ゲド戦記 Ⅴ 「アースシーの風」 作:K・ル=グウィン | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

シリーズ最後の作品。
2018.1.22に亡くなった原作者に敬愛を込めて・・・

 

過去レビュー
Ⅰ「影との戦い」 Ⅱ「こわれた腕輪」 Ⅲ「さいはての島へ」 Ⅳ「帰還

 

ゲド戦記 Ⅴ 「アースシーの風」 作:K・ル=グウィン 訳:清水真砂子                              国内初版:2003年

 

他の巻 、 、 、 、 

時間のない人向け  全体まとめ

 

 

感想
延々と続いた物語の最終章。ここで全体の年代おさらいを。

 

Ⅰ「影との戦い」
ハイタカ(ゲド)の少年期(数歳)から青年前期(20歳前後)までの話。
魔法を使える少年、ハイタカ。ゲドという名を得てローク学院で学ぶが、自分の未熟さのため瀕死の重傷を負い、同時に自分の影を現世に放出してしまう。それを自分の中にまた収めるまでの話。

Ⅱ「こわれた腕輪」
アルハ(テナー)の5歳から16歳辺りまで。

ゲドは彼女より10歳上(26歳)
カルガド帝国の大巫女として育てられたアルハが、伝説の腕環の半分を奪いに来たゲドとの接触で、自分自身を見出して行く。

最後に完成した腕輪をハブナーに持ち帰る。

Ⅲ「さいはての島へ」
腕輪が還って25年。ゲドは50歳前後。テナー40歳前後。
アレン(後のレバンネン)は少年という表現(13歳前後?)
世界中で魔法が使えなくなる事態。魔法使いのクモの仕業。西の果てまで行って、生と死の隔てを開いてしまった扉を再び閉じるゲドとアレン。ゲドは魔法の力を無くす。

Ⅳ「帰還」
Ⅲの直後からが過去の話として語られる。テルーは8歳前後か
Ⅱから続くテナーの物語。火傷を負い、救われたテルーと共に生きるテナー。危機に陥ったゲドとテナーを救うテルーは、竜カレシンの娘テハヌーだった。


そして今作。レバンネンがテナーと会ってから15年という記述があるため、レバンネンは20代後半。テルーは20代前半。ゲド60代後半、テナー50代後半といったところか。

 

課題を持ち込んで来たのは、ハンノキという修繕屋。三十歳を過ぎてから結婚したが、妻が出産直前に胎児と共に死亡。だがそれ以後、妻が夢に出て来て石垣越しに助けを求めるようになる。

ローク学院、ゲドを経て王レバンネンの元にまで辿り着くハンノキ。
レバンネンは統治上の課題を抱え、また民からの竜に対するおびえの訴えも受けていた。
同時に生じる、カルガド帝国からの女王来訪。

 

初めて、竜から人の姿になった者(アイリアン)を出現させる事で、ようやくテハヌーもカレシンの娘だという事が理解出来る。

 

サイドストーリーとしての、レバンネンと王女セセラクとの関係。当初政略だと王女を拒絶するレバンネン。元々カルガド人だったテナーが王女に手を差し伸べる。
資質として聡明さを持つセセラク。

彼女の心を知り、次第に心を開くレバンネン。

人と竜の話とは直結しないが、心動かされるものがあった。

 

一番手ごわいのが、人と竜の関わる生と死の問題。
数行で収めるのは困難だが・・・・
様々な前兆を経て、全てが明かされる。
この複雑に入り組んだ関係と、クライマックスに向けての収斂は、本文を一度読んだだけでは、なかなか把握出来るものではなく、このあらすじを読み通す事で、ようやく全貌を理解した。
それらを全て構築し、作品として完成させた作者K・ル=グウィンの力量に敬意を表する。

 

この前提を以てアニメ「ゲド戦記」を改めて視聴し、どこがどうダメなのかを検証したい。

 

 

あらすじ

第一章 緑色の水差し

天翔丸に乗ってゴント港に降り立った男。市場でル・アルビへ行く道を尋ねる。皆魔法使いの家だと承知していた。
10マイル以上も歩き、ようやくそれらしい場所に着いた時、出会った男に声をかける。七十かそこらで、頬に旧い傷跡。
「ハイタカ様、大賢人さま」と挨拶する男。生まれはタオン。ロークに行き、様式の長からこちらへ行くようにと言われた。

 

老人は旅の男を座らせて、簡単な食事を提供した。
男の名はハンノキ。食事のおかげで落ち着いたが、疲労がひどい。
老人はひとり。つれあいと娘は出掛けていない。
畑仕事を手伝い、その後ベンチに座って夕日を眺めるハンノキ。

ハイタカがワインとコップを持って来た。

ロークの様式の長から、大賢人の事はある程度聞いていたが、魔法使いが配偶者や子供がいる事に違和感を持つハンノキ。
ハイタカは妻子の事について言い足した。ハブナーの王、レバンネンが「相談がある」と言って迎えをよこし、それで行った。
おまえさんが来たのも同じ用件かもしれん。
だが自分も疲れているから、話は明日にしよう、とハイタカ。
夢と格闘して大声を出すかもしれないから、外で寝たいというハンノキ。夜中に、ハンノキがうなされる声に跳び起きるハイタカ。

