写経屋の覚書-はやて「今、作者は帰省中やから、今回は日時指定の自動更新なんやでー。次回の更新までには帰ってくるはずやけどね」

写経屋の覚書-フェイト「前回で梁起鐸の無罪判決は出たけど、横領の真犯人ベセルのほうはどうするかって話だよね」

写経屋の覚書-なのは「日本に滞在中の伊藤も当然そのことを気にして、10月6日に来電第48号「梁起鐸の赦免後行動及び統監府側のベセルに関する方針照会の件」(『統監府文書5』p284収録)を発して曾禰に訊いたの」

明治四十一年十月六日午後〇時 発
伊藤 統監
     曾禰 副統監
 放免後の梁起鐸の行動幷に今後統監府側より「ベセル」に対する方針等に就き御意見御申越相成たし

写経屋の覚書-なのは「で、曾禰は往電第127号「梁起鐸及びベセルの赦免後統監府方針に対する回答の件」(『統監府文書5』p284収録)で以下のように言ったの」

明治四十一年十月七日午後四時〇三分 京城発
   午後九時一〇分 静岡着
曾禰 副統監     
     伊藤 統監
 貴電第四十八号に関し梁起鐸は放免後康済病院(エビソン主管)に入り休養したる上去る五日大韓毎日申報社に移り祝宴を張りたる趣なるか同人は依然該社の総務として新聞事業を継続すへしと語れりと云ふ同人の公判に依り国債報償金の取扱方判明し一般世人は「ベセル」か誠実を以て公金の保管に任せさりし事情を審にしたるにより本件調査の目的は充分に達せられたるものと認む且つ又公明なる裁判により従来の例に反し斯る嫌疑者に対し断然無罪放免の宣告を与へたるの事実は内外人をして我か態度の公正なることを信任せしめたるか如し又「ベセル」に対しては韓人より寄托金取戻の如き民事訴訟を提起するものにあれは兎に角此方より刑事被告人として起訴の手続をなさゝる考なり
(北京エンド天津タイムス)新聞「ベセル」は清国に於ける勢力ある一新聞(ノースチヤイナ,デーリー,ニースを指す)か同人の名誉を毀損する記事を掲けたるに付之に対し誹毀(ライベル)の訴を起す由を記載せり而して目下「ベセル」は神戸に滞在中なるか同地及ひ大阪等の新聞には不日上海に赴くへき旨を報するに依り神戸にて「クロツス」と協議の上起訴の為め清国に赴くことゝ推察せらるれとも同人此後の行動は未た詳ならす

写経屋の覚書-フェイト「韓国人が報償金返還のような民事訴訟を起こすならともかく、統監府側から刑事訴訟を起こすことはしないんだね」

写経屋の覚書-なのは「伊藤と曾根が何回も言っているように、元々、国債報償金費消の真相を追究解明するのが目的だったわけだし、裁判だって望んで強いたものじゃないんだよね」

写経屋の覚書-はやて「丸山が先走って梁起鐸を『逮捕』して裁判所に送致してもおたから、裁判の場で真相を追究するはめになったんやもんね。真相を解明した結果、ベセルの横領行為が世間に露見して声望を失ってもおたわけやけど、最初からそれを狙ってやったわけやない」

写経屋の覚書-フェイト「そうだよね。もし梁起鐸が本当に横領の犯人だったとしても、それはそれで真相を解明したことになるわけだし、何よりも、報償金を横領された被害者は、総合所の韓国人、国債報償に使われることを望んで募金した韓国人たちだし、調査を請願したのも韓国人だしね」

写経屋の覚書-なのは「そういうこと。統監府はベセルを迫害して国債報償運動を弾圧しようとしたんじゃなくて、本当に国債報償金に絡んでベセルが犯罪行為を働いていて、それを解明しただけのことなんだよ」

写経屋の覚書-はやて「ベセルに騙されとった韓国人の目を覚まさせた、なんて言うつもりはあらへんけど、国債報償運動の推移とこの費消事件については、ちゃんと史料読んで時系列を整理して考えなあかんよね」

写経屋の覚書-なのは「その横領についてなんだけど、ちょっと気になることがあってね。fmdollさんが李東暉(6)のコメント欄でも触れている『FO262/1009, Cockburn"Memo Conversation with Bethell"1 Sept 1908.』って史料なんだけどね」

写経屋の覚書-フェイト「あ、鄭晋錫が『大韓帝国の新聞を巡る日英紛争』(李相哲訳 晃洋書房 2008)で、コバーンが「統監府の主張する嫌疑はでたらめであるというベセルの言葉には信憑性があると判断した」根拠として引用しているものだよね。でもこれの内容もロンドンのPublic Record Office, Londonに行かないと確認できないよ」

写経屋の覚書-なのは「うん。だから、これから考える話は推測にならざるを得ないんだよね。とりあえず鄭p264の記述を紹介するね」

 コーバンは九月一日、ベセルに会い、基金に関する説明を聞いた後、統監府の主張する嫌疑事実はでたらめであるというベセルの言葉には信憑性があると判断した。ベセルは、すでに二度も監査を受けたものとして義捐金の受け取り総額と基金の運営状況を以下の通りコーバンに知らせた。
  収入金内訳
   申報社受付総額  六万一五〇〇円
   国債報償志願金総合所に交付   三万二〇〇〇円
   マルテンに貸付  二万二五〇〇円
   現金残高  七〇〇〇円
   国債報償志願金総合所  四万二五〇〇円
   総合所から直接受け取った金額  一万五〇〇円
   申報から交付された金額  三万二〇〇〇円
  収入金運営内訳
   匯豊銀行預置  三万円
   預置金の中遂安金鉱床株買入金額  二万五〇〇〇円
   マルテンへの貸付  五〇〇〇円
   現金残高  一万二五〇〇円

写経屋の覚書-はやて「ほんまにこれを見てコバーンは報償金費消はウソやて思たん?報償金流用して株買うたりマルタンに貸しとるん丸わかりやのに費消はウソや思たん?ありえへんで」

写経屋の覚書-フェイト「そうだよね。これを見て費消嫌疑がでたらめって判断できるなんておかしいよ」

写経屋の覚書-なのは「だよねぇ…作者がコメント欄で言ったように、これには2つの可能性があるの。まず最初の選択肢」

1.ベセルは株購入・マルタン貸付について真実を説明したか否か。
 a.自分個人の独断専行という真実を説明した。
 b.他の役員も同意した行動などと虚偽を説明した。

写経屋の覚書-フェイト「aだと、ベセルは自分の行動が横領にあたることを言った、あるいはコバーンは横領だと気づくことになるね」

写経屋の覚書-はやて「bやったら、横領やなくて役員一同の承諾による資金運用行為やいうことでコバーンはベセルに騙されたことになるんやね」

写経屋の覚書-なのは「そして次の選択肢。この2つの組み合わせ、つまりaa・ab・ba・bbの4通りが考えられるね」

2.コバーンはベセルの説明を本当に信じたのか否か。
 a.本当に信じ込んだ。
 b.信じない若しくは信じ切れないが、信じようとした。或いは信じたかったので真実として扱った。

写経屋の覚書-フェイト「aaだと、ベセルは自分個人が勝手に株を購入したりマルタンに貸し付けたりしたという真実を説明し、コバーンはそれを信じたけど、嫌疑はでたらめと判断したっていう話になっちゃうね。これだとコバーンは横領と知りながら嫌疑を否定することになるから、横領の隠蔽を図ったということで共犯者になるよね」

写経屋の覚書-なのは「あるいはそれらの行為が横領ではないと判断したって可能性もあるけど、イギリスや韓国では募金を目的外のことに流用して利殖を図る行為が横領に当たらないって常識慣例があるならともかく、ちょっとありえないよね」

写経屋の覚書-はやて「abやったら、ベセルの自分が横領したいう説明を、コバーンは信じられへんもんやと思たけどあえて信じようとして、嫌疑はウソやと判断した。これやと支離滅裂な話になるからありえへんな」

写経屋の覚書-フェイト「baだと、ベセルは虚偽を説明して、コバーンはそれを信じ込んで嫌疑はでたらめだと判断したことになるから、コバーンはベセルに騙されたことになるね」

写経屋の覚書-はやて「bbやったら、ベセルは虚偽を説明して、コバーンはそれを信じへんかったか怪しぃ思たけどあえて信じたって嫌疑はウソやと判断したことになるから、騙されたんやなくてあえてウソに乗ったったいうことで、これもやっぱり横領の隠蔽になるで」

写経屋の覚書-フェイト「ってことは、aa・bbだと曾禰が往電第539号で疑っていた、コバーンはベセル・梁の横領に関係しているんじゃないかっていう疑惑が現実のものになりかねないね」

