかない)。
ユリの事を誘拐だと言う亜紀に、監禁も身代金要求もしていないから違う、と信代。
食べているのは麩と野菜の煮込み。欲しそうにするユリに食べさせる初枝。おばあちゃんの事を少し話すユリ。
またおねしょすると言うみんな。食卓塩をユリに舐めさせて「昔はこれで治った」と初枝。

治が足に包帯を巻いて帰って来た。肩を貸す同僚。現場での事故。

同僚の話では日雇いでも労災が出るかも知れない。

 

翌日ユリを連れて万引きをして回る祥太。ユリの好きな麩も取ってやった。ユリのおばあちゃんの事を聞く祥太。今は天国にいると言う。


一方金を降ろしに行く初枝に同行する亜紀。暗証番号を口ずさみそうになるのを止める亜紀。
亜紀のやっている仕事の事を聞く初枝。3,000円を店と半分づつ。

おばあちゃんのは?と聞く亜紀に慰謝料、と言いかけて年金と訂正する初枝。途中で別れる亜紀。

 

昼近くなっても出勤しない信代に理由を聞く治。ワークシェアだと言う。金を払えないので10人は午後からでいいとの事。みんなで少しづつ貧しくなりましょう・・・・と治。
労災が下りない事を知って落胆する信代。
初枝がいない時の治と信代。初枝の金の話。月6万。

ダンナのおかげで死ぬまでもらえる。帰って来る初枝。

 

店に居る亜紀。店の名は「JK見学」。店ではサヤカと呼ばれている。

マジックミラーの前で乳を揉んだり股を開く姿を見せる。
亜紀を指名する常連が「4番さん」。「こんにちは、仕事お休みですか・・・・」

 

釣り具店で仕事をする治、祥太、ユリ。治が店員に相談しているスキに、祥太が数本の竿を持って自動ドアの前に。

そこでユリが防犯システムの電源コードを抜き祥太が出る。その後コードを戻してユリが出る。
得意そうに手口のコツを話す治に「二人でも出来るよ」と祥太。ワークシェアだと聞きかじりの言葉を言う治。

 

家で信代が、亜紀にも少し金を入れてと言うと、初枝が「そういう約束だから」と否定。おばあちゃん食い物にしてるじゃん、と亜紀。信代が言い返すと「食えるもんなら食ってみろ」と初枝。
初枝のふとんに潜り込む亜紀「あったかーい」


玄関先で座っているユリ。祥太が帰らないので心配している。その姿を見て話し合う治と信代。親からあんな目に遭ったのに人の心配。

産まなきゃよかったなんて言われて育ったら、ああはならない。・・・普通はな。

廃車の中で相変わらずの作業をしている祥太を迎えに来た治。
ユリが待っている事を教える。男二人の方が楽しいと言う祥太。

ユリも何か役に立つ方がいいだろ?と治。
ユリはお前の妹、とダメ押し。そして「じゃあ俺は?」と続けるが、希望する言葉を絶対言わない祥太。
祥太はスイミーの事を治に聞く。小さな魚が大きなマグロをやっつける話。食い物のマグロにしか興味がない治。

家の庭で、ここに池があったの知ってるか?と聞く治に、昔は鯉飼っていた、と聞いた話をする信代に、ばあちゃんのホラだと言う治。

 

祥太が、TVでユリの事を言っている!、と飛んで来た。
行方が判らなくなって2ケ月。親は捜索願いも出してなく、事件になっていた。ユリの名は、実は樹里だった。
こりゃマズい、と言う治に「何言ってんの、今頃」と信代。

ユリを家のそばまで連れて行き、ここから一人で帰れ、と言う治に「ズルいんだよ、今さら」と抱き上げる信代。

そうなると違う名が必要。初枝の言う「凛(りん)」に皆が賛同。

 

信代が髪を短く切ってやり、雰囲気もかなり変わった。

祥太が凛に話す。おじちゃんに助けてもらったんだよな。

おばさんとおばあちゃん好きか?じゃあガマン出来るよな。
初枝と信代の会話。戻るって言うと思ったけどね。選ばれたんかなー、私たち。親は自分で選べないからねー、

普通は。大体自分で選んだ方が強いんじゃない?
凛が最初着ていた服を燃やす信代。

凛を強く抱きしめて「好きだから叩くというのはうそ」

 

