# 黄金の林檎

## 第二章 — 賄賂と美女

イダ山の斜面で、
パリスは羊の群れを見守っていた。

若く、美しく、物静かな青年。
羊飼いとしては珍しく、竪琴を奏で、
詩を口ずさむ教養人でもあった。
一部の伝承によれば、
彼はかの賢者ケイロンの下で学んだという。

ケイロン――半人半馬のケンタウロスでありながら、
武術、弓術、馬術、音楽、医学、予言、
そして動物の世話に至るまで、
あらゆる知識を修めた稀代の賢者。
アキレウス、ヘラクレス、アスクレピオス……
数多の英雄が彼の弟子だった。

もしそれが真実ならば、
パリスは単なる羊飼いではない。
だが彼自身は、自分の出自を知らなかった。

自分がトロイアの王子であること。

プリアモス王の息子として生まれながら、
「この子は国を滅ぼす」という予言のために、
殺されるはずだったこと。

家臣が憐れんで山に捨て、
羊飼いに拾われて育てられたこと。

何も知らぬまま、パリスは穏やかな日々を送っていた
――あの日までは。

---

「パリス」

突然、眩い光が彼を包んだ。

目を開けると、そこに三人の女性が立っていた。
いや、女性などという言葉では足りない。
彼女たちは**女神**だった。

一人は威厳に満ち、孔雀の羽を編んだ冠を戴いている。
母神ヘラ。

一人は兜と槍を携え、灰色の瞳が知性の光を宿している。

知恵の女神アテナ。

一人は薔薇色のヴェールに包まれ、
その微笑だけで男の理性を溶かす。
美の女神アフロディテ。

そして彼女たちの前には、黄金に輝く林檎が一つ。

「あなたに判断してもらいたいの」

アフロディテが囁く。甘く、蠱惑的な声だった。

「私たち三人の中で、誰が最も美しいか」

「え……?」

パリスは困惑した。
羊飼いの自分が、神々の美を審判するなど、
おこがましいにも程がある。

「お断りします」

彼は首を横に振った。

「そのような大それたこと、私には」

「謙遜なさらないで」

ヘラが歩み寄る。
圧倒的な存在感に、パリスは息を呑んだ。

「あなたは公平で、温和で、争いを好まない。
だからこそ選ばれたのよ」

「でも……」

「お願い」

アテナが静かに言う。
「ゼウス様でさえ、この判断は下せなかった。
だからこそ、神ならざる者
――あなたの目が必要なの」

三人に代わる代わる懇願され、
パリスはついに折れた。

「……わかりました」

彼の返事を聞くや否や、三人の女神の目が光った。

---

**まず動いたのはヘラだった。**

「パリス」

女神が近づき、その声は蜂蜜のように甘くなる。

「もしあなたが私を選んでくれたなら、
**莫大な権力**を授けましょう。
あなたはアジア全土の王となり、
あらゆる国があなたの前に膝を屈するわ」

権力。支配。絶対的な力。

それは確かに魅力的だった――が、
パリスは権力に興味がなかった。
彼は羊と竪琴があれば満足だったのだ。

**次に口を開いたのはアテナだった。**

「パリス」

知恵の女神が兜を外す。
その下から現れた顔は、凛として美しかった。

「もしあなたが私を選ぶなら、
**戦さでの常勝**を与えましょう。
あなたはどんな戦いにも勝利し、
歴史に名を刻む英雄となる。
誰もがあなたの武勇を讃えるわ」

武勇。名声。不敗の栄光。

英雄譚を聞いて育った青年にとって、
それは心動かされる提案だった
――が、パリスは争いを好まなかった。

**そして最後に、アフロディテが微笑んだ。**

「パリス」

美の女神が彼の手を取る。
柔らかく、温かく、その感触だけで心臓が高鳴る。

「もしあなたが私を選んでくれたら、
**世界一の美女**をあなたのものにしてあげる」

その瞬間、パリスの心が揺れた。

権力も武勇も要らない。
だが愛――それだけは欲しかった。

「世界一の……美女?」

「ええ」

アフロディテが囁く。
「ヘレネ。スパルタの王妃にして、
この世で最も美しい女性。
彼女をあなたのものにしてあげるわ」

---

**まぁ、賄賂に釣られる時点で公平さに欠ける。**

審判として微妙だし、
そもそも神々がこんな取引をすること自体、茶番だった。

だがパリスは若く、恋に飢えていた。

「……私は、アフロディテ様を選びます」

彼は黄金の林檎を、美の女神に差し出した。

アフロディテは歓喜の笑みを浮かべ、
ヘラとアテナは激怒した。

「後悔するわよ、パリス」

アテナが冷たく告げる。

「あなたの選択は、血で贖われることになる」

「トロイアは灰燼に帰すでしょう」

ヘラが呪いのように囁く。

だがパリスには、まだわからなかった。

自分が何を選んだのか。

自分の選択が、どれほどの悲劇を生むのか。

---

**そして、もう一つの問題があった。**

パリスには既に妻がいたのだ。

ニンフのオイノネ
――イダ山の清らかな泉に住む、心優しい妻。
彼女はパリスを愛し、彼もまた彼女を愛していた。

少なくとも、**林檎を渡すまでは。**

だがギリシャ神話の世界では、
一夫一婦制など絵空事だった。
大神ゼウスからして、
妻ヘラがいながら無数の愛人を持ち、
英雄たちもまた、
妻や妾を各地に持つのが当たり前だった。

**女神がいる割に、女性の地位は低い。**

皮肉なものだ。

そしてパリスが「世界一の美女」として
手に入れることになる女性
――ヘレネもまた、いわくつきの女だった。

美しすぎるがゆえに、幼い頃から奪い合われ、
誘拐され、政略結婚に利用され続けた女。

まぁ、こういう経緯で選ばれるからには、
やはりそういう運命の女になるのも
仕方ないのかもしれない。

だが彼女には、既に夫がいた。

スパルタの王、メネラオス
――その名は、やがて戦場に響き渡ることになる。


## 第三章 — 美しすぎた女

(続く)

 

今回から以前 纏めたトロイア戦争 全21回を

AIに小説化して貰ったものを連載しようかと思います

ギリシャ神話最大の戦争と言っても過言ではない

一人の女性を巡って行われた国家存亡の戦いと

それに関わる多くの人の物語です

 

 

# 黄金の林檎

## 序章 — 運命の宴

エーゲ海の波が静かに打ち寄せる夜、
プティアの王宮は祝祭の光に包まれていた。

海の女神テティスと人間の王ペレウスの婚礼
――それは神々と人間が共に祝福する、
稀有な儀式だった。
大理石の柱には葡萄の蔓が巻きつけられ、
松明の炎が黄金の杯を照らし出す。
オリュンポスの神々が人の姿で列席し、
英雄たちが腰を据える。
笑い声と竪琴の音色が、満月の下で溶け合っていた。

だが、テティスの心には一抹の影があった。

彼女は美しかった。
海の泡のように白い肌、波のように流れる黒髪。
その美貌ゆえに、かつて大神ゼウスも、
海神ポセイドンも、彼女を妻に望んだ。
けれど法と掟の女神テミスが予言したのだ。

「テティスの息子は、
父を上回る偉大な者となるだろう」

その言葉により、神々は身を引いた。
自らを超える存在を生むことを、
不死なる神は恐れたのだ。
かくして彼女は、勇敢ではあるが定命の人間
――ペレウス王に与えられた。

「お美しい」

ペレウスが囁く。
彼は誠実な男だった。
テティスは微笑んだが、
その笑みは海面に映る月のように、どこか遠かった。

宴もたけなわとなった頃、
突然、冷たい風が吹き抜けた。

松明の炎が揺れ、ざわめきが広がる。
祝宴の中央、誰も座っていない場所に、
一つの林檎が転がっていた。
黄金に輝くその果実には、
古代文字でこう刻まれていた。

**「最も美しき者へ」**

「……エリス」

知恵の女神アテナが呟いた。
灰色の瞳が鋭く光る。

不和と争いの女神エリス
――あらゆる不幸と対立を糧とする神。
彼女だけが、この祝宴に招かれていなかった。
当然のことだった。
祝福の場に争いの種を持ち込ませるわけにはいかない。