写経屋の覚書-なのは「まぁそこまで行かなくても、自国人と自国人が雇用している韓国人を保護するためにあえて嫌疑はでたらめだと判断したってことはありそうなんだけどね」

写経屋の覚書-フェイト「ベセルへの事情聴取や梁起鐸の引き渡しを拒絶し続けた以上、嫌疑はでたらめっていう主張で押し通すしかなくなったのかもしれないね」

写経屋の覚書-はやて「不自然なまでに強硬姿勢を取りつづけたわけやからねぇ…コバーンがウソつかへんで誠実な外交官やったという名誉のためやったら、baの解釈がいっちゃんええんやけど、それやったら真相をよう見抜かんとベセルに騙されその擁護をしたアホやいうことになってまうしなぁ」

写経屋の覚書-なのは「だよねぇ。この事件が進行中に報償金費消疑惑を調査・追及するための行動を取り始めた韓国人団体もあったの。たとえば有名な一進会も動いている様子が憲機第522号「一進会評議員会決議案報告」(『統監府文書5』p259収録)で分かるの」

 八月二十八日金曜日一進会本部に於ては例会なる評議員会を開会したるか其決議したる要領は左の二件なりしと

一. 刻下の一問題たる国債報償金整理に付ては世上一般に注意を惹きつゝあれは同会に於ても啻に傍観する能はす会の意見を提出し飽迄も干渉し人民に疑惑の念を懐かしめさる様なさんと而して其要は此際該金全部を緻密に調査を遂け「ベツセル」一派より現に保管中のもの幷に支出不明のものをも全部回收したる上該金を政府へ献金するか将た統監府へ預け置き他日の用に為さんとの意見に決定此決議を国債報償会へ提出して各団体の意見を徴し同意の上委員を設け調査すること

二. 咸鏡北道観察使尹甲炳は今回郡守任命に付多額の金員を収賄したるとの噂あるを以て同会は之を調査し若し事実なれは断然同会を除名し公平なる処置に出てしむる事

以上
               明治四十一年八月二十九日

写経屋の覚書-フェイト「元々一進会は国債報償運動に対してどんな姿勢を取っていたの?親日団体なんて言われてるからやっぱり批判的だったのかな?」

写経屋の覚書-なのは「批判的だったのは確かだけど、田口容三『李朝末期の国債報償運動について』(所収「朝鮮学報」第128輯 朝鮮学会 1988)によると、朝鮮の現状は借款の有無じゃなくて政治の腐敗によるものだし、朝鮮の通貨量は1300万円、つまり本当に借款を償還したら朝鮮に貨幣はなくなってしまう。つまりまた借りなくちゃいけなくなるから意味がないっていうわりと現実的な理由を挙げてたみたいなの」

写経屋の覚書-はやて「貨幣量が借款額より多かったとしても、急激に貨幣の大部分が消えるわけやから、経済混乱は避けられへんやんなぁ。改革どころの話やないで」

写経屋の覚書-なのは「そうだよねぇ。次に大韓協会の動きについて警秘第3416号の1「大韓協会員秘密会の件 (報告書)」(『統監府文書p263収録)を見るよ」

 出席者金嘉鎮 尹孝定 大垣丈夫 呉世昌 権東鎮 沈宜性 李鍾一 李宇栄 呉炳鉉
大韓協会の幹部員は一昨二十九日午後八時より十二時に亘り総務尹孝定内房に於て秘密会を開けり出席者及会議の要領左に
一. 会議の要領

(一)拓殖会社に対する大韓協会の体度を決定するの件
拓殖会社設立に対しては本会は賛成を表し会員は勿論国民に向つて株金募集に応せんことを勧誘し其他諸般の便宜を与へ挙国一致同会社をして円満に進捗せしめんことを謀るの宣言書を発表すること
但本宣言書発表前に政府に委員を派送し国民の疑念を抱き易き箇条に就き故らに質問をなし其顛末を新聞紙上に掲け一般人民をして了解せしめたる後に於て本宣言書を発表することゝせり
会員中多少反対者あり或は又此際他に先んして大賛成を表し協会中より株金募集に応すへしと唱道するものありしも帰する処前項の如し

(二)国債報償金の善後処分に関する件
国債報償金は全国に渉り精査を遂け之を一括して政府に献納し国債報償の一部に加へんことを請願すへし然るときは政府は必す之を受納せさるへし政府か受納せさる時は該金を以て国立銀行を設置し殖産興業の発達を図ることゝし若し本件を政府に採用せは将来政府に於ても輿論を尊重し重要の件は輿論に耳を傾くるに至るへし宜しく国債報償金調査会成立の後は大韓協会は此趣旨を以て努力すること
等の数項を決議したり

右及報告候也
隆煕二年八月三十一日    
警務総監 若林 賚蔵
     統監 公爵 伊藤 博文 殿

写経屋の覚書-フェイト「全国的に報償金の精査をして、その後は政府に献納して国債報償の一部に加えてもらうよう請願するの?え?でも政府はそれを受け入れないだろうって読んでるの?」

写経屋の覚書-はやて「政府が受け入れへんときはそのお金で国立銀行を設置するつもりなんやな。もし受け入れたんやったら、将来的に政府が重要案件ついて世論に耳を傾けるようになるきっかけになるやろ、って受け入れへんこと前提で話をしとるんやな」

写経屋の覚書-なのは「つまり、自分たちの政治影響力と地位を向上させるための政略がらみのネタにしたいわけなんだよ。こういうところがあるから作者は大垣丈夫やその手の人物が嫌いなの。っていうか、獄長日記の大韓自強会で触れられているんだけど、大垣はこの1年前にも報償金を元に銀行を設立しようと考えてたんだよね」

この文書だけ見ると、何か日本の特殊工作員のようにも見えるね。(笑)
誤解されるとまずいので、ここで伊藤統監から鶴原総務長官への1907年(明治40年)9月13日発『来電第38号』を見ておこう。


曩に帰朝したる大垣丈夫は、国債報償会の募集金25万円を以て、統監府の承認の下に一の銀行を設立せんことを企図し、大岡育造を経て本官に面会したしと申出でたるに依り、本官は其の計画を是認する能はざるを説示し、面会を拒絶せり。
警視庁の報告に依れば、大垣は昨12日午後、当地出発。
再び渡韓せるが、出発前同人は、其の希望を本官の峻拒したるを憤慨し、自強会を煽動して排日運動に着手すべしと唱へ居たる由。
同人の挙動に付、注意あるべし。


大岡育造は、後の衆議院議長であり立憲政友会の大岡育造だろう。
どういうツテを持っているのだろう?

しかし、国債報償会の募金25万で銀行設立を企画し、断られて逆ギレ。
ま、所詮大陸壮士ですな。
今のアジア的優しさに溢れた人や、アジア連合大好きな人達に近いように感じたり。(笑)

さて、巷間の記述によれば、大韓自強会は高宗の退位に関して激しい反対運動をなし、保安法の適用を受けて1907年(明治40年)8月19日に強制的に解散させられたとされている。
そして、大韓協会の設立は1907年(明治40年)11月17日とされているのだが、これだと話が合いませんな。
しかも、25万って大韓毎日申報の集めた募金総額17万より多い・・・。
大韓自強会の解散及び大韓協会の設立、国債報償金に関する件は、未だハッキリした史料が見つかっていないので、判断は保留しておこう。
というか、強制的に解散させられたという話だけで、何に基づいているのか見つからないって何よ?(笑)

写経屋の覚書-フェイト「25万円も集まってたんだ!?」

写経屋の覚書-はやて「驚くポイントがそこかいなw つか、ほんまにそんだけ集まっとったか疑問やねんけどね。そやけど妙なとこで獄長日記につながるとなんかうれしいなぁ」

写経屋の覚書-なのは「実は警秘第3416号の1も韓国地方政況ノ概要(四)で取り上げられているんだよね。そうそう、大韓協会の動きについて国債報償金費消事件(9)で見た警秘第291号「総合所評議員会の状況」(『統監府文書4』p385収録)をもう一回見るよ」