亜紀が治に「信代さんとさァ、いつしてるの?」と単刀直入に聞く。心で繋がっている、と言う治。ウソくさー。

デパートに行く初枝、信代、祥太に凛。試着室で着られるだけ着込んで万引き。服あげると言うのに、後で叩かない?と聞く凛を抱きしめる信代。
風呂に入っている信代と凛。信代の腕の傷。アイロンで作ったもの。私にもあるよ、とおなじ様な場所を見せる凛。もう治っているよ、というのに信代の傷跡を指先でいつまでも撫でる凛。ありがとう・・・

 

部屋で教科書を読む祥太。スイミーの話。離れない、持ち場を守る。

そして一匹の大きな魚の様に泳げるようになった時・・・ボクが目になろう。

公園でセミの抜け殻を集めて遊ぶ祥太と凛。凛が、木に登りつつあるセミの幼虫を見つける。がんばれー
ヤマトヤで、祥太が盾になって凛が菓子を盗み、店から出て行く。そして祥太も出た時に、店主が呼び止めた。
棒ジュースを二本出して「これやる」。そして「妹には、させるなよ」動けない祥太に、いつも彼がやるおまじないの動作をやって見せる店主。

 

信代ともう一人が上司の前で座っている。時給の高い二人のうち一人を解雇。どっちかに辞めてもらいたい。
だが話はつかない。相手が「女の子の事を知っている」
黙っててやるからと言う相手に「そのかわり・・・喋ったら殺す」

よその家で仏壇に手を合わせる初枝。夫の写真がある。月命日を思い出したと言う初枝に、恐縮して座っている夫婦。母の事は本当に申し訳なかった、と息子。
近くに亜紀の写真。この家の長女。夫の話ではオーストラリアに留学中。帰り際に封筒を渡す夫。

帰り道で袋を開き「三万か」。いつもと同じ。

 

店で仕事中の亜紀。相手は例の「4番さん」。タイムアップして、亜紀がプレイルームに誘う(追加料金)「私も顔見たいなぁ、4番さんの」・・・・ヤッター
何しようか、添い寝、ハグ、膝まくら?
膝まくらをされる男。妹の話をする亜紀。水着を買ってもらって、嬉しくてお風呂でも着ている・・・
何も話さない相手。右手の指の殴り傷を見つける亜紀。

誰を? 返事無し。
私もねぇ、自分殴ったことありますよ。痛いねぇ、これ。痛い イタイ・・・そこでタイムアップのチャイム。
太ももに残った涙の跡を拭こうとする男に「いいよ」
最後にハグする亜紀に「あ、あ・・・」としか言葉が出ない。強く抱きしめる亜紀「あったかいねぇ」

 

そうめんを食べる治と信代。パートをクビになった話をする信代に、また西日暮里辺りで店でもやるか、と治。
水着の上にスリップを着ている信代に、治がちょっかいを出したのがきっかけで、信代がキスを仕掛けてのしかかる。「オイオイ、何だよ・・・・」外はどしゃ降り。
突然の雨に、ずぶ濡れになって走る祥太と凛。

鼻歌を唄う治。何カッコウつけてるの。
「できたな」できた、うん。 「まあね」
もう一回、と迫る信代に「お前いくつだと思ってんだよ、もう少し余韻に浸らせてくれ・・・」
そこに帰って来る子供二人。あわてて服を着るこっちの二人。

 

夜の団欒。子供らに手品をやって見せる治。その折りにヤマトヤの店主に言われた「妹にはさせるなよ」の事を話す祥太。
「これには、まだ早いだろう・・・」と話をはぐらかす治。
隅田川の花火の音。見る事は出来ない。

 

一家で電車に乗り、海水浴に出掛けた。
祥太を連れて沖へ出る治。祥太が亜紀の胸を見ていた事に気付いていた。男はみんなオッパイが好きなんだよ。朝ココが大きくなったりしないか、と股間をくすぐる。
「みんななるの?」男はみんな、なるんだよ。安心した?うん、ちょっと病気かと思った。

 

信代が、遊ぶ凛を見て「私が言った通りでしょ」。そんなの長続きしないよ、と初枝。
長続きしない方がいいって事もあるじゃん。 まあ、余計な期待しないだけね。 そうそう・・・
初枝が信代を見て「姉さん、良く見るとキレイだねぇ」逃げて行く信代。
一人残された初枝が、足にサラサラと砂を掛ける。