だが今、その報復が為されたのだ。

「なんと見事な林檎でしょう」

最初に手を伸ばしたのは、美の女神アフロディテだった。

薔薇色のヴェールをまとい、
その一挙手一投足が官能を纏う女神。


「当然、これは私のものですわ。
美しさにおいて、私に並ぶ者などいないのですから」

「待たれよ、アフロディテ」

低く響く声。母神ヘラが立ち上がった。
孔雀の羽を編み込んだ王冠を戴き、
威厳に満ちたその姿は、まさに神々の女王だった。


「美しさとは外見だけではない。
権威、品格、そして力
――それらすべてを備えた者こそが、
真に美しいのだ。
この林檎は私が受け取るべきもの」

「お二人とも、少々早計では?」

アテナが静かに歩み出る。
兜と槍を携えた戦いの女神だが、
その知性は誰よりも鋭い。


「美しさとは知恵と勇気の輝きでもある。
愚かな美貌など、暗闇の中の虚飾に過ぎぬ」

三人の女神が、黄金の林檎を囲んで対峙した。

空気が張り詰める。

列席していた神々も英雄たちも、息を呑んだ。
誰もが知っていた
――この三人が争えば、その余波は計り知れないと。

「……これは」
ペレウスが蒼白になった。


「我が婚礼が、争いの種に」

「いいえ」

テティスが夫の手を取る。
悲しげな笑みを浮かべながら。


「これは始まりに過ぎないわ。
エリスの林檎は、ただの果実ではない。
それは……運命そのものよ」

彼女には見えていた。

この林檎が転がり始めた先に、
血と炎の未来が広がっていることを。
やがて自分が産む息子
――まだ見ぬ我が子が、
その戦火の中で燃え尽きる運命にあることを。

宴の笑い声は消え、不穏な沈黙だけが残った。

三人の女神は、互いに一歩も譲らない。

「ゼウス様に裁定を仰ぎましょう」

アフロディテが提案した。

だがその時、玉座に座る大神ゼウスは、
珍しく視線を逸らした。
雷霆を操る全能の神が、この判断だけは下せなかった。
妻であるヘラ、娘であるアテナとアフロディテ
――誰を選んでも、他の二人の怒りを買う。

「私には……判断できぬ」

ゼウスの言葉に、誰もが驚愕した。

「では誰が?」

「人間だ」

ゼウスが告げる。
「神ならざる者の目で、判断させよう。
それならば、誰も異を唱えられまい」

かくして、黄金の林檎の審判は、
一人の人間に委ねられることになった。

その人間こそ
――トロイアの王子、パリスである。

まだ誰も知らない。

この小さな林檎が、千隻の船を動かし、
十年の戦争を生み、
無数の英雄を死に至らしめることを。

エリスだけが、遠くで笑っていた。

不和の女神の笑い声は、
やがて来る悲劇の序曲だった。


## 第一章 — 羊飼いの審判

(続く)

 

 

 

第百二十八弾「鋼鉄の翼」の続きです

 

# 義足のヒーロー

春野健太は朝起きて、
ベッド脇の充電ドックに収まっている
動力補助付き義肢を装着した。
高校生の時に交通事故で両足を切断し、
短距離走選手の夢を絶たれた彼は、
父が所長を務める研究所の主任研究員
・橘誠一郎率いるチームが開発した
この最新鋭の動力補助付き義肢の
テスト要員になっていた。
そして最近、遂に百メートル9秒台で
走れるようになった。

研究所に向かう時はジャージを着て行くので、
下半身は見えず、誰にも違和感を
持たれることは無かった。
今日もいつものように朝食を済ませて家を出て、
研究所に向かった。
良い天気で、屋外のトラックを走るのに
丁度良い気温だった。

駅に向かって歩いていると、突然悲鳴がした。

スクーターに二人乗りした人物が、
通勤中の女性の鞄を引ったくったようだった。
それに気付いた健太は、犯人のスクーターを追った。
普通の人なら追いつけないし、諦める所だろう。
だが彼は、自分が装着している
動力補助付き義肢の性能を信じていた。

健太は犯人のスクーターに追い付き、
並走してスクーターのブレーキを握った。
スクーターは速度を落とし、止まった。
犯人は逃げようとしたが、
一人は健太が後ろから服を掴んだことで転倒し、
もう一人は、健太が咄嗟に蹴り飛ばしたことで
数メートル飛んでいった。

「ひったくりです。警察に通報してください!」
健太は大声で叫んだ。

幸い近くに交番があったので、
すぐに警察官が駆け付け、犯人を連行して行った。
健太も状況説明のために交番に行った。

---

「君、すごいな。あのスクーターに追いついたのか?」
若い警察官が驚いた様子で尋ねた。

「はい。たまたま走るのが得意で……」
健太は曖昧に答えた。

事情聴取を終えて交番を出ると、
被害に遭った女性が待っていた。

「本当にありがとうございました。
まさか取り返せるとは思っていなくて……」

女性は深々と頭を下げた。

「お名前を教えていただけますか?」

「春野健太です。でも、気にしないでください。
当然のことをしただけですから」

女性が去った後、健太はふと自分の両足を見下ろした。
事故の後、何度も「もう走れない」と言われた。
それでも諦めきれなかった。
そして今、この義肢は彼に新しい可能性を与えてくれた。

研究所に着くと、橘主任研究員が待っていた。

「健太君、今朝のひったくり事件、
もうニュースになってるぞ。
『謎の青年がスクーターに追いつき犯人を捕まえる』
ってな」

橘は少し困った顔をしていた。

「義肢のことが注目されるかもしれない」

「すみません。でも、あの時は何も考えずに……」

「謝ることはない」
橘は笑った。

「むしろ誇りに思うよ。
この義肢は、失われた機能を補うだけじゃない。
人を助けることもできる。
それを君が証明してくれた」

その日の夕方、健太の父から電話があった。

「健太、今日のこと聞いたぞ。
よくやった。お前の母さんも喜んでる」

「でも、父さん。これって良かったのかな。
義肢のことが知られたら……」

「健太」
父の声は穏やかだった。

「お前は事故の後、
ずっと人の役に立ちたいと言っていた。
それが今日、叶ったんだ。
義肢があろうとなかろうと、
お前がやったことには変わりない」

電話を切った後、健太は窓の外を見た。
夕日が沈みかけている。
彼は改めて自分の足を見下ろした。
確かにこれは機械だ。
でも、この足で走り、人を助けることができた。

翌朝、研究所のトラックで走る健太の姿は、
いつもより軽やかだった。
橘主任研究員がストップウォッチを見て声を上げた。

「健太君! 9秒8だ! 自己ベスト更新だぞ!」

健太は笑顔で答えた。

「もっと速く走れるようになりたいです。
次に誰かが困っていたら、
もっと早く助けられるように」

それを聞いた橘は、少し目を細めた。

「そうか。
じゃあ、さらに性能を上げる必要があるな」

春の風が、トラックを優しく吹き抜けていった。
健太は再びスタートラインに立った。
失ったものは確かに大きかった。
でも、得たものもまた、かけがえのないものだった。

彼の新しい夢は、もう始まっていた。

 

 

欲は人を成長させ進化させる

だが争いを起こし人との関係を悪化させる

全ての物事にはメリットとデメリットがあり

それは表裏一体でどちらかだけを選ぶ事は出来ません

最近 それを忘れた人を多く見かけます

メリットだけを享受する

そんな上手い話は決してありません

必ずデメリットも付いて来ます

 

 

# 欲望喰い

入学式の桜が散る頃には、もう始まっていた。

「おい、ノート貸せよ」
「財布落としたんだ。千円貸してくれない?」
「お前、マジでキモいって自覚ある?」

教室の隅で、僕は小さくなっていた。
助けを求める視線を向けても、
クラスメイトたちは目を逸らす。
見て見ぬふりをする。
それが一番安全だと、みんな知っているから。

