第三百二十六弾「異能の転生者」

第三百二十七弾「異能の転生者 その2」

第三百二十八弾「異能の転生者 その3」

第三百二十九弾「異能の転生者 その4」

第三百三十弾「異能の転生者 その5」

第三百三十一弾「異能の転生者 その6」

第三百三十ニ弾「異能の転生者 その7」

第三百三十三弾「異能の転生者 その8」

第三百三十四弾「異能の転生者 その9」

第三百三十五弾「異能の転生者 その10」

第三百三十六弾「異能の転生者 その11」

第三百三十七弾「異能の転生者 その12」

第三百三十八弾「異能の転生者 その13」

第三百三十九弾「異能の転生者 その14」

第三百四十弾「異能の転生者 その15」

第三百四十一弾「異能の転生者 その16」

第三百四十ニ弾「異能の転生者 その17」

第三百四十三弾「異能の転生者 その18」

第三百四十四弾「異能の転生者 その19」

第三百四十五弾「異能の転生者 その20」

第三百四十六弾「異能の転生者 その21」

第三百四十七弾「異能の転生者 その22」

第三百四十八弾「異能の転生者 その23」

の続きです

 

 

 

# 異能の転生者

## 第六十章 報告

### 一

王城の正門は、以前と変わらない姿で立っていた。

あの夜、ルークが吹き飛ばした門だった。
ルークが帰り際に元通りにした門だった。
石と鉄の複合構造に、王家の紋章が金で刻まれていた。

ルークはその前に立って、
少しの間だけ、その門を見た。

あの夜と今日では、全てが違った。

あの夜は怒りがあった。
明確な目的があった。
向かうべき相手が見えていた。
しかし今日は違った。
今日のルークは、報告をしに来ていた。
本来はダンがするはずだったことを、
代わりにしに来ていた。

正式な訪問だった。

事前に使者を送り、時刻を調整し、礼装を整えた。
ルークにとって、それは慣れないことだった。
しかしダンの名代として来るのだから、
それが最低限の礼儀だった。

門をくぐった。

廊下を歩いた。

案内の者が先を歩いていた。
その背中を追いながら、
ルークは今日言うべきことを頭の中で整理していた。

感情的になってはいけない。
事実を、正確に、順序立てて伝える。
それだけだった。

---

通された部屋は、広かった。

王城の中でも中枢に近い場所にある謁見室だった。
天井が高く、両側に柱が並んでいた。
窓から入る午後の光が、石の床に長い影を作っていた。

国王グルーベンハーゲン・ブラウンシュヴァイク
・ヴォルフェンビュッテルが、正面に座っていた。

齢を重ねた顔だった。
しかし目に力があった。
長年、この国の頂点に立ち続けてきた人間の目だった。

その隣に、白天ハインリヒがいた。

獅子公の異名を持つ男だった。
国王の弟。天の中でも最強と言われる。
あの夜、ルークを見た瞬間に
自分の首が飛ぶイメージを見たと言った男だった。
今日はルークに対する警戒があるのだろう、
その立ち位置は国王のすぐ傍だった。

レイスナー第二王子もいた。

ルークと視線が合った瞬間、レイスナーは小さく頷いた。

この場にいることへの意味を、
二人はそれぞれの立場で理解していた。

黒天ヴィルヘルム第一王子の姿は、なかった。

ルークはそれを確認して、内側で一つのことを確認した。

今日この場にヴィルヘルムがいないことが、
何を意味するか。
偶然ではないと、ルークは判断していた。

「ルーク・グレイブヤード、報告を」

国王が言った。

ルークは前に出た。

「大型魔獣ヒュドラ、ブラックバイパー、
ワイバーンの群れは全て討伐完了しました」

声を整えて言った。
感情を出さないように。事実だけを伝えるように。

「ただし、その中で火天ライナスと
木天ジレルによる襲撃がありました。
火天ライナスは戦闘の結果、重傷を負い
現在は生存しています。
木天ジレルは戦闘の結果、死亡しました。
遺体は回収できませんでした」