 

朝、凛が祥太の寝ている押し入れを開ける。「歯が抜けた」下の前歯が抜けている。
「丈夫な歯が生えますように」と、治がその歯を屋根の上に投げる。

 

凛が初枝のそばで泣いている。死んでいた。
救急車を、と言いかけて止める信代。しようがないよ、こういうのは順番なんだから。
治が床下に穴を掘っている。祥太に「いいか、これは内緒だぞ。ばあちゃんは最初から居なかった。俺たちは五人家族だ。いいな」「うん」
仕事を終えて風呂場にいる治。「またこんな事するなんてな」「でもあの時とは違うでしょ」「だよな、バアさんだって、考えようによっちゃ幸せ」「そりゃ、そうでしょ。一人で死ぬよりはずっとね」
「もし俺が死んだら庭の池の下にでもよ・・・・」「うん。でもそんなに大きくない、あの池」

 

信代がATMで金を下しに行く。祥太が「いくら?」
「11万6千」「誰の金?」「ばあちゃんのだよ」「じゃあ悪くないね」「悪くないよ」「じゃあ万引きは?」「父ちゃんは何だって?」
「お店に置いてあるものは、まだ誰のものでもないって」「まあ。店がつぶれなきゃ、いいんじゃない」
店の前で「お母さん、どう?コロッケ」と言われて喜ぶ信代。「嬉しい?お母さんって呼ばれて」
「呼ばれてみないと判んないかな」治から言えと言われている事を話す祥太。

家の仏壇から、金の入った封筒を見つけて喜ぶ信代と治。

全部で十五万。金は金だから・・・

 

駐車場で車の中を物色する治。「ねえ、これは人のものじゃないの}「・・・・だから?」
「お前もやってみるか?なあ」と言う治から逃げるように離れる祥太。
ワゴン車の後部ガラスを器具で割り、中のバッグを持って逃げる治。

後を追う祥太。
「僕の時はさあ、あの時も何か盗もうとしていたの?」

「あん時はお前を助けようと思ったんだよ」

 

ヤマトヤの前に立つ祥太と凛。

「忌中」の文字の「中」しか読めない祥太。
次にいつものスーパーへ。店の前で「待ってろ」と凛に言い置き、店に入る祥太。だが後をついていく凛。
祥太が盗もうとした時、その後ろで凛が菓子を盗もうとしていた。すぐそばに店員。
近くの食品を崩して走り出す祥太。追う店員。祥太は玉ねぎのネットを持って店の外へ走り出る。
だが二人に追われ、高架まで追い詰められると、そのフェンスを乗り越えた。下までは数メートル。ころがる玉ねぎ。走る凛。

 

病院に呼び出された治。続いて駆けつける信代。祥太は骨折。

署まで同行して下さいと言う警官に、入院だから一回家に帰ると言ってその場を逃げる二人。

家に戻り、最低限のものを掻き集め、夜逃げしようとする治と信代。イヤだと言い、お兄ちゃんはどうするの?

と聞く凛に「後で迎えに行こう」とその場しのぎを言う治。
だが家を出たところで明かりに晒される。

 

会議室。クレヨンで海の絵を描く凛。警察官の宮部が声をかける「凛ちゃん、海へは何人で行ったのかな?」
続いて前園が「何して遊んだの?この時おばあちゃんいなかった?」

 

祥太への質問
廃車の中で一人で暮していたと言う祥太。誰かを庇っていると断じられ、彼らが荷物をまとめて逃げようとしていた事を話す。男の本名は榎勝太、女は田辺由布子。前の夫を殺していた。刺して、殺して、埋めた。痴情のもつれ。あの二人はそういう繋がり。

 

信代の弁明
前の事件は正当防衛。殺さなかったら二人ともやられてた。判決はそう出た。それと今回とどういう関係があるの?

 

治の弁明
誘拐ではない。腹空かせているのを見かねて。信代が連れて来て。

無理やりじゃなくて。--そういうのを誘拐と言うんですよ。
俺もそう言ったんだけど・・・・

 

両親の記者会見
樹里ちゃんの様子。昨日は何を食べたのか。

 

亜紀の話
おばあちゃんが一緒に暮らそうって言ってくれたから。

でもそれはやさしさじゃないよね。
自分の育った家族からお金もらってた訳だし。驚く亜紀。
私がおばあちゃんと暮らしていたって知ってたんですか? 

