写経屋の覚書-なのは「本題に行く前に、西岡隊長のスレが上がってたので紹介するよ。5,000円についての隊長の考察がおもしろいんだよね」

基礎知識

写経屋の覚書-はやて国債報償金費消事件(3)で見た機密京第10号のマルタン回答やと、1907年9月に借りたのは22,500円やなくて27,500円やったもんね。作者、そこスルーしとったしw」

写経屋の覚書-なのは「にゃはは。すっかり22,500円だと思いこんでたんだよねぇ。じゃ、本題に行こうか」

写経屋の覚書-フェイト「なのはちゃんが前回の最後で「妙なところから問題が持ち上がってきたの」って言ったけど、どんな話なの?」

写経屋の覚書-なのは「これまで見てきた史料でもわかったと思うけど、駐韓英国総領事のコバーンの態度があまり協力的じゃなかったよね」

写経屋の覚書-はやて「そやな。梁起鐸の逮捕について司法上手続の批判したり、ベセルへの事情聴取を嫌がったりしとったな。ベセルへの事情聴取についても本国に訓令をあおがなあかんとか言うてたし」

写経屋の覚書-なのは「たしかにあれっ?て思うようなところはあるよね。で、その訓令が来たということでコバーンが三浦理事官に返事をするんだけど、その内容とそれを受けての統監府の対応について往電第24号「国債報償金消費事件調査報告の件」(『統監府文書5』p213収録)で触れらてれるの」

明治四十一年七月三十日午前七時五五分 京城発
   午後九時二〇分 大森着
曾禰 副統監     
     伊藤 統監
 貴電第八号国債報償金取調に関し当初三浦理事官より英国総領事に照会したる箇条は別電第二十五号第一書簡の通りにして司法手続として取調を請求したるものにあらす然るに英国総領事は本国の訓令を仰きたる上本日第二書簡の通り英国の司法上の原則に正反対なる手続に対しては何等の援助を与ふる能はさる旨を答へたり是より先き同総領事は梁の留置に関し韓国の司法手続を問合せ来りたるに付三浦より韓国には未た刑事訴訟法なけれは従来の慣行に依り令状を用ひさる旨を答へ其後警察官は梁を嫌疑者として漢城裁判所検事に送致したる旨を通知したり英国総領事の今回の回答は言辞穏かならす或は梁拘引の不規律(同総領事の見解)なることを指したるものと思はるれと「ベセル」取調の請求とは自ら別問題なり然れとも同総領事にして既に好意上の援助を拒絶したる以上は貴電御示の如く「ベセル」に対する告訴を提起するの外なしと認め且つ告訴状(「コンプレエント」)を起草せしめ居れり本件に関し今日まで確実なる証拠を得たる事実左の如し

(一)大韓毎日申報社及同社内総合所の募集金総額は七万一千六百余円にして大韓毎日新報の広告に依れは「コールブラン」銀行部に預け居るか如し而して右募集金取扱に関係せるものは所長尹雄烈(其後辞任せりと称す)役員梁起鐸・朴容圭(逮捕手続中)及「ベセル」の四人「ベツセル」は事実上の主任者なり

(二)前記募集金の内三万円を大韓毎日新報の広告と異なりて曩に「コールブラン」銀行部より引出し本年二月七日之を香港上海銀行の代理店たる在仁川「ホームリンガー」会社に預け入れ同月末及四月中三回に同会社より右金額全部を引出したり(梁の自白に依れは右金員は役員四名の連署にあらされは引出す能はすと云へるも「ベセル」か自ら引出したる事実は「ホームリンガー」会社員の証言する所なり)

(三)前記募集金の内二万七千五百円は昨年九月中九朱の利子にて「アストルハウス」主人仏人「マルタン」に貸与し本年八月二十一日より毎月金五百円つゝ返却し皆済に至る迄据置くの約束を為したり(前電参照)此の分梁の自白に依れは一万円なりとあり梁は「ベセル」よりの偽言に依り斯く信したるか如し(三浦の英国総領事に対する照会状には梁の自白に基き一万円と記載せり)