部屋の空気が、変わった。

国王の顔が、固まった。

ハインリヒの目が、細くなった。

「そして」
ルークは続けた。

「木天ジレルの奇襲により、
土天ダン・グラファイトが戦死しました。
ダンの遺体は持ち帰っています。
戦死した騎士三名の遺体も、同様に回収しています」

沈黙があった。

長い沈黙だった。

天同士の争い。
それはこの王国において、あってはならないことだった。

最高戦力である天が互いに戦えば、
その被害は計り知れない。
国そのものが揺らぐ。
そして外部の国々が、その隙を狙う。

そういう最悪の事態が、実際に起きた。

しかも、二名の天が失われた。

木天ジレルと土天ダン。
六名しかいない天の中から、一度に二名が消えた。
戦力の喪失だけではなかった。
天という存在が持つ抑止力、他国への示威効果
——それが大きく損なわれた。

国王は、項垂れる寸前の顔をしていた。

---

### 二

「どうして火天ライナスだけ生き残ったのかね」

ハインリヒが口を開いた。

声は穏やかだった。
しかし問いの鋭さは隠れていなかった。

ルークはハインリヒを見た。

「彼はまだ改心の余地があると判断しました」

ルークは答えた。

「ただし」
続けた。

「天とするには、精神が幼稚すぎます。
能力だけで判断せずに、
そういう点をもっと重要視すべきだと思います」

言葉に、無意識の威圧が混じっていた。

後から気づいたが、止めなかった。
言うべきことを言っていた。
撤回する理由がなかった。

部屋にいた者たちが、一斉に気圧された。

国王も、ハインリヒも、レイスナーも
——全員が、ルークの言葉の重さに押された。
物理的な力ではなかった。
しかし、その言葉を否定できる立場にいる者が、
この部屋にはいなかった。

ルークは少し間を置いてから、続けた。

「土天ダンが木天ジレルに殺害されたことは、
彼の腹に刺さった木を調べればわかると思います。
木天ジレル特有の毒が検出されるでしょう」

声が、わずかに変わった。

悔しさが、にじんでいた。
抑えていたが、完全には抑えられなかった。

「それが——」

ルークは一度、言葉を切った。

「それが、ダンを助けられなかった理由です」

ただの傷ならば、治せた。
ルークの超能力は、肉
体の損傷を修復することができた。
しかし木天ジレルは、
攻撃する木の中に毒を仕込んでいた。

単純な毒ではなかった。

複数の成分を独自に配合した、解析困難な毒だった。
解析を妨げる罠が幾重にも仕掛けられていた。
その構造を解読するだけで、相当の時間が必要だった。
しかし毒は即効性だった。
体内に入った瞬間から、数秒で全身を駆け巡った。

解析が終わる前に、毒が致死量に達していた。

どれほどの力を持っていても、
解析できないものは対処できなかった。
ルークはそれを、ダンが絶命するまでの
短い時間の中で理解していた。

理解しながら、何もできなかった。

国王が、ゆっくりと頭を垂れた。

長年、この国のために働いてきた男が死んだ。
しかもそれが、天同士の政治的な争いに
巻き込まれた結果として。
その事実の重さが、国王の肩にのしかかっていた。

---

## 第六十一章 遺族

### 一

「戦死した騎士の遺体はどうすればいいでしょうか」

ルークは尋ねた。

国王に代わって、ハインリヒが答えた。

「火天ライナスは魔法協会に搬送する。
治癒魔法士が集まっているから、そちらで治療を受ける。

土天ダンと騎士たちの遺体は、地下の安置室に」

それから一拍置いて、続けた。

「土天ダンは後日、国葬を執り行う」

ルークは頷いた。

おおむね、妥当だった。

ただ一点だけ、引っかかるものがあった。

火天ライナスを魔法協会に搬送する。

魔法協会がどういう組織であるかを、
ルークは既に把握していた。
王国の三大勢力の一つ。
天の認定権を持ち、魔法の評価基準を独占する。
その組織が、
今回の件で天を二名失ったことをどう受け取るか。

ライナスを引き取ることで、
何かを隠蔽しようとする可能性があった。

しかしルークがそれに口を出せる立場には、
今はなかった。

ルークは何も言わなかった。

---

### 二

王城の地下に、遺体安置室があった。

石造りの静かな部屋だった。
外の音が届かなかった。
温度が低く保たれていた。
いくつかの台の上に、遺体が安置されていた。

ルークはダンの傍に立った。

亜空間から取り出した時のままだった。
時間を止めていたから、変化がなかった。
眠っているように見えた。

しかし眠っていなかった。

ルークは何を言うべきかを考えた。

言葉が見つからなかった。

ダンが最後に言ったことは、まだルークの中にあった。
消えていなかった。
消えるとも思えなかった。
しかし今、その言葉に何かを返す言葉が、
ルークの中にはなかった。