ご両親は知らなかったって言ってるけど。
おばあちゃんはお金が欲しかっただけなのかな?
・・・おばあちゃん、今どこに居るのかな?

 

ニュース映像
柴田初枝さんが発見された家の前からの中継。
遺体は死後数週間経過。初枝さんが殺害された可能性も含め捜査中。家族になりすましていた人たちが、一体何を目的にこの家に集まっていたのか、未だ謎に包まれたまま。

 

信代-宮部
貴女は一人でやったと言うの?ハイ、掘ったのも、埋めたのも? そうです、私が全部やりました。死体遺棄は重い罪ですよ。
拾ったんです。誰かが捨てたもんを拾ったんです。捨てた人ってのは他に居るんじゃないですか。

 

治-前園
子供に万引きさせるの、後ろめたくなかったんですか?
他に教えられるものが何もないんです。だからって・・・・・
何で男の子に祥太って名前付けたんですか?あなたの本名ですよね。

 

祥太-前園
私設で六人の子供たちと一緒に暮らす。子供だけで?そう。
祥太はそこから学校へ通えるんだ。
家で勉強出来ないヤツが学校行くんじゃないの?
家だけじゃ出来ない勉強もあるんだ。どんな? 友達との出会いとか・・・
凛ってどうしてますか? 家族の元に戻った。本当の? うん。
祥太も、もし・・・・ 覚えてないよ、何も。

 

凛(樹里)
母親に話しかけるが「忙しいからあっち行ってて」とじゃけんにされる。
母親の頬の傷に触ると「痛ったい!」そして「ごめんなさいは?」返事しない凛。
母親が声を変えて「樹里、お洋服買ってあげるから、こっちへおいで」

 

信代-宮部
戻りたいって言ったの?凛が?
子供にはねぇ、母親が必要なんですよ。
母親がそう思いたいだけなんでしょ。産んだらみんな母親になるの?
でも産まなきゃ母親になれないでしょ?貴女が産めなくて辛いのは判るけどね。羨ましかった?だから誘拐したの?
憎かったかもよ、母親が。
子供二人は貴女のこと、何て呼んでました?ママ?お母さん?
一言も言えず、静かに涙を流す信代。

 

海岸で釣りをしている祥太と治。

祥太がルアーの事を教える。本で覚えたという。
刑務所へ、信代への面会に行く治と祥太。
治に、アンタは前があるから5年じゃ利かないと言う信代。

でも楽しかったと言う。
ごめんなさい、と祥太(ボクが捕まったから)。「いつもうまくは行かねえよ」
学校での様子を話す祥太。
信代が、祥太を拾った時の事を話し始める。
その場所は松戸のパチンコ屋。車は赤のVITS。ナンバーは習志野。その気になれば本当の父ちゃんと母ちゃん判るから。
お前、そんな事言うために祥太連れて来いって言ったのか。
そうだよ。もう判ったでしょ。ウチらじゃダメなんだよ、この子には。

 

治が住んでいる住宅で二人、カップ麺にコロッケを入れて食べている。
日も暮れ始め「ここで泊まって行こかな」と祥太。
「怒られないか?」と言う治に「今帰ったって同じだよ」

タバコを吸いに部屋の外に出た治、祥太を呼ぶ。

外には雪が積もっている。
雪だるま作ろうよ、と祥太。治も下りて作り始める。
寝床の中で治が「俺な、父ちゃんじゃなく、小父さんに戻るから」

 

翌日のバス亭。ごめんな、おじさんは・・・・と治が言いかけた時
「わざと捕まったんだ、ボク」と祥太。 「・・・そうか」

バスが来て乗り込む祥太。治を見ない。
治が声をかけても席に座ったまま窓の方を見ない祥太。
バスが走り出す。頼りない足つきで走る治。
十分遠くなってから後ろを振り返る祥太。

 

アパートの廊下で一人遊ぶ樹里。おばあちゃんに教えてもらった歌を唄っている。そしてビー玉遊び。

 

じっと見る目隠しの隙間。
そして台の上に乗って目隠しの上に顔を出し、遠くを見て微笑む。