僕くらいの年齢の自転車乗りは『ファニーバイク』と呼ばれる自転車を覚えているかと思うのですが非ダイヤモンド形状のフレームだったり車輪が大きかったり小さかったり前後異径だったりした自転車がいっとき自転車競技で流行してた時期がありました。
フランチェスコ・モゼールとかグレアム・オブリーとかグレッグ・レモンといった有名選手の名前と彼らの乗った珍妙な自転車やそれについた珍妙なハンドルは今でもたまに自転車雑誌に乗ったりもします。
で、今は自転車競技でもサイクリングロードでもそんな自転車はあまり見なくなってしまいました。珍妙な自転車という意味ではサイクリングロードをリカンベントやタドポールトライクや小径車や公道仕様のピストがふらふら走っていたりもしますが競技では見なくなってしまいました。なぜかは簡単で自転車競技の総元締めのUCIが競技での使用を『禁止』してしまったからです。UCIの管轄外のトライアスロンでは非ダイヤモンドフレームの自転車が今でも走っていたりしますがファニーバイク全盛の頃に比べれば『普通』の見た目です。
ファニーバイクやリカンベントや小径車がUCI管轄のレースの殆どで禁止された理由としてよく語られるのは機材で有利になりすぎるからとか旧態然としたUCIの面子問題がとかです。が、それも確かにあるとは思うものの割と明確に『珍妙な自転車は危ないし性能が致命的に低い』というのもあると思います。明確に不安定だったり性能特化し過ぎで通常走行に問題があったりします。
なぜ危ないと思うかといえば『UCIが禁止するくらい有利な自転車ならば相当楽に高度な走行ができるのだろう』と実際に自分で買って乗ってみたらとても常用もレース用途でも使用できる代物ではなかったからです。
小径に関しては8インチの折りたたみから16インチミニベロ、20インチミニベロ、24インチファニーロードあたりを所持した事があって24インチファニーロードのみ残してはあるのですが自転車において、特にロード的な用途において車輪の直径は体格の許す限り大きな方がいいというのが実感です。
まず分かりやすい理由としてこの前ピスト関連で話題にあげた
ロールアウトの問題が有ります。分かりやすく言えば自転車のペダルを1回漕ぐと何メートル自転車が進むかという概念です。
2015年現在市販されてるロードレーサーのロールアウトを見てみます。例えば今現在僕がイイなと思ってる
FUJIのアルタミラの安い方はコンパクトクランクなので大ギア50-34、小ギア11-28が装備され標準のタイヤ700x23cです
一番重いギアでのロールアウトは 大ギア50丁 小ギア11丁 700x23c(タイヤ周長2096mm)なので
50/11*2.096≒9.53 でペダルを1回漕ぐごとに9.53m進みます。
一番軽いギアでのロールアウトは 大ギア34丁 小ギア28丁
700x23c(タイヤ周長2096mm)なので
34/28*2.096≒6.48 でペダルを1回漕ぐごとに2.55m進みます。
では24インチのタイヤで同じロールアウトを得ることはできるのでしょうか?
24インチのタイヤのタイヤ周長は1785mmです(ロードレーサー用途の24インチチューブラータイヤの数値)。一番重いギアでのロールアウト9.53mを得るには小ギアの最小歯数が11丁までしか存在しないので
?/11*1.785≒9.53 の?を満たす大ギアが必要になります。計算してみると58.73丁、つまり58丁か59丁の大ギアが必要なことになります。一応60丁までは市販品が存在しています。
続いて一番軽いギアでロールアウト2.55mを得るには現在のラインナップで一般的な25丁や28丁で計算してみると
?/25*1.785≒2.55 もしくは ?/28*1.785≒2.55 を満たす大ギアが必要になります。
25丁を前提に計算してみると35.7丁、つまり35丁か36丁の大ギアが必要なことになります。これは商品として存在はします。
28丁を前提に計算してみると40丁になります。これも商品として存在します。
が、しかしここで問題が発生します。現在市販されているロードレーサー向けの変速機を見てみるとシマノの最高級品
DULA-ACEの場合対応トップギア50-55、セカンドグレード
ULTEGRAの場合対応トップギア46-53、サードグレード
105の場合対応トップギア50-56、で一番大きな大ギアに対応する105の場合でも58丁や59丁には対応していない上にサードグレードです。おまけにDULA-ACEもULTEGRAも105も前変速機の対応する歯数差は16丁までなので大ギアのインナーが36丁の場合52丁、40丁の場合56丁(105でぎりぎり対応)となりどうあがいても適正なギア比をカバーできません。
更にこれが大きい方の20インチ(451)の場合必要な大ギアはタイヤ周長が1545mmなので