 

翌日、朝食を摂りながらハンノキの話を聞いた。
ハンノキは、女まじない師の息子として育った。まじない師シロカツオドリのところへ奉公に出され、いろいろ適性を試された後、ものなおしの素質を見出されて 、その方面を学んだ。
ハンノキが修繕屋になって三十歳の時に、たまたま若い娘が、ものなおしの教えを乞いたいと訪ねて来た。魔女の訓練を受けていなかったが、その腕はハンノキ以上だった。
娘はユリと言い、技を教え合ううちに愛し合うようになった。
そして結婚。妊娠してお産の予定日が来た。
だが出産が遅れた。いつまで経っても生まれない。産婆も力を尽くしたが、結局母子ともに亡くなった。

ユリが死んで二ケ月後、夢にユリが現れた。斜面に立つ自分の先に低い石垣があり、その向こうにユリがいた。

夢だと判っていてもうれしかった。お互いに手を取り合い、キスした。私を自由にして!と言うゆり。だが石垣の向こうにも行けず、ユリをこちらに引き込むことも出来ない。結局ユリは行ってしまい、夢から醒めた。

ハイタカはその石垣を超え、そして戻って来た。だが石垣越しに愛する者と触れ合い、キスまでしたのはそなたが初めてだろう。

ユリにまた逢いたいと思ったハンノキは、その九日後に再びその夢を見たが、その時は五年前に死んだ師匠のシロカツオドリが居り、石垣を壊そうとしていた。彼も自由にしてくれ!と言った。彼の手が触ると痛さと熱さ。その黒ずみがまだ残っている。

 

タオン島の魔法使いペリルに相談したところ、即座にロークに行かなくてはだめだと言われ、彼の便宜で船に乗ることが出来た。だがその船でも毎晩石垣、死者の夢でうなされるため、船員たちから疎まれた。

ロークの「まぼろしの森」では不安も恐れもなく眠れた。ロークでの様子を聞くハイタカ。
学院の入り口で最初に会ったのは守りの長。ここに連れ込んでは困る、との言葉に戸惑うハンノキ。
ベンチに座るよう言われ、そうすると呼び出しの長が来た。
夢うつつの中で、いつの間にか丘の斜面に立っていた。石垣のある場所。呼び出しの長に促されて妻の名を呼ぶが反応はない。「メヴァ!」と呼び出しの長が妻の真の名を言うと、妻ではなく少年が出て来て、石垣を壊そうとしていた。痛ましい光景。
その後の記憶はなく、ハンノキは薬草の長の手当てを受けていた。そうして五日あまり過ごした後、薬草、守り、呼び出しの三人の長が訪れる。呼び出しの長に不信を抱くハンノキ。

 

ハンノキは、自分の過ちのせいでこの事が起きているのなら、ぜひ正したいと話す。少し冷淡な呼び出しの長だったが、石垣の場所に行くようになったいきさつを聞き、それに応えるハンノキ。。
呼び出しの長が言う。賢人と呼ばれる者だけがあの石垣を超えられる。大賢人と王はそこを越え、生と死の間の扉を閉めた。
次いで薬草の長が続ける。前任の呼び出しの長だったトリオンが、その時大賢人を探すために黄泉の国へ行き、そして戻って来た。だが戻った時にはすっかり変わってしまった。
向こうに長く居すぎたトリオンは、ただ生きようとする意志だけの者になり、アイリアンに滅ぼされるまでは長たちの心を食い物にした。

 

聞いていたハイタカは名前を聞き返す「アイリアンと言ってました」。

初めて聞く名。
ハイタカは、黄泉の国でトリオンに会った時の事を話す。
促されて先を続けるハンノキ。
ハンノキが、妻との絆で黄泉の国の入り口まで来た事実を踏まえ、この解決を図るため、その晩三人の長はハンノキの夢に同行して、石垣まで辿り着く。
石垣に近づき、乗り越えようとするハンノキを呼び戻す声。次に薬草の長の手が肩に置かれた。
気付くと部屋に戻っていた。部屋には三人の長に加えてもう一人、様式の長が。薬草の長が今までの説明を行った。

様式の長はハンノキに、まぼろしの森に来れば夢を怖がらなくてもすむと言った。そしてその事にハンノキと他の三人が同意すると、彼は消えた。幻だけが来ていた。

守りの長を先頭に、様式の長のところへ向かう一行。
出迎えた様式の長が、ハンノキをまぼろしの森に案内する。
様式の長について説明するハイタカ。彼はカルガド人。あちらからロークに来たのは彼だけ。まぼろしの森の噂を聞いてロークに来た。大地の中心だという確信。

 