ただ、傍にいた。

しばらくの時間が経った。

扉が開いた。

人が入ってきた。

女性と、子供だった。

女性は三十代と思しき年齢だった。
落ち着いた顔立ちの人だった。
しかし今は、その顔が強ばっていた。
目が赤かった。
既に一度、泣いていた顔だった。

子供は少年だった。
十歳前後に見えた。
母親の後ろについて入ってきたが、
その目も赤かった。

二人はダンの遺体に近づいた。

女性がダンの顔を見た。
一秒、二秒——それからダンに抱きついた。
声が出なかった。
肩が震えていた。

少年は母親の隣に立って、ダンの手を握った。

握った瞬間に、少年の目から涙が溢れた。
声を殺して泣いていた。
我慢しようとしていた。
しかし我慢しきれなかった。

ルークはその光景を見た。

部屋の端に下がろうとした。
この二人の時間に、
自分がいるべきではないと思った。

しかし女性が気づいた。

涙をハンカチで拭いて、ルークのところに来た。
目は赤かった。
しかし足取りはしっかりしていた。

「私はダンの妻、エリスです。
あの子は息子のジノです」

声が少し掠れていたが、はっきりしていた。

「すみません、見覚えがないのですが
——夫の同僚の方ですか」

ルークはエリスを見た。

この人に、何を言えるか。

正確な事実は言えなかった。
天同士の争いは極秘扱いになっていた。
火天ライナスの名前も、木天ジレルの名前も、
この場では出せなかった。

しかし嘘だけはつきたくなかった。

「いえ」
ルークは言った。

「今回の一件で、ダンさんに誘っていただいて
共に戦いました」

「そうでしたか」
エリスは頷いた。

「大型魔獣の群れだったと聞きました。
かなり多かったのですか」

「はい」

ルークは答えた。

これは嘘ではなかった。
魔獣は確かに多かった。
しかし本当の原因については——

「ヒュドラやブラックバイパーや
ワイバーンが非常に多くいて、
非常に不利な戦いでした」

そこまでは言えた。

「だけど彼は決して諦めずに」

ルークは続けた。

エリスの顔を、見られなかった。俯いた。

「みんなを必死に守って、守り抜いたんです。
非常に立派でした」

嘘ではなかった。

ダンは最後まで、部下たちを守ろうとしていた。
土壁を構築し続けて、魔獣の攻撃から騎士たちを守った。

その事実は変わらなかった。

しかしその言葉を言いながら、
ルークは自分の声が信用できなかった。

本当のことを言えていない。
言えない理由がある。
しかしその理由が、ダンの死に繋がっていた。

エリスは何も言わなかった。

しばらくして、少年の声が聞こえた。

「僕はお父さんのような立派な騎士になります」

ジノがルークを見上げて言った。

目から涙が溢れていた。
しかし声は、決意の形をしていた。
泣きながら、
それでも前を向こうとしている目だった。

ルークはジノを見た。

この子が言う言葉の重さを、ルークは理解していた。
父親を亡くした直後に、
父親のようになると言える強さが
どこから来るのかを。

「ダンの息子なのだから、絶対になれるよ」

ルークは言った。

「応援してるから」

笑った。

しかしその笑いは、ぎこちなかった。
自分でもわかっていた。
笑い方を、ルークは知っていた。
しかし今、自然に笑える状態ではなかった。

ジノはそれでも、ルークの言葉を受け取った。

また涙が溢れたが、頷いた。

エリスがジノの肩に手を置いた。

三人の間に、しばらくの沈黙があった。

安置室の外から、かすかに人の気配があった。
遺族のために場所を用意しようとしている
者たちの気配だった。

ルークは頭を下げた。

「失礼します」

そう言って、安置室を出た。

扉が閉まった。

廊下に出た瞬間、ルークは石の壁に背を預けた。

天井を見た。

石造りの天井が、灯りに照らされていた。

ジノの顔が、頭から離れなかった。
泣きながら、それでも前を向いていた目が。

ルークは少しの間、その場に立っていた。

それから、歩き始めた。

王城の廊下を、一人で歩いた。