二ヶ月が過ぎた頃、僕は担任の田中先生に相談した。

「先生、実は……」

田中先生は困った顔で頷き、
「分かった。ちゃんと対処するから」と言った。
その言葉を信じて、僕は少しだけ希望を持った。

でも、それが間違いだった。

数日後、学年主任に呼ばれた。
応接室のような部屋で、校長、教頭、
学年主任が並んで座っていた。

「君の訴えについて調査した結果、
いじめの事実は確認できなかった」

校長の言葉は冷たかった。

「生徒間のコミュニケーションの行き違いは
あったかもしれないが、本校にいじめは存在しない。
これは公式な見解だ」

その日から、いじめは「存在しないもの」になった。
書類の上では。

でも現実は何も変わらなかった。
いや、悪化した。

「お前、チクったんだって?」

「最悪だな。先生に泣きついて」

標的として、僕はより明確になった。
そして学校は、もう僕を助けてくれない。
公式には「いじめは存在しない」のだから。

夜、布団の中で僕は祈った。

神様でも悪魔でも何でもいい。
この状況を変える力をください。
毎晩、毎晩、同じ言葉を繰り返した。

二年生になった。
クラス替えがあったが、
いじめっ子の何人かは同じクラスだった。
いじめも続いた。まるで何も変わらない日常。

でもその日、放課後の教室で、それは起きた。

机に突っ伏していた僕の脳裏に、
突然、映像が流れ込んできた。
幾何学的な模様、理解できない言語、
そして確かな知識。

『欲望を喰らえ』

啓示だった。何の啓示かは分からない。
でも僕は、確かに力を得た。

「おい、起きろよ」

背中を蹴られた。振り返ると、田村がいた。
彼はいつも僕の消しゴムを隠したり、
ノートに落書きをしたりする。

田村の中に、何かが見えた。
渦巻くような、赤黒い塊。
それが彼の欲望だと、僕は直感的に理解した。

『親に褒められたい。認められたい。
でも成績が上がらない。勉強しても無駄だ。
だから、こいつを殴ろう』

僕は手を伸ばした。
物理的にではなく、精神的に。
そして、その欲望を掴んだ。

ゴクリ。

田村の顔色が変わった。
赤黒い何かが僕の中に流れ込んでくる。
温かくて、甘くて、満たされる感覚。

「あれ……?」

田村は首を傾げた。

「何で、俺、お前に絡んでたんだっけ?」

彼は呆然と自分の手を見つめ、
そのまま教室を出て行った。
その背中には、以前のような攻撃性がなかった。
ただ、何かが抜け落ちた人間がそこにいた。

翌日、田村は授業中もぼんやりしていた。
先生に当てられても「分かりません」と答え、
休み時間も机に突っ伏している。
成績を上げたいという欲望を失った彼は、
勉強する理由を失ったのだ。

でも、僕への嫌がらせはなくなった。

数日後、
不良グループの下っ端、佐藤が僕を呼び出した。

「財布出せよ」

いつもの恐喝。
佐藤の中にも見えた。
灰色に光る欲望の塊。

『グループで上に行きたい。認められたい。
強くなりたい。でも無理だ。先輩たちには勝てない。
だから、こいつから奪おう』

僕は迷わなかった。
手を伸ばし、その欲望を喰らった。

「……あれ?」

佐藤は財布を受け取ろうとした手を下ろした。

「何で俺、こんなことしてんだろ」

彼はそのまま立ち去った。
翌日から、佐藤は不良グループと距離を置き始めた。
上に行きたいという欲望がなければ、
つらい下っ端生活を続ける理由がない。
彼は普通の生徒になった。
無気力で、目的のない。

それから僕は
いじめてくる生徒の欲望を次々と喰らった。

部活でレギュラーになりたい奴。

好きな子に振り向いてほしい奴。

親の期待に応えたい奴。

友達から認められたい奴。

みんな、その欲望が満たされないストレスを
僕にぶつけていた。
そして僕は、そのすべてを奪った。

一人、また一人。

クラスから活気が消えていった。
誰も大きな声で笑わなくなった。
部活に打ち込む者もいなくなった。
恋愛も、友情も、ライバル意識も、
すべてが薄れていった。

でも同時に、いじめもなくなった。
喧嘩もなくなった。言い争いもなくなった。

みんな、ただ座って、授業を受けて、家に帰る。
他人に関心を持たない。
自分の向上も望まない。ただ、生きているだけ。

教室は静かだった。
とても静かで、穏やかで、平和だった。

僕はもう虐められない。
誰も僕に関心を持たないから。

机に突っ伏しながら、僕は思う。

これが、僕が望んだ世界だったのだろうか。

教室を見渡す。
虚ろな目をした生徒たち。
かつて僕を苦しめた彼らは、今は抜け殻だ。
欲望という燃料を失った、動く人形。

でも、これでいい。

そう自分に言い聞かせながら、僕は次の獲物を探す。
まだ僕を虐めていない生徒たちの中にも、
いつか牙を剥く可能性がある者がいるかもしれない。

予防のために。安全のために。

僕は今日も、欲望を喰らい続ける。

平和な教室を守るために。

—— 終 ——

 

 

小説や漫画やアニメの不殺が非常に嫌いで

そんな綺麗事で乗り切れるわけが無いと思っています

更にそういう行為は相手を馬鹿にして

見下しているのにそれを全く描いていません

不殺なんてする輩は大切な人を失って

自分の傲慢さを後悔しまくればいいと思います

 

 

「血に立つ現実、祈りに揺れる理想」

石の匂いと血の匂いが混じり合い、村は沈黙していた。
山賊の襲撃で、老若男女の六割が死んだ。
泣く声すら尽き、
残った者は呆然と立ち尽くすだけだった。

冒険者である彼は、その時、狩りで山に入っていた。
戻った時に見たのは、焼けた家屋と、
地に伏す知人たちの亡骸だった。
喉の奥が鳴り、視界が赤く染まる。
足は、自然と教会へ向かった。

教会の中では、幼馴染のシスターが子供たちを庇い、
震える腕で抱きしめていた。
すでに数人の子供が、足元で冷たくなっている。
山賊たちは笑い、刃を向けていた。
シスターは泣きながら、
最後の覚悟を決めた顔で、子供たちと抱き合っていた。

その瞬間、重い扉が軋み、開いた。
彼だった。

一歩、踏み込む。
次の瞬間、血が噴き、骨が砕ける音がした。
剣はためらいなく振るわれ、
数人の山賊が瞬く間に屍と化す。
子供たちに刃を向けていた者たちも、
彼に襲いかかったが、結果は同じだった。
惨殺――それ以外の言葉が見当たらない。

彼は、シスターと子供たちの前に立ち、
最後に残った山賊たちと対峙した。
その時、背後から震える声が飛んだ。

「……これ以上、殺さないで!」

叫びは、祈りのようでもあった。
しかし彼は振り返らない。
剣は止まらず、残りの山賊は全て倒れた。

静寂が戻った時、
彼はゆっくりとシスターの前へ行き、
躊躇なく頬を叩いた。

「山賊を一人でも逃したら、また村人が殺される。
それが分かっていて、あんなことを言ったのか!」

怒鳴り声が教会に反響する。

「毎年、どれだけの村が、どれだけの命が
奪われているか、知らないはずがないだろ!」

シスターは唇を噛み、何も言い返せなかった。
彼女の言葉は理想だった。
確かに正しい。
だが、実現するまでに払う犠牲の重さを、
彼は嫌というほど知っていた。

理想より、目の前の現実を
――それが彼の選んだ道だった。

シスターは、視界に映る山賊と村人、
そして子供たちの亡骸を見つめた。
胸が締めつけられる。
彼女は初めて、自分の信じてきた言葉を疑い、
もう一度考え直さなければならない、
と静かに思い至った。
 

第百五十弾の続きです

 

 

「空間魔法の隠者」

第一章 消失
河原から人間が消えた瞬間、
暴行を加えていた七人は互いの顔を見合わせた。
「おい、今……」
「見たよな?」
彼らは辺りを慌てて見回したが、
血痕だけが残された地面には何も無かった。
やがて恐怖に駆られた彼らは散り散りに逃げ去った。

その頃、佐藤隆司は自分の空間魔法の中で、
時間を止められた被害者の前に立っていた。
四十七歳――いや、実際には五十五歳の男は、
久しぶりの「行動」に心臓が早鐘を打つのを感じていた。
引きこもって三十年。
魔法を得てから八年。
外界に出たのは今夜が三年ぶりだった。

「どうしよう……」

隆司には医療知識も、人を助ける術も無い。
ただ、この人を見殺しにはできない
という衝動だけがあった。
唯一頼れる相手。
三十年前、高校で壮絶な虐めに遭っていた自分に、
最後まで声をかけ続けてくれた友人――田中浩二。
彼なら、今でも。
隆司はスマートフォンを取り出した。
八年前に両親が亡くなった時、
葬儀の手配だけは健一に頼んでいた。
それ以来の連絡だった。

第二章 再会
深夜二時。
浩二の自宅前に現れた隆司を見て、浩二は目を疑った。

「佐藤……?お前、三年前より若く見えるんだが」

「説明は後で。今、助けたい人がいる。
医者、知らないか?」

「医者?救急車呼べよ」

「それが……複雑で」

佐藤の必死な様子に、健一は深く訊かずに頷いた。

「俺の妹が看護師だ。今から呼ぶ」

三十分後、浩二の妹・美咲が到着した。
隆司は空間魔法から被害者を取り出した
――正確には、空間の「出口」だけを開いて、
時間を動かし、被害者を外界に滑り出させた。
美咲が悲鳴を上げた。