様式の長が、ハイタカを訪ねる様に言った意味を知りたいハイタカ。
彼の言うには、ハンノキと妻は、別れ方が判らないのではないか。ある魔力が表に出て来たのかも知れない。
ハイタカは、男と女が愛し合う事を知っている、様式の長アズバーの信条を認めていた。ここ15年、学院の外で暮らして来て、夫婦の絆の強さを意識している。
ハンノキたちの愛は、モレドとエルファーランの愛に劣るものではないと言うハイタカだったが、愛がいくら深くても、生と死の決まりまで変えられるものではない。
何かが変わろうとしている。おまえさんに起こってはいるが、それは道具の様な役割かも知れない。

別の変化に危惧するハイタカ。レバンネンが王となり、ロークには大賢人がいなくなった。また、竜のカレシンの娘テハヌーの出現。
王は少し前に竜の事で相談したいと、テハヌーを招聘した。人々の、竜に襲われる恐怖。合点のいかない事ばかり。
夜半になっても眠る恐怖を消せないハンノキに、見ていてあげるから、と寝かせるハイタカ。
寝入ってから様子がおかしいのに気付き、ハンノキの肩を掴むハイタカ。「ハラ、こっちへ来るんだ」。真の名を呼ばれ再び動かなくなるハンノキ。
自分があの石垣に居た時の事を思い出すハイタカ。

 

翌日、ハンノキが壊れた水差しを治すところを熱心に見るハイタカ。慣れた手つきで修復を進めるハンノキの顔は穏やかで、緊張も悲しみもなかった。
修理の礼を言ったハイタカは、せめてハンノキがぐっすり眠れるための工夫を考えていた。誰かが手を置くことで石垣から遠ざかる事が出来るなら、動物でもその代わりが出来ないか。
ハイタカは、コケばばを訪ねて子猫を一匹譲ってもらった。そして、かつて自分も小動物のオタクと共に暮らした事を話す。いつか、魂があちこちさまよった時、オタクが手を舐めることで連れ戻してくれた。
猫はハンノキにすぐ懐いた。いなくなった時に悲しまないよう、名前は付けないと言ったハンノキ。

ハンノキに、ハブナー行きを提案するハイタカ。彼の話を聞いて、その意味を考えるべき人のところへ。


第二章 王宮
ゴント港のハンノキ。天翔丸には乗れなかったので、小さな沿岸船の「いとしのバラ」号でロークに向かった。

王の署名と封印がお墨付きとなって、船長は快諾。
船上でのハンノキは、猫のおかげで夢に苦しめられる事はなくなった。
1ケ月ほどで船はロークに着き、王宮に出向いたものの、毎回親書を見せて説明を繰り返した。

 

ようやく王への謁見まで漕ぎ着けたハンノキ。ハイタカからの手紙を読み、大まかな事情を知るレバンネン。
ハンノキが字を読めない事を知って、手紙の内容を代読するレバンネン。そして、どんな夢を見たのかハンノキに尋ねる。
いくつかの質問を行うレバンネン。話すうちに、その夢がすぐそばに迫り、恐怖が満ちて来るハンノキ。
ここでの滞在を提案したレバンネンだったが、ハンノキは命令と受け取った。

 

レバンネンを悩ませる外交問題。カルガド諸島の一つハートハーで、その島の大王を宣言したソル。帝国の中心であるカレゴ・アトにも攻め込み、カルガド四島を支配する大王だと宣言。
この意を汲んでレバンネンは使節を送ったが、外交交渉が難航して五年。エレス・アクベの腕環の意義を粘り強く説明し、和平のメッセージを送っていた。

そして1ケ月前、ソル大王の艦隊がハブナー湾に来た。ソルの姫の腕にその腕環をつけさせるべし。それが和平のしるしとなろう、という主旨。
姫は頭からすっぽりとベールに包まれていた。レバンネンは、王女を滞在のための川館に案内した。市の北に建つ小さな美しい建物。

ひとりになった場で、レバンネンは怒りを爆発させる。利用などさせないぞ!
ソル大王が、王女をレバンネンの妻として差し出したという、この申し出は棚上げにされた。とにかく王女の滞在のみを受け入れた状態。
王女はカルガド語しか話せず、それも召使い、通訳を介してなので意思の疎通は困難。

 

王女がやってきて半月後にテナーとテハヌーがハブナー入りした。
もともと二人を呼んだのは別の理由だったが、レバンネンはテナーにいきなり王女の事を相談。
外見の変化よりも15年前の感覚に戻っていた。
もともと二人を呼んだのは、西からの知らせに悩んでいたから。竜の話を始めるレバンネン。

数日後、レバンネンはテナーに、王女を訪ねてなんとか話が出来るようにして欲しいと頼んだ。同じカルガド人という希望。だがアチュアンではハートハーを野蛮人と呼んでいた。
王女の話をする時のレバンネンは悪意に満ち、過ぎたことをテナーに言った。後でそれを後悔するレバンネン。
相変わらず押し寄せる雑務。夜になってようやく一人になったレバンネンは、ハンノキの話に触発されて、自身があの場所に行った事を思い出していた。黄泉の国を渡ったあの経験。

 