右及報告候也

一. 国債報償金総合所は既報の如くにして金曜日午後二時商業会議所に評議員会を開く会するもの臨時評議員長韓錫鎮以下十三名会員は「ベセル」を会場に招致せしに「マーンハム」同道来場せり
評議員長は先つ「ベセル」に向ひ総合所より預りたる義捐金の措置を問ふ「ベセル」答へて曰く「コールブラン」の金礦株券の買入及「アスター,ハウスホテル」に預入其他電気会社の銀行に貯置せり其証拠は現に携帯する書類にて明暸なり必竟するに其金礦株券を買入たるは利殖を図らんか為めにして今より三ヶ月の後機械完備礦業着手の曉には多大の利益を受くるものなれは国民か其利益に依り斯の僅少の基金を以て他日夫の巨額の負債を償還するを得は洵に本懐ならすや云々
評議員長は忿然容を改めて曰く国民か此報償金を捐する何ん利殖の為めならんや即時現金を調へ返納すへしと強硬なる談判を試みしに「ベセル」は恬然として曰く朴容圭,梁起鐸の如き役員已に辞し去れり更に信用ある役員を置き其連署したる請求書を携帯し且つ其措置に付て一ヶ月新聞紙に広告の後受取に来らは交付せんと放言せり如此にして問答再三遂に要領を得さる儘午後六時閉会せり

一. 評議員中金麟外六名は「ベセル」の一味にして此評議員会を利用し報償金費消問題を揉潰さんとの魂胆ありとは既報の如し然るに本日に於ける会場の光景全く之に反せしは大韓協会の尹孝定及一進会総代六名は昨日来金允五其他「ベセル」派の評議員を訪ひ報償金費消者を庇護する言動あるを詰り忠告を与へたるか為めなりしと形勢如此なるを以て英国領事舘へ現金保管等の議は成立せさるへしと認む尚此後の成行観察中

               隆熙二年八月二十八日
警視総監 丸山 重俊
     副統監 子爵 曾禰 荒助 殿

写経屋の覚書-フェイト「この時点で大韓協会の尹孝定も介入してきてたんだね。金允五たちに接触してベセル擁護の動きを潰した翌日に警秘第3416号の1の会議を開いてたんだ」

写経屋の覚書-なのは「いろんな団体が動き始めてちょっとおもしろくなってきたけど、今回はここまでにするね。次回も引き続き報償金調査の動きを見ていくよ」

国債報償金費消事件(1)   国債報償金費消事件(2)   国債報償金費消事件(3)
国債報償金費消事件(4)   国債報償金費消事件(5)   国債報償金費消事件(6)
国債報償金費消事件(7)   国債報償金費消事件(8)   国債報償金費消事件(9)
国債報償金費消事件(10)  国債報償金費消事件(11)
写経屋の覚書-なのは「さ、やっと梁起鐸の裁判の話なんだけど、まず入院した梁の健康診断が行なわれたの。その結果が往電第66号「梁起鐸の診断書送付の件」(『統監府文書5』p247収録)にあるの」

明治四十一年八月二十五日午後二時一五分 京城発
   午後七時二〇分 箱根着
曾禰 副統監     
     伊藤 統監
梁起鐸 三十八年    
 大韓医院長佐藤博士の梁起鐸に関する診断書左の如し

既往症 天資健康四五歳の頃天然痘を経過し十二三年前より全身少しく瘰脊し時々不眠症を来すの外著しき病なし

現 症 全身の営養宜しき方に非すと雖診察上心臓・肺臓・腎臓・腸其他に疾患と認むへき症なく又尿及糞便を検査するも平常に異りたる所なく四肢の力及運動に障害なし

自覚症 軽度の頭痛・頭重及食慾少しく減退するを覚ゆるのみ

診 断 軽症慢性胃加答児


写経屋の覚書-フェイト「重病じゃなさそうだよね。少なくとも裁判はできそうな容態だと思うよ」

写経屋の覚書-なのは「そういうわけで、梁は監獄に移送されて、裁判は8月31日に開廷したの。結局全部で5回行われたんだけど、その様子を統発第5813号「梁起鐸事件裁判過程状況報告の件」(『統監府文書5』p278収録)の別紙、刑報第1746号「梁起鐸事件公判経過状況の件」の付属書から見ていくね。まず8月31日の第1回公判」

○〔附属書〕日記第296号
    報告書
梁起鐸 
右詐欺取財被告事件曩に京城地方裁判所に公訴提起の処審問終結に付其経過の要領左に報告致候

一.裁判長判事横田定雄・判事深澤新一郎・判事柳東作・立会検事伊藤徳順・弁護人李容相・玉東奎・英人「マーナム」(大韓毎日申報社々長)

一.第一回開廷                       明治四十一年八月三十一日

一.検事公訴趣旨の陳述
被告梁起鐸は大韓毎日申報社に在り同社々長英人「ベツセル」と協議し国債報償志願金の名義の下に金円を募集し兼ねて別に「ベツセル」其他の者と協議して設立したる同志願金総合所の役員として其会計の事を担任せり
毎日申報社に於て本年四月三十日迄に募集したる総金額は少くも十三万二千九百八十二円三十二銭と認む其憑拠左の如し
 一金二万七千五百円(仏人マーテン代与額)
 一金二万五千円(遂安金鉱株買入代金)
 一金三万円(仁川香上銀行預金高)
 一金六万千四十二円三十三銭(電気会社銀行預金高)
合計金十四万三千五百四十二円三十三銭報償金受入総額(申報社及総合処分)
内金一万五百六十円一銭
 総合所受入金中毎日申報社に関係なき分
差引残金十三万二千八百八十二円三十二銭
 毎日申報社受入総額
然るに被告は申報社に於て僅かに金六万千四十二円三十三銭二厘を受入せしものゝ如く毎日申報紙上に報告して一般義捐者を欺き其差額七万千九百三十九円九十八銭八厘を横領したり


写経屋の覚書-はやて「あくまでも梁起鐸の裁判やから、被告梁起鐸に対しての罪状陳述やねんな」

写経屋の覚書-なのは「警秘第292号「梁起鐸被告事件の公判(報告書)」(『統監府文書5』p264収録)のほうを見ると起訴罪状がわかるんだよ」

 国債報償金費消事件の被告人梁起鐸の公判は本日午前九時開廷せり
中川検事長は被告事件に対し公訴提起の理由を左の如く論告せり

一、被告梁起鐸は大韓毎日申報社総務として同社一切の事務を担任せる縁故に依り社長英人「ベセル」の同意を得て韓国々債を報償せんと称し同社を金員受取所として義捐金を募集し京郷より送り来れる義金を収入し且別に義捐金総合所の名を以て他の団体に於て収入したる義捐金をも被告等の一手に総合し自ら会計の枢機を握り他人の募集せる金員を受領せし額一万五百六十円一錢に達せり而して被告等か受領したる金員の総数を調査するに仏人「マルタン」に貸与したる金員二万七千五百円、金礦会社株券買入代金二万五千円、在仁川外国銀行へ預入れ後ち引出し使用先不明なる金員参万円あり又別に自己の新聞紙申報に電気会社内銀行への貯金として広告したるもの六万一千四拾弐円三十三銭あり之を総合すれは少くも十四万三千五百四十二円三十三銭なり毎日申報社に関係なくして総合所に収入したる前記一万五百六拾円一銭を其総金額中に属するものとして之を控除するも直接実収したる金員は少くも十三万二千九百八十二円三十三銭なるにも拘はらす被告は其総金額僅に六万一千四拾二円三十三銭なりとの虚偽の広告を申報紙上に掲け一般人を欺き而して差額七万千九百三十九円九十九銭を横領したり故に被告は刑法大全第六百条に該当し同第五百九十五条に拠り処科すへきものと思料す云々

  以上論告を了りしに被告の弁護士 (韓人) は書類調査の必要上公判の延期を申請し裁判長は二日間の延期を許せり
  本日傍聴として来廷したるもの「ベセル」「マーンハム」及英国領事館員「ホルムス」氏外に韓人約三十名あり
  右及報告候也
隆煕二年八月三十一日    
警務総監 若林 賚蔵
     統監 公爵 伊藤 博文 殿

写経屋の覚書-フェイト「刑法大全の第600条と第595条?」

写経屋の覚書-なのは国立国会図書館近代デジタルライブラリーの1910年(明治43年)の1910年(明治43年)の『日本警察法規大全』[第2冊]増補第2版 下(宮原久吉編)に、刑法大全、正式には1905年(明治38年・光武9年)2月29日『法律第2号 刑法』があるんだけど、その750コマ751コマを見るよ」

  第五節 竊盗律
(中略)
第五百九十五条 踰墻穿穴或は潜形隠面又は人の不見に因りて財物を竊取したる者は首従を分かたす其所盗の贓を並計して左表に依り処するも未得財の者は懲役三箇月に処す