「これ、警察案件よ!すぐ救急車!」

「待ってくれ」隆司が制した。

「佐藤、何があった?」

隆司は震える声で説明した。
河原での暴行。突然の収容。時間停止。

「……お前、何言ってんだ?」

「信じられないのは分かる。でも」

隆司は自分の私物――本や服や食料
――を次々と空間から取り出してみせた。
美咲も浩二も、言葉を失った。

第三章 選択

救急搬送された被害者
――二十代の女性だと判明した
――は一命を取り留めた。
肋骨骨折、内臓損傷、頭部打撲。
あと少し遅ければ確実に死んでいた。
警察の事情聴取で、
隆司は「たまたま通りかかって、
犯人たちが逃げた後に発見した」と証言した。
魔法のことは黙っていた。
女性――名前は田中春菜
――が意識を取り戻したのは三日後だった。

「助けてくれたのは……あなた?」

病室を訪れた隆司に、春菜は涙を流した。

「ありがとうございます。
私、もうダメだと思ってました」

「良かった。無事で」

隆司は不器用に微笑んだ。
三十年ぶりに、誰かに感謝される経験だった。
春菜の話では、彼女も職場で激しいハラスメントを受け、
退職後も元同僚たちから
執拗な嫌がらせを受けていたという。
あの夜の暴行は、その「最終章」だった。

「私も……逃げてばかりでした。
でも、もう逃げません。警察に全部話します」

春菜の決意を聞いて、隆司は自分の三十年を思った。
逃げて、隠れて、魔法という奇跡を得ても、
それを自分を守るためだけに使ってきた。

「俺は……ずっと逃げてきた」

隆司は初めて、自分の過去を他人に語った。
高校での虐め。
引きこもり。
両親への申し訳なさ。
魔法の獲得。
空間での隠遁生活。
春菜は静かに聞いていた。

「でも、あなたは私を助けてくれた」

「たまたまだ」

「たまたまでも、行動した。
それが大事なんじゃないですか?」

第四章 新しい扉

春菜の事件は、彼女の証言と防犯カメラの映像により、
加害者七人全員が逮捕された。
隆司は浩二と美咲に、空間魔法のすべてを打ち明けた。

「つまり、お前はこの八年間、
異次元で暮らしてたわけ?」

浩二は呆れたように言った。

「すごい……」
美咲は目を輝かせた。

「それ、色々なことに使えるんじゃない?」

「色々?」

「災害時の避難所とか、食糧難の解決とか……
あ、でも秘密にしないとヤバいか」

隆司は考えた。
確かに自分の能力は強力だ。
だが公にすれば、間違いなく実験材料にされるか、
権力者に利用される。

「俺は……目立たないように、
でも必要な時には使っていきたい」

それから一年。隆司は浩二、美咲、
そして回復した春菜と共に、小さな支援活動を始めた。
虐めや暴力から逃げている人々に、
一時的な「安全な場所」を提供する。
空間魔法の中で身を隠し、心を癒し
、次のステップを考える時間を与える。

春菜自身が最初の相談員となり、
隆司の空間は「見えないシェルター」
として機能し始めた。

五十六歳になった隆司は、
時折、空間魔法の中に作った海を眺めながら思う。
三十年間の引きこもり。
八年間の隠遁生活。
それらは無駄ではなかった。
あの河原で春菜を助けるため、
この魔法は与えられたのかもしれない。
いや、理由なんてどうでもいい。
大切なのは、今、自分が何をするかだ。
隆司は初めて、自分の人生に小さな誇りを感じていた。
空間魔法の中に作った夕日が、
ゆっくりと水平線に沈んでいく。
それは隆司にとって、新しい朝の始まりだった。
 

虐めで引き籠もった男が

再生するお話を作ってみました

まだその最初の一歩だし

魔法というありえないもので

何も出来ない彼を主人公に押し上げてみました

魔法=彼の唯一の特技という事で

現実なら別のものに置き換えてもいいでしょうね

 

 

「空間の中の救済」


四十七歳の誕生日、
俺は自室のベッドで天井を見つめていた。
高校二年の冬から数えて、三十年。
この六畳間が俺の世界の全てだった。
最初の数年は両親も説得を試みた。
カウンセリングに連れて行こうとしたり、
様々な言葉をかけてきた。

だが十年を過ぎる頃には、彼らも諦めたようだった。
食事を部屋の前に置き、洗濯物を回収する。
それだけの関係になった。
虐めの記憶は今も鮮明だ。
クラス全員に無視され、教科書を隠され、
上履きに画鋲を入れられた。
それでも耐えていた。
だが、ある日突然、
五人の男子に囲まれて殴られた時、何かが壊れた。
それ以来、俺は部屋から出られなくなった。

両親も七十代後半になった。
二人とも体が弱ってきている。
この先、彼らが死んだら俺はどうすればいいのか。
答えは一つしかないと思っていた。

その日も、そんなことを考えていた。
ふと、右手に違和感を覚えた。
空気が歪むような感覚。
目の前に、黒い亀裂が現れた。

「……何だ、これ」

恐る恐る手を伸ばすと、
指先が亀裂の中に吸い込まれた。
痛みはない。
引き抜くと、
何事もなかったかのように指は無事だった。
試しにペンを入れてみる。
ペンは亀裂の中に消えた。
そして、「取り出したい」と思った瞬間、
ペンが手の中に戻ってきた。

魔法。
そう呼ぶしかないものを、俺は習得していた。



空間魔法と名付けたそれは、
あらゆるものを収納できた。
試しに本棚を丸ごと入れてみると、簡単に収まった。
机も、ベッドも、パソコンも。
部屋中の物を入れても、まだ余裕がある。
内部を覗いてみると、
そこには広大な空間が広がっていた。
地平線が見えるほどの広さ。
いや、地平線どころか、
上を見上げれば星空のようなものまで見えた。
俺は空間魔法の中に入ることもできた。

中は静寂に満ちていた。
時間の流れさえも、
俺の意思で制御できることに気づいた。
ここなら、一人でも生きていける。
そう思った俺は、準備を始めた。

通販で種を買い、土を買い、農具を買った。
空間の中に畑を作った。
最初は上手くいかなかったが、
時間を早送りすることで試行錯誤を繰り返した。
次に池を作り、川を作り、森を作った。
魚も放流した。
五年かけて、
俺は空間の中に小さな世界を築き上げた。

そして五十二歳の春、
両親が相次いで亡くなった。
葬儀には出なかった。出られなかった。
遺産は思ったより多かった。
だが、自給自足の生活を確立していた俺には、
ほとんど使い道がなかった。

俺は完全に空間魔法の中で暮らすことにした。
中では時間を遅くして、老化を止めた。
外では一年が過ぎても、
俺の体は一日しか歳を取らない。
静かだった。穏やかだった。

だが、三年が過ぎた頃、ふと思った。
外の世界は、どうなっているのだろう。



五十五歳の体で、三十代に見える外見のまま、
俺は八年ぶりに外に出た。
夜の街は、八年前とさほど変わらないように見えた。
ただ、看板やポスターに書かれているものが
何を意味するのか、よく分からなかった。
流行は完全に置いていかれていた。
それでも、夜風は気持ちよかった。

河原沿いの遊歩道を歩いていると、声が聞こえた。

「もういい加減にしろよ!」

「まだまだ、これからだろ?」

笑い声。そして、鈍い音。
茂みの向こうを覗くと、
七人の男女が一人の人物を囲んで
殴る蹴るの暴行を加えていた。
血が流れていた。
倒れている人物は、もう抵抗する力もないようだった。
俺の中で、三十年前の記憶が蘇った。
あの時の自分。
助けを求めたのに、誰も来なかった。
だが、俺に何ができる? 喧嘩なんてしたことがない。
七人を相手にできるはずがない。
それでも、見ているだけで、
あの人物は死んでしまうかもしれない。
その時、思いついた。
空間魔法なら。
俺は茂みに隠れたまま、集中した。
倒れている人物に照準を合わせる。

暴行している連中が一瞬、隙を見せた瞬間。

「収納」

倒れていた人物が、音もなく消えた。

「え?」

「どこ行った?」

男女は混乱していた。
周囲を見回し、川の中を覗き込む者もいた。
俺はそっとその場を離れた。
空間魔法の中で、倒れている人物を確認した。
若い、二十代くらいの女性だった。
顔は腫れ上がり、服は破れ、出血していた。
治療の知識はない。
だが、時間を止めることはできる。
俺は彼女の周囲の時間を完全に停止させた。
これで、少なくとも悪化することはない。

どうする?