テナーに対して母親に対するような感覚を持つレバンネン。

テナーはレバンネンを愛していた。胸を痛めずににいられる息子。

だがあのハートハーから来た娘に誠意を見せないとなれば、そうではなくなる。
カルガド人がテナーを非難するには根拠があった。テナーの裏切りは政治的、宗教的にも深いものがあった。
だがそれは40年以上も前のこと。ソルの大使がテナーの事を食らわれし者のアルハ様、と呼んだことに感動するテナー。
なぜレバンネンはあの娘の立ち場に立てないのだろう。テナーには彼女の状況が深く理解出来ていた。自らの人生をそこに重ねる。自分が救われたのはゲドがいたから。
また、テハヌーの事も悩みの種。レバンネンが要請したものの、ゲドは拒否、テハヌーも一人では行かないと言って、結局テナーが同行。王宮でもテハヌーは馴染めない。

 

王宮での生活を始めたハンノキ。時刻ごとに行われるラッパの告知、携わる者の行動。
王が彼を紹介するために、皆が集まっている場所へ連れて行った。最初はテナー。次いでトスラ司令官、ハブナー家のセゲ王子。それからローク学院の魔法使いオニキス。そして最後は「ゴントのテハヌー」。顔の右半分はつぶれてケロイドになり、右手は鉤爪のようになっている。
ハンノキはテハヌーに、ハイタカからの伝言を伝える。黄泉の国へは誰が行くのか、と、竜が例の石垣を超えることが出来るかの二点。それに頷くテハヌー。
オニキス、セゲらが話す夢の話。改めて、自分が災いを持ち込んだのではないかと危惧するハンノキ。

レバンネンが、夢の話を脇において、最近問題となっている案件を、トスラ司令官に説明させた。
ここ数年、竜が農家や村を襲い、火を放つなどをしている。直接人を襲うわけではないが、火事に巻き込まれて死人も出ている。
クモが起こした事件が解決してから15年が過ぎていた。
竜はものが言えるのに、どうして火を放ったり、建物を壊すのか。王はそこでテハヌーに「どうやったら竜に話をさせられるのかな?」と軽口をきいた。沈黙するテハヌー。
そこでオニキスに、かつてロークにやって来た娘の話をするように促す。

 

8年ほど前、若者に変装した娘がロークに来た。ヘタな変装だったが、それを受け入れたのは守りの長。
当時呼び出しの長トリオンが学院長だった。黄泉の国から戻って来た長。彼はその彼女の受け入れに難色を示した。
様式、守り、薬草の各長は彼女を守る立場を取ったが、トリオン以下それ以外の長は敵対。
そんな頃、トリオンと娘がローク山で対峙する場面になった。トリオンが娘の真の名「アイリアン」を呼ぶと彼女はみるみるうちに竜へと姿を変えた。そして竜がトリオンに触れたとたん、トリオンの体が塵となって消えた。竜はそのまま飛び去った。
その話を聞いた後、テハヌーが感情的になり、立ち去って行った。

 

そんな時に、ハブナーの西で竜たちが森に火を放ったという話が持ち込まれた。

王とその一行は一番速い船でその現場に向かった。テハヌーも同行。
前夜、テナーとテハヌーの前で、テハヌーの同行を懇願するレバンネン。自分を助けられるのはテハヌーしかいない。その竜を知らないと言って引き込むテハヌー。カレシンを呼べないかという問いにも「遠すぎる」。最後はテナーの「あなたはカレシンの娘じゃないの」の言葉で同行を承諾。

 

船から降りて、丘陵地帯を馬に乗って向かう。

山が燃えているのが見えた。
山火事の現場に近づくテハヌー。竜に気付き、動きが変わる馬たち。
テハヌーが「メデウー!」と叫ぶと竜も気付いて「メーデーウー」と返す。オニキスの解説では兄弟の意味。
言葉を交わすテハヌーと竜。そして竜は飛び去って行った。
テハヌーの話では、竜たちは山中で待つという。彼女は竜に「兄さん」と声をかけた。「妹よ」との返事。
交わされた会話。
カレシンはアイリアンと共に西の果てに行った。だが若い竜たちは、人間どもが誓いを破って竜の土地を盗んだ、と言っている。
最近になってアイリアンだけが戻って来たので、テハヌーはアイリアンがこちらに来られるよう頼んだ。


第三章 竜会議
テハヌーを送り出した朝、激しく後悔するテナー。朝食を摂りながら、年配の召使いベリーがそんなテナーを慰める。
テハヌーの事ばかり考えるのを何とかしようと、テナーはカルガドから来た王女に会う事にした。
名前も明かさず、顔をベールで覆い、誰ともコミュニケーションを取っていなかった。
付き添いを一人つけただけで、川館に向かったテナー。

 