(四)前記募集金の内二万五千円にて「コールブラン」より米国「ハアトフヰルド」京城金鉱会社の株券を買入れ「ベセル」のみの名義か役員の名義かは未た判明せぬ(尚五千円を「ベセル」自ら所持し居れりと云ふ此の五千円は同人の家屋修繕に費やしたりとの報告あり取調中なり)以上三万円は先きに在仁川「ホームリンガー」会社より引出したる分と推察せらる

(五)「コールブラン」には目下約一万五百余円預けありとのことに付前記引出金と合算するも総計六万八千円にして募集せし七万一千六百余円に比すれは尚三千円内外の不足あるのみならす預金の利子は如何に処分せしや不明なり「ベセル」の告訴状には右等の事項を列挙し英国法律に依り相当の処分を為さんことを要求する積なり

「ベセル」は両回小松書記官を訪問し喜んて事実を開陳すへしと云へるに拘はらす英国総領事は一回も同人に聞糺さす直に本国の訓令なりとて簡単なる拒絶状を送付し来れる等本件に就ては毫も妥協の態度に出てす本国政府に対しても果して事実通の報告を為したるや甚た疑はし貴電御意見の如く万一我か告訴状を却下する如きことあらは本件を外交問題に移すの外なきに至るへし告訴状は脱稿次第郵送すへきに付其の節は更に御意見を伺ふへし

写経屋の覚書-なのは「ここでは「別電第二十五号」として触れられている往電第25号「コバーン総領事と三浦理事官との往復書信一部を統監に報告の件」(『統監府文書5』p214収録)に三浦の照会とコバーンの返答が載ってるよ」

Arrived Ⅶ 30. 1908.

Prince Ito.
  No.25
First Document Miura to Cockburn.
(After referring to facts) At the instance of Coren authorities I have the honor to request that you will be so good as to make necessary investigation with regard to the following points and let me know the result at an early date.

(1)In what capacity Mr. Bethell was or is connected with Corean Foreign loan redemption funds?

(2)By what authority did he draw first amount of ten thousand yen and loan it to Mr. Martin, what are the terms of loan and the rate of interest?

(3)By what authority did he draw second amount of thirty thousand yen from Messrs Holmeringer d Co. of Chemulpo?

(4)What has he done with the money so drawn?

(5)Is there any deposit of the said funds remaining in Mr. Colbran Bostwick Co. in the name of Mr.Bethell?


Second Document
Cockburn to Miura
(After referring to notes exchanged) in reply, I have the honor to state that in proceedings that are diametrically opposd(ママ) to English principles of the administration of Justice, it is not possible for me to give any assistance.

Sone.

写経屋の覚書-フェイト「えーっと、

(1)どういう資格でベセルは国債報償金に関したあるいは関しているのか。

(2)どういう権限で彼は最初に10,000円を引き出してマルタンに貸し付けたか。その貸付条件と利率は。

(3)どういう権限で彼は次に30,000円をホームリンガー社から引き出したか。

(4)彼は引き出された金銭をどうしたか。

(5)ベセル名義でコールブラン銀行部に残っている上述の預金はあるか。

の5点についてベセルに事情聴取してほしいってことなんだね」

写経屋の覚書-はやて「ほんでコバーンは本国に事情聴取してええかどうか問い合わせて、その指示によって、英国の法執行の原則に正反対な訴訟手続に対してはどんな援助を与えることもでけへんって回答したんやね…これって協力的(ちゃ)うどころかむっちゃきつい拒絶の言い方やんなぁ」

写経屋の覚書-なのは「正直言って、一国の外交官が簡単にこんなことを言っていいとは思えないんだよね…前にコバーンは梁起鐸の留置について韓国の司法手続を問合せたんだけど、三浦は韓国にはまだ刑事訴訟法がないから従来の慣行どおり令状を使用しなかった。その後は梁を嫌疑者として漢城裁判所検事に送致したって答えたの」