 二円未満懲役六箇月  二円以上十円未満七箇月
 十円以上二十円未満八箇月  二十円以上四十円未満九箇月
 四十円以上六十円未満十箇月  六十円以上八十円未満一年 
 八十円以上百円未満一年半  百円以上百二十円未満二年 
 百二十円以上百四十円未満二年半  百四十円以上百六十円未満三年 
 百六十円以上百八十円未満五年   百八十円以上二百円未満七年 
 二百円以上二百二十円未満十年   二百二十円以上二百四十円未満十五年
 二百四十円以上終身 

  第六節 准竊盗律
(中略)
第六百条 官私を詐欺して財を取るか他人の財を拐帯したる者は計贓して第五百九十五条竊盗律に准す

写経屋の覚書-なのは「原文は獄長日記の笞刑に関する整理(二)に載ってるから、興味のある人は確認してね。第595条は下から6段目左、第600条は下から5段目右にあるよ」

写経屋の覚書-はやて「計贓って何なん?」

写経屋の覚書-なのは「詐取した物の価値を金額に換算することだよ。この場合は金銭そのものを詐取したというわけだから換算の必要はないけどね」

写経屋の覚書-フェイト「えっと、71,939円99銭の横領容疑だから…終身刑!?」

写経屋の覚書-なのは「第1回公判は、被告の弁護人が書類閲読上の必要があるということで延期を請求したの。裁判長がそれを許可して、次の公判を9月3日に開廷することにして、この日は閉廷になったの。じゃ、第2回公判について見るよ」

一.第二回開廷                             同年九月三日

一.被告の弁解
毎日申報社に於ては被告は「ベツセル」の指揮を受け事務に従事の報償金受入の事は一に「ベツセル」の指揮に待つ総合所の役員としては被告は名義のみ実務に与らす「マルテン」に金円貸与の事金鉱株買入の事は共に全く無関係なり仁川の銀行預金は尚現存すへき筈にして電気会社内現実の預金額は知らす新聞の広告は一に「ベツセル」の指揮に因る


写経屋の覚書-フェイト「梁は、申報社の報償金処理についてはベセルの指示を受け、総合所の方は名義だけの役員で実務はベセルが仕切っていたので、株購入や貸付のことは知らないって言ったんだね」

写経屋の覚書-なのは「この日はマーナムが希望して弁護人に立っていたんだよ。結局、検事がベセル・コールブラン・ホームリンガー・マルタンを証人として召喚することを請求して、裁判長が認めたから、証人召喚の手続をしたうえで次回の公判を行なうことにして閉廷になったの」

写経屋の覚書-はやて「っちゅうことはいよいよベセルの出番やなw」

写経屋の覚書-なのは「うん。結果的にはベセルとマルタンだけ出廷したんだけど、9月15日、第3回公判が行われたの」

一.第三回開廷                              同月十五日

一.「ベツセル」証言
国債報償金の受入は毎日申報社の発意にあらす自分(ベツセル)を信用して送金し来る者絶へさるより国債報償の事実行し得へきや否やに付ては何等の考案も有せさりしか終に其受入を為すへき旨と受入金は世界に信用ある銀行又は会社に預入れ置くへき旨とを昨年三月末新聞紙に広告を為し爾来引続き受入を為し本年四月三十日迄の受入額は六万千余円なり受入金に付ては梁起鐸は現金を受取り其都度自分に交付するのみに止り其他一切の事に与らす受入金の預入貸付等の事に付ては全く同人の関知せさる所なり六万千余円の内三万二千三百円は総合所に交付せり仏人「マルテン」に貸与したる金二万七千五百円は昨年九月以来数回に貸与したるを後一纏めとなし毎月五百円宛月賦の事に改めたるものなり仁川の銀行に預入の金三万円は本年二月七日総合所の役員より「ベセル」「コールブラン」銀行即電気会社内銀行に宛てたる金三万円の小切手を受取りたるゆへ該金額の預入せしものにして其預入は自分名義にして自分は自由に処分し得へきか故に(総合所の規約には金円は必す銀行に預入すへき旨の記載あり)内金二万五千円は預入の即日引出して金鉱株買入代金として「コールブラン」に交付し残金五千円は四月中数回に引出して仏人「マルテン」に貸与したり(三月迄に借受けたりとの「マルテン」の証言と符合せす)「マルテン」に貸与したり金二万七千五百円は右五千円と総合所に交付せすして毎日申報社に保留したる報償金の内二万二千五百円とより成るか故に現に「コールブラン」銀行に存在する申報社の報償金預金高は六千余円に過きす然るに受入報償金総額六万千余円は全部銀行に預入れあるものゝ如く事実に反する広告を為し来り「マルテン」に貸与の事と金鉱株買入の事とを広告せさりしは自分の過失なり

一.「マルテン」証言
同証言は専ら「ベツセル」と「マルテン」との金円貸借の事に関し二万七千五百円は本年三月迄に借受けたりと云ふの外「ベツセル」の証言と大差なし


写経屋の覚書-フェイト「ベセルは、梁起鐸は単に報償金受け取りを行なっただけで、処理には関係していない。申報社の報償金から22,500円をマルタンに貸し付け、仁川の淮豊銀行に預けた30,000円をコールブランの会社銀行に預け替えて25,000円で株を購入、5,000円はマルタンに貸し付けた。だからマルタンへの貸付総額は27,500円になる。これらは全部自分のやったことだが、報償金全額を銀行に預けてあるという事実に反する広告をし、株購入と貸付を広告しなかったのは自分の過失だ、って証言したんだね」

写経屋の覚書-はやて「証人が自分が真犯人やって認めるんは、あかかぶ検事や芸者弁護士とか2時間ドラマの法廷みたいやんw」

写経屋の覚書-なのは「マルタンの証言の方もほぼ同じ内容だったんだけど、5,000円の貸付時期が食い違うの。ベセルは4月中に貸し付けたって言ってるけど、マルタンは3月までに借り受けたって言ってるんだよねぇ。しかも往電第100号「梁起鐸裁判状況報告の件」『統監府文書5』p276収録)」によると、利子の支払いについても食い違うの」

明治四十一年九月十六日午後一〇時二五分 京城発
  十七日午前五時  大磯着
曾禰 副統監     
     伊藤 統監
昨日開廷の梁起鐸裁判には「ベセル」及「マルタン」証人として出廷し「ベセル」は報償金の内より三万円を「コールブラン」銀行部より引出し之を「ホームリンガー」商会に預け入れ更に之を引出して二万五千円にて金鉱会社の株券を買入れ残金五千円を「マルタン」に貸渡したり是より先「マルタン」に二万二千五百円を貸付け置きたれは合計二万七千五百円を同人に貸渡したる訳なり而して右貸金に対しては何等の担保を附せすと述へ且つ五百円宛の月賦返金は二回程払込を受けたれとも利子は受取らすと云へり「マルタン」も大体に於て之を認めたれとも利子は昨年未に数回支払其額は大凡三四百円に上りたる筈なりと述へたり又「ベセル」は単に銀行預金高を新聞に広告し是等の事実を隠蔽したるは何故なりやとの問に対しては自分の不注意なりし旨を述へ且つ梁起鐸は単に受入れたる募集金を自分に交付したるに過きす其処分には何等関係なき旨を声明せり同人は去る十二日馬関に渡り神戸在留代言人「クロツス」外数名と会合し直に引返したり多分法廷に於ける答弁の打合せをなしたるものならん「ホームリンガー」支配人及「コールブラン」共に出廷せす結局裁判所より尋問の要点を列挙し書面の答弁を求むるの手続を採るに至るへし次回開廷日は未定なり

写経屋の覚書-なのは「ベセルは毎月500円の元金返済を2回ほど受けただけで利子は受け取ってないって言ってるけど、マルタンは昨年末に数回、合計3,400円ほど利子も払ったって言ってるの」

写経屋の覚書-フェイト「ねぇ、なのはちゃん、こんな予断を持つことはいけないって分かってるんだけど、横領の内訳詳細についてのベセルの証言が信用できないよ。マルタンへの5,000円の貸付時期もそうだけど、総額の27,500円自体、何回か行なわれた貸付金を4月末にまとめたって言ってるけど、国債報償金費消事件(1)で見た警秘第268号だと1907年9月に一気に貸し付けたって調査報告だったよね」

写経屋の覚書-なのは「それに、マルタンへの貸付の内22,500円についてもね、最初梁起鐸には10,000円って言ってたけど、7月30日の総合所役員たちの詰問の時には何も触れてないし。貸付金額をできるだけ少なく見せようとしたんじゃないかって疑惑もあるよね」

写経屋の覚書-はやて「だいたい、ベセルは最初尹致昊に5,000円は自宅修繕に使ったって言うとったやん。あの話はどこにいったんや?」

写経屋の覚書-なのは「うん。3月までに5,000円を借り受けたっていうマルタンの証言が正しいなら、ベセルが4月に引き出した5,000円は、マルタンに貸し付けたんじゃなくて、自宅修繕に使ったんじゃないかって疑惑も出てくるよね」