門を入ると女官たちの応対が続き、それを抜けてようやく王女の居室に着いた。

奥で悲鳴が聞こえ、王女が飛び出して来てテナーに抱き付いた。「アルハ様、助けてください!」
竜が出た事と、生け贄を捧げる話があり、その生け贄が王女だという噂を聞いていた。 
そんな話はない、と落ち着かせるテナー。王女は帽子もベールも被っていなかった。
テナーは信頼の証しとして名前を聞いた。ややあってから「セセラク」と言い、テナーも「私はアルハではなくテナー」と答えた。

王女の母国語の、カルガド語で話を始めるテナー。まず竜の話の誤解を解いた。
お互いの国での様々な食い違い。竜もカルガドでは小さいものだった。
セセラクは、結婚によって名前が奪われ、魂を盗まれると信じていた。風習の違いにもまいっていた。
しばらく聞いてからテナーは、あなたがするべきは、あの方にあなたを好きになってもらう事、と諭す。
まずは言葉を覚えること。その訓練を始めるテナー。テナーの話の端々に夫の事が出て、目を輝かせるセセラク。

 

王が竜退治に出掛けると、ハンノキにはやることがなかった。そんな状態のまま三日が過ぎて、ハンノキはテナーに声を掛けられた。とても辛そうに見えるハンノキ。
王に同行したテハヌーについて質問するハンノキ。焚火から救い出し、娘として育てた事、竜のカレシンを呼んで自分たちを助けてくれた事などを話したテナー。

本当のところテハヌーが誰なのか、まるで判らない。
つれあいの事を聞くテナーだが、ユリの事を思い出そうとすると、暗い荒野ばかり、と嘆くハンノキ。
「何かが起ころうとしているんだわ」

 

その時、王の帰還を告げる声が聞こえた。

港で住民に、状況の説明をするレバンネン。ゴントの女が竜との休戦を実現させ、いずれ話し合いのために竜が来る事を話した。
テナーに会い、テハヌーの事を感謝するレバンネン。テナーは王女と話した事を伝える。事態が読めない王。
ハートハーにも竜が居ること、カルガド人は死んでも、こちらの民が行く、あの石垣の所へは行かない事などを話す。
レバンネンを見送りながら、王はまだ王女に怯えている、と思うテナー。

 

この5年、レバンネンが行って来た行政が語られる。王は外交官としては優れていたが、政治家としての才能は特段ではなかった。
今回の問題を議会にかけるレバンネン。休戦の状況を聞き、セゲ王子が竜との交渉の得失を訊ねると、戦うよりは得るものが大きい、と返すレバンネン。
和睦に反対する者もあって、議会に険悪な空気が流れる。

昼食のための休憩が宣言される。
議会への出席も求められ、当惑気味のハンノキ。最近はテハヌーと居ると、安らぎを感じるようになっていた。

顔の傷も慣れれば何とも思わない。
テハヌーも気持ちが和らいで来て、ハンノキに話しかける事もあった。コケばばからもらった猫の事を聞いて話が弾んだ。

 

王がテハヌーを呼んだ。ハイタカの質問の答えがまだ話されていない。ここで話すという事を承知するテハヌー。
死んで向こうに行くのは人間だけだと思う、とテハヌー。
次いで竜が石垣を超えることが出来るか?ということ。けものがそこへ行かないという事なら、答えは出ている、とテハヌー。

 

竜だ!という声で皆窓の外を見る。宙をうつ長い翼。大理石のテラスに降り立つ竜。
竜にあいさつするレバンネン。相手もあいさつを返す。衛兵が剣を抜いたのをたしなめるレバンネン。
テハヌーが前に出て、竜と話を始める。

先方が変身しましょうかと提案。
体全体からモヤの様なものを出し、それが晴れた時、そこに一人の女が立っていた。黒髪でがっしりした長身。

農婦の着るようなシャツにズボンの姿。
「アイリアン殿」とレバンネンがあいさつ。魔法使いの姿を認めて、守りの長、薬草の長などの消息を聞いたアイリアン。腕輪を持ち帰ったテナーの事も知っていた。

アイリアンを伴って議場に入るレバンネン。

紹介され、話を始めるアイリアン。
オーム・エンバーが、魔法使いのクモを破滅させた代わりに死んだ時、カレシンが現れて王様と大魔法使いをロークへ運んだ。

 

カレシンのことば。
西方の竜たちはクモから言葉を奪われ、一時期気も触れていた。正気には戻ったが、東から近いところにいる限り、善からも悪からも自由では居られない。
その昔、我々は自由を選び、人間はくびきを選んだ。我々は火と風を選び、人間は水と大地を選んだ。我々は西を選び、人間は東を選んだ。
我々の中にある人の富への羨望、人間の中にある竜の持つ自由への羨望。この羨望につけこんで邪なるものが入り込んだ。
私はもう一つの風に乗り、西の果てに飛んで行く。一緒に来る気があれば道案内する・・・・

竜の中にはそれに反対する者も居た。
カレシンは重ねる。
その昔、竜と人とは同じ種族だった。どちらの種族にも必ずひとり、ふたりは相手の種族に生まれて来る者が居る。その者は互いへの使者。だが均衡が崩れた今、今後は生まれて来ない。
我々は選択しなくてはならない。西のかなたに飛ぶか、残って善と悪のくびきに繋がれるか、けものへと落ちぶれるか。
その選択を最後にするのはテハヌー。その後はもう西へ行く道はなくなる。ただ、あの森だけは世界の中心に位置する。