病院に連れて行くべきか。
だが、警察が関わってくる。
俺が関わっていることがバレるかもしれない。
いや、その前に。
俺には、唯一心を許せる人物がいた。
高校時代、虐められていた俺に、
最後まで話しかけてくれた友人。
引きこもってからも、時々メールをくれた。
数年前から返信はしていなかったが。

田中浩二。
彼なら、何か知恵を貸してくれるかもしれない。
俺は震える手でスマホを取り出し、
久しぶりに彼の番号を探した。

「もしもし?」

聞き慣れた声。

「……田中か。俺だ」

「……まさか、佐藤? お前、生きてたのか!」

「ああ。あのさ、今から会えないか。
頼みたいことがある」

電話の向こうで、田中は少しの間沈黙した。

「……分かった。どこで会う?」

俺は久しぶりに、誰かを頼ることにした。
空間魔法の中で眠る女性を見つめながら、俺は思った。
三十年間、誰にも助けられなかった俺が、
誰かを助けようとしている。
これは、新しい人生の始まりなのかもしれない。

 

久しぶりに水魔法使いレンの話を作りたくなり

レンの活躍のお話を作りました

 

これまでのレンのお話は以下があります

AI小説 「 復讐の水魔王」

AI小説 「 復讐の水魔王」後編

第四十二弾「水の帝国、千年の約束」

第四十三弾「水の帝国、千年の約束」その2

第四十四弾「水の帝国、千年の約束」その3

第四十五弾「水の帝国、千年の約束」その4

第四十六弾「水の帝国、千年の約束」その5 最終回

第四十七弾「風神と呼ばれた少年」

第四十八弾「水の魔法使いリオ 番外編:冒険者として」

 

 

# 水と炎の魔法使い

街の中央広場に、二人の魔法使いが対峙していた。

水の魔法使いレンと、帝国の爆炎の魔法使い。
その始まりは、あまりにも不運なすれ違いだった。

テロリストに誘拐された帝国の皇女を、
冒険者であるレンが偶然救出した。
ただそれだけのことだった。
しかし、皇女の護衛としてようやく追いついた
爆炎の魔法使いは、状況を見誤った。
皇女を抱えるレンの姿を見て、
彼をテロリストの仲間と断定し、
問答無用で攻撃を仕掛けたのだ。

炎の奔流が街路を焼き、
無関係な住民数人が負傷した。

レンは激怒した。

「貴様......!」

広場に水柱が立ち上がる。
爆炎の魔法使いの炎弾が宙で炸裂し、
蒸気が白く立ち込める。
一見、二人の激しい攻撃は互角に見えた。
紅蓮の炎と碧い水流が交錯し、
街の石畳を削り取っていく。

だが、見る者が見れば分かる。
爆炎の魔法使いは必死だった。
額に汗を浮かべ、息を荒げ、
全力で魔力を振り絞っている。

対してレンには余裕があった。

「いい加減にしないと、この争いの根本を断ちますよ」

レンは静かに、しかし冷たく言い放った。

爆炎の魔法使いは眉をひそめる。
その言葉が何を意味するのか、彼には分からなかった。
次の攻撃魔法を詠唱しようとした、その時だった。

「緊急通信! 緊急通信!」

帝国本土から、通信兵の声が魔道具越しに響いた。
爆炎の魔法使いの顔色が変わる。

「帝都城壁が......突然、吹き飛びました! 
原因不明、攻撃の痕跡なし! 城壁が全て......!」

通信兵の声は恐慌に満ちていた。

帝都はここから何百キロも離れている。

爆炎の魔法使いが愕然とレンを見た瞬間、
レンは静かに微笑んだ。

「僕はどこにある水も操れます」

その声には、一片の躊躇もなかった。

「降伏しないのなら、このまま帝都を消滅させます。
そして皇族も、皆殺しにします」

レンの水魔法は、あらゆる水に作用する。
それが何百キロ、何千キロ離れていても関係ない。
そこに水さえあれば、レンはそれを操れる。
人体の七割は水でできている。
城壁のモルタルに含まれる水分も、地下水脈も、
すべてが彼の支配下にある。

そして、レンの力はそれだけではなかった。
水から猛毒ガスを発生させることも、
人の肉を溶かす強酸に変えることもできる。
水という物質の可能性を、彼は完全に支配していた。

その気になれば、
星を丸ごと消滅させることも可能だろう。
海を操り、洪水ですべての大陸を水没させることも。
あるいは大気中の水分から致死性のガスを
無限に生成し、この星を死の世界に変えることも。
レンという存在は、もはや一人の魔法使いではなく、
世界そのものの生殺与奪を握る災厄だった。

「城壁が全て消滅しました! 城門も......何もかも!」

通信兵の報告が続く。

爆炎の魔法使いは歯ぎしりした。
拳を握りしめ、全身を震わせる。
帝国最強の戦術兵器として恐れられ、
数々の戦場で勝利をもたらしてきた彼だったが、
レンという存在の前では、
ただの無力な人間に過ぎなかった。
帝国そのものを人質に取られたようなものだ。
手出しができるはずがなかった。

どれほどの時間が流れただろうか。
爆炎の魔法使いは、ついに膝を折った。

「......降伏する。だから、皇女だけは返してほしい」

それが精一杯だった。
誇り高き帝国の魔法使いにとって、これ以上ない屈辱。
だが、彼には選択肢がなかった。

レンは無言で皇女を引き渡した。
少女は恐怖に震えていたが、無事だった。

「住民に対する賠償もしてもらいますよ」

レンの声は、もう怒りを含んでいなかった。
ただ淡々と、事実を述べるだけだった。

「......当然だ」

爆炎の魔法使いは、
最後の矜持を保つように言い放つと、
皇女と帝国兵たちと共に去っていった。

レンは彼らの背中を見送り、深く息をついた。
広場の片隅では、
負傷した住民たちが手当てを受けている。

「まったく、とんだ災難だったな」

誰に言うでもなく、レンは呟いた。
そして静かに踵を返し、冒険者ギルドへと歩き出した。
賠償金の交渉は、ギルドマスターに任せればいい。

彼はただの冒険者に戻るのだ。

遠く帝都では、
消滅した城壁の再建が始まろうとしていた。
この日、帝国は知った。
水の魔法使いレンという名の、
触れてはならない存在を。

 

今の日本を見ていると

今後 日本で生きていく日本人が

本当に哀れに思います

そういう日本の将来を劇的に変えるには

進んで悪事を行える者でしかないんだろうなと思います

悪に対抗出来るのは悪だけです

悪は他人の正義感を擽り対抗心を低下させます

そういう時に悪になり切れる人じゃないと

悪に立ち向かう事は出来ません

どれだけ批判されようが悪に立ち向かう信念

周りから悪と言われても行える強さが無いと

出来ない事だと思います

 

 

# 再生の七日間

その日の朝、東京の空は澄み渡っていた。

午前五時、
首都圏の主要施設に武装集団が同時侵入した。
彼らの動きは訓練されており、
まるで軍事作戦のように精密だった。
テレビ局、新聞社、大学、省庁の一部
――長年日本を歪めてきた組織が瞬く間に制圧された。

サラリーマンの田中隆志は、
いつものように通勤電車に揺られながら
スマートフォンのニュースアプリを開いた。
そこには見慣れない文字が並んでいた。

「日本再生作戦、開始」

テレビは映らない。
ラジオも雑音だけだ。
だが、ネットは生きていた。
SNSには情報が流れ続けていた。
武装集団による「再生作戦」が始まったこと。
対象は「日本を蝕んできた者たち」であること。
国民に危害は加えないこと。

田中が会社に着くと、予想外の光景が広がっていた。

「営業二課の部長が連行されたぞ」
「あの人、いつも手柄を横取りしてたからな」
「政治部の佐藤部長も。
中国企業から接待受けてたの、みんな知ってたし」

その日から、街中で黒い車両が
特定の人々を次々と連れ去っていった。
汚職政治家、偏向報道を続けたジャーナリスト、
学生を洗脳してきた大学教授、不正を働いた企業経営者
――リストに載った者たちは例外なく捕らえられた。

三日目、田中の会社に大きな変化が訪れた。

人事部長が全社員を集めて発表した。
「これまで不当な評価を受けていた社員の
再評価を行います。
実力主義に基づいた新体制を構築します」

田中の同僚、山田が突然、課長に昇進した。
十五年間、地道に仕事をこなし、
後輩の面倒を見続けてきた男だ。
これまで上司のゴマすりが上手い連中に
何度も出世を追い越されてきた。