写経屋の覚書-フェイト「自宅修繕は、資金運用っていういちおうの理屈が立つ貸付・株購入じゃなくて、言い逃れのできない完全な横領だから、5,000円をマルタンへの貸付金の中に繰り入れて履歴を消して隠そうとしたのかな?」

写経屋の覚書-はやて「それか、ベセルがマルタンに貸し付けた5,000円で自宅を修繕させたってことも考えられるで。迂回融資みたいな感じでマルタンを使(つこ)たん(ちゃ)うかな?」

写経屋の覚書-なのは「西岡隊長はマルタンへの事業費融資2で、フェイトちゃんの言ったような見解をとっているね。そういうわけで、ほんとはベセルはここで認めた以外に横領してたんじゃないかって疑いを持たざるを得ないんだよねぇ。この日出廷しなかったコールブランとホームリンガーに対して書面での答弁を求める手続をとることになって第3回公判は閉廷したの。そして第4回公判が25日に開かれたの」


一.第四回開廷                             同月二十五日

一.「コールブラン」調書(米国総領事より回送)
金鉱株買入に付き「ベツセル」に渡たる代金受取証の日附は実際代金を受取りたる日とは相違す株買入の事は一月十六日の申込にして自分(コールブラン)は即日金鉱会社の株式名簿に登録し同日附「コールブラン」銀行の代金受取証を作成し自分に預り置き二月三日(ベツセルは二月七日と証言す)「ベツセル」より現金二万五千円を受取り引換に該受取証(一月十六日付)を同人に渡したり総合所よりの現金は総額四万二千余円にして其他総合所及「ベツセル」に関する預金の出入に関しては証言の求に応する能はす

一.検事の弁論
「ベツセル」の証言に依れは申報社及総合所に於ける報償金の始末に付ては梁起鐸の責任に属せさるものと認めさるを得さるか故に国債報償金を一個人に貸与し又は金鉱株買入の資金に供したるの当否は別論とし本件は犯罪の証憑不十分とし被告に対し無罪の言渡あらんことを求む

一.裁判所は弁論を閉鎖し来る二十九日判決を言渡すへき旨を宣言せり

一.弁論終結の即日裁判所は被告に対し保釈の言渡を為し検事は其言渡に基き出監の指揮を為し梁起鐸は即日出監したり

                隆煕二年九月二十八日
京城地方裁判所 検事長 中川 一介
     法部次官 法学博士 倉富 勇三郎 殿

写経屋の覚書-フェイト「ベセルがコールブランに株購入の意思を伝えたのが1月16日で、コールブランはすぐに名簿登録して領収証をつくって、2月3日に25,000円を受け取って領収証を渡したんだね。だから領収証の日付が1月16日だったんだね」

写経屋の覚書-はやて「警秘第268号で、日付がおかしいから「弁明の資料に供するに足らさるもの」って言われとったあの領収証やね。一応筋の通るもんやったんやな。つか、コールブラン、現金を受け取った時点で日付記入せぇと」

写経屋の覚書-なのは「だよねぇ。そんないい加減なことをしてちゃダメだよねぇ。ともかくこれで検事は梁起鐸の罪状について証拠不十分なので無罪を言い渡すことを希望して閉廷、29日の第5回公判で「公訴事実は其証憑充分ならさるを以て被告に対し無罪を言渡すへきものとす」ということで無罪が宣告されたの」

写経屋の覚書-フェイト「この裁判で分かったのは、梁起鐸は無罪、犯人はベセル、横領額は株購入の25,000円とマルタン貸付の27,500円の52,500円ってことだね」

写経屋の覚書-なのは「今回はここまでにして、次回は裁判の後について見ていくね」

国債報償金費消事件(1)   国債報償金費消事件(2)   国債報償金費消事件(3)
国債報償金費消事件(4)   国債報償金費消事件(5)   国債報償金費消事件(6)
国債報償金費消事件(7)   国債報償金費消事件(8)   国債報償金費消事件(9)
国債報償金費消事件(10)
写経屋の覚書-なのは「前回の最後で言ったように、今回は国債報償金費消事件についての韓国人の動きを見ていくね。国債報償金費消事件(4)の憲機第421号「七月二十九日憲機第四一六号続報」は覚えてる?」

写経屋の覚書-フェイト「えっと、7月30日に開かれた会議でベセルが糾弾されたって話だったよね」

写経屋の覚書-はやて「そやそや。糾弾と詰問だけで終わってもぉたんやったな。あれからどないなったん?」

写経屋の覚書-なのは「そこなんだけどね、まずその会議の出席者たちは7月31日にベセルに対する討議準備会を開いたの。憲機第429号(7月31日憲機第421号参照)国債報償金に関する件(『統監府文書5』p219収録)でその様子が報告されているの」

 七月三十一日午後自一時至三時間左記六名は南署誠明坊後洞会員(評議員)趙存禹の家に集合し国債報償金の件に関し「ベツセル」に対する討議準備会を開催し決議したる要領左の如し
    左記
趙存禹閔泳玉李恒儀李康鎬李華栄安重植

 会議要領は

一.国債報償志願金総合所に収金の分なる金四万二千八百六十三円一銭を徹頭徹尾「ベツセル」より取戻すこと

二.「ベツセル」より前項の金額受領と同時に所長尹雄烈を免黜し所長を更に撰挙する事

三.鍾路商業会議所(韓人)に照会して同二階を事務所に借入るゝ事


 以上三項共可決第二項中改撰所長の候補者として趙存禹と略ほ内決第三項事務所借入の件は本日国債報償志願金総合所評議員長趙存禹の名義を以て鍾路商業会議所会頭白瀅洙宛書面を以て借入方交渉の処早速協議纏まり趙存禹より事務所を鐘路商業会議所二階に移転せしに付爾今集合の際は同所に集会せらる可きを会員一同に通文せりと云

一.一両日中新事務所にて「ベツセル」に対する討議大会を開催の予定なりと云ふ

以上
明治四十一年八月一日     

写経屋の覚書-なのは「討議大会そのものの報告はないんだけど、8月10日に『国債補償韓人委員会』ってものが開かれたことが機密号外(機密受第2142号)「国債報償金費消事件に関する件 附梁起鐸大韓毎日申報社に逃入したるに付引渡交渉顛末」(『統監府文書8』p306収録)に報告されているんだけどね」

一.昨十一日英国総領事より別紙第一号の通り公文を以て八月十日午後開会したる国債補償会韓人委員会に於て李康鎬なるもの「ベセル」を暗殺すへしと公然宣言したる旨「ベセル」より同領事に訴へ出てたるに付殺害の企図を予防する手段を執る様警察官憲へ直ちに通告方本官に照会し来りたるに付即刻丸山総監へ右の旨を移牒すると同時に別紙第二号の通り英領事へ回答旁々照会致置候本件は日本人特有の豪傑流に一笑し去れは夫れまてに候得共英領事は恐くは之を我警察の不利益に使用するか又は「ベセル」の保護の為めに利用するの掛念なしとせす又「ベセル」は之を口実として今後委員会等に出席を拒絶するやも知れす
梁起鐸裁判の日取及場所も併せて同領事に好意的に知らせ置候尤も同領事は既に承知し居りたり
昨十一日夕刻小松書記官より電話にて鍾路監獄より梁起鐸を大韓医院に移送前梁は逃れて大韓毎日申報社に入りたりとの報に接し次て南部警察署より獄吏多数同新聞社を囲み梁の引渡を要求するも応せさる旨通知を受けたるを以て一応事実を確めたる上石塚長官代理に請訓し別紙第四号の通り認めたる英領事宛の書束を懐中して午後八時二十分英領事を往訪し事実を陳述して梁の引渡を要求したるに本国政府に電話したる上にあらされは取計難しとの回答を得たるに付簡単明白なる本件の如き事件に本国政府の訓令を請ふの必要無之にあらすやと述へたるも応せす領事曰く此の事件に付ては初めより既に七八回も電報を本国政府より受け取りたり今回も政府の訓電を待たさるへからす併し明後日 (十三日) には返電に接するならん又曰く「ベセル」にも同日逢ひたるも彼も此事件に付ては少なからす当惑し居れり義捐者多数且不明にして事件の始末を付けんにも何人を相手にして宜しきやを知らす云々本官曰く果して然らは「ベセル」氏は何人より委任を受けて報償会の委員となり居る訳なりや委員と自称するならは可笑き次第ならすや特に新聞紙上に於て收支を明白に広告すへきに広告したる所と実際の処分と相違し居るは何そやと反問したるに領事は黙して言ふ所なかりき依て本官は十五日には梁起鐸の裁判公開せらるへきに付事実は明白となるへし其の時は何れ証人として「ベセル」氏其の他に出廷を要求するやも知れす応すへきやと問ひたるに領事は然らんと答ふ,次て本官は理事庁出発の間際に「マーナム」より受取り封の儘持ち行きたる別紙第三号の書面を英領事館にて披見し且つ之を英領事にも示し尚梁の引渡に付ては本国政府の電訓を要すると云ふ事にては自分一存にて承諾し難き旨を述へて一応同館を辞去し転して石塚長官代理を経て閣下の御訓令を領し別紙第六号の抗議書を認め之を衣囊に納めて午後十時再ひ英領事を訪ひ別紙第五号の証言書を目前にて認めんことを請ふて之を受取ると同時に第六号を領事え手交し直ちに退出帰途大韓毎日申報社を警戒中の京城監獄典獄神尾虎之助に警戒を解くへき旨を伝へ帰庁後更に別紙第七号の通り梁の逃亡事情及病院に移すに至りたる次第を認め今 (十二日) 早朝同領事に送付致置候
尚英国領事に於ても昨夜十時半頃館員「ホルムス」を呼ひ寄せ直ちに電報発送に取掛らんとする模様に有之候