多くの者はカレシンに従い西に行ったが、妬みと怒りに支配された者が、人の領地の西のはずれで領土を奪い返そうとしている。今問題を起こしている者たち。

先日テハヌーと話をしたのは、私の兄弟のアマウド。
アマウドはカレシンに同意しているものの、竜たちが支配されているくびきを問題にしている。皆さんが魔法の力で死を左右する事に恐怖している。

 

アイリアンからの話を聞いて礼を言うレバンネン。だが竜が恐れるものが判らない。
「不死の魔法です」とアイリアン。
レバンネンは、魔法に関わる事でもあり、オニキスに説明を求めた。
不死の魔法は使わないが、かつて魔法使いのクモだけが術を使って不死身になろうとした。
そこでハッとするオニキス。アイリアンの鋭い目。
私が倒した魔法使い、呼び出しの長トリオン。あの男が求めていたものは何だったのです? 沈黙するオニキス。

トリオンは死の世界から戻って来た。だが大賢人や王のように生きて戻ったのではなく、トリオンは死んだのに、ロークの術で石垣を超えて帰って来た。
それが世界の均衡を崩した。崩したバランスを戻せます?
議論が進み過ぎるのを危惧して王を見るオニキス。

テハヌーが立ち上がった。
カレシンの言った「世界の中心に位置する森」はロークの「まぼろしの森」ここに行く必要がある。

全ての物事の中心に」同意するアイリアン。
それを受けて、レバンネンは問題解決のため、ロークに行くことを宣言する。


第四章 イルカ号
雑多な案件を消化して、レバンネンは出航準備まで漕ぎ着けたが、テナーが、アースシーのバランスについて議論するのであれば、王女も連れて行くべきだと、出航二日前に言い出した。
未だに偏見を拭えないレバンネン。ただ、しばらく考えてから、その考えがテハヌー、アイリアン、オニキスも含んでの話ならば、王女にそうしても良いと伝えてください、と返事。
「それをすべきは王、あなたですよ」と突き放すテナー。

怒りがこみ上げるレバンネン。従僕に、王女をこちらへ来るように使いを出す様言うが、対応のしどろもどろに腹を立て、自ら馬を駆って川館へ走った。

王の来訪に女官たちはびっくりし、テナー様がおいでだと会話が楽なのですが、と言う。そこで初めて言葉の問題を思い出すレバンネン。
出直そうかと思った時に、女王が部屋に迎えるとの返事。そして初めて王女に会い、ローク行きの件を話す。
ベールを左右に開け、たどたどしい言葉でそれを承知する王女。
怒りは消え、自分が今、勇気そのものを目にした事に気付いた。

 

ハンノキはは、ローグ行きに加わることに運命を感じていた。
だが子猫を連れて行くわけには行かない。そうなると例の石垣に近づく恐怖がまた心配になる。その事をオニキスに相談すると、バルンから来ている、魔法使いのセペルが助けになるかも知れない、と助言。セペルはこの航海にも同行の予定。バルンはクモが使った「知恵の書」の出所で、魔法使いからは警戒されている。
セペルを訪ねると、境界に近づかないための魔法をかけるには代償が必要だという。それはもの直しの術。
迷いなくそれを承知するハンノキ。
術をかけるためにオーランの洞穴に向かう。そして行われた儀式。疲れ切って宮殿に戻るハンノキ。今夜は猫を遠ざけた。眠りに落ちるハンノキ。夢は見なかった。

 

イルカ号出発の朝。レバンネンを失ったと思ったテナーだったが、笑顔で迎えたレバンネン。
王女が到着し、回りの騒ぎが大きくなった。侍女を連れてタラップに乗り込む。誰も連れて行かない約束だったので失望したテナーだったが、王女は侍女たちに別れの抱擁をしてから戻らせ、一人で船に乗りこんだ。

出発したイルカ号。王女セセラクは船酔いの恐怖でうめいた。それをなだめるテナー。

 

ハンノキは、夢に悩まされなくなった代償として、もの直しの能力を全てなくした事に衝撃を受けていた。なくなって知るその価値。

トスラ司令官との話。海賊イーグルの奴隷船に捕まった時の事を話すレバンネン。アイリアンと気のおけない会話をしている事を冷やかすトスラ。そして王女の事も。

あんな包みをくれたら、私だったら開けますがね。
レバンネンが甲板に出ると、女性たちが居た。

アイリアンの屈託のない笑顔。
レバンネンが近づいた時、さっと立ち上がる王女。ベールを開いたその顔は、悲劇的なまでに美しい。

 

ロークに行くまでの間に、暴風雨に悩まされた。歓迎出来ない訪問者を拒むローク。かつてそういう事があったとハイタカから聞いていたテナー。
テナーと語らうレバンネン。テナーが再び、王女があなたにお話ししたい事があると告げた。