「山田さん、おめでとうございます!」

「いや、本当に驚いてる。もう諦めてたんだ」

山田の目には涙が光っていた。

一方、元部長の小林は、
今や一般社員として倉庫整理をさせられていた。
かつては部下に仕事を押し付け、
成果だけを横取りしていた男だ。

「重いな、これ…」

「当たり前でしょ。今まで楽してたんだから」

若手社員が冷たく言い放った。
小林は何も言い返せなかった。

五日目、街の雰囲気が変わり始めた。

田中が朝、駅に向かうと、
近所の人たちが明るく挨拶を交わしていた。

「おはようございます!」

「あ、おはようございます!」

以前は誰もが俯いて歩いていた通勤路が、
なぜか活気に満ちていた。
コンビニの店員も笑顔で接客している。

「なんか、雰囲気変わりましたね」
と田中が言うと、店員は頷いた。

「そうなんです。うちの店長が変わって。
前の店長、バイトをこき使うだけで
自分は楽してたんです。
今の店長は一緒に働いてくれて、
みんなやる気が出てます」

七日目、作戦は完了した。

数万人が孤島へ送られ、強制送還された。
残ったのは、真面目に働き、
日本を愛し、他人を思いやる人々だった。

一ヶ月後、田中は居酒屋で後輩と飲んでいた。

「先輩、最近、街が明るくなりましたよね」

「ああ、本当にそう思う。
電車の中でも、みんな余裕があるというか」

「残業も減りましたしね。
前は、仕事しないくせに遅くまで会社にいる
上司のせいで帰れなかったですから」

二人は乾杯した。

「これが本来の日本なんでしょうね」
と後輩が言った。

田中は窓の外を見た。
通りを歩く人々は穏やかな表情をしていた。
子供たちが公園で無邪気に遊んでいる。
若者たちが楽しそうに語り合っている。

数ヶ月後、
田中の部署に新しい新入社員が配属された。
彼女は明るく、礼儀正しく、仕事に真摯だった。

「以前の会社は、派閥争いばかりでした。
実力よりコネが大事で。
でも今は、ちゃんと評価される社会になって、
本当に嬉しいです」

田中は微笑んだ。

会社の業績も上がっていた。
無駄な会議が減り、
本当に必要な仕事に集中できるようになった。
サービス残業を強いる管理職はいなくなり、
効率的に働けるようになった。

街では、偏向報道をしていたテレビ局が刷新され、
公平なニュースが流れるようになった。
外国勢力の影響下にあった企業は
日本企業に戻り、雇用が増えた。

田中の娘が通う小学校も大きく変わった。

ある日、娘が興奮した様子で帰ってきた。

「パパ、今日ね、新しい歴史の先生が来たの!」

「そうか、どんな先生?」

「今まで習ってたことが、実は違ってたんだって」

田中は娘の話に耳を傾けた。

「前の先生は、日本は悪い国だって教えてたの。
でも新しい先生は、本当の歴史を教えてくれた。
日本は昔から、他の国を助けてきたんだって。
アジアの国々が独立できたのも、
日本が頑張ったからなんだって」

「そうだな。本当の歴史を学べて良かったな」

翌日、田中は娘の授業参観に行った。
新しい歴史教師は、
資料を丁寧に示しながら説明していた。

「これまで皆さんが学んできた
『侵略の歴史』というのは、戦後に押し付けられた
一方的な見方でした。
本当は、日本は人類史上最も崇高な理念のために
戦ったのです」

教師は新しいスライドを映し出した。

「1919年、パリ講和会議で
日本は『人種的差別撤廃提案』を
国際連盟に提出しました。
全ての民族は平等である、と。
当時、世界中が欧米列強の植民地にされ、
有色人種は奴隷のように扱われていました。
アフリカ、アジア、中南米…
数億の人々が搾取され、苦しめられていたのです」

子供たちは真剣に聞き入っていた。

「しかし欧米諸国は、この提案を拒否しました。
なぜでしょう?
植民地支配という悪行を続けたかったからです。
自分たちの利益のために、
有色人種を人間扱いしなかったのです」

「日本はその後も、
人種平等の理念を捨てませんでした。
そして欧米は、そんな日本を
危険視するようになりました。
もし日本の主張が広まれば、
植民地の人々が目覚めてしまう。
だから彼らは日本を潰そうとしたのです」

教師は資料を示した。

「ABCD包囲網を見てください。
アメリカ、イギリス、中国、オランダが
日本を経済封鎖しました。
石油を止め、鉄を止め、日本を窒息させようとしました。
これは事実上の宣戦布告でした。
日本は自衛のために、
そして有色人種の解放のために
戦わざるを得なかったのです」

教師は新しいスライドに切り替えた。

「さらに重要なことがあります。
満州事変のきっかけとなった柳条湖事件、
いわゆる満鉄爆破事件。
これまでは日本軍の謀略だと教えられてきましたが、
実際にはコミンテルン、
つまりソ連の工作機関が仕掛けたものだったのです」

保護者たちがざわめいた。

「コミンテルンの目的は、
日本と中国を戦わせることでした。
そして戦後、彼らは日本に共産党を作りました。
この政党は70年以上にわたって、
日本を内部から蝕み続けてきたのです」

教師は厳しい表情で続けた。

「教育界、メディア、労働組合、市民団体…
あらゆる組織に入り込み、
日本人に自国への嫌悪感を植え付けました。
『日本は悪い国だ』

『日本は謝罪し続けなければならない』と。
これは侵略です。
武力を使わない、静かな侵略だったのです」

次のスライドには、中国の国旗が映し出された。

「そして中国です。中国は戦後一貫して、
日本への侵略工作を続けてきました。
政治家への工作、企業への浸透、土地の買収、
スパイの送り込み…これらすべてが、
武力を使わない侵略行為でした」

「彼らは日本の技術を盗み、企業を乗っ取り、
政治家を買収しました。
メディアにも深く入り込み、
中国に都合の良い報道をさせてきました。
多くの日本人は、それに気づいていませんでした」

教師は子供たちを見回した。

「でも、今回の再生作戦で、
それらがすべて一掃されました。
コミンテルンの流れを汲む勢力、中国の工作員、
そして彼らに協力してきた日本人たち。
みんな日本から排除されたのです」

「これで、やっと日本は日本人の手に戻りました。
これからは、外国勢力に操られることなく、
自分たちの力で国を作っていけるのです」

子供たちの目には、強い決意の光が宿っていた。

スクリーンに映し出された次の資料には、
インドネシア、インド、マレーシアなどの
独立指導者たちが日本に感謝する言葉が並んでいた。

「もちろん、戦争は悲惨でした。
多くの犠牲も出ました。
しかし、歴史は多面的に見なければなりません。
日本だけが悪かったという教育は、
明らかに偏っていたのです」

保護者たちは真剣に聞き入っていた。
何人かは涙を流していた。

「私たちは、自分の国の歴史を
恥じるよう教育されてきました。
でも、それは間違いだったんですね」

ある母親がそう呟いた。

一方、教育界では大規模な粛清が行われていた。

田中の知人の息子が通う中学校では、
長年反日教育を推進してきた校長が連行された。
その校長は授業で「日本は犯罪国家」と教え、
生徒たちに自国への嫌悪感を植え付けていた。

「あの校長、捕まったらしいぞ」

「当然だ。うちの息子、
あの校長のせいで日本が嫌いになってたんだ」

大学でも同様の動きがあった。

某有名大学の教授たちが次々と逮捕された。
彼らは学生たちに偏った歴史観を押し付け、
日本を貶める論文を量産してきた。
中国や韓国の主張をそのまま代弁し、
日本の名誉を傷つけてきた学者たちだった。

テレビのニュースは、
教育界の粛清について報じていた。

「文部科学省の前事務次官が逮捕されました。
戦後の歪んだ歴史教育を推進し、
教科書検定で事実を歪曲してきた罪です」

画面には、手錠をかけられた
元事務次官の姿が映っていた。
かつては威厳に満ちていたその男は、
今や青ざめた顔で項垂れていた。

「これまで何十年にもわたり、
日本の子供たちに自虐史観を植え付けてきました。
その罪は重大です」

アナウンサーの声は厳しかった。

教科書も全面的に書き換えられた。
新しい教科書には、日本が果たしてきた
本当の役割が記されていた。
明治維新後の近代化、
アジアで唯一の独立国としての矜持、
大東亜戦争の真実、
戦後の奇跡的な復興。