一.第八号第九号及第十号は「マーナム」か昨十一日梁起鐸に監獄にて面会したる件に関する本官の往復にして第十一号は報償金を「コールブラン」に預け入れたる件問合に對する米領事の再度の回答に有之何等新たに得る所に無之候得共為念添付致候

一. 国債報償金に関する事件発生以来英国領事「コーバーン」氏と屢々交渉を重ねたる直接の実験より考察するに如何にしても同領事の所作及態度は公正にして好意的なりと認むること能はす尤も在京城各国領事より宣教師等に至る迄何事に拘はらす清国又は従来韓国に臨みたる高慢の態度を改めすして些細の事迄喧々囂々甚た厭ふへきものあるは先つ一様認められ候得共報償金費消事件特に梁の引渡の一条に対する英領事の不穏当なる態度は黙過し難きものと深く相感候此の儘に打捨置候ては十五日以後開廷すへき梁の裁判の進行も思ひ遣られ候のみならす昨夜既に閣下の御訓令の下に英領事の直ちに梁引渡を承諾せさることは友誼に反する態度なりと公然抗議を申入れたる上は之より來るへき当然の結末は速かに收めさるへからさる儀と確信致候卑見にては此の際同領事の不都合なる挙動を挙けて英国政府に同領事の召還を要求するの手続に出候方可然と存候併し若し其の交涉の開始自然延引致候様にては恐らく先方より機先を制せらるゝの虞多々に可有之に付急速の御取計を偏に希望致候但し一歩を譲りて英国政府より同領事に対し本件に関して従来の態度を改め事実の真相を明かにする為め充分の援助を日本官憲に与へよとの訓令を発せしめ候ても差向き本件の進捗には大に便利を得可やに付已むことを得さるに於ては夫れ丈けにても御取計相成候様致度実は彼是の考にて取急き本信を認めたる様の次第に有之候

一. 昨日梁起鐸を鍾路監獄より濫りに放すに致りたる責任は果して誰にあるやは取調を要する事と存候得共曩には大韓毎日申報社差押の為め警部か同社に踏み入りたる様の遣り損ひも有之事外国人に係るを以て其の都度彼等より弊を招くか如き失態を演するは誠に遺憾に存候此の類の場合に於て監督大官たるものは呉々も理解能力の乏しき下級日韓官吏に再三反覆命令を言ひ聞かして注意の下層迄貫徹する様致さしめ候事至極肝要に有之は申迄も無之候典獄神尾虎之助の言ふ所に依れは梁に附し置きたる韓人看守は大韓医院に梁を送ることを知らすして普通釈放免囚と心得依て例の通り放出したるならんとの事に有之候

右報告旁々及具申候也
明治四十一年八月十二日   
京城理事官 三浦 彌五郞
     統監代理 副統監 子爵 曾彌 荒助 殿


写経屋の覚書-はやて「李康鎬がベセル暗殺するべし、って言い放ったんやな。ほんでそれを知ったベセルがコバーンに訴えて、コバーンが三浦に殺害計画を予防する措置をとるよう警察官憲へすぐ通告してほしいって言うてきたんやな」

写経屋の覚書-なのは「まだ三浦とコバーンが反目してない時点の話だよ。で、三浦は丸山警視総監に通知してその旨をコバーンに回答したの」

写経屋の覚書-フェイト「でも三浦は「本件は日本人特有の豪傑流に一笑し去れは夫れまてに候得共」なんて言ってるよ。笑い飛ばせばオッケーって楽観的というか、本気にしてないというか…」

写経屋の覚書-はやて「コバーンがこの事態をベセル保護のために利用するかもしれへんいう懸念と、ベセルがこれを口実として今後この手の委員会等に出席を拒絶するかもしれへんいう読みはたしかにありえるんかな」

写経屋の覚書-なのは「李康鎬が本気でそんなことをするわけがないと思っていたのか、ベセルが大げさに感じたと見たのかは分からないけど、ベセル保護のための利用されるかもしれないって読んだのなら、その口実を与えるような隙を見せない処置をしなきゃダメだよ。一笑しておしまい、なんかじゃなくてね」

写経屋の覚書-はやて「そやけど、その委員会でベセルは具体的にはどんな言動とったん?よほどの態度を取らんとあんなこと言われへんと思うんけど」

写経屋の覚書-なのは「うん。細かいことまではわからないんだけど、往電第49号「梁起鐸問題に関する英国政府への注意要請の件」(『統監府文書5』p229収録)によると、報償金の保管について主張したみたいなの」

明治四十一年八月十四日午後五時五〇分 京城発
   午後九時二五分 舞子着
曾禰 副統監     
     伊藤 統監
 梁の件に関し寺内外務大臣へ左の通電報し置けり
 貴電第百四十二号に関し英国大使へ朗読したる同国政府来電には英国の輿論之か為に八釜敷かるへく然かも同政府外務大臣は議会に於て弁護すること能はすとあれとも本件に関し何故英国の輿論沸騰すへきや殆んと了解に困む所なれとも察する所英国政府は在京城同国総領事の事実を表明せさる報告に基き梁起鐸の逮捕を以て「ベセル」裁判事件に関連するものと誤解したるによるか如し尤も在英国我か大使代理に対する貴電に依り事情判明することゝは信すれとも目下の情況に付在本邦英国大使及英国政府の注意を促したきものあり抑々国債報償金消費の嫌疑は「ベセル」の裁判事件以前より一般公衆の抱きたる所にして梁の逮捕当時に至り公然取調を訴へ出つるものありたるに付当局者に於て偵察を遂けたる結果大韓毎日申報社の募集金は同新聞紙上総て「コールブラン」銀行に預け居る旨を広告したるに拘はらす或は礦山会社の株券を買入れ又は個人に貸し与へたる事実あること往電第二十四号の通りにして其証迹充分なるを以て不取敢梁の取調に着手し予審に於て有罪と認め既に公判に付するの運ひに至りたる次第にして公判廷開始せは直に英国政府の誤解釈然たるへきは勿論なりと雖前記毎日申報社内に設置せられたる中央集金所を韓人商業会議所に移し「ベセル」の保管に係る募集金を取戻さんとしたるに右商業会議所に於ける集会の席上に於て「ベセル」は右金員を英国総領事の保管に移すへしと称え然らされは日本官憲に取去らるゝの虞ありと弁したるに韓人等は右募集金は外国領事に渡すへきものにあらす宜しく之を韓人の銀行に預け入るへしと主張したりとの報あり又英国総領事か我か理事官に送りたる書簡に依るも去る十日右会議所に於て役員の一人李康鎬は報償金問題に付「ベセル」と激論し「ベセル」退出の後「ベセル」を暗殺すへしと公言したることあり右等の事情より察するも韓国人か報償金の不当処分に付如何に激昂し居るか明なるのみならす梁起鐸の逮捕は徹頭徹尾「ベセル」裁判事件に関係なきことは在韓国一般内外人の承知する所にして英国政府と雖も容易に了解し得へき筈なり前電屡々開陳したるか如く本件に対する英国総領事の態度に就ては日韓人とも甚たしく憤激し居り新聞紙上にて之を攻撃せんとするもの少からす之に対しては程なく円満の解決を見るへしと凡て之を抑制し置きたれとも英国総領事及同国政府にして今日の態度を悛めさるに於ては到底輿論の激昂を抑圧すること能はさるに至るへし右の趣旨を以て重ねて英国大使の注意を促し且在英本邦代理大使にも通告せられたし