レバンネンと王女との話。竜とヴェダーナンの話。だがどうしても理解しきれない。ロークの様式の長はカルガド人なので、彼に通訳してもらおうと言うレバンネン。
晴れやかな笑みを見せてから帰る王女。それを見送るレバンネン。


第五章 再結集
船旅の最後の夜、それぞれが夢を見る。ハンノキは子猫の触感。セペルは石を持った女。オニキスはより糸でくくられ、レバンネンは裁判所。
女たちも夢を見ていた。セセラクは竜の道を歩き、アイリアンは稲妻に落とされ、テハヌーはトンネルを這い、テナーは玉座への階段を上る。
ローク島での七人の長たちもそれぞれ、一隻の船が海の向こうからやって来る夢を見ていた。
それぞれの長が目を覚ます。守りの長が「夜明けに王がやって来る」とほほ笑んだ。

 

船はロークの港の、最も長い埠頭に横づけされた。出迎える呼び出しの長ブランド。
あいさつの中にも各様の探り合い。

レバンネンの提案で町の散歩に向かう。
ゲドから何度か聞かされていた「まぼろしの森」。テナーは今、そこへ向けて町を進んでいた。歓迎する町の人たち。
森の入り口近くで様式の長アズバーを見つけたアイリアンは、再会を喜んだ。そしてテハヌーを妹と紹介した。

テハヌーは鉤爪の方の右手を差し出し、アズバーはそこへキスした。「あなた様の事を予言出来て、こんなに嬉しいことはない」。
レバンネンに挨拶した後、テナーとセセラクを見つけたアズバーは、カルガド語で話しかけた。セセラクの口からカルガド語がほとばしり出た。

 

様式の長の先導で森を歩く一行。テハヌーと歩くハンノキを見るテナー。テハヌーは、ハンノキと居る時が一番饒舌に見えた。
しばらく歩いた先に、小さな家が見えた。母屋は女たちの寝所、この小さな方は男たちの寝所となった。
午後も遅くなって、長たちがやって来た。
ひとわたりの紹介が終り、レバンネンが今回の問題について口火を切る。今回の原因は何か、事が起こった後、世界はどこに向かうのか。
呼び出しの長がその先を引き継いだ。
夢は不吉な前兆でもあるのは、よく承知されている。また今回、生と死の強固な境界に問題が起きており、この境界を越える者の存在が恐れられているのを、我々は確認している。
それに次いで、今回の事と竜とは関係ないと主張。
それを巡って座が混乱する。様式の長が静かに集中していた。
そして彼が顔を上げ「さあ、そろそろ出かけなくては・・・・闇の中へ」

 

皆の会話を聞いていたハンノキだが、次第にその声が聞こえなくなり、目の前が暗くなった。闇がひろがり、歩くうちに、いつもの石垣のところに来ていた。そこには大勢の人影がこちらを呼んでいる。
その時、様式の長がハンノキに注意を向けていた。

レバンネンは、船で聞いた王女の話を説明する。
かつて竜と人間は同じ種類で、同じ言葉を話していた。だが両者は違ったものを求め出した。そこで両者は別れて別々の道を歩むことになった。この協定が「ヴェル・ナダン」。
そして人は東へ、竜は西へと移動し、人は天地創造の言葉を失う代わりに、手の技と、ものの所有の権利を得、竜が太古の言葉と翼を得た。
それを名付けの長が引き継いだ。
一千年よりもっと前、最初の魔法使いが神聖文字を作った。天地創造の言葉を文字にした。それにより真の名が付けられるようになった。真の名を持つ者たちに不滅の命を与えた。それがバルンの「知恵の書」が夢としている世界。

 

アイリアンがそれに反発。
人間はものを作って手許に置いた。だがその所有の気苦労を望みながら、竜が手にした自由も欲しがった。私たちの世界の半分を盗み取って塀をめぐらし、そこで永遠に生きられるよう謀った。
アズバーが続ける。
太古の人は竜が時間を越える事が出来る自由がうらやましく、竜を追って西まで出掛け、その世界の一部を自分のものにした。だが人の体は竜のようには行かず、魂しかそこに留まれない。
だから人は石垣を築いた。生きていては人も竜も越えられない石垣。だがその事によって風が吹かなくなり、日の出もなく、死んだ人の赴く世界は暗い、乾ききったものとなった。
呼び出しの長が、クモとトリオン殿はその石垣を壊そうとしたのですな、と言うが、セペルが否定。
二人は、肉体はなくてもいいから永遠の命を願ったのだろう。
だがその行為が生と死の境界をかき乱した。死者の霊魂も生き返りたいと石垣に押し寄せている。

 

その言葉をハンノキが否定。
死者が求めているのは生命ではなく死。大地の一部になりたい。

皆がハンノキを見たが、彼の意識は半分あの石垣の国にあった。彼にはテハヌーだけが見えていた。
連中はこれを作ったのに壊せないでいます。力を貸してくださいますか?
いいわよ、ハラ。とテハヌーは言った。そのとたん、ハンノキは大きな影に腕を掴まれて、暗闇に取り込まれた。
レバンネンに、間違った事をしました、と謝罪する呼び出しの長。どうしてハンノキを呼び戻したのか訊ねるレバンネンに「そうする力があったから」。