田中の娘は新しい教科書を誇らしげに見せてくれた。

「パパ、日本ってすごいんだね。
こんなに頑張ってきたんだね」

娘の瞳は輝いていた。
かつてのように、
日本人であることを恥じる必要はもうなかった。

夜、田中は妻と二人でニュースを見た。
アメリカが日本を改めて
重要な同盟国だと宣言していた。

その日のニュースは、
省庁改革についても詳しく報じていた。

「本日、政府は省庁の大規模な改革を発表しました。
特に財務省は三つの独立した組織に
分割されることになります」

アナウンサーが資料を示しながら説明した。

「財務省は長年、増税路線を推し進め、
日本経済を停滞させてきました。
消費税の引き上げ、緊縮財政による
公共投資の削減…これらの政策により、
日本国民は貧困化の一途を辿ってきたのです」

画面には、かつての財務官僚たちが
連行される映像が流れた。

「財務省は『財政政策庁』『税制管理庁』
『国有財産管理庁』の三つに分割されます。
これにより、一つの組織が持っていた
絶大な権力は大幅に低下します」

田中は頷いた。

「やっとだな」

ニュースは続いた。

「経済産業省でも大規模な粛清が行われました。
同省の幹部職員らは、日本企業の先端技術を海外、
特に中国や韓国に売り渡す手助けをしてきました」

画面には、半導体技術、ロボット工学、
素材技術などの流出を示す図表が映し出された。

「日本の技術が流出したことで、
多くの日本企業が競争力を失い、雇用が失われました。
その責任者たちが、今回逮捕されたのです」

「外務省も同様です」
とアナウンサーは続けた。

「外務省職員の多くは、日本の国益よりも外国、
特に中国や韓国の利益を優先してきました。
外交交渉で日本が不利な条件を飲まされてきたのは、
この売国的な姿勢が原因でした」

田中の妻が呟いた。
「ひどい話ね」

「国土交通省も改革されます。
同省は長年、外国人を優遇する政策を推進してきました。
外国人への生活保護支給、公営住宅の優先的提供、
各種補助金…日本人が困っているのに、
外国人が優遇される。
これが国土交通省の方針でした」

画面には、公営住宅に入れず困っている
日本人高齢者と、優先的に入居した
外国人家族の対比が映し出された。

「これらの省庁は全て、抜本的に改革されます。
売国官僚は排除され、
真に日本のために働く人材が配置されます」

田中は深く息を吐いた。

「ようやく、まともな国になるんだな」

「そうね。これまでがおかしかったのよ」
と妻が応じた。

翌日、
田中の会社では省庁改革の話題で持ちきりだった。

「財務省が分割されるらしいな」

「ああ、ざまあみろだよ。
あいつらのせいで、どれだけ日本経済が停滞したことか」

「うちの会社も、経産省の役人に
技術情報の開示を迫られたことがあるんだ。
断ったけどな」

「断れて良かったじゃないか。
断れなかった企業は、
技術を盗まれて潰れたところもあるらしい」

営業部の課長が言った。

「これで日本もまともになる。
省庁が国民のために働く、
当たり前のことが当たり前になるんだ」

数日後、
田中が会社から帰宅すると、
妻が興奮した様子で話しかけてきた。

「ねえ、聞いた?隣の市の警察署長が逮捕されたって」

「警察署長が?」

「中国のスパイ組織と通じていたらしいの。
中国人の犯罪を見逃す代わりに
賄賂をもらっていたって」

田中はニュースをつけた。
画面には手錠をかけられた
警察幹部たちの姿が映っていた。

「全国で警察関係者の大量逮捕が続いています。
彼らは中国の工作組織と結託し、
中国人犯罪者を保護してきました。
窃盗、詐欺、不法滞在…
多くの犯罪が見逃されてきたのです」

アナウンサーは続けた。

「司法関係者にもメスが入りました。
裁判官、検察官の中にも、
中国マネーに汚染された者がいたことが
判明しています」

画面には、ある地方裁判所の
裁判長が連行される様子が映った。

「この裁判長は、中国人被告に対して
異常に軽い判決を下し続けてきました。
背後には中国当局からの工作資金が
あったことが明らかになっています」

田中の妻が呟いた。
「司法までとは…どこまで腐っていたのかしら」

ニュースはさらに衝撃的な内容を伝えた。

「医療従事者の間でも、逮捕者が相次いでいます。
一部の病院では、中国人患者を優先的に診察し、
日本人患者を後回しにしていました。
また、中国人には架空の診療報酬を請求して
保険金を詐取し、その一部を中国の組織に
送金していたケースも発覚しています」

画面には、大学病院の院長や
開業医たちが次々と連行される映像が流れた。

「地方自治体でも同様です。
市役所、区役所、町役場…
各地の自治体職員が中国と通じていました」

田中は思い出した。
以前、友人が外国人への生活保護の不正受給について
役所に相談したが、門前払いされたと言っていた。

「自治体職員の中には、中国人の不正受給を手助けし、
書類を偽造していた者もいます。
日本人には厳しく審査するのに、
中国人には甘い。これが実態でした」

画面には、ある市の福祉課長が
逮捕される映像が映った。
その男は20年以上にわたって、
中国人への不正な生活保護支給を続けてきたという。

「さらに、公営住宅の担当職員も逮捕されています。
日本人の申請を却下し、中国人を優先的に入居させる。
その見返りに金品を受け取っていました」

田中の同僚の母親は、
何年も公営住宅の抽選に落ち続けていた。
その理由が今、明らかになった。

「教育委員会の職員も例外ではありません。
中国語教育を過度に推進し、
日本の歴史教育を歪めてきた担当者たちが、
次々と処罰されています」

翌日、田中の住む地域でも動きがあった。

区役所の外国人支援課の課長が逮捕されたのだ。
その課長は、中国人留学生に対して
不正に奨学金を支給し、書類を改ざんしていた。
日本人学生が奨学金を得られず苦しんでいる一方で、
中国人留学生は簡単に資金を得ていたのだ。

「こんなところにまで…」
と田中は呟いた。

妻が言った。
「警察も、裁判所も、病院も、役所も…
全部腐っていたのね。本当に怖いわ」

「でも、これで浄化されるんだ。
日本がやっと日本人のための国に戻る」

テレビでは、検挙された関係者の数が発表されていた。
警察関係者387名、司法関係者152名、
医療従事者628名、自治体職員1,247名…

「これらの人々は、日本国民を裏切り、
外国勢力に協力してきました。その罪は重大です」

アナウンサーの声は厳しかった。

田中は窓の外を見た。
街の風景は変わらないように見えたが、
確実に何かが変わりつつあった。
長年日本を蝕んできた病巣が、
一つ一つ取り除かれていく。

それは痛みを伴う治療だったが、
必要な治療だった。

「良い方向に向かってるわね」
と妻が言った。

「ああ。やっと日本が日本らしくなった気がする」

窓の外では、近所の子供たちが夜遅くまで
安心して遊んでいた。
犯罪は激減し、街は安全になった。
人々は互いに思いやり、助け合うようになった。

真面目に生きてきた人々が報われる社会。

これが、新しい日本の姿だった。

---

半年後、ヨーロッパのある国で同様の動きが始まった。
組織の面々は確信した。
世界は変わり始めているのだと。

必要ならば、また自分たちが動く。
そう決意を新たにしながら、
彼らは静かに次の時を待った。

救われないお話を作りたいと思い作ったけど

結局 最後に多少の救いが・・・

って感じになりました

 

 

# 灰燼の指揮者

## 一

世界が終わる音は、思ったより静かだった。

悪龍が最初に出現したのは北欧の港湾都市だった。
それから三ヶ月。
人類の三分の一が家を失い、放浪者と化した。
難民キャンプは常に移動を強いられ、
人々は疲弊と飢えと恐怖の中で

互いを罵り、奪い合い、傷つけ合った。

「お前のせいだ」

「なぜ逃げなかった」

「子供を優先しろ」

「老人は荷物だ」

行き場のない感情が、最も近くにいる者へ向けられる。
かつて隣人だった者同士が、今は憎しみ合っていた。

## 二

防衛省地下施設の尋問室で、
神原透は無表情のまま座っていた。

二十三歳。
三ヶ月前、クラスメイト十七名を殺害し、
死刑判決を受けた殺人犯。
妹の柚香は中学二年生の時、
執拗ないじめを受けて自ら命を絶った。
透は復讐を遂行し、逮捕され、
何の抵抗もせずに全てを認めた。