写経屋の覚書-フェイト「マーナムが金庫と帳簿を自宅に持ち去ってたんだよね。ベセルは報償金を英国総領事の保管に移さないと日本官憲に持っていかれるおそれがあるって言ったんだね」

写経屋の覚書-はやて「大韓毎日申報社かてイギリス人所有物やねんから、官憲が簡単に踏み込まれへんやろ?それに総合所の役員(ちゃ)うベセルが申報社への募金ならともかく総合所の報償金保管に関わろうということ自体おかしいやろ?」

写経屋の覚書-なのは「そうだよね。どうやら特に李康鎬はベセルと激論になって、ベセルが帰った後で暗殺を公言したみたいだね。ちょっと後のことになるんだけど、8月26日にマクドナルドからこの件について確認要請が来たの。機密送第45号「梁起鐸事件に対する駐日英国大使書翰写本五通送付の件(8月28日付 小村外務大臣発曾禰副統監宛)」(『統監府文書4』p391収録)の別紙3 第75号「8月26日付 マクドナルド駐日大使発寺内外務大臣宛 韓人の為せるベセル殺害危脅に関する英国大使覚書」を見るよ」

British Embassy,
August 26, 1908.

No.75.
Monsieur le Ministre;
I have the honour to inform Your Excellency that I am in receipt of a despatch from His Majesty's Consul-General at Seoul stating that on the 10th instant at a meeting of the Committee of the Corean National Debt Redemption Fund a Corean named Yi Kang-ho publicly threatened to assassinate Mr. Bethell, a British subject. Mr. Cockburn, on a complaint being made by Mr. Bethell, approached the Resident, Mr. Miura, on the subject, who replied in a letter dated August 15th last that the Chief of police had ascertained that Yi had expressed his opinion in the presence of several persons “that Mr. Bethell's management of the Fund was improper and that unless he will see that he was wrong and correct his way he might be killed by the offended Corean people.” Mr. Miura further state that this seemed to him a mere expression of criticism, but that it sounded a little too strong. According to Mr. Bethell's information Yi declared his own private intention of assassinating him and inquired of a lawyer what was the penalty for murdering a foreigner.
My object in addressing this Note to Your Excellency is to draw your attention to the extraordinary nature of the opinion expressed by Mr. Miura, the threat that if Mr. Bethell did not correct his ways he might be killed by the offended Corean people being described by Mr. Miura as a “mere expression of criticism.” I should be greatful if Your Excellency would inform me whether that Japanese Government concur in the view officially expressed by the Resident at Seoul.
I avail myself of this opportuntiy, Monsieur le Ministre, to renew to Your Excellency the assurance of my highest consideration.

Claude Mr. MacDonald.
British Ambassador

His Excellency
General Viscount Teraoutsi,
Minister for Foreign Affairs.

写経屋の覚書-なのは「李康鎬の発言は「ベセルは報償金の管理は不正で、彼が間違っていたことを認め、やり方を修正しない限り、怒った韓国人に殺害されるだろう」ってもので、丸山警視総監はこの発言の事実を確認したの」

写経屋の覚書-フェイト「あれ?もっと直接的な発言だと思っていたよ」

写経屋の覚書-なのは「で、三浦はこれを単なる批評の表明と思われるけど語気が強すぎるものだったとコバーンに返答したんだけど、マクドナルドはこの三浦の意見の異常性について注意を喚起したい、日本政府は統監府の公式見解と一致しているのか教えてほしいって言ってきたの」

写経屋の覚書-はやて「なんつうか、「月夜の晩だけと思うなよ」とか「何をしでかすか分からん連中も出てけえへんとは限りまへんでぇ」とか言うて遠回しに脅す台詞と似とるなぁ。そやけどそれは脅迫対象に向かって言わな意味あらへんやん。この場合はベセルが帰った後で言うとるわけやしなぁ」」

写経屋の覚書-なのは「そうなんだよね。正直、これだけで殺害意図を立証するのはちょっと無理なんじゃないかなと思うよ。外務省のマクドナルドへの返信と思われる文書が「ベセル殺害を公言した李康鎬の脅迫に関する件」(『統監府文書5』p267収録)なんだけどね…」

Department of Foreign Affairs
Tokio, August 31st, 1908.

Monsieur l' Ambassador:
I have the honour to acknowledge the receipt of the Note (75) Your Excellency was good enough to address to me under date of 26th inst. on the subject of the remarks made by the Resident of Seoul in his letters of the 15th inst., to the British Consul General of same place, concerning the statement of Yi Kang-ho, a Korean, in reference to the Bethell in connection with the administration of the Corean National Debt Redemption Funds.
It seems that on the 11th inst. Mr. Bethell complained to Mr. Cockburn that on the previous day Yi had declared his intention assassinating him, Mr.Bethell. In the same day Mr. Cockburn brought the complaint to the attention of Mr. Miura and stated that the Police Authorities might be at once informed, and they might take steps to prevent Yi from carrying out his intention. Mr. Miura at once complied with Mr. Cockburn's complaint and in his Note informing Mr. Cockburn of his action ( ) the 11th inst. he characterized Yi's threat as “barbarous” ( ) copy of Mr. Miura's letter of the 15th inst, but from Your Excellency's Note under acknowledgement it would appear that ( )
Your Excellency
Claude M. MacDonald
etc,etc,etc.

写経屋の覚書-フェイト「え?かんじんの箇所が空白になってるよ」

写経屋の覚書-はやて「ほんまや。最後が「閣下の覚書に接しそれは(   )らしく思われました」やもんなぁ。そこがいっちゃん大事なとこやのに」

写経屋の覚書-なのは「というか、これ文書番号も付いてないし、実際に送ったものじゃなくて草稿だったのかもしれないんだよ。これもPublic Record Office, London所蔵のイギリス外交史料で該当する電文があるかを確認しなきゃいけないんだよねぇ…」

写経屋の覚書-フェイト「とりあえず、史料批判の段階で留保つきの史料ってことだね」

写経屋の覚書-なのは「そうだねぇ。まぁこの後の推移から見ると、結局李康鎬はベセルに対して何も行動はとらなかったんだけどね。さて、総合所のベセル追求の方だけど、8月28日にベセルを招いて評議員会を開いたの。その様子は29日付の大韓毎日申報にも載っているの」


写経屋の覚書-19080829皇城新聞

写経屋の覚書-なのは「でも警秘第291号「総合所評議員会の状況」(『統監府文書4』p385収録)のほうが詳しいから、申報のテキストは起こさないでこっちを見るよ」

右及報告候也

一. 国債報償金総合所は既報の如くにして金曜日午後二時商業会議所に評議員会を開く会するもの臨時評議員長韓錫鎮以下十三名会員は「ベセル」を会場に招致せしに「マーンハム」同道来場せり
評議員長は先つ「ベセル」に向ひ総合所より預りたる義捐金の措置を問ふ「ベセル」答へて曰く「コールブラン」の金礦株券の買入及「アスター,ハウスホテル」に預入其他電気会社の銀行に貯置せり其証拠は現に携帯する書類にて明暸なり必竟するに其金礦株券を買入たるは利殖を図らんか為めにして今より三ヶ月の後機械完備礦業着手の曉には多大の利益を受くるものなれは国民か其利益に依り斯の僅少の基金を以て他日夫の巨額の負債を償還するを得は洵に本懐ならすや云々
評議員長は忿然容を改めて曰く国民か此報償金を捐する何ん利殖の為めならんや即時現金を調へ返納すへしと強硬なる談判を試みしに「ベセル」は恬然として曰く朴容圭,梁起鐸の如き役員已に辞し去れり更に信用ある役員を置き其連署したる請求書を携帯し且つ其措置に付て一ヶ月新聞紙に広告の後受取に来らは交付せんと放言せり如此にして問答再三遂に要領を得さる儘午後六時閉会せり

一. 評議員中金麟外六名は「ベセル」の一味にして此評議員会を利用し報償金費消問題を揉潰さんとの魂胆ありとは既報の如し然るに本日に於ける会場の光景全く之に反せしは大韓協会の尹孝定及一進会総代六名は昨日来金允五其他「ベセル」派の評議員を訪ひ報償金費消者を庇護する言動あるを詰り忠告を与へたるか為めなりしと形勢如此なるを以て英国領事舘へ現金保管等の議は成立せさるへしと認む尚此後の成行観察中

