水魔王のスピンオフみたいな作品を作りました
でも水魔王は出て来ません
あと「俺つえー作品って嫌い」っていう人や
「努力してなく強いのは嫌い」
なんてのをよく見かけるので
その辺も盛り込んでみました
# 風神と呼ばれた少年
## 第一章:見えざる強者
冒険者ギルドの酒場は、
今日も粗野な笑い声に満ちていた。
「おい、見ろよ。
またあのチビが依頼を受けようとしてるぜ」
「Fランクのくせに生意気だよな。
ああいう童顔のガキは、
せいぜい薬草採取でもしてりゃいいんだよ」
カウンターの前に立つ少年
――ユウは、背後から聞こえる嘲笑を聞き流していた。
慣れたものだ。
この小さな体と幼い顔立ちは、
いつも彼を過小評価させる。
「ユウ君、本当にこの依頼でいいの?
森の盗賊団討伐よ。
少なくともCランク推奨なんだけど…」
受付嬢のミラが心配そうに眉をひそめる。
「大丈夫です。僕なら問題ありません」
ユウは穏やかに微笑んだ。その笑顔に嘘はない。
彼にとって盗賊団など、
朝の準備運動程度のものだった。
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翌朝、
ユウが森へ向かうと知ったギルドの冒険者たちは、
哀れみの目を向けた。
だが数時間後、状況は一変する。
「盗賊団が…全滅だと?」
「一体誰がやったんだ!」
生き残った盗賊の証言は混乱していた。
「わからねぇ…風が…ただ風が吹いただけで、
仲間が次々と倒れていった…」
「黒い影みたいなものが見えた気がしたが…
速すぎて…」
その日を境に、噂が広まった。
「風神」と呼ばれる謎の冒険者の話。
誰も姿を見たことがない。
ただ風のように現れ、風のように去っていく。
百メートルを1秒で走り抜け、
近接格闘術と風魔法を組み合わせた
戦闘スタイルは、
人間の認識速度をはるかに超えていた。
ユウは今日も、ギルドで軽蔑の眼差しを受けながら、
次の依頼書を眺めていた。
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## 第二章:幼馴染の視線
「ユウ! また無茶な依頼を受けたんですって?」
村に戻ったユウを待っていたのは、
幼馴染のセリアだった。
二つ年上の彼女は、村一番の狩人の娘で、
弓の腕前は既に一人前を超えている。
「セリア、大丈夫だよ。
ちゃんと帰ってきたでしょ?」
「それはそうだけど…」
セリアの脳裏に、幼い頃の記憶がよみがえる。
いじめっ子たちに囲まれ、
泣きそうになっているユウを何度も助けた日々。
彼女にとってユウは、
いつまでも守ってあげなければならない、
優しくて弱い男の子だった。
「あなた、
本当に冒険者に向いてないんじゃないかしら。
村で私と一緒に狩人になれば…」
「ありがとう、セリア。でも大丈夫」
ユウはいつもと同じ、柔らかな笑みを浮かべた。
それから数日後
――セリアの心に、ある記憶がよみがえってきた。
## 第三章:隠された真実
それは一年ほど前のことだった。
夜明け前、
セリアは狩りの準備のために村外れの森へ向かっていた。
まだ薄暗い森の中で、彼女は奇妙な音を聞いた。
風が唸る音――いや、それは風ではなかった。
好奇心に駆られて音の方へ近づくと、
月明かりの下で修行する少年の姿があった。
「ユウ…?」
セリアは思わず声を上げそうになり、
慌てて口を押さえた。
少年――ユウは風となって空間を切り裂いていた。
木々の間を縫うように、
残像すら残さない速度で移動し、
巨大な岩に拳を叩き込む。岩は音もなく砕け散った。
それは彼女の知る、
あの優しくて弱々しい幼馴染ではなかった。
セリアは息を呑んだまま、その光景を見つめていた。
しかしユウが振り返りそうになり、
彼女は慌ててその場を離れた。
見てはいけないものを見てしまった気がして、
彼女はその日のことを誰にも話さなかった。
自分でもなぜそうしたのか分からなかった。
あれは夢だったのかもしれない
――セリアはそう自分に言い聞かせていた。
「セリア? どうかした?」
ユウの声で、セリアは我に返った。
目の前には、
いつもの穏やかな笑顔を浮かべる幼馴染がいる。
「…ねえ、ユウ」
「うん?」
「あなた、毎晩森で修行してるの?」
ユウの表情が一瞬だけ驚きに変わった。
「…見られてたんだ」
彼は少し困ったように頭を掻いた。
「いつから知ってたの?」
「一年くらい前に…偶然見かけて」
「そっか」
ユウは静かに笑った。
「努力は人にアピールするものじゃないでしょ?
だから誰にも言わなかったんだ」
「どうして…どうして黙ってたの?
これだけ強ければ、みんなに認められるのに」
「僕がいくら強くても
所詮、大型魔獣や盗賊団を倒せるくらいだよ」
ユウは夜空を見上げた。
その瞳には、遠い憧憬が宿っている。
「本当に強い人は、一人で国を滅ぼせるような人だよ。
みんなちょっと強い人に
すぐ『俺つえー』って白けるよねって言うけど、
あんなのは本当に強いとは言わないよ」
「あなた…一体何を目指してるの?」
ユウの脳裏に、ある光景が浮かぶ。
幼い日、村を襲った魔獣の群れ。
絶望の中、突如現れた一人の魔法使い。
青い髪をなびかせ、その手を一振りするだけで、
海のような水流が魔獣たちを飲み込んだ。
「水魔王」と呼ばれたその人物は、
誰にも気づかれることなく去っていった。
「僕はね、いつかあの人みたいになりたいんだ」
ユウは静かに言った。
「本当の強さって、きっとそういうことなんだと思う」
セリアは、初めて知った。
自分の知らない世界で、
ユウはずっと前を向いて走り続けていたのだと。
「…ねえ、ユウ」
「うん?」
「その『風神』って噂になってる人…もしかして」
ユウは悪戯っぽく笑った。
「さあ、どうだろうね」
月夜の森に、静かな風が吹き抜けていった。
それは誰にも見えない、
少年の足跡を運んでいく風だった。
―――終―――