 

眠るハンノキの横に座っているテハヌー。
セセラクの不安。死者が、潮が満ちるように石垣に迫っているのを感じる。
テナーがハンノキの具合をテハヌーに訊ねる。石垣のところまで行っていたハンノキを力づくで引き戻した。
「生き返らせたのね」「そう、生き返らせたの」
テハヌーの思い。
死んだら、自分を生かして来てくれた息を吐いて戻すことが出来るんじゃないかって思う。まだ生きている途中の生命に戻せるんじゃあないかな。それが息を与えてくれたこの世界への、せめてものお礼。
テナーの元を去らなければならない事を悲しむテハヌー。
そこに流れ星が横切るのを見て声を上げるテハヌー。

五人の長たちも、その流れ星を見ていた。今まで知らなかった竜との関係。また死へ向かう道に築かれた石垣の意味。カルガド人は、大地が何であるかと、永遠の命の意味を知っていた。
死者たちは一体何を求めているのか。
アズバーが、ハンノキ殿についていくというのを聞いて、風の長ガンブルが無理だと言った。
彼は死者たちに選ばれた、とアズバー。

ゴントの崖の上の家の戸口で星を見上げるゲド。
その後コケばばの家に向かった。コケばばは、このところ石垣のすぐそばにいた。その時が来たらヘザーはパニックになる。

 

夜遅く子供の泣く声が聞こえる。何かが起こる直前の小休止。

目を覚ましたハンノキ。丘の上でテハヌーが待っていた。
「ハラ、私たちは何をしたらいいの?」「この世界をなおすんだよ。石垣をこわすんだ」
テハヌーとの共同作業で一つの石に手をかける。何度も繰り返して少しづつ石は動き、とうとう向こう側へ落ちて行った。
その時地面が震え、死者の群れが石垣に押し寄せて来た。

様式の長が立ち上がる。森の木々が震えた。「とうとう来た」そして木立の暗闇に入って行った。後に続く長たちとセペル、オニキス。
レバンネンは、後に続きかけたが、女たちの家に向かい、アイリアンを呼び出した「私も連れて行ってくれないか」
レンバネンの無事を祈るセセラク。テナーはハンノキが寝ているところに行き、自分の手を彼の手に重ねた。

ハンノキが石に手こずっていると、呼び出しの長が助っ人に来た。大きな石が落ちて行く。
他の者たちも次々合流して石垣を壊していた。
オーム・アイリアンが、巨大な竜の姿に戻って石に爪を立てていた。
ハンノキが上を見上げると、空を星が動き、その先に火花が散るのが見えた。
「カレシンだ!」テハヌーが叫んだ。
両手を高く上げたテハヌーの体を炎が走り、最後に大きな翼となって燃え上がると、彼女の体が宙に浮き、空中に美しく光り輝いた。
死者の群れから、宙に舞い竜になる者が数人いたが、大部分は歩いて前に向かい、石垣の破れ目に吸い込まれて行った。
その人の群れを見るハンノキ。ついにその中にユリの姿を見つけた。
ユリはハンノキを見つけて手をさしのべた。彼はその手を取り、連れ立って石垣を超え、光の中に消えて行った。

 

レバンネンは、崩れた石垣のかたわらで、夜明けの空を見つめていた。石垣の残りは崩れてがれきの山となり「苦しみの山」には火の手があがった。
近づく三匹の竜。カレシンとアイリアン、そしてテハヌー。二匹は去って行き、カレシンが降り立った。
長たちと少しの言葉を交わし、カレシンも去って行った。
私たちには、まだしなければならない事があります、と皆を促すセペル。

ハンノキに手を重ねているテナー。「この人は行ってしまった」と呟く。
様式の長が、ハンノキの顔をなでた。そして最後にみたテハヌーの事を話した。静かに泣き続けるテナー

家に戻った長たち。レンバネンのそばで庇うようにかがみこんでいるセセラク。
魔法使いを信用していないセセラクは、王を死なせてしまったと逆上。
アズバーは、レンバネンの胸に手をあてた。大丈夫、温めてやってくだされ。

 

イルカ号に乗ってテナーがゴント港に帰って来た。
ゲドは、キャベツに水やりをしていた。テナーを認めると「やあ」「ただいま」テナーは駆けだしていた。
何から話していいか途方に暮れるテナーにゲドが「順序を逆に辿ったら?」
婚約承認の話。でも結婚式はもう済んでいる。
レバンネンとセセラクの前で、あの腕環の儀式に立ち会ったテナー。ぴったりと嵌った腕環。
黄泉の国へは、ハンノキが先に行ったと聞いて驚くゲド。
そして去って行ったテハヌーの事。
「私たちは世界を全きものにしようとして、こわしてしまったんだ」とゲド。