写経屋の覚書-フェイト「コバーンの今回の回答は言辞が穏かじゃなかった。それに梁起鐸拘引の「不規律」の話もベセル取り調べの請求とは別問題だしって言ってるけど、たしかに拒絶自体の妥当性に関係なく、コバーンの態度はいろいろおかしいよね。なんて言うかな、頑なというか意固地というか不自然というか…」

写経屋の覚書-なのは「そう思われても仕方ないかなぁ。ともかく、こうなった以上は、往電第14号で伊藤と寺内外務大臣が協議してたようにベセルに対する告訴を提起するしかないってことで、告訴状を起草させているところなんだよ」

写経屋の覚書-はやて「7月30日の時点で曾禰が確認できとる事実は

(1)申報社・総合所の報償金総額は71,600余円。申報の広告通りなら全部コールブランの銀行に預けてあるはず。金銭の取り扱いは尹雄烈・梁起鐸・朴容奎・ベセルやけど事実上ベセルが主管しとる。

(2)30,000円は広告文言と違て、銀行部から引き出されて2月7日に淮豊銀行代理店のホームリンガーに預けられた。梁起鐸は役員4人連署やないと引き出せへんて言うたけど、コールブランの社員はベセルが引き出したって証言。

(3)27,500円は、昨年9月、年9朱つまり9%の利率でマルタンに貸し付けた。今年8月21日から月500円で返済の約束。英国総領事への照会の時は梁の自白に基づいて10,000円と記述したけど、梁はベセルの嘘を信じて10,000円って言うたみたい。

(4)25,000円は株券購入(ベセル名義か役員名義かは不明)、5,000円はベセルが自宅修繕に使ったという報告があるから調査中。これらの30,000円はホームリンガーから引き出した金(ちゃ)うかと推察。

(5)コールブランには残金が10,500円ある。そやけど上記の引き出し金額と合わせても68,000円で、報償金総額71,600余円と比べたら3,000円不足があるし、利子についても同処分したか不明。ベセル告訴状にこれらを列挙して英国法律によって処分することを要求するつもり。

の5点やねんな」

写経屋の覚書-なのは「そうだね。ベセルは2回小松を訪問して喜んで事実を開陳しようと言ったのに、英国総領事は1回も事情聴取をせず、本国の訓令とかいって簡単な拒絶状を送ってくるなど、この件について全然妥協しないってことについてなんだけど、本国に事実を報告したかも怪しいんじゃないか?って曾禰は疑ってるの」

写経屋の覚書-フェイト「これって、三浦の要求が理不尽なものと思わせるように、わざと事実じゃないことあるいは事実を曲げて本国外務省に報告して、回答拒絶の訓令を獲得したんじゃないかって意味だよね?」

写経屋の覚書-はやて「そうやんなぁ。本国が三浦の要求を不当と判断して回答拒絶の訓令を出す、ほんでコバーンは本国の訓令やからという理由で堂々と拒絶できる、いう策やな」

写経屋の覚書-なのは「そのへんは駐英日本大使や駐日英国大使とも連絡を取って究明するしかない問題だけどね。ま、その疑いは措いといて、もしコバーンが告訴状を却下するようなことがあったら、伊藤の見込みどおり、これは外交問題にするしかなくなっちゃう。告訴状はでき次第郵送するからチェックして意見をください、って指示を仰いだの」

写経屋の覚書-フェイト「外交問題かぁ…とんでもないところに火が移った感じだね」

写経屋の覚書-なのは「本来現地レベルで解決できる話だと思うんだけどねぇ…じゃ、今回はここまでにするね」

国債報償金費消事件(1)   国債報償金費消事件(2)   国債報償金費消事件(3)
国債報償金費消事件(4)