?/11*1.545≒9.53
?/28*1.545≒2.55
を満たす大ギアの歯数構成はアウター68丁インナー46丁となり
小さい方の20インチ(406)の場合必要な大ギアはタイヤ周長が1450mmなので
?/11*1.45≒9.53
?/28*1.45≒2.55
を満たす大ギアの歯数構成はアウター72丁インナー49丁となり
一般的な16インチの場合必要な大ギアはタイヤ周長が1195mmなので
?/11*1.195≒9.53
?/28*1.195≒2.55
を満たす大ギアの歯数構成はアウター88丁インナー60丁となります。
24インチはなんとか近いギア比まではもっていけますが小径である時点で機械的にロードレーサーと同等のスピードを出すのは不可能ということになります。
またロールアウトの問題を何らかの方法で解決したとして(9tトップのカプレオで我慢するとか)タイヤの直径が小さい事で機械的なデメリットが生じます。例えば同じロールアウトの場合各部品に掛かる負荷はタイヤの外周に反比例します。つまり単純計算で同じ距離を700cと16インチで走った場合タイヤ周長は2096:1195なので700cのタイヤが1回転する間に16インチのタイヤは1.75回転以上回ります。その間ハブは1.75倍の速度と回数数でまわり、タイヤは1.75倍多く地面と擦れ、ブレーキのリムへの攻撃頻度は1.75倍以上に上がりチェーンと小ギアは1.75倍擦れ、スポークは1.75倍多く空気抵抗を受けます。これらは複合して起こるので受けなくていい負荷をかなり受けなくてはいけないことになります。
さらに車輪の直径が小さくなればデリケートな後輪の変速機は地面に近づき接地しやすくなり、小さな車輪を適正な位置に持っていくためにタイヤが小さくなった分フレームは大きくなり(つまり重くなる)シートポストアングルも変わるためそのままでは変速機がまともに作動せず、障害物や地面のうねりに弱くなります。
同じ高さの障害物にぶつかったらどちらがより危険かって一目瞭然ですよね。

同じ溝に対してどうなるかもまた一目瞭然

さらにさらにホイールのスポークも短くならざるを得ずスポークは衝撃を吸収するパーツなので衝撃を吸収しなくなり、ハブへ伝わる衝撃も増し、多段変速の場合はおちょこの左右差もでかくなり… それをカバーするために細いタイヤは履けず細いタイヤを履けばガラスのように脆いホイールセットになってしまいます(僕の所持している24インチファニーロードなどは分かりやすく700cでは屁でもないちょっとした段差でパンクしますしリムが凹んでしまいます)。
これはいくらホイールベースやオフセットやトレール量を調節しても解決できない致命的な弱点といえるでしょう。小径である時点で速度や軽さや安定性や変速性能や走破性はすべて諦めないといけません。また日常で使う場合も外乱に弱くはっきり危険と言えるでしょう。
では小径はデメリットばかりなのかといえばそうでもなく極太のタイヤを履いたり低速であったりホイールの硬さが活かせるシチュエーションでならば有利な局面も有ります。それは競技用であればBMXやトライアル向けなどの特殊な動きをする自転車であったり、スタンドオーバーハイトを落としやすいので低身長の人向けの自転車であったり、明確に性能で劣ったとしても小ささそのものが趣味性となりうる一部のミニベロであったり、かわいいとかファッショナブルみたいな走行性能以外の面であったり…
ただ、少なくとも走行性能や耐久性や維持費の面では絶対的に不利であり『フルサイズに勝るとも劣らない走行性能』や『ロードレーサーと見比べても見劣りしない』などのミニベロ売ってる人達の言う
宣伝文句は話半分というか眉唾ものというかまぁ嘘だと思って『駄目なのは知ってるけどカッコイイ(かわいい)から乗る』くらいのスタンスがちょうどいいのではないかなと思います。
確かに小径車の中でも小径のデメリットを理解した上でファーストバイクになるよう創意工夫をしている車種もあったりします。Raleighのミニベロは比較的大きなチェンリングと角度を工夫したフロント変速機取り付けポストを追加しギア比とフロント変速のデメリットを軽減していますし、FUJIのミニベロはフレームをわざと柔らかく作って乗り心地を改善しようとしています。またギア比のカバー範囲の問題を超巨大なチェンリングでカバーしようとしているいちかわのミニベロや、変態機構を山盛りにして所有感の方を刺激しようというモールトンや一連の折りたたみ自転車なども存在します。やっぱり絶対性能は劣るし実用に供すなら維持費もかかりますし競技には使用できませんけどね。でもデメリットを承知の上なら選択肢の端っこにくらいは入れてもいいんじゃないかなとも思います。たぶん僕はもう二度と車輪の小さな自転車を買うことはないだろうけど。