               隆熙二年八月二十八日
警視総監 丸山 重俊
     副統監 子爵 曾禰 荒助 殿

写経屋の覚書-フェイト「株を購入したのは利殖のためだ。三ヶ月後に機械が完備して鉱山操業が始まったら多大な利益が生まれるから、それによって償還すれば本望ではないか、なんて言ったんだね」

写経屋の覚書-はやて「そやけど、それはただの横領・流用や。韓錫鎮臨時評議員長が即時返金するよう詰め寄ったけど、ベセルは恬然として「信用ある役員連署の請求書を持ってきて、その措置について一ヶ月間広告を新聞に出した後に受け取りに来たら払うたる」って言うたんやな。むっちゃ上から目線いうか挑発的いうかお前が言うなって感じやで」

写経屋の覚書-なのは「それなら、ベセルは報償金を株購入に充てた措置を広告したのかなと。西岡隊長はベセル氏出席総合所会議の様子で、「信用できる奴を役員に据えろって、誰を役員にしても信用できんといわれるのがオチで、仮にベセルが信用できる奴を指名したらそいつは連署にサインしない奴とw」「つまり返さないと言ってるのも同様ですな」って言ってるけど、その通りだろうね」

写経屋の覚書-フェイト「そういう意味だったんだね」

写経屋の覚書-なのは「おそらくね。憲機第524号「国債報償会評議員会開催の件の報告」(『統監府文書5』p259収録)のほうでは簡単に報告されているけど、これには韓国人たちもかなり怒ったみたいだね。この件は日本の新聞でも報道されたらしくて、まだ日本に滞在していた伊藤が曾禰に送った照会が来電第31号「ベセル国債報償金濫費事件報導に対する事実与否確認の件」(『統監府文書5』p260収録)なの」

明治四十一年八月三十日午後一時 発
伊藤 統監
     曾禰 副統監
 本日発行の国民新聞に二十八日開会の国債報償会委員会に強制的に「ベセル」を出席せしめ募集金の所在を詰問せしに費消せんことを自白せしも彼は飽迄不遜の態度を示したるより一同非常に激昂し其罪を厳責し弁償を迫りしに一言の返答さへなし得す太く面目を失せり彼は一進会大韓協会よりも威嚇的に注意を受け殆と死地の境に在り云々の京城電報を掲載す
 右は果して事実なりや御取調の上回答を望む此の事たる韓人の所為なれとも之れか為に何事か起りたる場合に於ては外国よりは其の責任を日本に帰せしむるは勿論なれは単に韓人の所為として等閑に附すへきものに非すと思

写経屋の覚書-フェイト「「彼は飽迄不遜の態度を示したるより一同非常に激昂し其罪を厳責し弁償を迫りし」ってそりゃそうだよね。あんな開き直り方をされてしかも挑発じみたことを言われたら怒るよね」

写経屋の覚書-なのは「曾禰は往電第83号「来電第三一号新聞記事内容確認報告の件」(『統監府文書5』p261収録)で返信してるんだけど、そこで丸山警視総監はベセルの身辺の危険はないって言ったの」

明治四十一年八月三十一日午後一時三二分 京城発
   午後七時四〇分 大井着
曾禰 副統監     
     伊藤 統監
 貴電第三十一号国民新聞記事に関し警視総監の報告に依れは去る二十八日午後二時十三名の評議員韓人商業会議所に会合し「ベセル」を招きたるに「マーハム」同道来場し総合所より預りたる募集金の取扱に関する質問に答へ金鉱株券を買入れ利殖の途を講したる旨を述へたるに評議員長は国民か報償金の募集に応したるは利殖の為めにあらす即時現金を返却すへしと迫りたるに「ベセル」は朴容奎・梁起鐸等の役員辞し去りたれは信用ある後任者を挙け其の連署したる請求書を携帯し且つ其の措置に就き一ヶ月間新聞紙に広告の後受取に来らは交付せんと放言し猶ほ問答数字遂に要領を得さる儘午後六時閉会せり尚ほ丸山に問究したるに「ベセル」等の身の上に就ては何等懸念するの要なしとのことなり尚ほ当府は目下此の事に付き全然関係せさるを策の得たるものと信す

写経屋の覚書-フェイト「マクドナルドの照会の後だし、やっぱり尾行とか身辺探索とかそれなりの措置はしていたのかな?」

写経屋の覚書-なのは「そうかもしれないね。一方、総合所長の尹雄烈はベセルに対して報償金の返還を請願してきたの。警秘収第7764号「「ベセル」の詐取した国債報償金返還請願に関する件」(『統監府文書4』p376収録)にその請願書が転載されているんだけどね」

 前軍部大臣尹雄烈より大韓毎日申報内に設立せる国債報償総合所長として募集せる金額中金三百円を英国人「ベセル」に詐取せられたりと称し其返還を英国領事に照会せられんことを請願せり其請願書別紙添文の如し右及報告候也
                   隆煕二年八月二十三日
                         内部警務局長 松井 茂
        副統監 曾禰 荒助 殿

○別紙
  請願人
                                  尹雄烈
 右請願の事実は本人昨今田中中宗氏の推薦に由り国債報償総合所長となりしも知識なく又老年にて常時不健康なるを以て百方之を辞せしも遂に意の如くならす其時総合所は英国人発行大韓毎日申報社なる故之に赴き役員及入金取扱等を尋ねたるに財務監督兼事務長朴容奎の答に役員は名簿に見られ外受入金は所長出席前は副所長金宗漢と財務監督たる自分と会計梁起鐸の連署にて鍾路韓英電灯会社内銀行に預入るとの事にて別に不合意の廉もなく又既往の事にして此名義を主とする場合故其儘に為し居たり昨今六日の騒擾の後より会議も為し難く諸般事務を整理し能はさりしのみならす各道よりの入金も僅少にて本所の経費を支保する能はさるを心配せしか本年二月の初に至り「ベツセル」より会見を求めし故翌日彼を往訪せしに朴容奎の通訳にて本人に語て曰く電気会社の利子は三円二三厘なるものゝみにあらす不信用なれは該金額中三万円丈仁川の匯香銀行に預替すれは利子も六厘にて利害殊に明に且本所の経費も心配なしとの事故孰れも西洋人の銀行なれは本人は其確実と否とを知るに由なし只貴下其確実なる所へ貯置せられよ但人民の引付に来る日には遅滞なく払渡されたしと述へしに其後三十日に「ベツセル」より人を以て一片の横文書を送り未た是は三万円予替の手形なれは之に捺印せられたしと依て其言に従ひたるに今日に聞く所にては該三万円「ベツセル」に於て随意弄奸し米人「コールブラン,ボストウヰツク」の金礦株を買たりと云ひ仏国人旅館に貸付たりと云ふにて三万円を本所に還納せす種々曖昧の説あり是れ大に法理に違ふのみならす英国人にして韓国人民の熱血中より出せる義金を濫用せる奸状此の如く露出せるも少も慚愧せす一向還給せさるに付ては私力にては如何とも致し難し依て茲に請願を乞ふ英領事館に照会し韓国人民の義金四万二千八百六十三円三銭を元利共に「ベツセル」より本人へ還付する様希望す
                      隆煕二年八月十七日
         内部大臣 宛

写経屋の覚書-フェイト「松井茂の300円って30,000円の間違いだよね?それに請願書の最後では42,863円2銭になってる」

写経屋の覚書-はやて「それと「昨今六日の騒擾の後より会議も為し難く諸般事務を整理し能はさりしのみならす各道よりの入金も僅少にて」の「昨今六日」って、文脈から見たらハーグ密使事件のあった「昨年六月」(ちゃ)うん?」

写経屋の覚書-なのは「そう思うだろうけど、ここは本年六月と解釈する方がいいんだよ。国債報償金費消事件(4)で見た尹雄烈が調査結果を8月6日付~8日付大韓毎日申報に載せた広告を憶えてるかな?」

写経屋の覚書-フェイト「えーっと、あ、ここには本年六月の地方騒擾以後って書いてるね」

写経屋の覚書-なのは「そういうわけで本年六月が妥当だと思うんだよね。但し、8月4日付皇城新聞に載せた広告のほうでは本年陰六月なんて書いてるんだけどね」

写経屋の覚書-はやて「それはそれでええ加減な話やなぁw 私はてっきりハーグ密使事件のことしか思い浮かばへんかったで」

写経屋の覚書-なのは「たしかに、1907年6月はハーグ密使事件とそれにともなう高宗譲位の動きなどで韓国社会が動揺して、一時の熱狂が去っていた報償運動の退潮が加速したのは事実なんだけどね。じゃ今回はここまでにして、次回はようやく梁起鐸の裁判の話になるよ」

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