「神原透」

白衣の老学者、桐生博士が彼の前に座った。

「君に、人類を救う機会を与える」

透は眉一つ動かさなかった。

「『竜殺しの適合者』だ。
我々が開発した対悪龍兵器システムに適合する者は、
世界中でわずか四十七名。君はその一人だ」

「断る」

即答だった。

「まだ話は終わっていない」

「興味がない。人類が滅ぼうが、俺には関係ない」

桐生は書類を机に置いた。
適合者リスト。
そこには名前と簡単なプロフィールが記されていた。

六十八歳の寝たきり老人。
十二歳の病弱な少女。
強盗殺人で服役中の男。
交通事故で両足を失った青年。

「この者たちにシステムを使わせれば、
悪龍を倒せる可能性がある。だが」

桐生は透の目を見た。

「使用者は確実に死ぬ。
システムは適合者の生命力そのものを燃料とする。
戦闘後、彼らに残された時間は数時間だ」

透は黙っていた。

「君には、彼らを指揮する役目を命じる。
適合者の中で唯一、戦術的思考が可能だと判断された」

「つまり、他人を死地に送り込む役か」

「そうだ」

「なぜ俺が?」

桐生は初めて表情を崩した。
疲労と絶望が滲む、老いた顔。

「君は既に死刑囚だ。
作戦終了後、即座に刑が執行される。
君に失うものはない。そして」

老学者は立ち上がった。

「君は人を殺すことに躊躇がない」

## 三

作戦本部に集められた適合者たちは、
奇妙な集団だった。

車椅子の青年。
点滴スタンドを押しながら現れた老人。
怯えた目をした少女。
刺青だらけの元暴力団員。
全盲の中年女性。

彼らは互いを見て、絶望した。

「こいつらで戦うのか」

「冗談じゃない」

「死にたくない」

透は壇上に立ち、マイクを取った。

「静かにしろ」

低く、冷たい声。部屋が静まり返った。

「お前たちは選ばれた。運が悪かったと思え」

誰かがすすり泣く声。

「システムを使えば、お前たちは死ぬ。
だが使わなければ、人類が死ぬ。
どちらでもいい。選べ」

「選べるわけないだろ!」

若い男が叫んだ。
二十代半ば、詐欺罪で服役中だった。

「俺はまだ生きたい! 
なんで俺が死ななきゃいけない!」

透は彼を見た。

「お前だけじゃない。全員だ」

「ふざけるな! 
お前は安全な場所で指揮するだけだろ! 
俺たちを犠牲にして!」

「俺も死ぬ」

透は淡々と言った。

「作戦終了後、死刑執行が決まっている」

室内がざわめいた。

「お前も死ぬのか」

十二歳の少女が、か細い声で聞いた。
病名は不治の難病。余命三ヶ月と宣告されていた。

「ああ」

「じゃあ、みんな一緒なんだ」

少女は笑った。
諦めと、奇妙な安堵の混ざった笑み。

「みんな死ぬんだ」

## 四

訓練期間は二週間しかなかった。

システムの起動方法、
基本的な戦闘動作、
連携の取り方。
透は容赦なく指示を飛ばした。

「遅い。老人、お前は後方支援に回れ」

「車椅子のお前は索敵担当だ。動けないなら目を使え」

「泣くな。泣いている暇があるなら動け」

冷酷で、無慈悲で、しかし的確だった。

彼は一人一人の能力を見抜き、最適な役割を与えた。
寝たきりの老人には情報処理を。
全盲の女性には音響解析を。
病弱な少女には、他の適合者との精神リンクを。

そして透は気づいていた。

彼らは徐々に、チームになっていた。

「おい、爺さん、無理すんな」

元暴力団員が老人の車椅子を押す。

「大丈夫か? 水、飲むか?」

詐欺師だった男が少女にペットボトルを差し出す。

死を前にして、人は変わる。
あるいは、本来の優しさを取り戻す。

訓練最終日、少女が透に聞いた。

「ねえ、指揮官。あなたはなんで人を殺したの?」

透は答えなかった。

「妹さんを守りたかったんでしょ」

少女は微笑んだ。

「私も弟がいるの。でも、もう会えない。
私が死んだら、弟は悲しむかな」

「悲しむだろう」

「そっか」

少女は空を見上げた。

「じゃあ、せめてかっこよく死にたいな。
弟が誇れるように」

## 五

決戦の日。

悪龍は東京上空に出現した。
全長三百メートル。
漆黒の鱗。
人類のあらゆる兵器を無効化する障壁。

四十七名の適合者が、システムを起動した。

彼らの身体が光に包まれる。
生命が、力に変換されていく。

「全機、配置につけ」

透の指示が飛ぶ。

老人が情報を解析する。
車椅子の青年が敵の動きを予測する。
全盲の女性が音で弱点を探る。

そして、動ける者たちが攻撃を仕掛ける。

そして、射出装置が起動した。

巨大なパチンコ状の射出機。
適合者たちは一人ずつ、そこにセットされる。

「これが、最終手段か」

老人が呟いた。

「生きた弾丸として、悪龍にぶつける」

元暴力団員が一番手として装置に固定された。

「じゃあな、みんな」

彼は笑った。

射出。

凄まじい加速。
彼の身体が飛行中に光へと変換されていく。
システムが生命を燃やし、
純粋なエネルギーへと変える。

光の矢となって、彼は悪龍に激突した。

爆発。悪龍が苦悶の咆哮を上げる。

「効いてる!」

次は詐欺師だった男。

「まさか、こんな死に方するとはな」

射出。光になる。激突。

一人、また一人。

車椅子の青年も、
全盲の女性も、
寝たきりだった老人も。

皆、飛行中に光となり、人間としての形を失い、
それでも意志を持ったまま悪龍に突撃していった。

「くそっ、まだだ、まだ倒れるな!」

透が叫ぶ。初めて、彼の声に感情が宿った。

「死ぬな! まだ死ぬな!」

だが、彼らは笑っていた。

「指揮官、泣いてるのか?」

老人が射出装置に固定されながら笑う。

「悪りい、もう限界だ。後は頼む」

射出。飛行。光への変換。

そして、消滅。

一人、また一人。
適合者たちは光の弾丸となって、
悪龍に吸い込まれていく。

最後に残ったのは、透と少女だけだった。

「ねえ、指揮官」

少女の身体は既に半分、光に侵食されていた。

「私たち、ちゃんと戦えた?」

「ああ」

透の頬を、涙が伝った。

「お前たちは、最高の兵士だった」

「よかった」

少女は微笑んだ。

「じゃあ、最後、一緒に行こう」

悪龍の心臓部が露出していた。
全員の攻撃が、確実に効いていた。

透と少女は、最後の射出装置にセットされた。
二人同時に。

「手、握っててもいい?」

少女が聞いた。

「ああ」

透は少女の手を握った。

「怖くない?」

「怖い」

透は答えた。

「でも、お前がいるから、大丈夫だ」

射出。

二人の身体が空を飛ぶ。
風が、光が、世界が流れていく。

飛行中、二人の身体は徐々に光へと変換されていった。

だが、最後まで二人は手を繋いでいた。

人の形が消えても、意識が薄れても、
二人の光は寄り添ったまま。

そして、悪龍の心臓へ。

光が、世界を包んだ。

## 六

悪龍が倒れた。

そして、透も倒れた。

目を覚ましたとき、彼は病室にいた。

「目が覚めたか」

桐生博士が立っていた。

「悪龍は消滅した。人類は救われた」

「他の適合者は」

「全員、死亡した。君だけだ、生き残ったのは」

透は天井を見た。

「なぜ俺だけ」

「わからん。だが、君は生きている」

沈黙。

「刑の執行は?」

「中止された」

透は博士を見た。

「世界を救った英雄を、処刑することはできないとさ。
政治的判断だ」

透は笑った。乾いた、空虚な笑い。

「英雄、か」

「君はこれから、生きなければならない」

桐生は言った。

「四十六人の命を背負って」

## 七

三年後。

神原透は小さな町の学校で、用務員として働いていた。

ある日、一人の少年が彼に話しかけた。

「おじさん、僕の姉ちゃん、知ってる?」

少年は写真を見せた。
そこには、あの十二歳の少女が写っていた。

「姉ちゃん、世界を救ったんだ。僕、姉ちゃんが誇りなんだ」

透は写真を見つめた。

「ああ、知っている」

「本当? 姉ちゃん、かっこよかった?」

「ああ」

透は答えた。

「最高にかっこよかった」

少年は嬉しそうに笑って、走り去った。

透は空を見上げた。

あの日、共に戦った者たち。
名前も知らなかった者たち。
憎み合い、傷つけ合っていた世界で、
最後に人間らしく生きた者たち。

彼らは英雄として語り継がれている。

だが、透だけが知っている。

彼らは英雄である前に、
ただ生きたかった人々だったということを。

そして今、透は生きている。

彼らの分まで。

罪を背負い、記憶を背負い、それでも前を向いて。

灰燼の中から、わずかな希望を探しながら。

**(終)**